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文献詳細

雑誌文献

病院48巻10号

1989年09月発行

文献概要

味わいエッセー 出会い

大いなる出会い

著者: 千葉潜12

所属機関: 1青南病院 2昭和大学医学部

ページ範囲:P.962 - P.962

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 梅雨があけて,陽光のまぶしい季節となった.真夏の思い出は,いつもどこかに侘しさをかかえているようである.くたびれた麦わら帽子,虫籠の蝉や甲虫,食べ終えた西瓜の皮,燃えつきる寸前の線香花火,蚊取り線香の香りと蚊帳の中,廻り燈籠の揺らめき.過ぎ去った時間が,無限連鎖となって引き出される.この季節の記憶には,必ず何かのにおいを伴っていると感じるのは,私だけだろうか.
 暑さが臨界に達した午後に,肌を包み込むような湿った気配を連れて,夕立がやってくる.叩きつけるような豪快な雨は,足早に去って行くのだが,私には涼しさとともに,いつも同じひとつの情景を運んでくるのである.激しい雨音が私の脳裏に蘇らせるものは,土砂降りの雨の中で,ふんどし一枚になって雨を浴びて喜んでいる,父の姿である.あれは私が7歳頃ではなかっただろうか.父は肥満体型であったので,暑いのは苦手であった.汗かきなので,夏場はステテコで通し,頭に鉢巻にしたタオルを離さない人であった.降り注ぐ雨の中で,高笑いしながらの水浴び姿を,なぜか鮮烈に覚えている.あの頃の父は,なにを考えていたのだろうか.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1383

印刷版ISSN:0385-2377

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