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雑誌目次

雑誌文献

病院46巻9号

1987年09月発行

雑誌目次

特集 「医師生涯教育」の場としての病院

「医師生涯教育」の概要と病院への要望

著者: 永井友二郎

ページ範囲:P.730 - P.732

はじめに
 御承知のように,昨年以来,日本医師会はわが国で初めて自ら生涯教育制度をつくり,会員はこの制度に従って学習と研究を始めている.昭和61年度はこの生涯教育制度による試行の年として,主たる対象をまず開業医におき,6か月間,自ら学習・研究した時間数を各地域医師会に自己申告することとした.
 昨年6月から11月に至る6か月の試行結果は,全国の診療所医師の申告率70.3%,平均学習時間102.2時間であった.

「医師生涯教育」に果たす病院の役割

著者: 阿部正和 ,   後藤保郎

ページ範囲:P.733 - P.738

わが国の医療レベル向上のために
はじめに
 改正医療法の第3章,公的医療機関の項の第35条に,次のような規定がある.
 「厚生大臣又は都道府県知事は,公的医療機関の開設者又は管理者に対して,左の事項を命ずることができる.

「医師生涯教育」の理論と実際

著者: 松井敬介 ,   菊地博

ページ範囲:P.739 - P.742

はじめに
 「生涯教育」に関連する記事は,日本医師会雑誌にほとんど毎号のように掲載されているので,すでにご承知のことと思う.しかし,今なお病院勤務医の中には,「我々は毎日が研修であり,真剣に勉強している.当たり前のことをやっているのに何を今更制度化といって報告を要求されるのかわけが分からない」と言う者も少なくない.特に大学病院勤務医や大病院の医師にこの傾向が強いように思われる.これについては,日本医師会生涯教育制度化のガイドライン(昭和60年12月)を読めば分かっていただけるはずであるし,そのうち日本医師会生涯教育推進会議(座長:東京慈恵会医科大学阿部正和学長)から勤務医の生涯教育制度に対するガイドライン補遺といったようなものが提言されると思われるので,理論は明快になると思う.
 今ここで病院勤務医にも全員参加をお願いする際,この点が最も重要であり,決して避けて通るわけにはいかない.そこで,その理論と実際につき,私見を交えて,読みやすいように一問一答形式にして,私に課せられた責を果たしたい.

地域医師会の「医師生涯教育プラン」と病院への働きかけ

著者: 柄沢英作 ,   田橋賢士 ,   宮本正司

ページ範囲:P.743 - P.746

へき地医師会としての病院への働きかけ—沼田利根医師会
 沼田利根医師会の現況
 沼田利根地区は関東平野の北西にあり,面積は四国の香川県とほぼ同じ,人口は沼田市を含めて1市2町6か村合せて10万2千人といういわゆる過疎地である.診療に従事する医師数116(保健所届出数),医師会員数80(A会員53,B会員27),病院7,診療所53,病院のベッド数1,140で,いわゆるベッド過剰地区でもある.谷川岳,尾瀬沼,水上温泉を含む観光地が多数存在する地域であるが,医療機関は沼田市に集中し,村部では1村当たり1〜2か所というところが多い.
 地区医師会の抱える悩みはここにある.すなわち,医療機関が偏在するため,学術講演会を含めたあらゆる医師会の催しごとに車で1時間以上もかかるところから,沼田市まで集まってくれるかどうかということである.私ども医師を含めて,一般に地方では33(さんさん)医師会という言葉が通用している.つまり,医師会員の集まり(総会,講演会,各種の)懇親会等)への出席がほとんど3分の1,時々出席が3分の1,全く無関心が3分の1であり,前述のごとくA会員(開業医)が53人であるため,生涯教育の一環としての学術講演会を設営しても,出席者はせいぜい20人あればよいほうである.したがって,講師の先生方に生涯教育担当理事が出席者数について前もって説明しておかないと礼を失する場合もある.

「医師生涯教育」への病院の対応

著者: 大貫稔 ,   佐藤文明 ,   勝村達喜 ,   並木恒夫 ,   渡辺晃 ,   遠藤博志 ,   蜂須賀喜多男 ,   吉冨正一 ,   勝呂長

ページ範囲:P.747 - P.759

●大学病院の対応
「医師生涯教育」への大学教官の対応—筑波大学
 はじめに
 日本医師会が昭和61年度に試行した「医師生涯教育」の制度化については,医師会員の中から,かなりの反対意見が出たことは事実である.しかし,これを強制的に制度として課すかどうかは別として,昨今のような日進月歩の科学の急速化の時代においては,臨床に携わる医師は自ら進んで新しい知識の吸収に鋭意努力しなければ患者本位の満足な医療はできないであろう.しかも単に治療や診断の技術・知識以外に,患者とその家族の全人格を尊重し,人間らしさの復権を目指した保健・医療・福祉のすべてを包括した全人的対応を考える医師となるよう質的な意識の転換が要求されている時代においては,純粋の医学の分野以外の知識も臨床医は自発的に身につけておく必要がある.
 この1年間を振り返ってみて,「医師生涯教育」の試行がきっかけとなって,医師会員の間には自発的な勉学・研修の意欲が急速に昂まってきたという感触があるが,今後はこのような医師会員の生涯教育——というより生涯研修といったほうが適切だと思うが——の意欲を支え,活性化に協力するという点で,研究機関である医科大学,大学医学部および各地域での中核的総合病院の果たす役割は極めて重要である.

「医師生涯教育」—わが病院の試み

著者: 岡部保 ,   鳥居有人 ,   石山太朗 ,   伊賀六一 ,   岡田康男 ,   柏原貞夫 ,   小坂淳夫

ページ範囲:P.760 - P.767

客員医員制度とセミ・オーブン化を軸に—国立立川病院
 はじめに
 生涯教育は医学の領域においては開業医・勤務医とにかかわらず必須の問題となっている.近年,特にその必要性が強調されるのは,科学の進歩に伴う急速な医学の進歩・発展,これらを駆使した新しい検査法や治療についての医療技術の開発に関する医学情報の収集,更にこのようにして得た知識を日々自らの診療に有効・適切に活用するための修練の場が要求されるからである.また,社会環境の変化は医療ニーズの変遷をもたらし,これらの状況にも適切に対応してゆかなければならない.医師一人一人が孤立してこれらの条件に順応してゆくことは至難のことと言わねばならない.
 わが国の医療制度は,国民にとって容易に診療が受けられる状況にあり,多くの開業医師は毎日患者の診療に忙殺され,新しい医学知識の習得に十分な余裕を持つことが困難になっている.また,一方では大学医学部あるいは医科大学付属病院,大中総合病院においては分化した専門知識にとらわれすぎるあまり,疾患を人間全体像としてとらえることが疎かとなり,適確な医療を逸脱する一因となる欠点が生じたり,患者が開業医からの紹介で受診することが多いため,疾患の初期像についての経験に乏しく,したがって日常ありふれた疾患についての対応にも不十分な傾向がみられる.

「医師生涯教育」と地域医療研修センター

著者: 瀬上清貴

ページ範囲:P.768 - P.769

病院オープン化の類型
 昭和60年12月の医療法改正によって,医療計画の作成が都道府県に義務付けられたことは周知の事実であろう.その具体的内容の一つとして,医療計画の推進に資するための「病院のオープン化」があり,法第30条の6に努力規定として位置付けられている.また,翌年8月に示された健康政策局長通知の中で触れられている病院のオープン化の類型は次の通りである1)
1)一般入院部門(病床の相当部分)のオープン化a.会員(開業医)が主治医となる.b.病院勤務医が主治医となる.c.aとbの混合型

グラフ

"患者中心の医療"を目指して—病院情報トータルシステムの定着 北里大学東病院

ページ範囲:P.717 - P.722

 北里大学病院が急性総合病院として設立されたのが16年前.数年を経ずして慢性疾患患者が1/3を占めるようになり,重装備の医療資源が有効利用できない,慢性病のリハ設備は不十分であるという状況が生じ,慢性疾患のための病院づくりが計画された.この計画に当たっては,学外の有識者の研究会を作るなどして意欲的な病院運営の方法が求められ昨年4月北里大学東病院として開院した.同病院は北里大学病院とは至近距離にあり,両者で慢性,急性と機能分担をし医療内容の一層の充実を図ることができるようになった.都心の大学病院とは一味違った地域の医療センターとして周囲の期待が寄せられている.情報のシステム化,センター方式の2点の特色を中心に,開院後1年余の現状を伺う.

第26回全国自治体病院学会会長を務める茨城県立中央病院院長 戸川 潔氏

著者: 三宅和夫

ページ範囲:P.724 - P.724

 戸川潔茨城県立中央病院長は岡山県に出生され,昭和19年東京帝国大学医学部を卒業,軍隊生活を経て母校で学位を取得されました.昭和34年当時の内藤比天夫院長の招きにより,内科医長に就任,医務局長,副院長を経て,昭和51年に院長に就かれ現在に至っておられます.
 小生とは茨城県に着任されてより約30年の永いおつきあいになります.先生は誠実清廉にして確固たる信念の持ち主です.豊かな知識と指導力を持ち,大変難しい県立中央病院の運営に当たり,職員,患者はもちろん,地城住民からも深い信頼と尊敬を受けておられます.また高度な識見を持ち,全国自治体病院協議会常務理事,同茨城県支部長など,県関係をはじめ各方面の役職を兼務される中で,本年は第26回全国自治体病院学会長として,目下,その準備のため日夜御活躍中です.小生との公私にわたるおつきあいの中で,時には斗酒なお辞さずに,お互いに医療制度・病院管理の問題などにつき議論しあっております.

今日の視点

老人病院の立場からみた老人保健施設—病弱,障害老人の特性を踏まえて

著者: 大塚宣夫

ページ範囲:P.725 - P.729

 老人保健施設の試行が始まり,来年春からは,全国80か所を目途に本格的に老人保健施設体系が展開されようとしている.しかしながら,その中味となると,漠としてイメージすらつかめないというのが,関係者を含めて,正直なところであろう.
 本稿では,近い将来に老人病院や特別養護老人ホームのみならず,医療・福祉の両分野に甚大なる影響を及ぼすであろうこの施設について,一老人病院の運営に当たっている者の立場から,若干の考察を試みることにしたい.

ニュース

高齢化社会に対応する大和町「健康やまとぴあ」構想

ページ範囲:P.746 - P.746

 新潟県大和町では,大和医療福祉センターを中心に,「町ぐるみであなたの"主治医"を引き受けます」のキャッチフレーズで「健康やまとぴあ」構想を発表した.
 この構想は,都会と田舎の共同プロジェクトで「健康やまとぴあ」を建設し,定住と交流のまちづくりをすすめようというもの.生まれ故郷はあるが,ふるさとのない人々,戦後経済を支え,やがて定年を迎えようとしている人々やその家族,都会にあっても医療や保健に恵まれない人々などを会員に,大和町の特色ある医農食と四季の変化に富む自然,体験を提供する."主治医"を果たすのは,地域医療で16年間の実績のある大和医療福祉センター,有機農法の「土の会」,健康食と生薬風呂の浦佐温泉,町立薬用植物園など.

資料

各地区医師会への「医師生涯教育」に関するアンケート調査

著者: 編集室

ページ範囲:P.770 - P.770

 「病院」編集室では今回の特集企画に際し,各地区医師会にアンケート調査を実施(無作為抽出により各都道府県最低1か所の医師会を選出.発送件数60通,回収件数32通),各地区医師会における「医師生涯教育」に関する教育プランの整備およびその実施状況と,具体的な教育内容,またそれを実践するに当たっての病院への要望等を探ってみた.質問内容は表に示すごとくである.
 全体として眺めると,「生涯教育計画」は大半の医師会で整備されてはいるが,具体的な教育内容は各医師会ともまだ模索中であり,勉強会・講演会への出席といった"知識吸収型"の傾向が強く,外来診療や回診への参加等の"知識活用型"は少ないように思われる.

建築と設備 第17回

病院の空調を考える

著者: 中原信生

ページ範囲:P.773 - P.778

 筆者は空調を専門としているが,どちらかと言うと冷房が嫌いなほうである.冷房は空調の中で大きな役割を占めるので,私の立場がなくならないように,冷房は嫌いだが空調は好き,と理屈をつける.とは言え,酷暑の季節の冷房,暑い戸外から強烈に冷やされた室内に入った時の快感は,いかにそれがコールドショックという,循環器系に悪い影響を与えると言ってもこたえられない.しかし冷えすぎた新幹線に乗ると乗車後十数分にして冷不快を感じ始める.そこで一つの教訓が得られる.
 一方向の過度の不快状況にある時,対極方向の過度の不快刺激は快感を与えるが,徐々に定常に達するに従い,本来の不快に至る.この時の瞬時的快適が,医学的に見て保健的であるかどうかは,体験者の健康状況によるのであろう.元来,空調では,この種の快感は非健康的であり,コールドショックと称して断じて避けるべきものとされてきたが,大衆はそれで満足せず,一言でこの冷房は効かない,と評価する.この種の評価は文化レベルが低いほど多く起こるようで,これは冷房が一つのステータスシンボルとなるからで空調の本質論とは無関係である.

医療におけるQOL 現代患者論序説・1

QOLの理念と原則

著者: ニノミヤアキイエ・ヘンリー

ページ範囲:P.779 - P.783

はじめに
 最近「QOL (Quality of Life)」と言う言葉を耳にする機会が多くなってきた.特に1984年11月,東京で開催された「ガン患者のクォリティ・オブ・ライフに関するワークショップ」から,多くの医療関係者がこの言葉に興味を持ち始めてきた.この言葉は「生命の質」あるいは「生活の質」というように日本語に翻訳すると意味が狭くなってしまうので,原語のまま「QOL」として使っている.ガン患者のQOLは「Longevity of Life(人生の長命)」,「Ex-tension of Life(人生の延命)」からくる生物学的な生命の長さからみる「Quantity of Life(生命の量・人生の量)」に対する概念として用いられている.
 明治時代の初めは"人生50年"と言われていたが,現在では平均寿命も80歳台に突入し,"人生80年"とまで呼べるようになってきた.その原因としては医療技術の発達が大いに貢献してきた.ただし,人生を延長することだけが先走りしてしまい,延長されたその30年間をどのように生活(Life)するか,医療関係者は多くの場合無関心であったのではないだろうか.最近の国立公衆衛生院の発表によると,75歳以上の自殺者数は人口10万人当たり日本は65.3であり,北米の19,スウェーデンの26に比較して著しく高い.

ルポ&インタビュー 病院アレコレ見聞録

結核病院から人工透析・循環器病センターへ—医療法人寿尚会洛陽病院

著者: 山本潔 ,   編集室

ページ範囲:P.784 - P.788

 医療法人寿尚会洛陽病院は京都市の北部,左京区岩倉にあり,付近には実相院・岩倉具視幽棲旧宅など名所旧跡が多い.また道路ひとつ隔てて,開放病棟を先駆的に推進してきた精神病院・岩倉病院がある.
 当院は昭和29年3月,山本寿理事長により呼吸器科病床41床で発足,昭和30年代は結核病院としての役割を担ってきた.昭和44年には人工透析を開始し,更に昨年10月,循環器病センターを開設,地域で専門医療を担う民間病院として地域の医療ニーズに応えている.

医療・病院管理用語ミニ辞典

—病院管理—付加価値/—検索—腫瘍マーカー

著者: 一条勝夫

ページ範囲:P.789 - P.789

 企業が純粋に創り出した価値を付加価値(added value)あるいは創造価値という.
 これは売上高の中から原材料費,経費,減価償却費など,他産業から買入れた資材やサービスなどの価値を除いた残りである.企業は商品やサービスを生産したり販売するに当たって,他産業から様々な資材やサービスを購入し,これに手を加えることによって新たな商品なりサービスを生産し販売する.したがって,この売上高のうちから,他産業が調達した価値分を除いた残りがその企業が新しく創出した価値となる.これを付加価値という.付加価値は,生産に参加した労働者に対する賃金給料,経営者の報酬,資本提供者に対する利子配当,地主への地代,更に国や地方自治体への租税として分配される.この付加価値を国全体で合計したのが生産国民所得であり,分配した結果を集計したのが分配国民所得となり,一国が1年間に創出した価値の総額を表すものである.

厚生行政フォーラム

給食サービスの改善

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.790 - P.791

 先月の「看護制度」の検討に引き続いて,今回は入院サービスの基本である給食について検討することにする.

統計のページ

病院運営管理の実態(4)—昭和61年6月・病院経営実態分析調査(全国公私病院連盟・日本病院会)から

著者: 福島絢

ページ範囲:P.792 - P.794

5.病院の収支状況
 1)収益と費用
 61年6月の病院の100床当たり収益費用額を病院の種類別にみたのが表16である.一般病院の医業費用は7,710万円,精神病院は3,054万円,結核病院は2,998万円であり,医業収益も一般病院の7,755万円に対し,精神病院,結核病院はそれぞれ2,570万円,2,501万円であって,精神病院,結核病院の100床当たりの医業収支額は一般病院の半分以下で,医業収支の均衡も一般病院ではわずかではあるが黒字であるのに対し,精神病院,結核病院ではかなりの赤字である.また,一般病院の医業費用のうち,給与費の占める割合は51.5%であるのに対して,精神病院は72.1%,結核病院は64.5%にものぼっており,医業収益のうち入院収入の占める割合は,一般病院は62.9%,精神病院89.9%,結核病院86.3%など,一般病院と精神病院,結核病院の収益,費用の状況は100床当たりの額,構成ともかなりの違いがみられるため,これ以降の収支の観察は一般病院についてのみ行うことにする.

定点観測

地域医療における病院の役割—過去・現在・未来(その1)

著者: 竹内実

ページ範囲:P.795 - P.795

 医療法における病院の定義ほど幅広いものはない.その中で総合病院,単科大型病院,専門病院等はそれぞれの機能を有するが,ここでは一般病院,特に民間病院が過去,現在においていかに地域医療とかかわり,将来どう取り組もうとしているのか——その一例を報告したい.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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