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雑誌目次

雑誌文献

病院46巻5号

1987年05月発行

雑誌目次

特集 病院機能を高める看護の専門性

近代医療における看護の役割

著者: 川北祐幸

ページ範囲:P.369 - P.371

 近代医療を考えるときには,地域に対しての医療の提供の仕方と,医療を提供する場の両面から論じなければならないが,本稿では特に後者を中心に,看護について述べることにする.
 かつての医療は,細胞や人体組織を主体とする診断学を中心に発達してきたが,やがて人々はこうした医療の欠点に気づき,総合医療として,単に疾病から身を守るだけでなく,積極的に健康増進または,保健的な働きを求めようになってきた.

診療科と看護の専門性

著者: 大田すみ子

ページ範囲:P.372 - P.374

改めて専門性を臨床看護に問われて
 看護が診療科から離れ独自の専門性を持ち始めて久しい期間が過ぎている.戦後の新制度の教育では,「基礎看護法」,「内科学と内科看護法」などがあった.昭和40年代に入り,「看護学総論」,「成人看護学」,「小児看護学」,「母性看護学」になった現行カリキュラムでは,看護の専門性,独自性が示され,今また看護教育制度の変革への胎動は激しい.
 看護の専門性が医師の専門性と異なることは理論的に明らかにされていながらも1),さて日常の医療の現場が,理論にマッチして整理がなされ,他の医療従事者にも了解されているのかどうかというと,それはその医療現場でまちまちである.リーダーシップをとっている医師の考えによるし,また看護婦自身や看護チームの意識と能力により,自律的な行為が組織的にも個人的にも示すことができるか否かにかかっているからである.

看護活動を生かすシステム

著者: 原ハツエ

ページ範囲:P.375 - P.377

医療看護の質の向上と専門性を志向して
 現代の病院に求められる第一条件は,高度の医療技術とそれに対応できる人材の確保と組織の確立にあることは,多くの識者の指摘するところである.次いで建物が,患者さんや職員にとっての居住性が優れていることである.我が国の最近の病院建築で,待合室,廊下,トイレ,電話コーナー,売店,食堂など,利用者の側にたって便利で心地よい広さとデザインが重視されつつあることは,大変好ましく思う.第三に高齢化社会の到来・技術革新・情報化時代に即応できる,柔軟な管理体制を考えなくてはならない.硬直化した組織では,急速な時代変化には,到底対処できるものではない.病院の機能を高める活力となるものは,組織の見直しと人事,さらに職員教育がその源泉であると言っても過言ではない.
 医療の進歩が,医師の専門性の細分化を進めた.パラメディカルもこれに対応することが診療内容を向上させることは言うまでもない.そして看護の分野においては,心臓手術,ICU,CCU,NICUから寝たきり老人の介護に至るまで,豊富な経験と各々の専門的な知識・技術をもって患者さんの傍にいることが求められている.

外来における看護の専門性

著者: 三浦照子 ,   林田明美

ページ範囲:P.378 - P.383

●地域の人々とのかかわりの中から
雑多に入り乱れて展開される外来の中で
 高齢化社会を迎え,cureからcareの時代に移ったかのように言われる.この中で地域医療を実践することは,地域の状況や生活環境を理解し,家庭を単位としての医療を継続的に行うことであろう.
 しかし現状の外来診療の場面は,一般診療に始まり救急処置,特殊検査,慢性疾患と雑多に入り乱れて展開されている.そして看護に要求される役割は,より迅速に正確に業務を処理し得るか否かに終始して来た.加えて,患者さんには,丁寧に優しく対処することも要求されている.これらの日常業務の中で,外来における看護の専門性について考えてみた.

看護の専門性—看護の質をどう評価しているか

著者: 河合利夫 ,   一柳邦男 ,   北村信一 ,   宮本清美 ,   青木孝子

ページ範囲:P.384 - P.393

●患者として
白衣の天使
 "白衣の天使"これが患者の願う看護婦像ではないでしょうか.天使は神様と人間との間を往き来して神様のお告げを伝え,また人間の願いごとを聞いてくださいます.こよなく清楚であり,常に微笑みを忘れず,ウィットに富み,人間の心の中の苦しみ,願いごとをいち早く読みとって神様に相談し,それらを取り除いてくださいます.患者は看護婦さんに対してこのような思いを持っているのではないでしょうか.この信頼を裏切るようなことがあってはなりません.

病院のコンピュータ化と看護の専門性

著者: 谷口トシミ ,   田間惠實子

ページ範囲:P.394 - P.398

●看護業務を常に見直す
土谷病院の現状
 土谷病院は広島市中央に位置し,病床数380床(うちICU6床,CCU7床)であり,心臓手術,人工透析等の第三次救急治療を行っている.
 診療科目は,循環器内科,心臓外科,人工透析,消化器内科,消化器外科,産婦人科,麻酔科,整形外科,耳鼻咽喉科,眼科,放射線科等である.

グラフ

患児を育む全人的ケア—埼玉県立小児医療センター

ページ範囲:P.361 - P.366

 本センターは,埼玉県下全域をカバーする小児の三次医療施設として昭和58年4月に発足した.県立病院としては,第3番目にあたるもので,144億円を投じて完成したという.
 東北本線の蓮田駅より1.8kmの地.61,432m2という広い敷地の豊かな療養環境は,医療行為だけでなく,本センターの目指している,より大きな視点に立った,地域と連携して行う小児医療の精神・発展性を示すのに十分であるように見える.付属の大宮小児保健センター,併設の岩槻養護学校の活動も併せ,発足後5年目を迎えた現在の様子を伺った.

民間老人保健施設のモデルを作る南小倉病院院長 矢内伸夫氏

著者: 松尾典臣

ページ範囲:P.368 - P.368

 矢内伸夫先生は元国務大臣三原朝雄氏のお眼鏡にかなった娘婿である.中国に,日々新たなりの語があるが,彼はその通りで,先見し,予見し,実行する.東京慈恵会医科大学卒業後,精神科医としてしばらく東京に在勤.昭和46年,南小倉病院長に就任した.
 当時,この病院は単科精神病院であった.今,精神衛生法が問題になっているが,人権問題の煩わしさを賢明な彼は先を読んで,精神医療を活用した社会復帰の実現に腎透析を開始し,患者さんが麻雀で遊んでいるうちに透析を終了してしまうというようなユニークな発想もした.遂には,これから始まる高齢化問題に向けリハビリテーション医療,地域医療を先取りして,当時では楽々と運営できる精神科病棟を廃してリハビリテーション病院にした.それも先述の透析はもとより,内科,神経科,理学療法科,脳外科,整形外科,麻酔科等あらゆる老人が起こし得る疾患に対応できる体制をとり,そのために保持した医療機器は他病院にも使用させるオープン化を図った.老人医療につきまとう入院から外来への方向づけについては,老人医療デイケア施設を日本で初めて開設.更に,あらゆる業者と契約して,訪問看護・家庭看護がより容易により安全にできるシステムも作った.

医療・病院管理用語ミニ辞典

—病院管理—生産性(Productivity)/—治療手技—エンボリゼーション(Embolization)

著者: 一条勝夫

ページ範囲:P.399 - P.399

 生産性とは,生産過程において,投入消費された資源(in put)と,生産された産出成果(out put)との比をとり,生産活動の創造性なり効率を測定するための指標である.投入要素としては資本や設備,原材料,労働などがあり,産出成果としては製品の数量や価額などがある.
 資本を分母にとった場合を資本生産性,同様に設備生産性,原材料生産性,労働生産性といい,要素生産性と呼ばれる.

厚生行政フォーラム

求められる"総論専科"からの脱却—「診療報酬支払い制度の見直し」を読んで

著者: 二木立

ページ範囲:P.400 - P.401

売上税の指摘は鋭いが●
 編集部に,厚生行政研究会の2論文「診療報酬支払い制度の見直し」(本誌2月号),「医療におけるmini-mum requirement」(同3月号)に対するコメントを求められた.
 両論文には断片的に鋭い指摘も見られる.特に,「売上税は医療費にとって大変な影響をもっている」こと,それの税率が「将来,英国並みに15%まで引き上げられる可能性は十分あり得る」との指摘(2月号)は,著者が厚生行政関係者と思われるだけに迫力がある.

ケーススタディ 共に考える病院運営の盲点

麻酔医の不満への対処

ページ範囲:P.402 - P.403

事例
 私は450床の総合病院の事務長である.
 ある時,私は人事課長より,次のような話を聞いた.人事課長の話によれば,たまたまある用事で麻酔科の医局に行ったところ,麻酔科の部長が外科の若い医師にしきりに文句を言っている最中であった.その話をそばで聞いていて分かったことは,その若い外科医はその日の午前中に予定されていた外科の手術を,執刀医の都合で午後に変更してくれないかと頼んでいるということであった.

事務長のNow & Know

私的病院における事務長の役割とその将来指向

著者: 豊福省三

ページ範囲:P.404 - P.407

 病院の中には人間しかいない,ということを考えると,患者さんや業者の方たち,職員の一人一人に至るまで,いかにしてそのハートをつかまえるかに重要なポイントがある.業者の方々を2番目に書いた意味がおわかりだろうか?病院は患者さんが来てくれなければ,成り立たないということは自明の理である.しかし同時に,雨の日も,風の日も,黙々として,薬品や医材を欠かさず供給してくれる薬のメーカーや販売会社,医材その他の会社,早朝から給食材料を配達してくれる食料品会社の方たちなどの協力なくしては,一日も生きて行けない.当院では,院長の方針として,協力業者の方々にも患者さんに対するのと同等の礼をもって接することを大きな施策の一つとしている.
 ところで,当院には440名の職員が日夜を分かたず勤務しているが,院長の大方針が末端の職員まで行きわたっているという自信は全くない.特に縦割組織を強調しすぎたあまり,その弊害に泣かされているのが現状である.つまり中間管理職が下を見ないで,上を見ている.患者さんを見ないで,病院の中心部のほうを見ている.全部が全部そうではないにしても,私自身の反省も含めて,担当者の諸君が,なんと上司に気を使っていることか.それは一にかかって同一病院,同一ライセンス社会の中だけで育った中間管理職の権限に固執する悲しい姿勢なのかもしれない.医師の世界では,それが卒業年次の違いだけで,あまりにも識別されすぎている.

統計のページ 看護従事者実態調査から・4(最終回)

職業人像をさぐる

著者: 奥村元子

ページ範囲:P.408 - P.412

1)職業生活と私生活
 昭和60年日本看護協会会員実態調査では,従来どおり属性・労働条件等を調査すると同時に,"看護職の職業人像"をテーマとして特に項目を設定した.
 現場で感じている問題ややりがいなど仕事に対する意識の領域から,社会的ネットワークや余暇生活などの私的領域にわたって,看護職の職業人像をある程度トータルに把握することを意図している.

定点観測 鹿児島県・野田町から

15年を振り返って(2)—当院における消化管癌診断・治療の現況と今後の展望

著者: 松下文雄

ページ範囲:P.413 - P.413

 昭和51年中途で,再びひとり勤務となった.紹介をうけて鹿児島大学第1外科に西教授(現癌研究会付属病院副院長)を訪ね援助をお願いしたところ,快くお引き受けいただき,昭和52年からパート派遣となり,また教授みずからの手術を親しくご指導を受ける機会を得て,胃癌の根治手術に新しい目を開くことができたのは何よりの収穫であった.内視鏡の改善により,昭和54年頃から当院では胃X線検査より胃内視鏡検査数が多くなり,年を追うに従いこの傾向は顕著になってきている.X線検査はここ5〜6年間,平均1,200例前後であるが,内視鏡検査は5年前の約2倍の3,000例に達している.この実績から昭和58年よりパートをやめて,内視鏡検査のトレーニングを兼ねて6か月ごとの常勤となって現在に至っている.
 昭和56年には内科にK先生の就任を得た.循環器を中心に,内科一般の診療を担当してもらうようになり,小生は消化器疾患の診断,治療を主とした外科の分野に全力を注ぐことができるようになった.K先生は懇切丁寧な診察で,住民の信頼を得て,患者は増加の一途をたどり,ペースメーカーの植え込みも行っている.また全身麻酔の管理維持についても勉強し,手術の際の全身麻酔を担当してもらっている.

院内管理—最近の話題

総合病院における医学情報部の働きと役割

著者: 西村昭男

ページ範囲:P.414 - P.415

 近代的医療の効率的な展開は,専門分化した業務間の連携が十分でなければ達成されない.この連携の綱を構成するのは情報であり,この点で情報は医療行為の一部であるとも言える.当院の医学情報部の活動は,医学ならびに医療に関する情報センターとして,新しい病院医療の展開に向けて大きく貢献している.この実績を的確に計量することは簡単ではないが,職員の研修ならびに臨床研究の活性化による職業意識の向上,医療の質の向上ならびに効率化などを通じて病院運営上の諸指標の改善にも寄与しているものと高い評価を受けている.
 ここでは,当院における6年の歩みから,医学情報部の業務内容の変遷などの経緯について報告するとともに,将来的な展望についても私見を述べる.

建築と設備 第13回

高齢者養護施設3題

著者: 河口豊 ,   張忠信 ,   辻野純徳 ,   鈴木捷司

ページ範囲:P.417 - P.423

高齢者養護施設の新たな展開
 高齢化社会に伴い,高齢者に対する多様な形の医療供給形態が要請されている.それは,高齢者の疾病が高度先端医療を必要としたり,あるいは短期急性から生涯にわたり医療の支持がなければ生活できないような疾病まで,広範にわたるからである.
 長期に医療を必要とする場合には,生活面を重視する必要がでてくる一方,高齢者を対象とした福祉,住居の分野では,医療がその比重を高めつつある.医療はこちらで,福祉はあちらでというように単純な機能分担のみではもはや成立しにくくなっている.医療に福祉が,福祉に医療が,また家庭には医療と福祉の双方が入り込んで高齢者社会が成り立つ.いわばグレーの時代といえる.無論,誤った処遇により手遅れとなることは許されず,施設間連携が基本にあることはいうまでもない.

病院給食の変貌 座談会

"患者に喜ばれる病院給食"への期待

著者: 鈴木あき子 ,   岩崎富夫 ,   伊藤英紀 ,   川島みどり ,   最勝寺重芳

ページ範囲:P.424 - P.432

 最勝寺 本誌では,病院給食のシリーズとして,関係者の方の将来展望あるいは現状認識などを取り上げていますが,その一環として,本座談会を企画しました.
 ご承知のように,日本人の食生活は,非常に物質的にも豊富になり,あるいは人々の価値観から言っても食べることに大きな関心が持たれているわけです.更に昭和40年代の後半から,外食産業も急成長し,いわゆるプロの味が生活の中になじんできた.そういう背景の中で,医療の中における食事はどうも時代の流れから取り残されたというのが,今日の病院給食に対する「おいしくない」という指摘に表れているのだろうと私は見ているわけです.

寄稿

トータルケアと病院内グループ

著者: 卜部宏

ページ範囲:P.433 - P.435

 医療集団のあり方を中心に考えてみると,病院というものは人間の生き様に似て,実体のある面と,無実体(観念的で抽象的)な面を表現しながら,ある地域社会の中で生き物のように生かされている存在物であるといえよう.現代医療は政治の関与,医学の急速な発展,多様化・細分化,そして社会の要請の多様化など多くの問題提起を受けて,医療のあり方のより好ましい姿について様様な認識があり,迷いの中に突入していると理解している.私は医療行為を遂行するに当たって,専門職と呼ばれる医療関係職種の増加に伴う責任の分散化をどのように統合して行けば,病院の特色が明白になるか,を考えている.
 現実に医療を患者中心に考えて遂行するために,多くの医療関係者が自分の仕事を忠実に実行し,しかもそれが医師のコーディネイトによって完成されていることは言をまたない.この関係は,時代によっても決して変わることのない基本であることを理解した上で,「一人の患者を大切にする」ということを中心に,病院という集団の基本的あり方の一面を理論化してみたい.

ホームドクターと連携した訪問指導—三豊総合病院における実情

著者: 西原修造 ,   福崎政子

ページ範囲:P.436 - P.438

■訪問指導開始の経緯
 当院は香川県の西端,愛媛県境にあり,周囲は農・山・漁村的風情を有している国保病院である.1市4町を経営母体とし,ベッド数415床で,地域医療の中核的存在となっており,対象人口は20万人を越えている.
 当院の最近の脳卒中患者数は,年間約170〜200名となっている.経過良好でほとんど後遺症も残さずに退院される場合もあるが,なかには寝たきりや車いすの生活を強いられる患者さんも少なくはない.在宅療養は可能であれば誰もが望んでいるが,脳卒中などにより不運にも寝たきりとなり,膀胱カテーテル留置,経管栄養,気管切開などの状態となったケースでは,日常の管理は困難で,家族や本人の不安のために退院のめどがつかず,在院日数の延長につながっている.

時評

『厚生白書』と厚生行政

著者: 姉崎正平

ページ範囲:P.439 - P.439

 『昭和61年度厚生白書』が今年1月に発表された.それに対する紹介や論評がすでに新聞や雑誌で行われた.
 『厚生白書』は1956年(昭和31年)から毎年,刊行されてきた.冒頭に厚生大臣の顔写真が入るようになったのは昭和58年度版からで,その直後に選挙を控えていた時ではなかったかと思われる.従来,各省の白書類は大蔵省印刷局で印刷される政府刊行物であったが,昭和60年度版からは臨調行革路線による民活のためか,編集は厚生省であるが発行は厚生省の外郭団体である厚生統計協会になった.それとともに白書の体裁も変わった.柔らかい表紙にカバーが付き,例えば今回発行の『厚生白書』では,各章の扉に幸せそうな老人などのカラー写真を載せ,図表も多色刷りになった.確かに,従来の政府刊行物時代に比し,帯の広告にあるように"わかりやすさ,読みやすさ,新しさ"に工夫が凝らされてきたのが分かる.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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