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雑誌目次

雑誌文献

病院48巻10号

1989年09月発行

雑誌目次

特集 地域づくりと病院

地域づくりと病院を考える

著者: 増田進

ページ範囲:P.923 - P.925

地域と病院
地域医療が流行語だが……
 今,地域医療という言葉が流行語のように使われているが,本当に病院が地域のために働いているかといえば,やはり疑問である.集団検診をやっている,在宅ケアも試みている,だから地域医療を行っていると言われても,地域の患者を診ているから地域医療だというのとあまり変わらないように思う.積極的な地域志向とは違うのである.
 元来,医療も含めて,"技術は地域を越えて広く普遍化するほどよい"とされてきた.医療で言えば,患者が遠くから来るほどいい病院であり,名医だといわれる所以である.だから目の前の地域の健康問題より,もっと広い医療ニーズにのみ病院が関心を持つのも無理からぬことであろう.

地域づくりへのアプローチ

著者: 亀田俊忠 ,   高橋昭雄 ,   中澤忠雄 ,   大塚暢 ,   藤村操 ,   森俊介 ,   戸栗栄三

ページ範囲:P.926 - P.945

地域のためにこそ広い視野で
—亀田総合病院
病院にとっての地域とは
 病院にとっての地域とは何でしょうか.対象患者の分布するいわゆる医療圏,行政単位から見た地域,病院を企業として見た場合の影響圏等,様々なとらえ方ができましょう.そして,医療圏に関しても,病院の使命が,訪れる患者さんに偏りなく応えることである以上,一定の範囲を設定することは無理ではないでしょうか.
 例えば当院では,ある診療科では90%以上の患者さんが半径30km以内の地域から訪れるのに対し,一方の診療科では90%以上が県外からの患者さんで占められるといった具合に,専門領域によって医療圏は大きく異なっております.また,単なる患者数だけで活動圏を設定することにも問題がありましょう.例えば,当院の救急医療を例にとると,件数では千葉県南部が圧倒的に多いのですが,その活動範囲を考える場合には,伊豆諸島や横須賀米海軍病院からのヘリコプターによる搬入患者を無視することは決してできません.

地域づくりへの期待—国民は医療に何を望んでいるか

著者: 菅原真理子

ページ範囲:P.946 - P.948

 「健康ブーム」と言われるように,健康食品や飲酒・喫煙などの食生活や,エアロビクスなどの運動への関心が高まっている.これは,「健康を失うことに対する不安」が高まっていることの裏返しである.日本は世界最高の長寿国となったが,ひとたび健康を失えば,経済的負担,社会的凋落,精神的苦痛などが襲いかかる.
 私たちの「豊かさ」は健康を失えばそれっきりという程度の底の浅さである.それが,現今の健康志向の底流をなしている.

アメリカにおける地域病院と地域—その相互依存性

著者: E.Light ,   A.Dei Rossi

ページ範囲:P.956 - P.959

はじめに
 アメリカのヘルスケアシステムは,その広大な社会的,経済的,政治的環境の反映である.大型大学の医学教育センターから,病院間の多様な組織的ネットワーク,更には地域で独自に運営する施設に至るまで,そのパッチワーク的供給システムは,絶えまないプレッシャーや新しい需要に対応して発展してきている.現在のところ,アメリカのヘルスケアは,単独の国家的規模のシステムというよりは,複数の独立した供給システムによって運営されてきている.
 あらゆる規模の病院が,増大する財政的圧迫と病院に対する地域ニーズに対応するため,健康およびそれ以外の多角的経営にまで手を延ばしてきている.

対談

これからの地域づくりと病院

著者: 斎藤芳雄 ,   竹内実

ページ範囲:P.949 - P.955

 竹内 今までの病院はどちらかというと,医療を提供すればすむというか,来てくれた患者さんをどう治すかだけを考えていればよかったわけです.しかし,どうもこれからはそれだけでは十分ではなく,特に地域の中で病院がどう機能するかまでを考えてゆかなければならなくなってきたのではないかと思います.まず,今実践されていることをお伺いしながら話を進めたいと思います.

グラフ

地域を医療の場として予防から在宅ケアまで—信濃町立信越病院

ページ範囲:P.915 - P.920

「是がまあつひの栖か雪五尺」
 と詠んだ小林一茶の故郷(旧柏原村),信濃町は長野県の北端,新潟県との県境にある.町は黒姫高原や斑尾高原など標高2,000メートル級の山々に四方を囲まれているが,人家の集落は比較的平坦な旧園地帯にある.町の人口は約12,000人であるが,観光シーズンには2倍近くなるという.
 信越病院はこの信濃町のほぼ中央にあり,昭和30年に柏原ほか2か村の組合立国保柏原病院として25床で発足した.翌年,町村合併により信濃病院と名称変更し(昭和37年10月),現在に至っている.

全国病院を幅広く経営指導 病院管理研究協会常任理事 一条勝夫氏

著者: 高橋政祺

ページ範囲:P.922 - P.922

 一条勝夫教授が自治医科大学を定年退職されて,今後は社団法人病院管理研究協会の常任理事としてご活躍になるという.先生とは30数年に及ぶ長いおつき合いで,私にとっては斯学での先輩というとこの先生をおいて他にはない.遠い昔になるが,昭和32年の初冬のある日,突然当時私の勤務していた日本大学で病院管理学講座へ移籍ということが決められ,不勉強の私はその頃わが国唯一の病院管理学講座のあった東北大学医学部へ勉強方法の指導を受けに出掛けた.これが一条先生とお目にかかるきっかけであった.
 そこには島内武文教授の下に,一条勝夫助教授と前田信雄助手(現札幌医科大学教授)がおられた.どの本から読めばよいのかというような愚問に対して,懇切丁寧に深夜に至るまでお話をいただき,以来この先生には頭の上がらない関係になってしまった.

お知らせ

(財)総合健康推進財団研究奨励助成事業応募要項(抄)

ページ範囲:P.945 - P.945

・研究助成は,健康科学・予防医学等に必要な研究で次の条件を有するものを対象とする.
・研究の内容:助成の対象は,自然科学分野において健康問題に関する緊急な基礎的・実際的かつ諸科学的アプローチによる研究内容とする.

辛口リレーエッセー 私の医療論・病院論

医療の世界にもグローバルな視点を

著者: 松波英一

ページ範囲:P.960 - P.960

 最近のマスコミで地球の環境問題が取り上げられない日はありませんが,ここで気がつくのは,環境への「視点」が変わりつつあるということであります.
 かつての局所的な環境問題,すなわち公害問題から,グローバルな視点に立った,「かけがえのない地球」への人類共通の危機感が「新たな世界主義」を生みつつあります.世はまさに,"グローバルな視点"という言葉に溢れ,事実,政・財・官・学界などのいかなる領域においても,すべて,地球規模に立っての行動が要求されております.私たち医療界も,知らないうちに,そのグローバルな波に巻き込まれているのです.

病院管理の現場から 事務長のひとり言

病院改革への道

著者: 鈴木雅晴

ページ範囲:P.961 - P.961

 医療費適正化政策が推進されるなか,病院経営を満足させるような診療報酬の改定は今後とも期待できそうにない.21世紀へ向けての医療構造の変革という大津波を目前にして,多くの病院は生き残りをかけた改革を迫られている.その課題を達成できるか否かが,その病院の将来を決定づけるといっても過言ではあるまい.

味わいエッセー 出会い

大いなる出会い

著者: 千葉潜

ページ範囲:P.962 - P.962

 梅雨があけて,陽光のまぶしい季節となった.真夏の思い出は,いつもどこかに侘しさをかかえているようである.くたびれた麦わら帽子,虫籠の蝉や甲虫,食べ終えた西瓜の皮,燃えつきる寸前の線香花火,蚊取り線香の香りと蚊帳の中,廻り燈籠の揺らめき.過ぎ去った時間が,無限連鎖となって引き出される.この季節の記憶には,必ず何かのにおいを伴っていると感じるのは,私だけだろうか.
 暑さが臨界に達した午後に,肌を包み込むような湿った気配を連れて,夕立がやってくる.叩きつけるような豪快な雨は,足早に去って行くのだが,私には涼しさとともに,いつも同じひとつの情景を運んでくるのである.激しい雨音が私の脳裏に蘇らせるものは,土砂降りの雨の中で,ふんどし一枚になって雨を浴びて喜んでいる,父の姿である.あれは私が7歳頃ではなかっただろうか.父は肥満体型であったので,暑いのは苦手であった.汗かきなので,夏場はステテコで通し,頭に鉢巻にしたタオルを離さない人であった.降り注ぐ雨の中で,高笑いしながらの水浴び姿を,なぜか鮮烈に覚えている.あの頃の父は,なにを考えていたのだろうか.

医療を囲む声 病院の視力・聴力・感性

良い医師・良い医療機関とは

著者: 松原雄一

ページ範囲:P.963 - P.963

 健康・医療相談を行っていると,「いいお医者さんを紹介して下さい」という依頼に日常的に接します.
 「ハイ,じゃあ,あかひげ先生はいかがですか」とか,「有名医科大学の高名教授はどうでしょうか」と,簡単に答えられればいいのですが(実際,そのようなやりかたを行っている所もあるようですが),責任を持って紹介をするという観点に立つならば,もうすこし「いいお医者さん」という時の「いい」という言葉の内容を検討しなければなりません.

検証・日本医療の論点

わが国の私的病院チェーンはどこまで進んでいるか?——①

著者: 二木立

ページ範囲:P.964 - P.969

●はじめに
 1980年代が「医療(病院)冬の時代」と言われて久しい.事実,政府の厳しい医療費抑制政策により,1980年代前半には私的病院の利益率(医業収益100対収支差額)は激減し,病医院の倒産が多発した.他面,同じ期間に病院の規模拡大も急激に進んだ.病院総数の平均病床数は1980年の145.7床から1987年の160.8床へと,7年間で15.1床(1年当たり2.16床)も増加し,これは1970〜1980年の10年間の平均病床数の増加12.4床(同1.24床)を大幅に上回っている(厚生省「医療施設調査」).
 従来,病院の規模拡大といえば,このように1病院当たりの病床数の増加を指すのが普通であった.しかし,病院の規模拡大には,これ以外に1法人が2つ以上の病院を開設し「病院チェーン」となる規模拡大も存在する.わが国では,米国の病院チェーンに対しては過大とも言えるほど大きな関心が払われてきた反面,国内の私的病院チェーンは徳洲会以外ほとんど注目されてこなかった.また,「社会保険旬報」誌の先駆的な「資料・全国チェーン病院一覧」2)を除いては,私的病院チェーンの全国的な調査は全く存在しなかった.筆者自身も,今までは「アメリカ流の……病院チェーンが全国展開することは今後もあり得ない」3)ことを強調するあまり,日本的な病院チェーンの展開の実証的検討を怠ってきた.

建築と設備・41

松波総合病院

著者: 田辺尚美

ページ範囲:P.971 - P.976

■病院の沿革
 松波総合病院の敷地は,木曽川の清流に面し,北に岐阜城,西に伊吹山を望む風光明媚な場所にある.ここに昭和63年2月,鉄骨鉄筋コンクリート造,地下1階,地上8階,延床面積約19,500m2,病床数437床の新総合病院として創設された.
 当病院の前身である松波病院(旧病院)は,昭和8年松波外科医院として開設され,以降順次規模,病床数も増え,昭和62年には約250床の病床を持つ病院に至ったが,より高度で快適な医療施設づくりを目指すには敷地,建物共に手狭となった.そこで,旧病院敷地と道路を挾んで隣接する当敷地に新総合病院を建設することとなった.

医療従事者のための患者学

"患者心理"を理解する(その3)

著者: 木村登紀子

ページ範囲:P.977 - P.981

 普通の社会生活を営んできた人がある日身体の不調を感じて受診を決心し,自分の判断で病院を選んで,"患者"すなわち"医療機関の顧客"となることは,身体的のみならず,社会的にも心理的にも,それまでの生活とは異なる特殊な世界に足を踏み入れることになる.すなわち,患者は大なり小なり"患者心理の陥穽"に陥って,健康なときの反応とは違った心理状態にあることについては,これまで繰り返し述べてきた.そして,前々号より3回にわたり,患者心理の特質について心理学的側面からの説明を試みている.本号では以下の2点をテーマとして論じてみたい.
 まず第1に,患者のさまざまな特質や状態を考慮しながら患者を理解しようとする上で,既成の心理学の理論や知見の中から役立ちそうなものを選んで簡単に紹介する.ここで言う「患者の特性や状態」とは,例えば患者の年齢(特に乳幼児期から老年期に至る発達過程における現在の到達段階),現在置かれている環境の特質やこれまでの経験の特徴,普段からの物事に対する取り組み方,知的・感情的な個性(広義のパーソナリティ特徴),病気の種類,疾病経過の段階などを意味する.

実践・病院のマネージメント・5

Product Market Strategyの応用—製品市場戦略について

著者: 井手道雄

ページ範囲:P.982 - P.985

 前号では,病院における診療と経営は一体であり,両者の関係はより一層密接になることを述べた.また,連載第3回(5月号)でも示したように,本院第2期の一般救急医療への展開および第3期の特殊専門の救急医療への浸透の過程では,戦略計画とそれに基づく戦術を展開していくなかでセンター方式を採用し,busi-ness unitとして各センターを運営していったことを示した.本院が採用してきたセンター方式では,busi-ness unitとしての独立性は各センターごとに異なっているが,診療内容的には臓器別または機能別に運営されてきた.この方式は一般企業におけるproduct market strategy(PMS,製品市場戦略)の概念に近く,一般企業におけるPMSの病院への応用と考えてもよい.
 なお,PMSを考えるとき,Prod-uctとは正に商品であり,これを病院に置き換えて考えれば患者となるが,商品は物であり,一方,患者は人間である.病院のマネージメントでは,対象が人間であるという大前提を決して忘れてはならないが,現在,企業で採用されているPMSの考え方と手法は病院経営に多くのことを示唆していると思う.そこで本稿では,企業におけるPMSについて述べ,その病院への応用について考えてみたい.

厚生行政を読む

民主主義

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.986 - P.987

はじめに
 先の参議院議員選挙では,民意の変化が政治勢力を大きく変える結果となった.わが国は民主主義国家である.選挙に限らずあらゆる分野において,民主主義的精神は意志決定に強く関与している.厚生行政も,一握りの官僚や政治家によって恣意的に施策が決められているのではなく,基本的には「民の声」に応じた意志決定がなされている.民意を捉えそこなえば,必ず物事は失敗する.これは政治や行政に限らず,民主主義国家においては,あらゆる事業体についていえる共通原則なのである.
 ところで,医療機関については,この民主主義的精神が運営方針に取り込まれているのであろうか.「患者の権利」などといった言葉が叫ばれるようになってきたのはつい最近のことであり,それすらも,ごく一部の者の声として冷やかな反応しか返ってこない現状である.どうやら,医療機関における民主主義の歴史は,これからという段階にあるようである.

病院管理トピックス 図書

二次資料,他

著者: 江口敏一

ページ範囲:P.988 - P.991

◆二次資料とは何か
 われわれが日常使う資料は,そこに含まれる情報の内容によって,一次資料と二次資料に分けられる.一次資料とは,オリジナルな研究成果や新しい知見などの情報を記録した資料のことで,それには雑誌論文,学位論文,会議録などがある.このような雑誌論文などの一次資料を効果的に見つけ出すための資料が二次資料であり,その代表的なものに索引誌と抄録誌と目次速報誌がある.
 索引誌とは,主題や著者名などで文献を探すことができる資料である.索引誌には,著者名,論題,雑誌名,巻号頁,年などの書誌事項が記載されている.抄録誌とは,文献の内容を圧縮してまとめた資料で,書誌事項と文献の内容を要約したものである抄録を記載した本文と,主題や著者名などから探すことができる索引から構成されている.抄録をみることによって,おおよその内容が分かるので,その文献が自分に必要なものかどうか判断できる.

医療・病院管理用語ミニ辞典 病院管理

目標管理/胆石溶解療法

著者: 一条勝夫

ページ範囲:P.992 - P.992

 人間は物事を行うとき,「目標」をもつことにより,内在するエネルギーを余すところなく動員し,高い成績を得るものである.運動選手は記録を目標に,分秒を縮めるために精進する.そして,新記録という目標を達成したとき無上の喜びと満足感を得る.
 仕事においては,上役から一方的に押しつけられたのでは,興味も努力しようという情熱も沸かない.自分がやりたいと考えて選んだ仕事に従事するとき,大きなやり甲斐を感じるものである.

時評

サービス以前

著者: 宮森正

ページ範囲:P.993 - P.993

 欧米先進国からみて,日本の家が"うさぎ小屋"だとすれば,公的病院の多くは難民収容所と言ってもよいのではなかろうか.これまで医療サービスといえば,あくまで市民生活に不足している医療を供給するだけで,患者や住民がそれ以上便利になったり快適になったりする必要はないと思われてきた"ふし"がある.患者が外来で多少待たされたり,汚い病室で冷めた食事を食べさせられたとしても,それに不満を持つのは贅沢というのが暗黙の了解事項であった.少なくとも日本が貧しい時代にはそうであった.しかし,金満国になっても病院の環境水準が昔と同じでは誰も納得しなくなった.
 「患者サービスの在り方」に関する報告が,懇切丁寧な"サービスとは何か"をガイドラインとともに発表したのは,病院の現状を考えれば当然の帰結であった.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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