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雑誌目次

雑誌文献

病院48巻8号

1989年07月発行

雑誌目次

病院経営近代化のためのホスピタル・マーケティング

はじめに

著者: ホルピタル・マーケティング研究会 ,   吉野賢治

ページ範囲:P.655 - P.656

 「病院経営受難の時代」といった類のことが叫ばれ,病院においても近代経営の導入の重要性が取り沙汰されるようになって久しい.もちろん,これ自体は好ましい傾向であるが,根本的な問題点もはらんでいないとはいえない.その問題点は次の三つの観点にまとめることができる.
 ①こうした病院経営の近代化の流れは,必ずしも病院のみが自ら作り出したものではない.

1 マーケティングの基本概念

ページ範囲:P.661 - P.661

 本章は"マーケティングとは何か"について理解し,同時にマーケティング概念の共通の地盤を作ることを目的としている.
 医療界向けの一般教養としてのマーケティング概論である.

2 ホスピタル・マーケティングの必要性

ページ範囲:P.673 - P.673

 本章では,現在の「病院業界」においては,このマーケティングの基本概念が余り当てはまらないことを検証する.次に,ホスピタル・マーケティングは,「病院業界」あるいは個々の病院にとって,本当に必要なのか,といった点について検討する.
 本章の主眼は,そうした考察を通して,ホスピタル・マーケティングの必要性を強く認識することにある.

3 ホスピタル・マーケティングの特徴

ページ範囲:P.687 - P.687

 前章ではホスピタル・マーケティングの必要性を述べ,ホスピタル・マーケティングの概念的な輪郭を浮き彫りにした.
 本章では,いよいよホスピタル・マーケティングの具体的な内容に言及する.すなわち,ホスピタル・マーケティングはどのような特徴を持っているのか,ホスピタル・マーケティングの実務の土台づくりをどのように行うのか.「ホルピタル・マーケティングとは何か」と問われたときの現実的な答えも論述している.

4 ホスピタル・マーケティングのリサーチ手法

ページ範囲:P.703 - P.703

 本章からホスピタル・マーケティングの実務レベルへ入る.
 マーケティングの実務の出発点は調査で,これはマーケティング・リサーチと呼ばれる.本章では,マーケティング・リサーチを取り上げ,実務的な方法論に力点を置いて解説する.

5 ホスピタル・マーケティングの分析手法

ページ範囲:P.727 - P.727

 前章では,ホスピタル・マーケティングの環境調査と市場調査について方法・実施手順などを説明した.
 本章では,次の実務ステップとして,何をどのようにして調査するのか.かつまた,その調査結果をいかにしてまとめ,効果的な分析へとつなげていくのかという具体的な技法を解説する.

6 ホスピタル・マーケティングと病院経営

ページ範囲:P.751 - P.751

 ホスピタル・マーケティングは,病院経営そのものと不可分の関係にあることはいうまでもない.
 本章ではこの点を踏まえ,視野を病院経営全体にまで広げて,ホスピタル・マーケティングの在り方を俯瞰する.また,その上で,病院経営の中でホスピタル・マーケティングをどのように消化し,かつ実施していくかを述べる.

7 ホスピタル・マーケティングの実践

ページ範囲:P.767 - P.767

 前章では病院経営を総括し,ホスピタル・マーケティングへの取り組み方の全体像を説明した.
 本章は,最終章として,理論的に構築されたホスピタル・マーケティングを具現化するためのフレームワークを提示し,ホスピタル・マーケティング実現の完成を目指す.

資料

ページ範囲:P.787 - P.817

資料・1 医業経営の近代化・安定化に関する懇談会報告書(昭和62年9月24日)
788

あるマーケティング研究会

ページ範囲:P.657 - P.659

 マーケティングという言葉は,多分,医療界にとっては,なじみが薄い言葉であろう.仮にマーケティングという言葉を耳にしていたとしても,マーケティングに対する認識やイメージは,各々かなり異なっているように見受けられる.また,変に誤解を伴って受け止められている懸念もないとはいえない.
 まず,本論への導入として民間企業でのマーケティング研究会がどのように行われているかを紹介しよう.

1 マーケティングの基本概念

1.消費者のニーズとウォンツ

ページ範囲:P.662 - P.664

□ポイント□
 ①消費者はニーズとウォンツを持っている.ニーズとは生活をする上でだれもが共通して感じる「必要性」であり,ウォンツとはニーズが満たされた後の付加価値部分で個人によって異なってくる「欲求」をいう.
 ②民間企業は,消費者の集合体である市場に働きかけて,そのニーズとウォンツを充足しようと活動している.ここにマーケティングの原点を見ることができる.

2.マーケティングの役割と機能

ページ範囲:P.665 - P.669

□ポイント□
 ①民間企業用におけるマーケティングの役割は,時流に従って変遷してきた.これは,揺籃期・成長期・爛熟期の三つのフェーズでとらえることができる.
 ②物を作りさえすれば売れた時期が揺籃期で,マーケティングはほとんど不要であった.やがて,売れる物を作らねばならない時期が到来し.マーケティングは全盛を極める(成長期).現在は,従来のマーケティングが通用しないケースが生じており,爛熟期を迎えている.

3.マーケティングの存立要件

ページ範囲:P.670 - P.672

□ポイント□
 ①マーケティングという概念は「顧客志向」と「経営向上」の二つの基本要件が同時に満たされたときに存立する.
 ②マーケティングは「市場への働きかけ」,「客観性・科学性に裏打ちされた意思決定」,「組織的な機動力」の三つの要件によって補強されると,マーケティングらしいマーケティングとなる.

2 ホスピタル・マーケティングの必要性

1.ホスピタル・マーケティングの現状

ページ範囲:P.674 - P.680

□ポイント□
 ①「病院業界」は日本特有の医療の風土と歴史の中で育まれてきており,マーケティングとは無縁となっている唯一の業界であろう.その意味では,特異業界といえる.
 ②この特異業界化によって生じている現象を一つひとつ検討すると,マーケティングの五つの存立要件を,ことごとく満たしていないことがわかる.

2.ホスピタル・マーケティングの必要性

ページ範囲:P.681 - P.686

□ポイント□
 ①病院がホスピタル・マーケティングを進めなければ,病院以外でホスピタル・マーケティングを行う事業体が生まれ,病院はその下請けになってしまうことも考えられる.
 ②こうした事態に向かわないために,「病院業界」として,ホスピタル・マーケティングを取り入れねばならない.

3 ホスピタル・マーケティングの特徴

1.患者サービスの充実

ページ範囲:P.688 - P.689

□ポイント□
 ①ホスピタル・マーケティングの正しい理解の上に立って,患者サービスの改善をとらえなければならない.
 ②患者サービスは,普遍的基本サービスと病院特有の基本サービスと差別化サービスの三つに分類できる.

2.医療の質のレベルアップ

ページ範囲:P.690 - P.691

□ポイント□
 ①患者は病院の医療の質に対して,非常にセンシティブである.
 ②良い医師を確保するための高度医療機器などの整備は医師に対するホスピタル・マーケティングである.これは結果的に,質のレベルアップにつながり,本来の患者に対するホスピタル・マーケティングを実施してきたことになる.

3.診療圏は最寄り品商圏

ページ範囲:P.692 - P.694

□ポイント□
 ①流通業界には「買回り品」と「最寄り品」という慣用語がある.また,いわゆる施設型販売・サービス業には,必ず商圏が存在する.「買回り品」の商圏は広く,「最寄り品」の商圏は狭い.
 ②病院も施設型販売・サービス業の一種である.外来が最寄り品,入院が買回り品といえる.しかし,外来を軸として外来,入院の同化現象が生じており,一般病院の診療圏は外来に引っ張られるため,基本的には「最寄り品」商圏である.

4.外来患者数の重要性

ページ範囲:P.695 - P.698

□ポイント□
 ①病院は外来と入院という二つのサービス形態を有している.他の施設型販売・サービス業と比べると,日帰り客と泊り客を同時に扱う点に特殊性がある.
 ②外来と入院の相違点と相互関係を考察すると,ホスピタル・マーケティングに対して,敏感かつ的確に反応するのは外来である.外来患者数がホスピタル・マーケティングの有効性を測る指標としては最もふさわしい.

5.ホスピタル・マーケティングにおけるマーケティング・ミックス

ページ範囲:P.699 - P.701

□ポイント□
 ①外来患者数と病床数の間には,かなり強い相関関係がある.病床数は外来患者数を決定する大きな要因である.
 ②マーケティング・ミックスを下敷として外来患者数の決定要因を検討すると,医療の質と立地の状況と認知のレベルの三つが浮かび上がる.

4 ホスピタル・マーケティングのリサーチ手法

1.環境調査

ページ範囲:P.704 - P.712

□ポイント□
 ①環境調査の中心は文献調査であり,マーケティング・リサーチの第一歩である.関連の統計資料を収集し,ここから患者の動勢を読み取らねばならない.
 ②医療関係には種々の統計資料がある.これらから,ホスピタル・マーケティングに関する有意義なデータを得ることができる.

2.市場調査

ページ範囲:P.713 - P.715

□ポイント□
 ①独自に市場へ働きかけて客観的な統計資料を得る調査が市場調査である。マーケティング・リサーチを狭義にとらえ,これをマーケティング・リサーチと呼ぶこともある.
 ②市場調査は非常に手間がかかる地道な作業である.しかし,どのような高度な分析手法も,市場調査のデータを用いて行うので,良質な市場調査を行うことが大切である.

3.調査票の作り方

ページ範囲:P.716 - P.721

□ポイント□
 ①市場調査の調査票は,老若男女だれにでも質問内容が同じレベルで理解され,最後まで飽きずに,あるいは気分を害さずに,ありのままの姿を自然に回答に反映できるように作成する.これは回答者が独力で回答する郵送法の場合,特に大切である.
 ②調査票づくりの大きなポイントは二つある.一つはわかりやすい調査票を作ることである.一つの質問で一つの事項を問う,あるいは専門用語をなるべく使用しないといった点に注意する.

4.実査準備作業

ページ範囲:P.722 - P.725

□ポイント□
 ①市場調査の実査(=実際の調査行為)のための準備作業には,調査粟の作成の他に,調査員の起用・オリエンテーションがある.これは面接法・電話法に特有なものである.
 ②調査員は,学生アルバイトを起用する.ただし,いい加減な調査とならないように,アルバイト料は高額に設定し,大学の選定を慎重に行う.

5.モニター制度

ページ範囲:P.726 - P.726

□ポイント□
 ①モニター制度は,10人程度の患者を選び,実際に病院を利用し,患者の立場からいろいろな良い点・悪い点を論じる会議を行う制度である.
 ②モニター制度の運営上で大事な点は,病院の経営トップがモニター会議に出席することであり,かつモニターの意見を聞いたままにしないことである.

5 ホスピタル・マーケティングの分析手法

1.環境調査をベースとした分析手法

ページ範囲:P.728 - P.739

□ポイント□
 ①ホスピタル・マーケティングの分析手法を,データ源によって大別すると二つになる.一つは環境調査によって入手した資料や情報を,主たるデータとして使用する分析手法である.
 ②この環境調査をベースとした分析手法は,作業上は統計データなどを使って計算を行うことである.したがって,極端にいうと机上だけで分析が完結するので理論上の分析という見方もできる.

2.市場調査をベースとした分析手法

ページ範囲:P.740 - P.750

□ポイント□
 ①もう一つの分析手法のカテゴリーは市場調査を実施して得られた結果を,主たるデータとして使用する分析手法である.
 ②この市場調査をベースとした分析手法は,市場へ直接働きかけるマーケティング・リサーチを踏まえて行うので,実態を反映した事実分析という言い方もできる.

6 ホスピタル・マーケティングと病院経営

1.病院経営に関するKFS

ページ範囲:P.752 - P.756

□ポイント□
 ①病院経営特有のエッセンスを病院経営に関するKey Factors for Success (KFS)という形でとらえると,10のKFSが浮かび上がる.
 ②病院事業は決して"構造不況業種"ではなく,"優勝劣敗事業"と見るべきであろう.

2.ホスピタル・マーケティングの手順

ページ範囲:P.757 - P.765

□ポイント□
 ①ホスピタル・マーケティングは「分析→戦略→戦術→実践」の流れが,何層にも重なり合いながら構築されていく中で達成される.
 ②この流れの原動力は「マーケティング指向の病院経営指針」である.これはホスピタル・マーケティングに市民権を与えることである.

7 ホスピタル・マーケティングの実践

1.患者サービスのフレームワーク

ページ範囲:P.768 - P.777

□ポイント□
 ①ホスピタル・マーケティングの実践では,一般企業のマーケティングの「商品開発」に相当する患者サービスの充実と診療機能の向上が中心となる.
 ②その材料を得るために患者の生の声を聞いてみる.地域住民,とりわけ主婦をメンバーとしたグループインタビュー調査はその一つの方法である.

2.多様化事業のフレームワーク

ページ範囲:P.778 - P.785

□ポイント□
 ①これからの病院経営は多様化戦略が重要である.事業ドメイン(=領域)は健康・医療分野であるが,その事業化展開ではホスピタル・マーケティングが大いに役に立つ.
 ②それには,「ニーズ把握型」の市場調査から始め,多様化事業コンセプトを作った上で「仮説検証型」の市場調査を行う.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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