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雑誌目次

雑誌文献

病院46巻8号

1987年08月発行

雑誌目次

特集 AIDS不安—病院側の対応を考える

AIDSの基本的知識—研究と対策の現状

著者: 北村敬

ページ範囲:P.640 - P.644

AIDSの出現とその特徴
 1981年,ニューヨーク,サンフランシスコ,ロスアンゼルスの男性同性愛者集団に新しい疾患が報告された.後天性免疫不全症候群(AIDS)は極めて高い致命率を有する重症の免疫抑制状態で,ヘルパーT細胞の著明な障害を主徴とし,1ないし2年以内に日和見感染または癌で死亡するに到る.
 症例が,1970年代より革命的に変わったと言われる快楽主義的傾向の強い,乱交傾向の男性ホモに集中していたので,米国では,男性ホモ社会に対する強い反発を招いた.また,男性ホモの献血で他の人々にもこの致死的疾患が伝えられていることが明らかになるとともに,脅威は一段とエスカレートした.

医療職へのAIDS教育をどのように行っているか

著者: 羽田雅夫 ,   藤巻道男 ,   前田次郎

ページ範囲:P.645 - P.647

医療サイドの過剰防衛感をぬぐう
良好な情報提供不足
 AIDSウイルス(以下HIV)が科学的に解明されている事実はさておき,HIVが性行為により感染すること,治療法が確立されていないこと,有効なワクチンが未開発であることなどから,恐怖心,好奇心がかきたてられ,国民的関心事としてマスコミの多くもこぞって冷静さ,客観性を欠いた情報を提供し,一般国民のみならず,病院も同様な情報に混乱させられたところが多い.

AIDS患者の受け入れと精神的サポートシステム—米国ハワイ州

著者: 池上千寿子

ページ範囲:P.660 - P.665

AIDS今昔
 1981〜1984年,つまり,AIDSという"奇病"がサンフランシスコ,ニューヨーク,ロスアンゼルスなどのゲイコミュニティに恐ろしい勢いで広がっているものの,そのウイルスも判明していなかった頃,AIDS情報といえば,以下のような話がとびかいました.
 —長い間空きベッドを待ち,やっと入院となりホッとしたのもつかの間,食事は部屋の隅においていかれ,シーツは取り替えてくれない,付き添いは拒否というサンザンなめにあい,病室から怒りの会見を,ゲイ新聞にしたAさん.

AIDSへの対応—英国での印象

著者: 川村忠夫

ページ範囲:P.666 - P.668

 英国では1981年末に第1号患者が発見されて以来,患者数は10か月毎にほぼ倍増しつつあると言われ,国を挙げての啓蒙運動と予防及び治療薬研究への努力は,目を見張るものがある.例えば,本年2月から3月にかけて,"AIDS, Don't die of ignorance"(無知なるが故に死ぬな!)とのキャッチ・フレーズが郵便切手の消し印にも使われ,写真のようにイギリス国民が最も敬愛するエリザベス女王の顔には,"AIDS"のpost markが黒々と押されたりもしたが,何ら苦情が出たとの話は耳にしない.
 本稿では,英国におけるAIDSに関する現状と印象について述べてみたい.

AIDSへの対応—フランスでの印象

著者: 遠藤明

ページ範囲:P.669 - P.670

 1987年3月,パリでAIDSに関する調査を行う機会を得たので,短期間の滞在ではあったが,関係者との会見等を踏まえ,その印象を記録にとどめたい.

AIDS行政—日本の対策

著者: 長屋祥子

ページ範囲:P.671 - P.673

世界の問題—AIDS
 1981年に米国から初めて報告されたAIDSは,その後世界中から次々と患者の発見が続き,1987年7月現在では世界各国から53,000人(以上)のAIDS患者がWHOに報告されている(表1).しかし,各国のAIDS対策の取り組みかたやサーベイランス体制の整備状況の違いを考えると,この報告数は全体のごく一部であって,実際には世界のAIDS患者は100,000名以上存在し,更にAIDSの原因ウイルスであるHIVに感染している者は5,000,000人から10,000,000人にのぼるものと考えられている.
 WHOでは,定期的に世界各国から患者の発生報告を受け,その集計を発表しているが,その報告国と報告患者数は回を追って増え続けている.そのため,WHOではAIDS特別計画(SPA; Special Program on AIDS)を発足させ,AIDSへの対応を緊急課題として取り上げている.

座談会

AIDS不安—病院側の対応

著者: 南谷幹夫 ,   山田兼雄 ,   川北祐幸 ,   根岸昌功 ,   渡部準之助

ページ範囲:P.650 - P.659

 南谷 今,社会不安の一つとして"AIDS"の問題が広く取り上げられており,一般の方もいろいろの方面から知識を得て身近な病気のように心配しております.それだけに病院側の対応も非常に難しい,微妙な段階にあると思います.
 まず,日本でAIDSの第1例が確認されたのが,一昨年('85年)の3月22日.当時はそれほどの大きな反響はなかった.私たちはアメリカの例を見て,もう少し騒ぎが大きいかと思っていましたが,それほどではなかった.しかし5月,7月の発表と患者の増加が続き,秋になると本格的に世の中のAIDS不安が高まってきました.

グラフ

多彩なメニューで老人包括医療に取り組む—医療法人共和会南小倉病院

ページ範囲:P.625 - P.630

 北九州市にある南小倉病院は高齢化社会に対応とた「高齢者への包括医療」を理念に,様々な試みを進めている.本年4月に発足した老人保健施設は病院併設市街地型のモデル施設として注目を浴びててるが,本誌では多彩なサービスの一端を紹介する.

第16回日本病院設備学会会長 東海大学教授・町立浜岡病院院長 正津 晃氏

著者: 前田マスヨ

ページ範囲:P.632 - P.632

 正津晃先生は,昭和27年母校の慶応大学医学部の外科に入局,心臓血管外科を専攻され,穏やかな中に科学者の見識に立った緻密な洞察力を発揮してこられた.その能力を請われ,東海大学医学部付属病院づくりの際,副院長としての大役に当たられ,惜しみなく手腕をふるってこられた.今日の発展を物語る源流である.しかし,息つく間もなく,飛躍する東海大学に思いを寄せ,協力を求める静岡県町立浜岡病院の初代院長としての力量を発揮されることになり1年がたった.創設期における院長としての手腕をふるわれる一方で,先生の教授としての講義も学生間では名声高く,去る謝恩会の席上で学生の人気投票第1位."講義内容が分かりやすく,教材・資料共に大変有効であった,依って云々"と,学生から表彰状の贈呈があった.
 今日の医療は,各専門領域の参加が増大し総合の成果が求められる.総合とは,領域内容の集計ではない.各分野が深く掘り下げられ,溶け合って後に独自の性格を持った成果を得ることである.東海大学病院の歴史の中で,健康な看護集団が今日あるのは,総合看護と新しい看護管理に対する正津先生の深い理解と励ましがあったからである.更にそれは長い時間と質に裏打ちされている.古い台詞であるが"士は己を知る者のために死ぬ"とある.

今日の視点

痴呆老人ケアの現状と今後の対応—現場臨床医の眼

著者: 田中多聞

ページ範囲:P.633 - P.639

痴呆は老人の"最後の友"
 痴呆dementiaはdement (狂気),ia (病態)で,病名でなくsyndromeである.demented syndrome (DS)の原因は脳の器質的損傷,中毒,腫瘍,脳外術後後遺症,その他原因は多種多様である.著者の臨床医学的研究によると,dementiaはAlzhei-mer's disease(AD),senile dementia of Alzheimer type (SDAT),depressive pseudodemen-tia(PD),vascular dementia(VD)が主要原因疾患と考えられていたが,CT像ではVD+SDAT, multi-infarct dementia(MID)+SDATの混合型が多く,表1に示すごとく諸家の報告にもこのことが示されている.DSを呈する初老期,老年期の患者数は臨床各科(小児科を除く)に多数訪れ,また入院中にDSを現すことは多くの臨床医が経験している.本論文は主題に基づき論じたい.

医療・病院管理用語ミニ辞典

—治療薬—第3世代セフェム系抗生物質/—検査—血液型検査

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.675 - P.675

第3世代セフェム系抗生物質の種類
 セフェム系抗生物質はセファロスポリン系とセファマイシン系の総称である.セファロスポリン系で第3世代に属するものは,セフォタキシム・セフチゾキシム・セフメノキシム・セフトリアキソン・セフタジディーム・セフォペラゾン・セフピラミド等であり,セファマイシン系ではラタモキセフ・セフォテタン・セフブペラゾンがある.

厚生行政フォーラム

基準看護制度の見直し

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.676 - P.677

 6月26日に国民医療総合対策本部の中間報告が発表され,厚生省は今後長期入院の是正に取り組んでいくことになった.本研究会でも6月号でこのテーマを取り上げたが,解決の方法については誌面の関係で在宅医療についてのみ検討を行った.今回は入院医療の基本的問題である病院の看護制度について検討することにした.

統計のページ

病院運営管理の実態(3)—昭和61年6月・病院経営実態分析調査(全国公私病院連盟・日本病院会)から

著者: 福島絢

ページ範囲:P.678 - P.681

3.患者の病院利用状況
 1)1病院1日当たり患者数
 昭和61年6月1か月間の患者数から算出した1病院1日当たりの患者数は,入院では全病院で224人,一般病院217人,精神病院344人,結核病院86人である.一般病院を規模別にみると,規模が大きくなると1病院当たりの入院患者が多くなるのは当然であって,100床未満の48人から500床以上は547人になっている.開設者では自治体病院が200人,その他公的病院280人,私的病院215人である.
 1病院当たりの外来患者数は全病院で354人,一般病院で373人に対して,精神病院では54人,結核病院32人とかなりの差がみられる.一般病院では規模が大きくなると1病院当たりの外来患者数も多くなり,100床未満の病院の116人から500床以上の879人になっている.開設者ではその他公的病院は471人,自治体病院354人,私的病院333人である(表11).

事例から見た査定減防止対策

再審査請求のポイント(5)—再審査制度の活用は医事課職員のトレーニングにもなる

ページ範囲:P.682 - P.684

 A 本事例はちょっと古く,昭和59年8月分の入院事例です.患者さんは80歳の男性で,59年8月1日,急性骨髄性白血病および肺炎と診断されました.以前より当院で入退院を繰り返している患者さんで,病名としては,①慢性下痢,②高色素性貧血,③高血圧症,④急性骨髄性白血病,⑤肺炎となっています.8月分請求の総点数は111,367点です.
 症状詳記は別掲のようになっています.

院内管理—最近の話題

業務依託と看護管理

著者: 岸本まき子

ページ範囲:P.685 - P.687

 病院は入院患者の「生活の場」であり,快適に安楽に過ごせるように整備するとともに,疾病を治すために,安全でより効果的に最適の医療を施さなければならない.現在の厳しい医療環境の下,複雑多岐にわたる病院の機能を果たすためには,業務によってはより効率的で専門的なサービスの提供できる企業に依託することがかえってよいのではないかとの考えがあり,最近幅広い業種に外注依託の目が向けられつつある.しかし,そのことによって病院の機能や質が低下することなく,かえってより高度な医療や患者サービスができることが目的でなければならない.
 当院の外注依託業務については,給食部門における実際は篠田1)がすでに発表しているが,開院計画当初より,その導入の是非について種々の検討がなされた.なかでも看護業務は院内のあらゆる職種に関係があるため,看護管理に携わる者は,こうした外注依託について,正しい理解をし,対応しなければならないと思う.

建築と設備 第16回

慶應義塾大学病院新棟

著者: 岩堀幸司

ページ範囲:P.689 - P.694

■多くの関係者の努力と参加で実現した記念事業
 慶應義塾大学病院新棟は,義塾創立125周年記念の最大の事業として多くの関係者の多大の協力によって実現された.
 昭和52年5月の現石川塾長就任を契機に具体化に向けての検討が開始されて以来,昨年末に竣工,引越・調整を経てこの5月に使用開始となったわけで,実に10年来の計画であったことになる.

精神病院・わが病院づくり

—広島県・友和病院の試み—「精神病院的特殊性」の排除を目指して

著者: 末田格

ページ範囲:P.695 - P.700

 友和病院は広島市の西隣の廿田市町から更に山間部に30分ほど入った佐伯郡佐伯町に位置する.広島市の中心部からバスで1時間あまりの所である.許可病床数108床(入院患者数87名,昭和62年3月末現在)の精神病院としては小さい部類の病院である.今年で開院10年目を迎えた.10年目という区切りの年に際して,我々の病院が目指すものを端的に表すキャッチフレーズを考えようと,職員はじめ,患者さん,家族の皆さんにも呼びかけて,集まった応募作の中から優秀作を投票で選んだ.数十点にのぼる作品の中から最優秀に選ばれたのは,
 「こわせ壁!架けよ橋!めざせ自立と自由」

ケースレポート

発生源入力に適合した「システム・カルテ」の試み

著者: 牧野尚彦 ,   藤崎民子

ページ範囲:P.701 - P.704

 我々の病院は,旧病院の建物が老朽化して手狭になったため,別の地に新病院を建設し,昭和61年10月1日を期して全面移転を行った.それと同時に,それまで医事業務のみであったコンピュータ・システムも,発生源入力を基盤とするトータル・システムへと発展することになった.それまで折に触れ痛感していたカルテの近代化に着手しなければならない時期が到来したのである.
 新病院の建築および情報システム計画は10年近く前からスタートしていたわけだが,その一環として,新しい入院カルテの開発が行われ,開院時に一応の完成を見,以後数か月の使用実績を得たのでここに報告する.

病院サービス・ア・ラ・カルト

ベッドメイクの中央化システム

著者: 山方進

ページ範囲:P.706 - P.706

 順天堂浦安病院では,昭和59年の開院時よりベッドメイクの中央化システムを導入し,退院時のベッドメイクについては,ベッドセンターにおいて実施している.昭和61年度は,月平均の延べ入院患者数11,158人,標準在院日数24.4日に対し,ベッドセンターにおけるベッドメイクは月平均486台,1日平均19.6台であった.

時評

中小病院の局面

著者: 小野重五郎

ページ範囲:P.707 - P.707

「こんどの<地域医療計画>てのは,ただひたすら病床数の増加をおさえることが先行していて,露骨だね.神奈川県あたりでは,一足お先にこの計画を実施したのはいいが,早速に徳洲会にしてやられている.」
 医学部を出て二十余年目の同窓会.開業,大病院勤務,教職などの同期生に混じって,都市部の小病院の院長をやっている二人がたまたま隣り合わせた.時局柄,ついつい話が周囲から切り離されて二人だけの会話になってしまう.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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