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雑誌目次

雑誌文献

病院45巻8号

1986年08月発行

雑誌目次

特集 拡大する病院健康管理部門

健康管理部門の事業内容と将来像

著者: 増田進 ,   藤間弘行

ページ範囲:P.633 - P.639

自治体病院の実践—国保沢内病院
 我々の病院は沢内村にある唯一の医療機関であり,その活動,特に健康管理においては,病院が独自に行うというよりは,村の保健行政の一機関として活動しているということができる.
 また,病院に隣接している母子健康センターには,村の健康管理課があり,全村民を対象とした保健サービスを行っているが,その課長を病院長が兼務していることもあって,病院と健康管理課は,あたかも一つの機関のように働いていることが大きな特徴ということができる.それゆえ,村の保健行政の企画は病院長が中心となり,病院と健康管理課によってつくられていくようになっている.

疾病構造の変化と健診対象疾患

著者: 日野原茂雄

ページ範囲:P.640 - P.644

 最近,とみに健康管理あるいは健康医学への関心が高まっている.この風潮の到来が疾病構造に基づいたものであることを解説することが本稿の目的である.
 最も大きな転換は,病気の予防法に対する概念であろう.すなわち,病気にならないようにする一次予防と,病気を早期に発見して,それに対処しようとする二次予防とに分けられたわけである.

人間ドックのあり方

著者: 矼暎雄 ,   三木徹 ,   笹森典雄

ページ範囲:P.645 - P.656

検査項目設定の問題点
治療から予防へ
 近年,伝染病,結核から,がん,心臓病,脳血管障害等のいわゆる成人病へと疾病構造の変化がみられ,またこれらの診断,治療に対する医療費の増大傾向,更に住民の健康に対するニーズの高まりなどにより,予防医学に対しての要求が個人,勤務者,地域住民から出され,検診を中心とした施策が各方面で行われている.もとより一次予防(=原因の除去),二次予防(=検診等による早期発見,早期治療)と称されるように,検診だけで予防医学が実現されるわけではないが,ここでは検診に焦点を絞り,検査項目について若干の問題点を提起してみたい.

健康管理部門の地域保健活動へのかかわり

著者: 山口昇 ,   高野正孝 ,   竹田トキ ,   多田正毅 ,   高橋勝 ,   種田光明

ページ範囲:P.657 - P.667

公立みつぎ総合病院の地域保健活動
 我が国は今や人生80年代社会に突入し,疾病構造も変化して医療も一つの転換期を迎えている.かかる高齢化社会にあっては,地域住民は我々病院に何を要望し,何を期待しているのか.中高年層からの健康管理の必要性が叫ばれているが,我々病院はこれにどう対応していけばいいのであろうか.医療の流れが治療中心のキュアからケアの方向へと流れている今日,我々「病院」の使命もこれら社会のニーズに応えるべく変化すべきであろう.
 従来の医療は「治療」の意味で使われ,保健予防やアフターケアについては,病院の役割から除外されていた感があった.しかしながら,前述のごとく高齢化社会を迎え,地域住民のニーズが多様化してきた今日,今後の医療は治療のみでなく,保健も後治療(リハビリ,訪問看護)も含むものでなければならないと思われる.昨今「地域医療」という言葉がよく使われるが,私は「地域医療とは,包括医療を地域に社会的要因を配慮しつつ継続して実践すること」と定義づけており,包括医療とは前述の保健,医療,後療法,更に場合によっては福祉までをも含むものであろうと考えている.しかもこれらは縦割であってはならず,相互連携が必要なのはもちろん,更にこれに地域住民が加わって初めて住民本位の地域包括医療が行われるのではなかろうか.

健康管理部門の新たなる対象領域

メンタル・ヘルス/学童検診

著者: 梅垣和彦

ページ範囲:P.668 - P.673

職場でメンタル・ヘルスへの関心が高まっている
 近年,わが国の社会環境は急速に変化しているが,医療環境も軌を同じくしている.疾病構造の変化から健康管理指導の重視が,更に医療ニーズの増大と多様性からは健康相談や予防医学の充実が求められており,ストレスの日常的増大によるメンタル・ヘルスが緊急の課題となっているのも同じ社会的背景を持っている.

グラフ

高度医療を支える人とシステム—虎の門病院

ページ範囲:P.625 - P.630

■大規模病院の運営
 病院を選ぶとき,たいていの人は自分の病気が軽そうだと思えば手近な病院で済ませ,何やら気がかりなときは,高名な病院を求める.ここ虎の門病院本院には,そのような重い訴えの患者や各施設からの紹介患者等が,諸方より東京のど真ん中とはいえ,朝早くからつめかけている.
 本院は昭和33年に国家公務員共済組合連合会により設立され,当初より一般に開放されてきた.開院時は12診療科,病床数339床,1日平均外来患者数500名,職員数500名でスタートした.そして同41年には川崎市に主に慢性疾患回復期治療センターとして機能する分院(250床)が建設された.更に同58年10月には本院に新館が完成し,本年から本格稼働となり,現在は26診療科,909床,外来患者数は,1日平均1,896名(同60年度,本院)にまで発展を遂げてきた.

ヘルスサイエンス・センターを目指し,21世紀へ—聖路加国際病院・野辺地院長より牧野院長へバトンタッチ

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.632 - P.632

 聖路加国際病院は,米国聖公会のR・トイスラー医師により今日の礎が築かれ,日本における病院管理学の開拓者,橋本寛敏博士により,アメリカ病院協会の会員ともなる資格を得た近代病院として戦後の発展を遂げてきた.
 野辺地篤郎博士は昭和25年から本院の放射線科に着任され,医長,副院長を経て,昭和55年から6年間院長職に就かれた.医長時代には,聖路加国際病院をモデルに,放射線科の専門医システムを日本に紹介し,放射線科専門医の教育に大いに貢献された.また,昭和60年度の日本医学放射線学会の会長も務められた.聖路加国際病院の伝統である診療録管理を重視し,近代医療の場としての病院を守り立て,21世紀に向かっての新病院建築計画の陣頭に立たれた.先生はまたモーツアルトの研究者としても知られている.

機器短報

医療請求事務システム

ページ範囲:P.667 - P.667

医療請求事務システム
 立石電機(電話03-436-7199)は診療報酬明細書(レセプト)の発行を主目的にパソコンによる医療請求事務システム「レセプロ100」を発売.このシステムはレセプト作成とカルテ入力を同時に処理でき,規模の大小を問わず利用できる.特徴は,①基本システム(レセプト作成,総括表作成)とオプションシステム(患者別診療点数一覧表,使用薬剤一覧表など)に分離し,使用目的に対応,②薬価改正時のプログラム変更の費用を軽減するために毎月積立方式を採用,③タッチパネルを採用し,960項目の病名,診療行為,薬価などをワンタッチ入力可能,など.

ニュース

「MSWの養成」などを討議—第6回日本医療社会事業学会など開かれる/アップジョン医学記事賞受賞者発表される

著者: 編集室

ページ範囲:P.673 - P.673

 「第34回日本医療社会事業大会全国大会」ならびに「第6回日本医療社会事業学会」が5月30,31の2日間,長野市の長野県勤労者福祉センターで開催された.今回は「医療福祉の発展を期して—MSWの実践と課題のなかで」をメインテーマに,全国から参集した医療ソーシャルワーカー,大学関係者,学生などが熱心な討議を交わした.
 初日には森幹郎奈良女子大学教授が「21世紀高齢社会にむけての老人ケアと中間施設」で記念講演.森氏は政策老年学の視点から中間施設論と老人ケアの方向を披瀝.中間施設登場の背景として,高齢者の増加—老人をケアする世代である若年者の減少,社会の成熟化,扶養の社会化—親を扶養する力が子供になくなってきている,女子労働力の社会化,家族(家庭)の変貌などを挙げ,先進国の中間施設モデルを例示.厚生省の中間施設・老人保健施設には政策科学がないとして,現在の特養などを整備して中間施設化すればよい,と強調した.

連載 変化する病気のすがたを読む・1【新連載】

変化する病気のすがた

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.674 - P.678

 感染症から成人病の時代への移行とともに,大きな役割を担ってきた結核療養所は他の機能を持つ施設へと転換している.このように疾病構造の変貌は医療供給システムにも大きな影響を及ぼす.では,この疾病構造はどのように変化してきたのか.また今後,どう変化するのか.20世紀の疾病現象の全体像を烏瞰し,その特徴を分析するとともに,従来の疫学的概念ではとらえれない疾病の生態学的特性を新しい視点から読み直し,将来の予測までを論じる.

患者からみた病院

忘れられない婦長さんの手のぬくもり

著者: 野呂真奈子

ページ範囲:P.679 - P.679

 昭和58年7月,信号機に衝突,転倒して頭を強打,2度の手術にもかかわらず,事故以来6か月意識の回復のないままの主人に付き添って,11月にオープンしたばかりのK病院に転院したのは12月も押し詰まったころだった.転院の前に以前の病院の医師からおそらく意識は戻らないだろうと言われて,事故の時から片時も離れずにきた私とそれを支え続けてきてくれた長男は絶望的になっていた.そしてK病院での部屋も決まって一段落した時,私は激しい胃の痛みで立っていることすらできなくなってしまった.今思い出してもその時の外来の婦長さんの温かい心のこもった対応に胸がジーンとしてくる.診療時間の過ぎた1階のロビーで事情を説明すると,私の背に手をあて何度もさすりつつ診察室へ連れて行ってくださり,先生に細かく話をしてくださった.先生も「大変だね.少し落ち着いたら検査を受けたほうがいい」と痛み止めの注射をしてくださった.あの時の婦長さんの手のぬくもりを今でもはっきり思い出すことができる.

新しい医療と厚生行政

地域医療計画について考える

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.680 - P.681

□地域医療計画の概要
 医療法が改正され,都道府県ごとに医療計画が定められることとなった.その概要は以下のとおりである.

統計のページ

統計から見た医療(2)—救急診療・老人病院の実態と手術実施状況

著者: 小松仁

ページ範囲:P.682 - P.684

 今回は昭和59年の「医療施設調査」より,救急診療,老人病院,手術の状況について解説してみたい.「医療施設調査」(静態)は,前回の調査(昭和56年)と若干調査項目が異なるので,比較できるもののみ比較する.

事例から見た査定減防止対策

併用禁忌の薬剤に対する配慮を十分に

著者: 中野隆男 ,   染谷光一 ,   長嶋精吉

ページ範囲:P.685 - P.687

 薬の相互作用に関しては,専門家といえども習熟しきれない.しかし,保健医療の場では,そのための査定も時々見られる.せめて各薬剤の「適応上の注意」だけには目を通しておきたい.

病院紹介

"ふれあいと健康をもとめて"松江記念病院オープン

ページ範囲:P.687 - P.687

 去る4月17日,松江市の新興地である上乃木町に「松江記念病院」がオープン.開設者である院長は杉原徹彦氏.氏は長い間松江市立病院で内科部長を務めておられたが,一念発起,民間病院の育ちにくい島根県で,"ふれあいと健康をもとめて"地域に根ざした医療を目指す.

院内管理—最近の話題

病院外来をどう考えるか(1)—神戸中央市民病院外来運営の実際

著者: 尾形誠宏

ページ範囲:P.688 - P.691

 病院はそれぞれその経営母体によって違うし,対象患者の種類や階層,診療の目的によっても違うので,その病院の外来もこれらによって違ってくる.
 筆者の所属する神戸中央市民病院は,経営母体が地方自治体であり,141万市民のための基幹病院として,その医療責任を負い附属東灘診療所をもつほかに,地域中核病院としての神戸西市民病院や玉津病院とともに,市民の医療を担う中心的存在となっている.

時評

「看護論」のアイロニー

著者: 小野重五郎

ページ範囲:P.692 - P.692

 「現代の医師たちは,科学者や診断・治療技術者になりきってしまっているので,人間としての患者をみてゆくのはあなたたちだ.」といって,医師が看護婦を鼓舞している文章をみかける.医師がそうなりきっているとみるのは皮相な認識だが,たとえそれが事実であったとしても,後始末を看護婦に押しつけるすじあいのものではない.医師にとっての臨床の在り方を問うべきであろう.
 いま,大規模病院のなかでは「看護診断」なることばが市民権をもってきている.看護婦たちによれば,そこでは総じて医師たちは自分の狭い専門領域にしか関心を示さず,患者のもつ問題全体に対する関与が稀薄である.入院患者の日常に接する看護婦の立場からは,医師の診断や指示が部分的で不十分なので,自分たちで問題を抽出し,指針を導き出していかないことには仕事にならない,という.これが「看護診断」が機能しはじめている日本的理由のようである.しかしこの状況においても,医師は科学者や診断・治療技術者になりきっているわけではない.狭い専門領域を通じて患者—医師関係,あるいは患者と臨床チームとの関係をとり結んではいるのであって,ただその関心の対象が部分的であるために,患者の臨床的課題全体に対処するチームの調整者としては十分に機能し得ていないのである.

建築と設備 第4回

国立基幹病院3題

著者: 辻吉隆 ,   小塚良雄 ,   冨澤展一 ,   青島弾

ページ範囲:P.693 - P.699

国立医療施設のあり方
 終戦直後全国が焼土化したため,医療施設は著しく不足し,厚生省は日本医療団の施設や軍事医療施設を転換し,国の医療施設として開設,量的確保に努めた.これが,現在の国立病院・療養所の始まりである.昭和26年の時点では全国病床数の約30%を国立病院・療養所が占め,地域医療の確保,結核の撲滅等に大きく貢献した.
 当時の施設は,旧陸海軍の兵舎や戦時中の臨時構築物が大半であった.そこで昭和20年代の後半より,全国主要都市の10施設を選び"基幹施設"として,鉄筋コンクリート造による施設不燃化整備に着手した.施設規模は40m2/床前後を有し,当時としては大規模な施設であり,他の医療機関の規模拡充のために寄与したところは大きいと考えられる.

海外医療事情

家庭医となるには—米国の家庭医学レジデント教育課程

著者: 佐々木明

ページ範囲:P.700 - P.703

 日本でプライマリ・ケアが叫ばれて10数年となる.プライマリ・ケア学会の発足,総合診療科の新設,多数のプライマリ・ケアに関する本の出版などもはや日常のこととなってきたが,まだ完全に真のプライマリ・ケアは患者のために提供されていない.1984年8月厚生省がプライマリ・ケア普及の一環として,家庭医制度創設の検討を発表するやいなや,各界に論議の渦を巻き起こしている.
 今回のレポートでは家庭医学レジデントの研修の経験を中心に米国のレジデントはどのような研修を受けて家庭医となるか述べたい.我が国での家庭医制度について考えるうえで参考となる点は多いと思われる.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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