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雑誌目次

雑誌文献

病院47巻4号

1988年04月発行

雑誌目次

特集 地域医療計画と病院

地域医療計画作成の狙いと概要

著者: 潮見重毅

ページ範囲:P.299 - P.302

 昨年6月,国民医療総合対策本部が老人医療の今後のあり方,長期入院の是正,大学病院等における医療と研修の見直し,患者サービス等の向上を柱とした現在の我が国が抱える医療の問題と対応の方向を中間報告として取りまとめ,発表した.この内容については,21世紀に向けての厚生省の姿勢として把えられ,様々な関係分野に波紋を投げかけ,多くの議論を呼んだ.
 また,今年1月には,厚生省内の若手有志から成る厚生省政策ビジョン研究会が「変革期における厚生行政の新たな展開のための提言」と称して,施策の統合化,施策の重層化・複合化,都市政策的手法・産業政策的手法の導入を政策推進の基本的な考え方とする必要性があること等について発表した.このように,種々の報告が出される背景には,我が国の保健・医療・福祉の分野が今まさに変革を余儀なくされている状態にあり,急速に進む長寿社会に向けての体制作りを迫られているといえるであろう.

地域医療計画策定の進行状況と問題点

著者: 大道久

ページ範囲:P.303 - P.308

 昭和60年12月の医療法改定により,地域医療計画の策定とその実施が求められるところとなった.各都道府県とも策定に必要な基礎調査を済ませ,関係団体や有識者による検討を進めているところと思われるが,昨年12月末日までに既に17県より計画書が公示され,実施の段階に入っている.他の多くの府県においても実質的な策定作業を終え,各県医療審議会等に諮問中,あるいは既に答申を得ていると聞いている.昭和62年度中には30余の府県が策定を完了し,63年度中には,おおむねすべてが出揃うものと予想されている.
 本稿においては,昭和63年1月段階において入手し得た15県の地域(保健)医療計画について,その理念や基本的方向付けを概覧し,あわせていくつかの視点からその内容を分析して,わが国が初めて経験する計画に基づく地域の医療の今後の流れを探ってみたいと思う.

地域医療計画策定事例の実際

著者: 島田恵晨 ,   大沢俊雄 ,   井上廣 ,   白山鴻鍵 ,   中野敦嚴

ページ範囲:P.309 - P.319

地域医療計画策定事例〔埼玉県〕
地域ブロック受療率に矛盾
 埼玉県では,本年の1月25日「埼玉県地域保健医療計画」を,医療法の改正に基づく計画としては,全国で18番目に告示した.
 当初の予定では,昭和63年度を目途に告示の準備を進めてきたが,計画が告示されると病院の病床が制限されることから,62年度に入り,病院の開設や増床の申請が急増し,その病床数は1万6千床と,過去5か年の年平均の増床が約2千床であることからみると,実に8年分に相当する数となった.

地域医療計画をどうみるか

著者: 大田浩右 ,   岩本光存欣 ,   安東三郎 ,   黒岩卓夫 ,   竹内三郎

ページ範囲:P.320 - P.325

広島,岡山両県の病床充足率の差に驚く
◆実感とかけ離れた算定病床数
 広島県の地域医療計画1)で,昨年7月20日に公示された既存の病床数は27,850床,算定された必要病床数は29,326床で充足率は95%,すなわち1,476床が増床可能分であったが,増床申請によって,このベッドは,あっという間になくなってしまった.ところが,公示直前になって,3,085床の原爆特別加算が行われ,必要病床数は32,411床となり,充足率は95%から85.9%と,一挙にベッド不足地域となった.
 一方,隣接の岡山県は,既存病床数23,498床,地域医療計画により算定された必要病床数は21,148床で,端から充足率111.1%のベッド過剰地域となった.私の住んでいる福山市は広島県東部で,岡山県に隣接しており,両県の医療状況が分かりやすい立地にある.岡山県は11.1%の過剰,広島県は14.1%の不足と,両県の間には25.2%という大きな数値的開きが出ているが,私の感覚では,両県の病床事情はほぼ同等で,どちらも十分に充足しているとの印象をもっていた.特に両県は病床数にカウントされていない有床診療所が多くあり,この発表された数値に大層驚いている.

座談会

地域医療計画と今後の医療

著者: 伊賀六一 ,   池亀信 ,   大塚知雄 ,   岩﨑榮

ページ範囲:P.326 - P.332

 岩﨑 地域医療計画は,地域のニーズに対応した包括的な保健医療を提供するため適正な保健医療資源を配置し,供給体制のシステム化を図るために作られたとされているわけですが,実際的には病床規制と言いましょうか,医療を提供する場である医療圏という中に,必要にして適正な病床数をある計算式で算定して,それ以上の病床を認めないという内容があり,その側面が強調されているわけです.私どもとしてはそういう必要的記載事項よりも,任意的記載事項が,ソフト面で大変重要だと思っております.しかし現場の先生方は,この必要的記載事項の中で算定された病床数に対して非常に過敏になっておられる.そういうこともあってこの1〜2年,各地域で駆け込みといわれる現象が見られて,それがために異常な病床の増加が全国的に見られます.
 そういうことからすれば,この地域医療計画は裏目に出てきたと言う評論家もいるわけです.しかしながら,目標はやはり保健医療資源を適正に配置して,効率的な医療をやっていく.そして,いつでも,どこでも,だれでもが公平,公正に受けられるような,非常にアクセシビリティの高い医療を提供していくことだったはずです。

資料

北海道医師会における医療圏設定の手順と考え方

著者: 大内東 ,   宮腰昭男 ,   小野修 ,   長沢邦雄 ,   飯塚弘志

ページ範囲:P.333 - P.335

 地域医療計画における医療圏の設定は,ただ単に必要病床数の算定という目的のみを持つものではない.特に北海道は医療環境の地域格差が大きく,医療圏は地域住民の生活の場に密着した形での医療資源の充実と整備という目的を持たなければならない.北海道においては,昭和55年より保健医療圏を設定し,医療環境の整備を行っているが未だ不十分である.本稿では,医療提供の第一線の現場において活躍する医療従事者の立場で,真に地域社会に立脚した医療システムの構築とはどのような考え方を持たなければならないかについて言及する(ここでの解説の大半は北海道医師会医政研究委員会小委員会において検討されたものである).
 地域医療システムを構築するうえで,医療活動を行う場としての医療圏を設定することが重要である.従来の圏域は政策的側面が強調され,医療サービスの現状を無視した状況で設定される傾向があった.我々の医療圏設定の基本的考え方は,既存の医療資源を有効に,かつ,効果的に利用することを前提としている.既存の医療資源に関して,ただ単にその物理的大きさのみを測定するのではなく,それが稼働している状況を把握しなければならない.この状況を客観的に反映しているのは,患者の受療行動である.患者の行動は,医療,経済,地理,社会的諸要因を反映した結果的なものとして把握でき,それは医療圏設定のための基本的情報であると考える.

グラフ

全人医療を理念に高機能病院へ—淀川キリスト教病院

ページ範囲:P.285 - P.290

 淀川キリスト教病院は大阪市東淀川区にあり,東海道新幹線新大阪駅から徒歩で約20分,車中からも遠景が見える.昭和57年に全面的な改築を開始,59年4月に病棟部門の南館をオープン.60年に中央館,61年3月に東館が完成した.「淀キリ」というとホスピスを連想されるであろうが,今回は別の側面から紹介しよう.

「世界の厚生大臣」を期待する世界保健機関本部事務局長に選任された 中嶋 宏氏

著者: 三浦四郎衛

ページ範囲:P.292 - P.292

 宏さんおめでとう.本当によかった.昨年から何回も会ったが,落ち着いてお互いに話し合うひまもなかった.誌上から今一度お祝い申し上げたい.
 中嶋先生との出会いは昭和29年にさかのぼる.私が28年に東京医大を卒業し,インターン終了後,精神科に入局したとき,精神医学のことを大変よく知っていて,いろいろと教えてくれた先生がいた.聞いてみるとインターン生とのこと大変びっくりした.その人が中嶋先生であった.翌年には先生も入局され,意気投合し,大いに飲んだり,遊んだり,人生や精神医学について語ったものだった.入局後3年目にフランス留学生の試験にパスされ,横浜港から鹿島立ちされたのを見送った.

今日の視点

都市一般病院における脳卒中リハビリテーション—早期リハビリテーションの技術と経済

著者: 二木立

ページ範囲:P.293 - P.298

 昨年6月の厚生省「国民医療総合対策本部中間報告」でも"リハビリテーション"が重視されている.それは来たるべき高齢化社会への布石でもあろう.事実,急増している老人病院,新設の老人保健施設等では,さまざまな形でリハビリテーションへの取組みを始めている.
 では,病院の大部分を占める「都市一般病院」はどのような形でリハビリテーションにかかわるべきなのか?今回は代々木病院で10年に及ぶリハビリテーションの経験と実績を持つ二木立氏にご登場いただき,昨年9月28日,みさと健和病院で行われた講演をベースに,都市一般病院が目指すべきリハビリテーションの方向と,それに対する経済効果について簡潔におまとめいただいた.

お知らせ

日本E.T.学会in Fukui—老人の生活を一緒に考える集いII

ページ範囲:P.302 - P.302

〔E.T.とは?〕四国老人ケア研究会代表の稲川利光氏が創った新語で『エンターティメント・セラピー』の略.つまり私たちが「歌っておどれるリハビリエンターティナー.」だとか,「自分が楽しまなければ…」とか言いながら,現場で使っている生活の方法論の総称.数字では表わせないお年寄りの笑顔や主体性をどんどんひっぱり出している"おむつはずし"や,"レクリエーション"等々を一生懸命,それも知らず知らずのうちにやっている人達へ暗黙のうちに与えられる資格.

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1988年・医学書院発行雑誌一覧

ページ範囲:P.325 - P.325

           1部定価 配送料 年ぎめ予約購読料
生体の科学…(隔月刊)…1,900…240…12,570
公衆衛生…(月刊)…1,800…55…20,160

統計のページ

自治体病院における給食管理の実態(2)—昭和62年4月・自治体病院における給食管理の実態調査報告(全国自治体病院協議会)から

著者: 福島絢

ページ範囲:P.336 - P.337

 1.配膳時間について(その2)
 前回は夕食および朝食,昼食の配膳時間の実情を述べたが,ここで各食事時間の間隔について簡単に触れてみる.

病院管理トピックス 医事

医事部門と他部署・部門との連携,他

著者: 石坂恵介

ページ範囲:P.338 - P.340

◆効率的な伝票の作成
 病院では異なった職種の人々が様々な部門で働いている.このように異なった部署・部門からの情報伝達は,多くは伝票を介して行われている.しかし,医療現場では医師・看護婦等は医療行為を優先し,それらの行為に付随して発生する伝票記入が疎かになりやすい.そこで,1枚の伝票で諸々の事項が記入できる方法を考案しなければならない.
 例えば注射伝票は,医師が注射行為の指示を記入し,看護婦が指示受けを実施すれば,そのチェックをして薬局に回し,薬剤の補給に使用することも可能であり,その後医事課に回して点数算定にも利用できる.こうすれば,医師の指示出しから点数算定まで1枚の伝票ですむ.処置行為伝票は,診療科ごとに処置・使用材料に特色があるため統一はできない.診療科ごとに日常的な処置・使用材料を検討し,その内容を盛り込んだ伝票を作成,使用数量を記入するのみでよいような方法を考案すべきである.そうすれば,現場での伝票記入の煩しさが解消され,記入もれを防止できる.ただし,伝票は医事部門と現場とで定期的に見直しをすることが大事である.

建築と設備 第24回

富士宮市立病院

著者: 梶原正樹 ,   角沢信夫

ページ範囲:P.341 - P.346

■建設の目的と条件
 富士宮市立病院は,昭和23年に現在の位置に移転し,地域の医療需要に応じて順次増床を行い,昭和30年代の火災による建て替え後も増改築を重ね172床の規模となった.
 しかし,逐次の増床は秩序ある体系的な手法でなかったこともあり,病棟の分散配置は効率の低下を生み,人口の増加は病床数の不足を招いていた.昭和50年代に入り,東海沖地震に備えて,災害時における安全性の確保と機能の充実を目指して,病院整備基本構想を作成し,隣接地の買収を含めた「新病院の建設」が決定された.

対談

患者サービスの向上をめぐって

著者: 森岡恭彦 ,   塙正男

ページ範囲:P.347 - P.353

 塙 森岡先生は東京大学病院の病院長に就任され,「患者サービス向上推進委員会」を発足させて,大学病院のサービス向上に努力されているとお聞きしています.そこで,この委員会を発足させた基本的考え方をまずお話いただけますか.

医療従事者のための患者学

東洋における"患者"や"病気"の捉え方

著者: 木村登紀子

ページ範囲:P.354 - P.357

なぜ,東洋的な人間観や患者観を考察するのか
 前回試みた「"患者"とは何か」の哲学的基礎づけにおいて,"患者学"の核となるのは,病気(あるいは怪我)によって苦しんでいる「人格」そのものであることが示された.引き続き今回,東洋的な見方や東洋医学における"患者"の把握の仕方を概観するのは,主として次の二つの理由からである.
 第1には,前回検討した「人格」という概念は,東洋的な人間観で言えば何に該当するのか.あるいは西洋と東洋では全く異なる人間の捉え方をするのか.また,東洋における心身一如としての,あるいは自然の一部としての人間の捉え方や,東洋医学における病人や病態の把握の仕方を学ぶことによって,病気の背後にある人間そのものを浮き彫りに出来るのではないかという視点からである.すなわち,"患者学"の重要なテーマである「個別的な患者の全人的把握」や「現在時点を中心とした共感的理解」に関して,また「人間存在としての患者にどうかかわるべきか」について,東洋的なものの考え方の叡智を加えることによって,もっと豊かな展開が可能になるのではないかと予測しているのである.

シリーズ・病院経営 健全経営への道

病院活性化の要因について—羽島市民病院の再建

著者: 後藤明彦

ページ範囲:P.358 - P.361

はじめに
 現在,医療を取り巻く環境は極めて厳しく,公立病院といえども,地方公営企業法の下に独立採算制に近い経営を強いられている.筆者は昭和61年4月に大学より経営不振を続ける羽島市民病院に着任したが,その後の1年半の院長職の足跡を振り返り,病院の活性化をもたらすには何が必要かを検討したので,その一端を述べたいと思う.

レポート【投稿】

北里大学病院における職員のB型肝炎感染防止対策の実際

著者: 石原昭

ページ範囲:P.362 - P.365

 北里大学病院は,昭和46年7月に開院し,現在病床規模1,069床で,職員2,073人が勤務する大学病院である.院内感染問題については,院内感染防止を確実に遂行するため,病院全体を包括した組織的な活動を行っており,本稿では,職員に対するB型肝炎防止対策の実際について述べることとしたい.

医療・病院管理用語ミニ辞典

—病院管理—独立採算制/—治療手技—人工ペースメーカー

著者: 一条勝夫

ページ範囲:P.366 - P.366

 「採算」とは商品やサービスの売買において,生産費や費用のほかに目論見どおりの利潤を獲得できるほどの収益が得られる場合を言う.
 独立採算制はソ連の国営企業において用いられているホズラスショートの訳語である.1917年ロシア革命で政権をとったソビエト政府は,マルクスの共産主義理論に則り,すべての企業を国有化するとともに,自由市場を廃止し,生産物を直接分配することとし,貨幣や価格,そして経済計算まで否定した.そのため生産コストと生産物の成果が対比出来なくなり,国営事業の生産能率が極度に低下した.

時評

在宅療養は可能か?

著者: 斎藤芳雄

ページ範囲:P.367 - P.367

■天皇は10月7日に退院した後,12日に血色素量が8g/dl台に低下したが,再入院せず,「在宅」のまま,連続的に輸血をしたとのことである.私は往診先で輸液はするし,経管栄養も行っているが,まだ輸血をした経験がないので,この記事がひどく気になり,ここに在宅療養について一文をしたためたしだいである.
■よく,入院療養と在宅療養に,何か本質的な差異を求める人がいるが,私はこれはまちがいだと考えている.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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