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雑誌目次

雑誌文献

病院46巻1号

1987年01月発行

雑誌目次

特集 病院ルネッサンス

パラダイム・ショックを迎えた病院

著者: 藤井康男 ,   編集室

ページ範囲:P.17 - P.20

医療界は今,未曾有の転換期を迎えている.現在直面している危機的状況は,これまでに経験したことのない異変とも言うべきもので,まさにパラダイム・ショックに相当すると言える.果たして現在を生き抜き,輝く未来に向けて「復興」する道はあるのか?
 ここでは,本特集の幕開けとして,医療界とは一歩離れた立場から,医療界を冷静・客観的に分析しておられる藤井康男氏にご登場いただき,今後の医療の在りかた,「病院ルネッサンス」に向けての方策などを伺つてみる.

病院の原点を見直す

著者: 島内武文

ページ範囲:P.21 - P.24

 病院は本来医療のための施設であり,そのあり方は医療によって左右される.元来,病院には医療,すなわち診療・看護・給食・収容などの機能があり,ここで患者が多数医療を受けることから医学の教育と研究の場として重視され,また患者を収容するところから社会的には隔離の機能がある.昔の都市では寺院が中心的な位置を占めていたが,今日では病院が地域の文化の象徴となっている.
 我々は健康や生命を重視して,医療にはあらゆる人智・手段を動員し,その施設として高度の知識技能による組織と高度複雑な機械設備を備える病院を作り上げてきた.それだけに,病院は医療において大きな比重を占めている.しかし,病院はあくまで医療の手段であって目的にはなり得ない.もしも「病院の原点」という言葉にこだわるならば,それは医療の手段ということになるであろう.しかし,出題の本意は恐らく「医療の原点」を今日の病院医療について考慮することを求めているものと思われ,またそこに病院の原点がおのずと発見されてくることになるであろう.

現代の病院医療への提言

著者: 飯島宗一 ,   村上陽一郎 ,   中村雄二郎 ,   波平恵美子 ,   木村登紀子

ページ範囲:P.25 - P.34

「病院」を考える
 わが国における病院の発祥
 西欧の意味での「病院」は,明治時代に至るまで,日本では発達を見なかった.1556年に豊後に設立された府内病院は,おそらくわが国最初の「病院」であると見られるが,それはルイス・アルメイダにより建築され,運営されたものであり,キリスト教と西洋医術とを骨組みとするものであった.秀吉のキリスト教弾圧によって府内病院は33年の歴史を閉じ,その後,わが国に「病院」が現れるのには,1861年の長崎養生所設立まで,およそ300年の歳月の経過をまたなければならなかった.
 この間に小石川養生所のような施設の設立があったにしても,何故日本に「病院」の独自の発展がなかったのかという問題は,明治以後現在に至るまでの日本の病院の在り方と性格を考える上で,等閑に附することのできない課題である.それには精密な検討が必要であろうが,まず日本の医療が投薬内服を主体とする漢方医学を主流とするものであったことがあげられよう.外科は戦国時代いわゆる南蛮流が入り,更にオランダ流外科が加えられたが,漢方自体は解剖学的基礎を欠いた.また開業医制を主体とする医師の社会的な在り方,医師養成の私的性格,公衆衛生的観点の欠如,おしなべて医療・保健におけるパブリックな観念および施策の未熟性をあげなくてはならない.

病院ルネッサンスへの方途を探る

著者: 坂上正道 ,   寺田一郎 ,   篠原稠明 ,   高橋美智 ,   A.H.ニノミヤ

ページ範囲:P.35 - P.45

人間性の追求こそが医療の原点
 ある医学教育の国際会議で,「大学病院という特別な病院はない,病院のモデルとして最高であるべきである」と声高に発言したことがある.医療の質,患者中心の医療などという理念がきちんと守られて運営されている病院——そのような病院の中で医師その他コ・メディカルの医療人を訓練して,次の世代の人材を養うことが生涯教育である.学部教育もその一貫したシステムの中に置かれるべきであるという私の主張を述べたつもりであった.二〜三の医科大学の責任者から「それでは大学病院としての特徴がない」,あるいは「大学病院は研究が十分に展開されているべきところである」などのご意見が述べられた.
 この私の主張は今も変わらない.大学病院は地域のメディカル・センターとしてモデル的に,しかも本物の医療を実践しなければならない.ことに社会的な医療構造の変化,経済的な医療環境の予測が困難である時は,なお一層その本質的なあり方が必要である.以下,限られた誌面の中で,病院のあるべき姿について項目を分けて述べてみよう.

病院ルネッサンスとサイエンス・アート・ヒューマニティの融合

著者: 諸橋芳夫 ,   大谷藤郎 ,   阿部正和 ,   紀伊國献三

ページ範囲:P.46 - P.52

 医療の根底にはサイエンス・アート・ヒューマニティがなければならない.その3者が程よく調和を保ってこそ,理想的な医療が実現される.
 ここでは,医療の根幹をなすサイエンス・アート・ヒューマニティの確立とともに,明日のよりよい病院医療を目指し,いま克服すべき問題点をご披歴いただく.

グラフ

広域の救急医療から高度専門医療まで—医療法人雪の聖母会聖マリア病院

ページ範囲:P.9 - P.14

 昭和23年に開設された井手医院は今や我が国有数の病床数を持つ大規模病院となっている.現在,更に改築中で,これが終了する昭和63年7月には病床数1,420床となる予定である.その歴史を見ると,医療水準の充実向上を図るとともに,医療環境の変化や医療ニーズの変容を的確にとらえ,施設の整備と拡充を進めてきたことがわかる.昭和28年の病院開設当初の存廃の危機を全職員で乗り越えた精神は現在にも連綿と続き,そこにはやみくもな拡大とは違った経営戦略や戦術の確かさが見える.

正統派の病院管理学を継承して33年病院管理研究協会理事 石原信吾氏

著者: 針谷達志

ページ範囲:P.16 - P.16

 石原先生が,この「人」の欄に初登場というのは,不思議の感を免れない.これよご断固として断られてきたためと聞いている.先生は表面に出たり,目立ったりすることを極めて嫌われる.今回,漸く観念しての登場であろう.
 先生は在学中高等文官試験に合格後,昭和17年,東京大学法学部を卒業,台湾総督府に勤務されたが,体をこわし,以後10年間の闘病生活と伺っている.昭和28年,厚生省病院管理研修所に勤務,昭和33年,虎の門病院発足に当たって,初めから組織・運営などの基本計画の準備に当たられた.その後,初代院長大槻菊男先生の懇望によって初代の事務部長に就任されている.

連載 変化する病気のすがたを読む・5

病気のすがたをみる道具

著者: 倉科周介

ページ範囲:P.53 - P.57

1.SAGEという知識装置
 病気のすがたは時空間世界というヤケに広くて複雑な入れものの中に展開している.それを見る人間の認識のほうには,存在制約性という視野狭窄が,シンドバッドの海ジジイのようにへばりついて,どうにも離れようとしない.群盲象をなでるとは本当によく言ったもので,結局,われわれ人間の能力は野外のものごとを適切に認識するには非力過ぎるらしい.自分たちの病気の原因が人間の不始末による水質汚濁や死の灰だと水槽の金魚が認識するのは所詮無理な話だが,それと似たようなものである.純粋認識論のペシミズムは,こうしてプラトンの洞窟の比喩以来,西欧思想の伝統的基調になっている.古代中国にも竹林の七賢というのがいたから,スノッブは洋の東西を問わないらしい.
 だがそうした気分や考え方は,大変スマートで先見性があるようにみえるが,実は虚無的で捨て鉢で,何の価値生産にも結びつかない.対象が大き過ぎるのも,視野が狭過ぎるのも,文句をいって始まることではないが,どうせ分からないんだからといって認識の努力をしないのは,だだっ子の甘えやヒガミと同じ態度である.美辞麗句や専門用語の飾りがあるかないかという違いだけである.重要なのは,ではどうするかという,考え方と対策なのだ.「知らざるを知らずとなせ,これ知るなり」と孔子様もおっしゃった.

事務長のNow & Know

私的病院における事務長その経営参画への道(その1)

著者: 大江唯之

ページ範囲:P.58 - P.59

1.私的病院の特色と設立の目的
 日本における企業は,その生い立ちや条件において表のように3分類されると考えられます.
 第1は公共団体で,その「トップの人事権」は上部機関によって決められます.「倒産」の問題について言えば,絶対に倒産はしません,「価格の決定」については,上部機関によって決められたり,また認可されたりします.

統計のページ

統計から見た医療(7)—傷病量の把握について

著者: 小松仁 ,   藤本眞一

ページ範囲:P.60 - P.61

 今回は,患者調査で推計される患者数は,国民のうち一体どのくらいの人々が病気に罹かっているかという質問の答えとなりうるかどうかを考えてみたい.

院内管理—最近の話題

苦情処理委員会—その役割と経験

著者: 三輪田達

ページ範囲:P.62 - P.63

苦情処理委員会発足のころ
「10年前入院したときには親切で良い病院だったのに,一体どうなってしまったのですか.」
 ある患者から涙ながらに訴えられたのは,苦情処理委員会設置直前の2月下旬のことだった.

定点観測 仙台市から

患者の病院選択基準は何か

著者: 望月福治

ページ範囲:P.64 - P.64

 病院の高層建築化が進んでいる.その理由には,十分な敷地の確保が困難なことがあげられようが,このような病院で万一災害が起きた場合どんな事態が生じるのであろうか.もちろん,十分な安全設計がなされているには違いない.しかし,病院には健康人ではなく,病人が収容されているのである."忘れた頃にやってくる"という譬えのとおり,絶対に災害が起きないという保証はどこにもない.高層ビル火災によるパニック状態を描いた古い映画のシーンを見たり,高層ホテルの火災で多数の犠牲者が出たというニュースを聞くにつけ,有事の際の悲惨な状況が目に浮かぶ.高層病院が増え続けている現在,医療人も他人事として無関心ではいられない.
 福島県のある病院は,広い敷地の中に建てられた横に長い2階建ての病院である.1階と2階は螺旋状の廊下で結ばれ,患者はエレベーターなどを使用しなくても,ベッドのまま自由に搬送できる建築様式となっている.この病院を訪れた時,"これならば,いざ災害という場合も,重症患者の避難は比較的容易だろうな"という印象を持った."そのような建築様式にできたのは,十分な敷地があったからだ"といわれればそれまでの話ではあるが…….

建築と設備 第9回

病院施設管理の現況

著者: 倉持一雄

ページ範囲:P.65 - P.71

 医療を患者に提供する側の責務として,より高度に,より正確に診療を行う努力と,その診療レベルを維持し,医学の急速な進歩に対応して医療機能を質的に整備することは,病院の経済的負担をますます増加させているが,しかし,医療効果はその設備機能によっても左右されるので,これを経済的かつ効率的に管理し,その機能の信頼性を確保し,その効用を持続させるための施設管理の重要性が再認識され始めている.
 そこで,表面的な病院管理については多くの研究が行われているので,今回は裏方の問題としての施設管理の現状を分析するとともに,保守の基本的問題を追究し考察して参考に供してみたい.

ルポ&インタビュー 病院アレコレ見聞録

東洋医学と西洋医学の真の統合を目指す—石川県・映寿会病院

著者: 多留淳文 ,   前田敏男 ,   編集室

ページ範囲:P.72 - P.77

 まだ田園の残る市内の閑静な地に一群をなす石川県立中央病院,脳血管センターに隣接して,東洋医学を取り入れた成人病・老人病の専門病院,映寿会病院がある.入院部門は164床.外来1日患者数250.診療科は内科,外科,放射線科.多留院長,前田副院長の誠実なお話しぶりと初体験の鍼灸の心地良さが印象に残った.
(〒920-13石川県金沢市南新保町ル53)

病院給食の変貌

委託内容のセールス・ポイントを点検する(2)

著者: 山田清久 ,   余語弘 ,   長谷川廣之 ,   中島清

ページ範囲:P.78 - P.82

●日本ゼネラルフード(株)
1日3食選択メニューを実施
委託会社の立場から
当社のセールス・ポイント
■7年の経験,3,500床受託を実績に
 弊社では,病院給食を受託して7年,産業給食で培った大量調理のノウハウと豊富な人材を背景に,現在,自治体2病院を含む17病院,3,500床病院の受託という実績を誇っています.
 病院給食受託に当たっては,法的規則の厳しい医療界という環境下で委託に関連する諸問題をクリアーするのは容易なことではなく,また,更に病院側にとっては病院経営の近代化という使命を背負っての試みであったため,弊社にとっても将来の命運をかけるべき一大事業となりました.しかし,本年3月末の厚生省通知により,病院給食委託の方向が大きく変貌しようとしています.このことは,直営病院にとっても,弊社のような先発企業にとっても,今後の病院給食について危機感を感じさせる原因となっていると考えます.なぜなら,3月末の厚生省通知を委託の自由化ととらえ,病院での経験の全くない給食業者,あるいは商社関係が,病院給食の知識もなく,給食は治療の一環であるという病院給食の意義をも理解せず,利潤の追求だけを目的に病院給食委託に参画し始めたためです.

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機器短報

ページ範囲:P.82 - P.82

小型純水提供装置
 栗田整備(06-228-4971)では高品質純水を提供するシステムユニット「マクエースCL型」を発売した.
 特徴は①スイッチonで自動運転に入り,運転状況は前面のパネルにランプ・メーターで表示,いつでも水を使うことができる,②押しボタンで給水,③高純度の蒸留水,蒸留純水が得られる,④原水と排水の配管つなぎ込みだけで運転可能,しかも効率運転,など.

寄稿

清潔管理及び効率性を考慮した中材と手術部の配置計画—青森市民病院の例

著者: 阿部廣介

ページ範囲:P.83 - P.86

 当院の新築工事は1983年に着工,1987年完成の予定である.旧病院は11診療科,320床であったが,新病院では16診療科,538床になる.今回,第1期工事が完成したが,これには中央材料部(以下,中材と略す)と中央手術部(以下,手術部と略す)が含まれる.そこで,この機会に,これらの平面図及び建設計画について紹介する.

時評

21世紀を見通した医療改革を

著者: 姉崎正平

ページ範囲:P.87 - P.87

 "これ程重要な法案が,これ程順調に成立するとは思わなかった"と中曽根首相を満足かつ得意にさせた国鉄改革関連8法による国鉄の分割民営化,臨時国会をさらに延長しての「老人保健法の改正」により,わが国の臨調行革路線の推進は峠を越し,いわばその完成に向けて突進する態勢に入ったかのように見える.このような方向を確固たるものとしたのは,昨年6月の衆参同時選挙における自民党の圧勝とその論功行賞による中曽根総裁,したがって首相の任期延長である.まさに,戦後政治の総決算を掲げ,行政改革に政治生命を賭けるといわれる中曽根路線である.他方,政府・自民党は政府の歳入をシャープ勧告以来といわれる税制改革で確保しようとしている.これも自民党圧倒多数のもとで当分選挙もないのでこの機会に一気にという様子がうかがえる.
 さて,保健医療の分野で,今年は何が起こるであろうか.1985年暮れの「医療法の改正」,今回の「老人保健法の改正」が成立したのを受けて,今年からは,病床規制を主眼とした各都道府県の地域医療計画の決定,中間施設すなわち老人保健施設に関する規準や規定の決定,家庭医制度についての何らかの進展,医学部入学定員の削減など,いわば従来の医療保険などを通じての直接的医療費抑制から医療供給制度の合理化による医療費抑制策の具体化に移っていくと思われる.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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