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雑誌目次

雑誌文献

病院46巻10号

1987年10月発行

雑誌目次

特集 ニードの多様化と効率的薬剤部門

病院薬剤部門の現状と当面する課題

著者: 朝長文弥

ページ範囲:P.813 - P.817

■医療の変化と薬剤業務
 現在,我が国の医療は大きな転換期に来ていると言われている.近年の医療の進歩は多くの技術革新の成果であるが,その結果は必然的に医療の専門化,高度化を招き,医療費の増大,更には医療保険制度の改革につながり,国庫負担の抑制と自己負担の増加,高度先進医療における自費負担方式の導入等が打ち出されている.また,医療法の改正による地域医療計画の策定は医療機関の機能分担により従来の外来中心から入院中心への傾斜を強めている.
 これらの改革と共に,患者の医療への参加意識は高まり,医療機関,行政への患者の種々の要望はますます増大し,医療関係者はその対応に迫られているのが現状であろう.患者の要望は集約すれば,1日も早く治癒したい,しかも負担はできる限り少なく,更に知る権利を満足させてほしいということになるであろう.これらの患者ニードに少しでも応えるよう努力するのが医療関係者の務めである.現在は医療の質が問われ,患者サービスの向上に努めなければならない時代であり,患者が医療機関を選択する時代である.患者にとってよい医療とは,よい病院とは何かを常に考え,そのために業務の効率化を図ることは医療人としての使命であろう.

病院における薬剤部門のあり方—臨床薬学導入の試み

著者: 村田正弘

ページ範囲:P.818 - P.820

■医療供給体制の変化と薬剤師職能
 国民医療費の62年度推計が18兆円に達し,医療は技術,倫理に加えて,経済効率に当面の最大課題として挑戦しなければならない時代を迎えた.従来の病院がともすれば独自の方針で患者を集め,診療しその必要に応じて設備,機器,人員を調達,補充してきたやり方は,経済面からの締め付けと患者,国民自身の意識変化から根本的修正を迫られるであろう.事実,あえてこの動向を無視しても,病院の存続が危うくなる結果を招くだけである.
 図1に示すように,医療供給体制が整備されていくならば,各医療機関もこれに対応して,地域性と各機関の潜在対応能力を考慮した合理化が求められ,組織と内容の整備をはからなければならない.もちろん,医療供給体制の整備は行政の責任であり,先に発表された厚生省国民医療総合対策本部の中間報告に関しても,特にその具体的な進め方に各方面の批判があることを承知しているが,国民医療を総括的に整備しなければならない状況にあることは否定できない.また同報告は地域住民の総合健康対策を進展させるための家庭医制度や在宅ケアの充実を提案しているが,薬剤師の立場からは健康相談の場としてホーム・ファーマシー構想をすでに提唱している1)

将来の病院と薬剤師—民間中小病院での経験を踏まえて

著者: 小山久子

ページ範囲:P.821 - P.823

 将来の病院薬剤師像というのが私に与えられたテーマであるが,こんなに大きな論題が私一人の手に負えるはずのないことは明白である.しいて言えば将来というものは,なに人にも確証があるわけではなく半分以上は願望であり理想であり,自分の生きる指針であることが許されるであろう.その部分に救いを求めるならば,私のような小さな者にもそれなりの軌跡を下敷きにして将来を論ずることはできるかもしれない.
 薬剤師として病院にいる限りはその組織の一員である.属する病院の将来像なくして薬剤師の将来像は語れない.その意味で私の勤務する小規模私的病院において,薬剤師がその職能を病院の中で有機的に果たしてゆくことによって,病院がどう変わってゆく可能性があるのか.それによって病院と患者さんとの関係がどの部分で変わってゆくのか,などについて記述してゆくつもりである.

パートナーとしての病院薬剤師に何を望むか

著者: 相澤力 ,   井部俊子 ,   岡美子

ページ範囲:P.824 - P.827

医師から
 くすりによる治療が治療全体に占める割合は絶対的にも相対的にも大きくなっている.治療には外科を代表とする領域での外科的治療,精神科を代表とする領域での精神的治療などがあるけれど,外科でも精神科でも薬物療法の重要性は以前とは比較にならぬほど大きくなってきている.くすりによる治療はもはや内科医の専売特許ではなくなった.このような状況のもとで,くすりによる治療に薬剤師がどのように関与しているのか,医師が薬剤師に期待する関与のしかたはどのようなものであるかについて私見を述べたい.

薬剤部門の新しい動きと病院医療への影響

著者: 水野恵司 ,   中島洋一 ,   具志堅秀子 ,   友利斉 ,   沖山尚美 ,   嘉数恵子 ,   小湾勝敏 ,   上野和行 ,   広岡わか子 ,   平野伸幸 ,   後藤光良 ,   柳川忠二

ページ範囲:P.836 - P.849

DI業務(活動)
■病院薬局のDI活動
 「薬剤師は医薬品の特性,製剤,作用,用法などについて,医師への助言者として薬物療法に協力すべきである」1945年Franckeの論文にDrug Information activities (DI活動)の考えが述べられている.わが国においても,1963年に非公式ながら病院薬局の業務として導入され,1965年東京厚生年金病院,1973年国立大学病院に薬品情報主任薬剤師が公式な設置に至り,現在多くの病院でDI活動が重要な業務の一つとして定着しつつある.
 DI活動の目的は,医療従事者への医薬品情報の提供を通じ,安全で有効な合理的薬物療法の発展を図り,医療の向上に寄与することにある.DI活動が提唱される背景には,医薬品開発,学問の急速な発展などに伴う情報の増大があり,それを的確,迅速に利用するシステムが医療の現場に必要となったからである.いずれの社会においても共通するように,情報洪水の中で個々の人間が独自に多くの情報に目を通し,取捨選択して保存し,必要な時,必要な情報を再現して利用する.考えてみれば,不合理なことである.医薬品の数は多く,それに付随する情報は計り知れない.我々の行った1980年の調査1)では,3か月間に134の専門雑誌に1,154編の医薬品関連論文が掲載されていた.

鼎談

プロとして医療に貢献できる薬剤師を目指して

著者: 上能伊公雄 ,   樋口駿 ,   中原保裕

ページ範囲:P.828 - P.835

 中原 今日は,薬剤師がこれから医療の中でどのようなことを展開して,それをどのように医療の質的向上に役立てられるか,具体的には,どのような形で良い医療の提供に協力できるかという点について,話し合いたいと思います.
 九州大学病院の樋口先生と,名古屋大学病院の上能先生においでいただきましたので,まず,両先生に,現在の病院薬剤業務がどういう問題点を抱えているかについて,お話しいただきたいと思います.

グラフ

職員一丸となっての病院づくり—沖縄県立南部病院

ページ範囲:P.805 - P.810

 沖縄県立南部病院は沖縄県6番目の総合病院として昭和57年4月1日,沖縄本島南部の糸満市に開院,今年5周年を迎えた.本誌は熱帯植物の咲き乱れる沖縄に当院を訪ね,開院後5年間の歩みと,現在も進行中の病院づくり構想を紹介する.

大都会の中で,地域住民と手を携えて15年医療法人財団健和会柳原病院 内村逸郎院長

著者: 浜野恭一

ページ範囲:P.812 - P.812

 内村先生を一口で表現するとすれば,「志を持った人間」というのが最も適切であると思う.
 東京女子医科大学消化器病センターでの6年間が,われわれが一緒に過ごした唯一の期間であったが,その間,彼の燃えるような医療への,いやむしろ,もっと奥深い,人間そのものに対する情熱と献身にいつも打たれたものである.それでいて,性格はひどく優しく,論理的である反面,浪花節的なところも多かったと覚えている.彼には嫌な顔をされるかもれないが,私に言わせると,英国紳士の美徳である妥協性と,Sense of Proportion (平衡の感覚とでも訳すのか)を持った人柄だと思っている.

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機器短報

ページ範囲:P.817 - P.817

在宅酸素療法用液体酸素システム
 アムコ(03-265-4261)は米国ベネット社で開発された酸素療法用の液体酸素システム「コンパニオンシリーズ」を販売する.
 本システムは携帯用のポータブル装置と家庭用・病院内に設置するステーショナリー装置より構成されている.ステーショナリー装置は1回の充填で,毎分2lの酸素吸入で約280時間使用可能.携帯用は簡単な操作でステーショナリー装置から液体酸素が充填でき,1回の充填で毎分2lの吸入で8.5時間使用でき,重量も3.4kgで,在宅や通院などの移動,散歩にも有用.

お知らせ

昭和63年度看護研修研究センター研修生募集について

ページ範囲:P.827 - P.827

 厚生省看護研修研究センターの昭和63年度研修生の募集についての内容は次のとおり.

定点観測 石川県・鶴来町から

病院保健婦の仕事って何だろう—小さな病院での13年

著者: 中田なみ子

ページ範囲:P.851 - P.851

 「病院の保健婦さんてどんな仕事をなさるんですか?」何回となく人からこう質問されてきた.保健所でも町村でも働いた経験のないまま病院保健婦になって10年.今だに「これが病院保健婦の仕事です!」と答えられないでいるが,今まで取り組んできた仕事,現在の仕事,そして自分なりの展望をあわせれば,一つの病院保健婦のあり方,スタイルがみえてくるのではないかと思う.
 私の勤務する病院は,周辺の3町5村で設立している医療施設組合立の公立病院で,内科,外科を中心とした150床ほどの一応総合病院で,今秋からやっとCTスキャンが入ることになった.よく言えば小まわりがきき,悪く言えば,二次医療,三次医療をやっていくには力不足が目立つ.交通の便がよくなって,車で30分の金沢市内の県立病院,大学病院へ患者さんが流れていく傾向も強い.そんな中で,なぜ不採算部門である保健婦を採用したか,当時(昭和50年)の事務長の話によれば,「地元に病院がありながら地元の病院を利用しない住民に,この病院は我々の病院で,我々の健康を守ってくれる所だという意識づけをしたかった.何から手をつけていけばいいかわからなかったが,地域医療をすすめるには保健婦が必要だという人があって,その人のすすめで採用することにした」ということであった.

厚生行政フォーラム

「長期入院の是正」のために求められるものは何か?

著者: 二木立

ページ範囲:P.852 - P.853

長期入院の是正自体は必要だが●
 厚生行政研究会の最近の3論文「長期入院と在宅医療」(本誌6月号),「病院の機能評価と入退院マニュアル」(7月号),「基準看護制度の見直し」(8月号)に共通するテーマは「長期入院の是正」であり,当然のことながら6月に発表された厚生省「国民医療総合対策本部中間報告」と一致している.しかも,3論文では「中間報告」が抽象的にしか触れていないことを具体的に述べており,その限りでは参考になる.
 まず,厚生行政研究会に誤解しないでほしいのだが,評者も,わが国の病院が「高度の医療を受けるための施設」になるためには,平均在院日数の短縮=不必要な「長期入院の是正」が必要であると考えている.現に評者が関係していた都心の一般病院では医療技術の高度化と病棟医療管理の近代化,後方病院の開拓と連携,在宅医療(往診・訪問看護)の強化等により,平均在院日数を20日強にまで短縮したし,そのノウハウは拙著『医療経済学』(医学書院・第6章)で詳しく紹介している.

統計のページ

病院運営管理の実態(5)—昭和61年6月・病院経営実態分析調査(全国公私病院連盟・日本病院会)から

著者: 福島絢

ページ範囲:P.854 - P.856

2.収入
 1)患者1人1日当たり診療収入
 61年6月の収入から患者1人1日当たりの診療収入を算出すると,入院患者1人1日当たり診療収入は全病院で1万8,500円で,診療報酬点数表の甲表を採用している病院(以下「甲表病院」,「乙表病院」という)1万8,900円,乙表病院1万8,000円であり,一般病院では1万9,500円で,甲・乙表病院はそれぞれ2万800円,1万8,000円,精神病院8,400円,結核病院1万1,000円である.一般病院について規模別にみると,甲・乙表病院ともに規模が大きくなると患者1人1日当たり診療収入が大きくなる傾向がみられ,甲表病院は100床未満病院の1万8,500円から500床以上病院の2万1,600円となり,乙表病院でもそれぞれ1万3,400円と2万1,000円となっている.開設者別では,その他公的病院で2万300円,自治体病院の1万9,500円,私的病院の1万8,400円の順で,甲・乙表病院とも同様に,その他公的病院が高い.
 外来の場合は全病院,一般病院ともに6,100円,甲表病院6,600円,乙表病院5,700円で,精神病院は甲表病院で5,500円,結核病院は乙表病院で5,700円である.外来でも入院と同様に病院の規模が大きくなると患者1人1日当たりの診療収入が大になる傾向がみられる(表20).

院内管理—最近の話題

発生源オーダリングシステムによる院内のシステム化対策

著者: 山門和明

ページ範囲:P.857 - P.860

 近代的病院の特徴は組織医療であり,その使命とするところは,まず第1に「良質の医療サービスを効率的に提供する」ことである.しかしながら,最近の厳しい医療環境下にあっては,病院運営においても,一般企業と同様に経営管理の必要性が認識され,とりわけ実施された医療行為をもれなく確実に料金化するという経営の基本ともいうべき診療報酬請求事務の精度向上が,当然のことながら重要視されている.
 本稿は,以上のような観点より,当院における事務部門の組織と活動の現状を報告し,ご批判を仰ぐものである.

建築と設備 第18回

昭和大学病院東棟

著者: 船越徹

ページ範囲:P.861 - P.866

■建設の目的と条件
 昭和大学は1928年に,医学専門学校として発足し,その後,薬学部,歯学部,看護学校などを増設しながら医科系総合大学として今日に至っている.旗の台の本部キャンパスにある昭和大学病院は,藤が丘病院,烏山病院などの附属病院や多数の関連医療機関と密接な連携を保ちながら,全体の中枢的役割を果たしているが,昭和初期に建てられた建物はかなり老朽化し,狭隘となったため,現在新しい建設計画のもとに,建替え計画が進行中である.
 すでに1980年には地上17階建の入院棟(29,000m2,620床)を完成させ(設計:ARCOM),引続き中心部分となる北側の隣接ブロックの計画を進めている.このブロックには,診療部門を中心に約30,000m2の古い建物が密集しており,診療を行いながらの建替えが非常に困難なため建替え中の「受け皿」として,工事をやりやすくする目的で中原街道をはさんだ当敷地に東棟の建設が計画された.

医療におけるQOL 現代患者論序説・2

自然・社会環境ファクターと患者のQOL

著者: ニノミヤアキイエ・ヘンリー

ページ範囲:P.867 - P.872

はじめに
 前回の「QOLの理念と原則」では外的人間社会関係の質である宇宙,世界,日本の自然,社会環境が患者の病気と深い関係があると述べた.QOLにおける病気の症状は,それら自然,社会,人間関係要素の不調和による発露と見る.その不調和は政治,経済,文化の急激な変化だけでなく,植物,動物,更に水,空気等の非生命的環境まで含めた相互作用的現象である.
 医療一般ではこのような分野を研究する学問を人類生態学,社会生態学,疾病生態学,医学生態学,疫学,社会疫学等と呼んでいるが,QOLは人間(患者)を中心に分析調査し,更に医療の向上を目指すものである.したがって,患者の病気と自然環境,社会環境,人間環境とがどのような相互関係にあり,それら環境の不調和をどのように癒し,根本的な治療(ホリスティック・ヒーリングWholistic Healing)に導くかについて方向付けをするのがQOLである.

精神病院 わが病院づくり

開放的精神医療と社会復帰活動—千葉県・浅井病院

著者: 浅井邦彦

ページ範囲:P.874 - P.881

病院の概況
 1.病院の歴史
 医療法人静和会浅井病院は千葉県九十九里浜のほぼ中央近く,東京から約75kmの田園地帯にある.人口4万の東金市を中心とした山武郡市が人口16万人であり,東金,松尾の2保健所があるが,精神科の専門病院は当院のみである.敷地66,116m2,建物9,918m2で,住宅地と田園の中にある.
 浅井病院は昭和34年に単科精神病院として開設された(浅井利勇院長).開設時より地域医療の中核病院として,外来は内科も行っていたが,昭和52年より歯科外来および人間ドックも開始した.

研究と報告【投稿】 医療法における職種別人員配置基準・その1

意義と問題点

著者: 池上直己

ページ範囲:P.882 - P.886

■はじめに
 日本医師会と厚生省による「病院機能評価」が発表されて以来,評価に対する関心が急速に高まっている(本誌46巻6号で特集).「病院機能評価」は病院の管理者による自己評価であり,いわゆるソフト面に重点が置かれているという点で画期的である.
 ここで「病院機能評価」と,これまでわが国において医療法に従って行われてきた医療監視による評価の関係を明らかにする必要があるといえよう.確かに厚生省の「医療監視要綱」による評価は人員や構造等のいわゆるハード面に焦点があり,それだけに本稿でこれから述べるように様々な問題点がある.しかしながら,各病院における自主的な評価を除けば,現状では医療監視はわが国で行われている唯一の制度的な評価であることにも留意する必要がある.

時評

「医療倫理」考

著者: 小野重五郎

ページ範囲:P.887 - P.887

 近年,「医療倫理」という言葉が,マスコミだけでなく,学会や医療関係雑誌にも出現し,流行語の観を呈している.これが,現代の医療技術革新と臨床のリアリティに根を置く深刻な問題であることに疑いはないのだが,流行語が常になにがしかの時代の軽薄さを反映しているように,この言葉にも,そのリアリティとの間に,ある種の違和を感じるのである.一見些事のようだが,この辺にこだわってみたい.
 医療が自然科学としての医学(もっとも自然科学と言い切ってしまうことに議論はあるが,この際触れない)と区別されるのは,前者が<行為>を中心にしたものであるからだ.その対象は抽象的な人間ではなく,市民社会の権利や意志や欲望を持った個人である.したがって,社会的な対人行為に伴う価値や規範,目的や責任,すなわち倫理と一括されるものは,医療の概念のなかに不可欠の要素として住みついているものである.医療技術革新は,行為の手段における技術革新に過ぎないのであって,これが行為の価値や規範に変容を与えることはあっても,医療が行為の次元にあるという基本の構造は変わらない.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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