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雑誌目次

雑誌文献

病院47巻7号

1988年07月発行

雑誌目次

特集 インフォームド・コンセント

なぜ今インフォームド・コンセントか—厚生省国民医療総合対策本部中間報告を踏まえて

著者: 野島康一

ページ範囲:P.572 - P.575

はじめに
 最近,日本でもインフォームド・コンセントという言葉がしばしば聞かれるようになってきた.
 厚生省が昨年6月に発表した国民医療総合対策本部中間報告においても,この種の文書の中では初めて(と思うが)インフォームド・コンセントという言葉が使われている.

インフォームド・コンセントの心と形

著者: 唄孝一

ページ範囲:P.576 - P.578

カルチュア・ショック
 "インフォームド・コンセント"という言葉を私が知ったのは昭和37年ごろで,アメリカの本からである.何のことか訳が分からなくて,非常にびっくりした記憶がある.これは何かの間違いではないかと思っていたら,さらに,"アンオーソライズド・トリートメント"(unauthorized treatment)"という言葉に出会って二度びっくり,オーソライズされない治療ということで,もぐりの医療の話かと思っていたところが,それがそうでなくて,「患者が承諾していない医療」のことだという.それが分かるまでは,私はかなりその本を読み違いしていたと思う.
 その頃,私は,手探りで医事法学の勉強を始めていて,「1つ1つの治療行為に患者の承諾がいる」という思想が,少なくともドイツとアメリカにはありそうだということを知った訳である.さらに当時のテレビの人気番組に医療をテーマとした"ベンケーシー"などがあり,そこでも「承諾のない手術」ということが一再ならずテーマになっていた.それらは私にとって正しくカルチュア・ショックともいうべきものであった.

現代医療とインフォームド・コンセント—医師—患者関係の再構築に向って

著者: 砂原茂一

ページ範囲:P.579 - P.582

はじめに
 インフォームド・コンセント(in-formed consent,以下ICと略する)に関しては,主として臨床医学研究の文脈における問題点について,私は近著"臨床医学研究序説"(医学書院)においてやや詳しく述べるところがあったから,それを踏まえながら,ここでは主として診療の場におけるICについて考えてみたい.

医の倫理とインフォームド・コンセント

著者: 加藤尚武

ページ範囲:P.583 - P.586

「インフォームド・コンセント」は近代主義的概念か
 「インフォームド・コンセント」という概念を医療関係の「近代化」をあらわす概念とみなして良いのか.医師と患者の関係が,呪術師と信者をモデルとする上下関係から,民事契約をモデルとする水平の関係に移って行くことの現れだと見ることは,正しいのだろうか.先生と呼ばれて上に立ち,命令もするが同時に患者を父のような力で保護する,どちらかと言うと封建的な医師像から,患者と人間としては対等の関係にたつ,近代的な医師像に変わっていく,そのような「医師像の近代化」のあり方として「インフォームド・コンセント」があると理解したら,大きな誤りになるのではないだろうか.すなわち「呪術師モデル」と「民事契約モデル」のほかに,第三のモデルが存在しなければならないのではないだろうか.
 まず「ポスト・モダニズム」の発想法で,疑問を提起してみる.

英米におけるインフォームド・コンセントの動向

著者: 丸山英二 ,   新美育文

ページ範囲:P.596 - P.600

アメリカにおけるインフォームド・コンセントの動き
法的要件の歴史と現状
 インフォームド・コンセント(説明を受けた上での同意)の要件は,アメリカにおいて,法的な要件として発展してきた.後述するように,インフォームド・コンセントの要件が目指す医師‐患者関係が法的手段のみによって実現され得るものでないことはよく指摘される通りであるが,インフォームド・コンセントの現在の姿はその法的由来に規定されているところが大きいので,その法原則の歴史と現状の説明から話を始めたい.
 アメリカでは今世紀の初めになって,治療(厳密にはより広く検査等も含む医療行為),なかでも手術など侵襲度の大きい処置を患者に行うためには,医師は,医療契約とは別に治療に対する同意を患者から得なければならず,患者の同意なくして治療を行えば損害賠償責任が課される,という原則が確立された.しかしこの時代には,同意の対象についての患者の理解度や医師の説明義務などはまだ問題にされていなかった.医師は,同意を得る際にその対象となる処置の名前(及びそれに関するごく簡単な説明)を与えるだけでよかったのである.

病院におけるインフォームド・コンセントへの取り組み

著者: 山中直樹

ページ範囲:P.601 - P.602

はじめに
 医療では,ヒポクラテス以来,"心"の問題が言われている.この美しい言葉にはいろいろな意味がある.時として,医療者,患者側それぞれに都合よく利用されている.特に現在の日本のように甘えの構造の下に,以心伝心で善意の配慮がなされている,と信じていながら信じていない土壌においては,殊更である.すなわち,両側で個々の責任を明確にすることからの逃げに使われている.そのことが,ついには死の条件まで皆同じでなければならないと考えたり,他人に決めてもらおうというところまでいっている.また,安易で非科学的な実験治療をも可能にしている.
 今日の科学技術の急速な進展は生命科学に大きな影響を与えている.従って,それを正しく発展させ,医療に導入するためには,まず,人それぞれが如何に生きるかという視点より,個人の責任を明確にすることが必要である.そのことが命を介しての人間らしさと社会の健全なる発展に通ずると考えなければならない.

座談会

医療現場からみたインフォームド・コンセント

著者: 内田卿子 ,   大井玄 ,   加藤良夫 ,   細田泰之 ,   小笠原道夫

ページ範囲:P.587 - P.595

 小笠原 本日は,「医療現場からみたインフォームド・コンセント」というテーマで先生方にお話し合いいただくわけですが,できるだけ医療現場での話題を中心にすえたいと思います.そこで,内田婦長さんには看護の面からと,ご自身が患者になられた立場からインフォームド・コンセントについてお考えを示していただき,細田先生にはアメリカでのご経験を踏まえて,日本との違いだとか,このような考え方がアメリカで出てきた背景などについてもお話しいただきたいと思います.それから大井先生には,臨床医のお立場と公衆衛生のお立場の両面から,御意見をお聞かせいただき,加藤先生からは,医療裁判が中心になるかもしれませんが,その周辺でインフォームド・コンセントに関連することをお話しいただきたい,ということで,まず内田婦長さんから……

グラフ

患者に専門の医療を,地域に最新の医学を—特殊専門病院としての道を歩む 重井医学研究所付属病院

ページ範囲:P.557 - P.562

 重井医学研究所付属病院は岡山市と倉敷市のほぼ中間,新興開発地を貫く国道2号線沿いの小高い緑の丘の上に,レンガタイル張りの研究所に隣接して,白色タイル張りの瀟洒な姿を見せていた.当院は昭和53年創立の重井医学研究所の付属病院腎臓病センター(病床数100,人工透析24床)として54年11月に開設,それ以降,わずかずつの増床を続けていたが,本年2月,開設10周年を記念して肝臓病センターを併設,200床の病院に新生し,人工透析センターも100床に増床するなど,私的病院では数少ない研究所付設型の特殊專門病院である.
 今回は当院を訪れ,私的病院が不採算部門と言われる医学研究所を創設した理山をうかがうとともに,有名無実の研究所が多い中,スタッフ約20名を抱えての研究内容,更に病院としての医療内容を拝見した.

天然痘根絶で日本国際賞を受賞国立熊本病院院長 蟻田 功氏

著者: 麦谷眞里

ページ範囲:P.564 - P.564

 ジュネーヴの南にラコネという小さな村がある.ジュネーヴからは一本道であるが,慣れていないとなかなか分かりにくい.3年前の1985年まで,蟻田先生はその村に住んでおられた.そして,初めて先生のお宅を訪ねる人には,その分かりにくいラコネ村までの道順を的確に指示されていた.その的確な指示振りは,まさに,WHO天然痘根絶対策本部長を彷彿とさせるものがあった.
 蟻田先生は,1926年生まれ.厚生省に厚生技官として奉職中の1962年,WHOのアフリカ地域事務局に,天然痘対策の担当官として招かれた.当初,二,三年で再び厚生省に帰られる予定であったが,その手腕が高く評価され,1964年には,ジュネーヴの本部に移り,1966年,天然痘根絶対策本部発足と同時に,D.A.ヘンダーソン部長(現:アメリカ合衆国ジョンス・ホプキンス大学・衛生公衆衛生大学院長)のもとに医官として参画された.更に1977年,ヘンダーソンがジョンス・ホプキンスに移った後,本部長に就任されて,全世界の天然痘根絶対策の陣頭指揮を取る立場になられた.そして,1980年,3000年の長きにわたって人類を苦しめてきた天然痘の根絶宣言が,WHOの手によってなされたわけである.その,快挙とも言える偉大な功績によって,1988年の日本国際賞が,蟻田先生ら3氏に贈られたことは,われわれの耳目に新しいところである.

今日の視点 対談

転換期の医療行政と民間病院

著者: 仲村英一 ,   塙正男

ページ範囲:P.565 - P.571

 昭和36年の国民皆保険制度により受療は促進され,国民の間にも現行の医療供給体制が定着してきた.しかし,21世紀の高齢化社会を展望したとき,現行のシステムは破算するのではないかと危惧する声が多い.この状況のもとで,行政を先取りした民間病院の変容が期待される.では,明日の医療の存立にむけて,医療行政はどのような視座を持っているのだろうか.

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1988年・医学書院発行雑誌一覧

ページ範囲:P.582 - P.582

           1部定価 配送料 年ぎめ予約購読料
生体の科学…(隔月刊)…1,900…240…12,570
公衆衛生…(月刊)…1,800…55…20,160

医療におけるQOL 現代患者論序話・7(最終回)

物理的・身体的ファクターと患者のQOL

著者: ニノミヤアキイエ・ヘンリー

ページ範囲:P.603 - P.607

はじめに
 冬の日本式家屋の室温はカナダの家と比べてたいへん寒い.在日外国人のパーティではどのようにして家を暖めるかが話題になる.古い洋式の家はセントラル・ヒーティングの設備が整っているが,円高と,石油代が高いため使用するわけにはいかない.1か月の石油代が20万円を十分に超過する.20年前1カナダドルは約400円であった.現在は100円前後である.つまり,世界経済的環境が我が家の室温を下げてしまっている.小さな石油ストーブはその部屋だけしか暖房できない.特に困るのはトイレである.夜中に寒いトイレへ行くのを我慢すれば,膀胱炎になるのではないかと心配するのは考え過ぎであろうか.
 人間の身体的機能には環境適応能力がある.しかし,一定の範囲内の能力であって,急激で変化の幅の大きい環境変化にはうまく対応できず何らかの身体的変調,不調をもたらすことが多い.

中国医療の窓

中国の医療保険制度と計画出産

著者: 小林太助

ページ範囲:P.608 - P.609

医療保険制度
 中華人民共和国の医療保険制度は,公費医療制度,労保医療制度,合作医療制度と自費医療とから成っています.

日本の病院建築の七不思議・2

貧弱なベッド回りスペース

著者: 柳澤忠

ページ範囲:P.610 - P.612

 前回は日本の病院建築が狭く,特に病棟にその皺寄せがきていることを述べた.今回はそれに引続いて,病室の問題にしぼり,ベッド回りの寸法や設備のあり方を論じたい.

建築と設備 第27回

青森市民病院

著者: 松浦一 ,   高橋明

ページ範囲:P.613 - P.618

■既存病院を生かしながら全面建て替え
 青森市内には,当病院と青森県立中央病院の2つの公立総合病院がある.いずれも老朽化のため,本来の地域医療サービスが十分できない状態であったが,県立中央病院は,昭和56年10月に市郊外の東部地区へ移転新築した.従って,当病院は,市域における医療環境を考慮すると,他地域への移転新築は適当でなく,長年にわたり市民に親しまれている従来の敷地内で既存病院の通常医業を維持しながら,全面的に建て替え,地域の中核病院として,規模の拡大と,高度医療の充実を図ることになった.

ルポ&インタビュー 病院アレコレ見聞録 対談

激動の時代の民間病院—京都・武田病院グループの展開

著者: 武田隆男 ,   大谷藤郎

ページ範囲:P.620 - P.627

 大谷 病院の院内報の表紙は武田先生が描かれたものですね.先生は絵がご趣味ですか.
 武田 子どものころからずっと描いておりました.

厚生行政Q&A

高齢化対策と医療・保健・福祉の地域ネットワーク

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.628 - P.629

 〔問〕 7月1日に厚生省では組織改革が行われ,保健医療局老人保健部の計画課,老人保健課と社会局の老人福祉課が統合して,新たに「老人保健福祉部」が大臣官房に設置されるという話があるが,今後,高齢者対策はどのように進められていくことになるのだろうか.

医療・病院管理用語ミニ辞典

—病院管理—オープン・システム病院/—診断・治療手技—消化管ポリペクトミー

著者: 小野丞二

ページ範囲:P.630 - P.630

 オープン・システム病院とは,外部に外来診療所をもつ医師たちに,契約によって病院の施設,設備および専門サービス利用させる形態の病院である.
 わが国の病院の多くは雇用契約を結んだ医師によって診療が行われ,クローズド・システム病院と言われている.しかし,わが国でも最近になって医師の生涯教育の充実,地域住民のニードに対応できる地域医療システムの充実,経済効率化および医療費節減などの理由から,オープン・システム病院の必要性が認識されはじめ,徐々にではあるがオープン・システム病院がみられるようになってきた.わが国では,このオープン・システム病院については開放型病院という言葉が正式に使われている.

病院管理トピックス 検査

医療の高度化・多様化への中央検査部の対応,他

著者: 中甫

ページ範囲:P.631 - P.634

◆中央検査部の組織
 組織の名称は必ずしも一定していないが,300床以上の比較的大病院においては中央検査部(または科),それ以下の病床数の病院では臨床検査科(または室)が設けられている.人的組織としては一般的に中央検査部(科)長,技師長,主任,技師,事務員などからなり,大きな組織では化学検査室,血液検査室,免疫血清検査室,細菌検査室,病理検査室,生理検査室,一般検査室などに細分化されていることが多い.図に我々の中央検査部の組織図を示したが,点線で囲んだ部分の部科長,医局長,技師長,技師長補佐をスタッフと称し,週1回スタッフ会議が開催され,中央検査部の運営に関して討議が行われる.各検査室の主任を招集する主任会議は第2,第4水曜日に開催され,指示,伝達,各室の業務報告,討議などが行われる.我々の検査部では細分化による業務の縦割を極力避け,常に中央検査部組織として円滑に運営することに重点が置かれている.「中央検査部は医療チームの一部門であって,最高の医療を果たすために自己の最高の技術をもって患者サービスに徹する」ことをモットーとし,単に検査部のみならず,常に医療の中の臨床検査部門としての意識を涵養している.

時評

診療報酬改定とプライマリー・ケア

著者: 宮森正

ページ範囲:P.635 - P.635

 今回の診療報酬改定はプライマリー・ケア機能,高度医療技術を評価した一方,検査や長期入院に大ナタの振るわれた点,「政策・戦略的」な改定という表現に沿ったものだ.
 改定では,在宅医療の部を新設し,往診料の値上げ,在宅患者訪問診察料,在宅患者訪問看護・指導料を認め,これまで付随的であった在宅ケアを中心的課題としている.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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