icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院47巻10号

1988年10月発行

雑誌目次

特集 「老人保健施設」試行実績をこう見る

老健モデル施設からの報告

著者: 柴田裕介 ,   仲里泰成 ,   西元幸雄

ページ範囲:P.833 - P.839

地域に根づいた組織づくり
1.老人保健施設って何だろう
 「老人保健施設って何だろう」これは,モデル老人保健施設「伸寿苑」の開設当時,多くの方々が抱いた感想であろう.そして,われわれ伸寿苑の職員が心の片隅に持っていた不安も,実は,「老人保健施設って何だろう」ということだったのである.
 先例もなければ経験もないのだから,当り前といえば当り前の話である.しかし,それが幸いだったのか,老健施設とは何かということをどうにかして探り出そう,あるいは創り出そうということで,職員一同,今まで努力を続けてきた気もする.また,地域の方々や家族・ボランティアの方々から,老健施設への要望をずい分聞かせていただき,実際の運営方針や方法を決めるとき役立ったことも多かった.

「老人保健施設」試行実績をどう評価するか

著者: 若月俊一 ,   川村耕造 ,   有田幸子 ,   岸口繁 ,   高原敏夫 ,   岩田克夫

ページ範囲:P.840 - P.847

ベッドの回転にもっと配慮を
1.60%の老人が家に帰った
 私ども長野県厚生連・佐久総合病院では,昨年(昭和62年7月),老人保健施設をオープンした.とりあえず30床を「病院併設型」として,佐久総合病院の敷地の東北隅に開設したのである.厚生省からモデル施設としての認定を受けた.30床のうち,「短期入所」用が25床,「ショート・ステイ」用が5床.場所は千曲川堤防沿いで,環境はいい.土地代を除いた建設費は約2億円.
 私どもは,特に老人に「温かいケア」を供給することに力を入れた.老人を孤独に陥れるのが最もいけない.そこで,施設の真ん中に多目的の大広間(310m2)を集会場として作り,そこにはリハビリ室,談話室,レクリエーション室のほかに,「祈りのコーナー」までを作った.大広間はまた,風呂場や芝生の庭(450m2)に連絡する.

「老人保健施設」の試行的実施と今後の課題

著者: 小野昭雄

ページ範囲:P.848 - P.852

1.制度化された「中間施設」
 本格的な高齢化社会の到来をひかえ,老人に対する総合的・体系的な施策の確立が要請されている.とりわけ,寝たきりや痴呆等の状態にある要介護老人の数は,高齢化の進展に伴って急速に増加し,昭和75年には約100万人に達すると見込まれており,その対策は緊急かつ重要なものとなっている.
 このような状況の中で,昭和60年1月,社会保障制度審議会は,総理大臣あてに中間施設の制度化等を盛り込んだ「老人福祉の在り方」について建議を行った.

「老人保健施設」のモデル実施でわかったこと

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.853 - P.857

 昭和63年4月1日より,老人保健施設(以下,老健施設とする)制度が本格実施された.新しい制度を構築し,それを円滑に実施するためには莫大なエネルギーが必要である.老健施設は,多くの人々の理解と温かい支援,そして関係者の多大の努力によって制度化されたもので,その成果は,わが国の老人ケアの質の向上に役立つものと期侍できる.
 老健施設は,昭和60年1月の社会保障制度審議会の建議を端緒とし,61年12月の老人保健法の改正で制度が創設され,その後,全国7か所のモデル施設の指定および実施を経て本格実施された.この間の3年4か月は,長くもあり短くもある年月であったが,62年4月以降開始された7施設のモデル事業は,多くの人々から注目された.

「老人保健施設」に何が期待できるのか

著者: 三宅貴夫

ページ範囲:P.858 - P.860

1.「老人医療」とは
 医療のなかに「老人保健施設」という新たな制度・施設が導入され,老人にかかわる医療の状況は大きく変わろうとしている.この動きが「老人医療」を好ましい方向に変えていくのかについては疑問を抱いているが,この老人保健施設を検討する際,「老人医療」とは何か改めて確かめておきたい.
 というのは,「老人医療」や「老人保健施設」の議論を聞いていると,いわゆる「ねたきり老人」など要介護老人や長期入院老人(この中には「社会的入院」が少なくないが)をどうするかとか,老人の医療費の伸びをどう押さえるかといった,主に制度面や財政面が争点になっているようであり,こうした議論で欠落していることは,「老人医療」とはどのような医療であり,どうあるべき医療なのか,といった医療そのものの検討である.

「老人保健施設」導入により老人医療はどう変わるか

著者: 大井玄

ページ範囲:P.861 - P.863

1.はじめに
 老人保健施設制度は,その初期観察期間を経て,いよいよ本格的に動き出したようである.
 老人保健施設制度の構想された経緯は具体的にはつまびらかではない.しかし少なくとも一般に明らかな背景は,老人に由来する医療費は年々急増していること,老人人口はこれから21世紀前半にかけてほとんど倍増するであろうこと,急性期の病が治り一応安定した老人であってもなかなか家庭に退院させることが出来ず,いわゆる社会的入院が増えていること,またその一方,大家族制度から核家族制度への変化,婦人の就業率の上昇等の諸要因から家庭あるいは一般に地域の介護能力が低下しつつあることであった.

グラフ

—福井心臓血圧センター福井循環器病院—専門機能の連携により高度な医療内容を実現—福井愛育病院

ページ範囲:P.821 - P.826

 「福井駅に着き,タクシーの運ちゃんに,福井循環器病院へといったがわかってくれない.といって,これをどうわかりやすくいえばいいか困り果てた.……」1971年,本誌の依頼を受けて,森日出男先生が,開設4年めの福井心臓血圧センター・福井循環器病院に田中孝院長を訪ねた時の文章の一節である(「管理者訪問」1971年5月号).その翌1972年,同一敷地内に福井愛育病院開院両病院の専門的な機能を横断的に結びつけて先天性・後天性心疾患に対応する診療体制が整備され,名実ともに,循環器専門病院としての基礎が固められていった.
 田中院長は弱冠37歳で院長に就任,理想の地域医療の実現を目指して率先垂範全職員の先頭に立って病院基盤の強化に心血を注いでこられた.そして20年の星霜を経過した現在,構内には私鉄バスが乗り入れ,毎日500人近い外来患者が両病院を訪れる.この事実は,地域医療に果たしてきた両病院の着実な歩みを象徴するものであろう.

医学部長の重責を果たしながら病院管理学の確立を目指す 日本大学医学部長 三宅 史郎氏

著者: 川北祐幸

ページ範囲:P.828 - P.828

 学問の恩師,囲碁の恩師である三宅史郎先生に,筆を持って向かうことは楽ではない.筆を立てれば,写真が霞み,折れば我が腕が笑われそうだ.
 大正11年生まれの先生は,日本大学医学部を卒業,外科医として,母校で研鐙の上,春日部市立病院に勤務,数年を経て同病院長に就任,後に国立甲府病院長として活躍されている.器の大小にかかわらず,長になる何物かを持っている,尊敬すべき人物として御紹介したい.

今日の視点

在宅医療の制度化に伴う法的問題(その2)—健康権の視座から

著者: 宇都木伸

ページ範囲:P.829 - P.832

III.医療者の責任
 個々の医療における医療者の責任という課題は2つに大別される.その1は,医療者が自ら直接的に果すべき責任であり,在宅化の開始決定をすること,およびそれを継続していくことである.その2は,いわば指導監督者としての責任である.本来医療者が為してきた医療の一部を患者本人や家族が行うわけであるが,これにより医療者が免責されるわけではなく,その限界を見極め,これに必要な指導・訓練を施し,さらに監督し続けねばならない.この問題から先にみていこう.

インフォーメーション

病院経営革新セミナー

ページ範囲:P.857 - P.857

[テーマ]
医療の構造変革に対応するための平均在院日数の短縮と新患の増加方法
●開催日…東京/昭和63年10月11日(火)
大阪/昭和63年10月15日(土)

特別記事

医療ガス配管工事ミスは何故繰り返されるか

著者: 佐藤暢

ページ範囲:P.864 - P.868

はじめに
 昨年12月22日と24日に国立嬉野病院(佐賀県)で起きた医療ガス配管ミスによる死亡事故について,その原因を巡って様々な報道がなされてから既に半年が経過して,警察の調査も終わり厚生省も漸く対応策をまとめたので,この際,問題点を振り返ってみた上で,このような悲惨な事故がなぜ繰り返されるのか,もう二度と起こさないための方策を探りたい.
 この事故は,手術室の天井裏にある換気用通気管の工事に伴って,邪魔になった医療ガス用の配管を移設した際,酸素と笑気の配管をつなぎ間違えた単純なミスによる(図1).しかし,2本の配管を逆に連結する工事ミスが起きて,しかも3日間も気づかなかったので,2人も患者が死亡した裏には複雑な背景がある.

新しい医療情報システムを作ろう!

オーダリングについて

著者: 滋賀医科大学医学情報センター

ページ範囲:P.869 - P.871

医師は患者情報のインタープリター
医療情報はどこから発生するのでしょうか?普通は医師が発生源だといわれています.本当にそうなのでしょうか?
 患者さんが病院を訪れるのは,健康に異常があると思ったからです.異常だと思うきっかけは,症状が現れたり,常と違う外観を呈したり,あるいは検診などで異常所見を指摘されたからです.その時点ではすべての情報は患者さんにあります.医師は問診や診察をし,異常がどのあたりにあるのか,おおよその見当をつけたうえで,今後の診断計画・治療計画・教育計画を立案します.コンピュータを用いた医療情報システムでは,こうした計画のオーダーがインプットされ,それに基づいて検査や治療が実施されるのです.

日本の病院建築の七不思議・5

手術部平面の多様化

著者: 柳澤忠

ページ範囲:P.872 - P.873

 最近の日本の手術部は建築的に様々なタイプがあり,良くいえば多様であり,悪くいえば混乱している.従来はほとんど中央廊下の両側に手術室を並べた中廊下型であったが,この数年ふえてきたタイプに,中廊下型の外周に汚染物を回収する廊下をめぐらせた回収廊下型と,中央に清潔物品を保管し配盤して供給するホールを別に設けた清潔ホール型がある.その他に外周廊下を清潔物品の輸送専用に使う清潔廊下型もみられる.
 手術部の運営も多様であり,中材と組織的に一体であるか否か,手術介助を手術部でやるか否か,手術を午前も行うか否か等,病院による差が大きい.前述のように建築平面が変わってくると,職員の業務分担や作業場所がタイプ別に変わってくる.建築と運営を合わせて評価しておかなくてはならない.

特別寄稿

保健・医療・福祉サービス総合化のための病院の役割

著者: 川添善弘

ページ範囲:P.874 - P.876

はじめに
 近年,保健・医療・福祉サービスの総合化が各方面から主張されている.国民医療総合対策本部の中間報告でも,「老人の医療は,個々の疾患の治療だけではなく,家庭や地域社会で生活できるよう,老人の残存能力や日常生活能力を可能な限り維持し,回復させることを中心に考える必要がある」として,①老人にふさわしい施設ケアの確立(病院,老人保健施設,老人ホーム等),②在宅ケアの充実(訪問看護,在宅介護,家庭医機能の拡充・充実),③地域ケアのシステム化の重要性を述べている.これは各種ケアの改善目標を示したもので,その実現には,制度の改正や,各種施設,マンパワーの拡充・整備が必要である.
 病院管理研究所では,昭和60年度から3年間にわたり,「施設ケアの機能別再編成に関する総合的研究」(主任研究者大池眞澄)を行ったので,それを踏まえて,今後の病院の役割について私見を述べてみたい.

建築と設備・30

碧南市民病院

著者: 名古屋大学柳澤研究室 ,   久米建築事務所

ページ範囲:P.877 - P.881

■長年の市民の夢「市民病院」
 碧南市は岡崎・安城・刈谷・西尾の各市に囲まれた人口約6万5千の都市で,市民は長い間市民病院を希望していた.正式な陳情は昭和37年である.現在地が決定して,柳澤忠が祖父江逸郎氏(当時名大医学部教授)・山元昌之氏(当時日本病院管理学会会長)と共に基本計画の作成を依頼されたのが昭和50年である.当時,国保請求伝票を分析し,パフモデルで診療圏を予測して病床規模を想定し,類似病院の運営状況を調査して経営水準を想定し,1床当り43m2の建築計画をまとめた.計画は昭和58年まで中断し,再び診療圏調査(市民医療実態調査を全市10%世帯で行い97%の回収率)からやり直し,地元医師会の臨床検査センターを併設した330床の総合病院の計画がまとまり,1床当り66m2・総工費72億の建築が63年4月に竣工し,5月に開院した(院長:吉井才司).

ルポ&インタビュー 病院アレコレ見聞録

プライマリー・ケアを追求する—特定医療法人天心堂へつぎ病院

ページ範囲:P.882 - P.887

 大分市の中心部より西南10数キロメートル,大分市から宮崎県に通じる国道10号線沿いに,地域医療を包括的に推進しようという民間病院がある.特定医療法人財団天心堂へつぎ病院である.理事長(院長)をはじめ40代,30代の医師を中心に若手の職員が多い.「出かける医療」を基本理念に設立して8年余り,その間の医療情勢の変転のもとで,この病院がどのような歩みをし,今後の方向をどう模索しているかをみてみたい.

統計のページ

病院運営管理の実態(2)—昭和62年6月・病院運営実態分析調査(全国公私病院連盟・社団法人日本病院会)から

著者: 福島絢

ページ範囲:P.888 - P.890

 2.診療および看護の状況
 1)診療科
 一般病院が医療法により標榜している診療科は,昭和62年には「内科」が最も多く97.8%,次いで「外科」93.4%,「整形外科」76.5%,「小児科」76.2%などは全病院の7割を超える病院で標榜している.一方,標榜する病院の少ない診療科は「美容外科」,「矯正歯科」,「性病科」,「小児歯科」などで,全病院の1割にならない.
 60年から62年までの3年間に標榜する病院が増加した診療科は「麻酔科」,「泌尿器科」,「放射線科」,「脳神経外科」などで,減少したのは「皮膚泌尿器科」,「性病科」である(表6).

厚生行政Q&A

国民健康保険事業の安定化計画

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.892 - P.893

〔問〕厚生省は国民健康保険事業の安定化計画のガイドラインを決め146市町村を指定したが,今後の医療費適正化対策はどのように進められていくのであろうか.

定点観測 北海道・広島町から

地域医療における病院の役割—過去・現在・未来(その2)

著者: 竹内実

ページ範囲:P.894 - P.894

 特定医療法人化第1稿よりもう1年間が過ぎようとしている.この1年間の自院の置かれている環境も微妙に変化して来た.まず大きな変化としては昭和63年3月,特定医療法人が承認され,将来に向けての地域病院としての安定性を増した.しかし,道央圏における駆け込み増床の嵐は未だにその余波が続き,医療従業員の引き抜き,外来・入院患者の減少傾向,加うるに人件費の上昇は病院の経営を直撃している.

医療・病院管理用語ミニ辞典

—病院管理—費用と原価/—診断・治療手技—腹腔穿刺

著者: 一条勝夫

ページ範囲:P.895 - P.895

 「費用(expense)」とは,ある会計期間中において,企業が事業を行うに当たって失った経済価値の価額をいう.獲得した価額が「収益」であって,収益と費用の差額が「利潤」あるいは「欠損」となる.この損益計算は,企業の経営成績を見ようとするものである.
 「原価(cost)」とは,製品やサービスの生産に当たって,消費された労働や資材・用役などの消費価値の額をいい,通常は生産物一単位当たりの金額として表す.

病院管理トピックス

—施設—米国の大学病院施設管理から学ぶこと,他

著者: 静昌平

ページ範囲:P.896 - P.898

 最近,米国の諸大学病院の施設を見聞したので,医療費支払制度の大幅な変革に伴って,大きな影響を与えられた病院施設についての実態を記してみたい.

時評

脳死—臓器移植に思うこと

著者: 斎藤芳雄

ページ範囲:P.899 - P.899

 本年1月に出された日本医師会生命倫理懇談会の答申は,脳死者からの臓器移植を容認する内容であった.これをうけて,5月には新潟県のある病院で,脳死者からの腎移植が行われた.心臓移植や肝臓移植をやりたくてウズウズしていた医師たちは,スタートラインにつき,今や,フライングが続発しそうな気配である.
 脳死—臓器移植問題は「死の判定」,「法制化」,「費用」など,極めて多岐にわたる内容をはらんでいるが,今回は,問題を極めて単純化して私見を述べてみたい.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?