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雑誌目次

雑誌文献

病院49巻10号

1990年10月発行

雑誌目次

特集 完全週休2日制をめざして

週休2日制と病院

著者: 竹内實

ページ範囲:P.825 - P.827

 完全週休2日制をめざす改正労働基準法が,1988年に施行されている.これを受けて,いち早く金融機関等が1989年2月に完全週休2日制を採用し,これに前後して多くの大企業が労働時間の短縮を達成している.この結果,1990年7月に労働省が発表した「平成元年賃金労働時間制度等総合調査」によると,従業員30人以上の企業に勤めるサラリーマンの36.9%が完全週休2日制の勤務に従事し,何らかの形で週休2日制を導入している企業が58.3%,従業員単位では82.7%と報告されている.特に前年比率の増加が著しく,我が国全体が週休2日制に向かって加速しているといっても過言ではない.これに伴い,年間休日総数の平均は98.6日,実労働日数は年間270日弱が平均的な実態になっているようである.
 我が国の隅かれている国際的環境,徐々に深刻になるマンパワーの不足,企業を選択する求職者の意職変化等々を考えるとき,労働時間の短縮——週休2日制へのシフトの波は,今後さらに強まることは必至である.

民間病院における週休2日制の実態

著者: 長谷川武

ページ範囲:P.828 - P.832

 私は現在,労動省が日本病院会に委嘱した「病院週休二日制等推進委員会」の座長として,報告書のまとめに入っているが,この小稿が雑誌「病院」に掲載される時点では公表されていないと思われる.そこで,この小稿の見解は一切,私の個人的見解の域を出ないことをここに明記しておきたい.

週休2日制—われわれの経験

著者: 西能正一郎

ページ範囲:P.833 - P.838

アプローチ
 富山市医師会報第24号,昭和47年11月20日号より引用「週休2日制」
 お蔭様で今年の春で開業10年になりました.昼の間は医長の仕事,夜になったら社長の仕事と,目先の仕事に追いまわされて,世の中の動きもわからないまま夢の様な10年でありました.ようやくドルショックに始まる経済の変動に気付いてみますと,いつのまにか日本国は全世界からうらまれるようなお金持ちの国になっていました.二宮尊徳翁の生きかたが生活信条であった日本人から,働き過ぎない日本人に切換えねばならないと,政府も本気で考えているようです.その結果,週1回の休日さえ気兼ねしながら休ませてもらっていたわれわれにも,週休2日制なる言葉がいささか気になる御時世となりました.病気に休日はありません.その地域医療を担当するわれわれお医者には道義下上から言っても7日のうち2日も休むことはとても考えられません.しかし,医師であるわれわれが使命感に燃えて連日患者さんのために働くことに生き甲斐を感じたとしても,職員諸君には果たして他の企業で2日もらっている休日を返上してでも医師につきあってくれることを期待出来る時代でありましょうか.

民間病院の週休2日制

著者: 青木亘 ,   玉城東振 ,   小原美彦 ,   滋岡嘉弘

ページ範囲:P.839 - P.844

時代の流れをしっかり捉えて……
 当院は東京都町田市にある,許可病床数116の医療法人病院である.基準看護は特2類で,専任医師13名,看護婦52名,准看護婦45名をはじめ,合計215名の職員で医療活動に取り組んでいる.病院の開設は昭和53年11月,人口急増地の町田市にあって,地域医療に着実な足跡を残してきたと自負している.
 当院ではすでに昭和59年1月より4週6休を採用していたが,それをさらに発展させて完全週休2日制,年間総労働時間1,800時間体制を敷いたのは平成元年9月から,もちろん,製造業などの完全週休2日制と異なり,土・日曜連続休日というわけにはいかないが,ちょうど1年間が経過して,院内各部門でようやくスムーズに運用されるようになってきたところである.

[座談会]週休2日体制と病院経営

著者: 石田貞治 ,   石山稔 ,   片山誠 ,   井手義雄

ページ範囲:P.845 - P.851

 井手 わが国の産業界において,労働時間の短縮ないし週休2日制は,大きな流れとして定着してきています.国際的な圧力がその流れを早めている感もありますが,いずれにしてもその潮流に逆らうことは今や不可能と思われます.病院においてもそれは例外ではあり得ず,本年4月の診療報酬改定でも,医療従事者の4週6休が実現できるように手当てがなされたと言われています.ところが,病院においては,複数の専門職が複雑に関与する医療という労働の特殊性,恒常的なマンパワーの不足,医療収入の約半分を占める人件費等々,その導入には様々な困難な問題がつきまとってきます.
 そこでこの座談会では,労働省で労働時間短縮を指導されている片山さん,日本病院会で週休2日制問題を調査されている聖路加国際病院の石山さん,病院経営のお立場から大口東総合病院の石田さんにご出席いただいて,病院における週休2日制,労働時間短縮の問題についてお話し合いをいただきたいと思います.

グラフ

“患者の生活の場”を重視—沼津市立病院

ページ範囲:P.809 - P.814

 本院は,昭和3年に設立された沼津市立(伝染)病院をその起源としている.その後,昭和27年に,沼津駅から徒歩圏内の場所にその母体を移し,医療活動を展開してきた.しかし,施設の老朽・狭隘化により,十分な医療を提供することが困難となってきた.そこで,車で沼津駅から10分ほどの,市内の北西部に位置する現在地へ,昭和63年に全面移転を行った.

国立大学病院管理学のノレンを継承 東北大学医学部病院管理学教室 濃沼信夫教授

著者: 久道茂

ページ範囲:P.816 - P.816

 人それぞれの様々な人生をみると,その人のポジションが「まさしくピッタリで……」とか,「やはりなるべき人が……」と感じることが少なくない.その人が年配の場合には,それまでの優れた業績や多彩な人間関係から滲みでる人柄で,周囲の人達も安心し,難しい局面をも巧くやってくれるだろう,という感じである.その人が比較的若い場合には,それまでの業績の評価はもちろんであるが,それ以上に,その人が持っている活力や物の考え方から,激動する社会環境や国際情勢の変化に対応して,これからのすばらしい仕事が期待できる,という感じである.
 濃沼先生は,もともと臨床家で医学博士号のテーマも臨床領域のものであった.フランス政府の国費留学生としてモンペリエ大学での研究留学を終えて日本に帰国後も数年病院勤務をされていた.その後,厚生省へ入り,保険局医療課統計情報部,大臣官房国際課などを経て,WHO本部(ジュネーブ)での勤務,その後国立がんセンター企画室長をしているとき,母校の東北大学医学部より病院管理学講座の教授として招聴され本年4月に着任した.「やはりなるべき人が……」と思うのである.東北大学医学部の病院管理学講座は国立大学では唯一のものであるが,近年各大学で同じ目的の講座が誕生しつつある.これも時代の求めるものであろう.

主張

医療経済実態調査結果の比較対照について

著者:

ページ範囲:P.817 - P.817

 通商産業省産業政策局編「昭和63年度版わが国企業の経営分析」によると,全産業における従業員1人当たりの年間売上額,経常利益額はそれぞれ82,663千円,3,188千円である.しかるに医療業においては,中央社会保険医療協議会(中医協)による平成元年6月医療経済実態調査の概況(医療機関調査)の数値を基礎に単純に12倍すると,一般病院で,従業員1人当たりの年間売上額は11,498千円である.この数値は全産業平均の年間売上額の約8分の1であり,非常に低い.労働集約産業といわれるサービス業,飲食業と比較しても,従業員1人当たりの売上額はそれぞれの約5分の1,3分の1であり,医療はまさに労働集約産業の典型ということができる.
 従業員1人当たりの経常利益をみても,医療業の394千円という額は全産業の3,188千円に比べて8分の1であり,この絶対額の低さは今日の病院の貧困を象徴的に表している.中医協の実態調査は,利益率のみに言及して,一見,病院経営は順調に行われているかのような印象が与えるが,この従業員1人当たり経常利益額は明らかに病院経営のゆとりのなさを示すものといえる.因みに上記サービス業,飲食業は売上高経常利益率が約8%で全産業の中でも高い方の範疇に入ることから労働集約型イコール高付加価値の経営が行われているのである.

今日の視点

病院薬剤師の新時代

著者: 朝長文弥

ページ範囲:P.818 - P.824

はじめに
 今,世の中は大きな変化の時代である.医療にも,医学・薬学の進歩,医療王学,技術革新の成果が導入され,我が国は人生81年という世界に類のない長寿国を実現するまでに至った.こうした医療水準の高度化や各分野での専門化の進展の中にあって,最近の医療環境は,高齢化社会の到来,疾病構造の変化,国民の医療への参加意識の高まり,インフォームド・コンセントすなわち納得した上での医療を求めるなど多様化している.そして,国民の生活水準の向上等に伴い,病院など医療機関における患者サービスの向上が叫ばれ,患者や家族に対する症状説明や薬の作用・副作用,使用法など医療情報の提供の必要性と重要性が高まっている.
 厚生省においても,昨年,「患者サービスの在り方に関する懇談会」がその具体的サービスのあり方を検討してガイドラインを発表している.最近の病院は,最新の医療機器が整備され,設備的にも恵まれたところが多い.“患者が望む良い医療,良い病院とは?”について,我々病院に関係する医療人は,それぞれ立場を異にしても職種にかなった対応をする必要がある.“今後求められる良い医療”とは質の高い効果的治療が行われることであり,また,快適な医療環境が用意されることである.そして,無駄のない効果的・合理的医療,サービスの良い医療が当然ながら強く期待されるところである.

辛口リレーエッセー 私の医療論・病院論

病理医の院長が思うこと

著者: 菊池昌弘

ページ範囲:P.852 - P.852

 これまで直接患者にふれることのなかった病理医が院長の椅子に座ること自体奇妙なことかもしれないが,とにかく新しい世界のルールに驚いている.これでも卒業後1年間はインターンとして診療に関与したことはある.もちろん当時はまだ医師としての免許もなく診療の手伝いであり,現在と立場が違うので比較は無理かも知れないが時代の変化は著しい.診療の内容,レベルの向上,更にはコ・メヂカルスタッフの占める役割の増大は,医療が医者だけでなく,多くの部門で働く人々の協力の集積から成り立っていることが,実感として受け取られる.
 更に,医療がほぼ完全に保険制度のなかに組み込まれており,その制約のなかでなされていることを肌で感じる,これまでも,現在の保険制度のもとでは,医療に対する制約が大きく,充分な医療行為がなされないとしばしば耳にしていた.確かに現実には,現在の保険制度が多くの矛盾を内在していることも明らかである.特に保険の体系が基本的には出来高払いになっていることが,多くの無駄な医療行為を進め,医療としての本質が歪められていることも確かである.つまり医療行為に対する評価はその作業量をもとに計量的に評価されているのであって,本来の医療行為に対する効果は殆ど評価されていない.

病院管理の現場から 看護最前線

医師と看護婦は車の両輪

著者: 板橋玲子

ページ範囲:P.853 - P.853

 医師と看護婦は,車の両輪のような協力関係を継続させていかなければ,患者によりよい医療を提供することはできない.これは誰もが考えている当然のことである.その一方で,医師は看護婦の上司,という考え方が依然として幅を利かせているところもまだまだ多いのではないだろうか.当院でも,ひと頃はそんな傾向が目についたものである.
 ある看護系の学会講演会で,某医学部の著名なプロフェッサーが次のような発言をして,会場の多くの女性の拍手を浴びていた場面をよく思い出す.「看護婦は医師をよく観ている唯一の職種である.医師が間違っていると判断したら,堂々と意思表示をして正義に立ち向かって欲しい」.逆に看護婦にも同じことがいえる.医師と看護婦はお互いにこわい観察者なのである.それだからこそ,両者は相互に切磋琢磨していかなければならないのである.

特別記事 インタビュー

国立医療・病院管理研究所のめざすもの—北川定謙所長に聞く

ページ範囲:P.854 - P.858

 本誌 厚生省病院管理研究所は本年7月1日をもって「国立医療・病院管理研究所」と名称を変更なさいました.新しい研究所は,医療環境の変化を踏まえて様々な課題に取り組まれることと思いますが,名称変更した研究所がこれから何をめざして進んでいかれようとしているのか,引き続き所長に就任された北川先生にその辺のお話を伺いたいと存じます.

建築と設備・54

[座談会]病院の増改築と設備(1)

著者: 高橋公雄 ,   麻生博之 ,   瀬尾勉 ,   河口豊

ページ範囲:P.859 - P.865

増改築・改修のきつかけ
 河口 本日は「病院の増改築と設備」というテーマでお三方においでいただきました.
 まず,高橋さんは公共施設研究所の代表で,公的な自治体の病院あるいは民間の病院等,長年病院建築を設計してこられました.現在も増改築を手がけていらっしゃいますし,いろいろなお話をお伺いできるのではないかと思います.

統計のページ

病院運営管理の実態(1)

著者: 米田啓二

ページ範囲:P.866 - P.867

はじめに
 病院運営実態分析調査は,全国公私病院連盟と社団法人日本病院会とが毎年6月に合同で実施している調査で,病院運営の実態を把握し,病院運営管理の改善の資料とするとともに,診療報酬体系改善のための基礎資料を得ることを目的としている.調査の結果は,「病院経営分析調査報告」と「病院経営実態調査報告」の2冊に分けて発刊されている.前者は病院の施設・設備の状況をはじめ,職員,患者の状況など病院の運営に必要な各種の基本的な指標を量的・質的に分析を加えてあり,後者は病院の収支の状況を中心として分析編集してある.このほか日本病院会から「病院概況調査報告」が発刊されている.
 この調査の対象は,全国公私病院連盟に加入している団体に所属する病院と日本病院会に加入している病院のほか,この調査に協力する病院で,今回の集計客体病院数は表1の通りである.なお,この調査の集計客体は全国の全病院に比べて自治体病院およびその他公的病院の割合が多く,逆に私的病院の割合はかなり少ない実態となっている(医療施設動態調査月報参照).

厚生行政を読む

出生率の低下と医療(中)

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.868 - P.869

晩婚化の進行
 次に,現在,顕著にみられ,また,出生率低下の主因と考えられる晩婚化の進行についてみてみよう.晩婚化の進行は,平均初婚年齢の上昇にもみられるが,若い年齢層の未婚率の上昇からもみることができる.女子の未婚率をみると,昭和40年から60年にかけて,20〜24歳の未婚率は68%から81%に,また25〜29歳の未婚率は19%から31%に上昇している.これは,国際的にみても,最も高い水準に属している(表3).
 このうち,わが国より未婚率が高いのはスウェーデンであるが,北欧諸国では20歳代未婚者の多くは実際には同棲している人々であり,わが国とは少し事情が異なる.そうした意味で,わが国の近年における20歳代の未婚率は異常に高い.

医療を囲む声 病院の視力・聴力・感性

患者の病感に向き合うとき(2)—留学生M氏の場合

著者: 山本和利

ページ範囲:P.870 - P.870

診られる側の意見に聞く耳を
 感冒症状で医者にかかり,「風邪をひいたようなので薬を欲しい,」と話したところ,「診断するのは医者だ.余分なことは言わなくてよい.」と言われたという話を時々耳にする.一般的に,日本ではまだまだ父権的な権威主義が横行しており,患者の意見や考えを聞く耳は持たない医師が多いように見受けられる.また,ちょっとした感冒症状であっても診る医師によって血液,尿検査をしたり,レントゲン撮影をするものから,感冒薬などの簡単な処方で終わるものまで様々である.
 ここで最近あった医師—患者間の治療法に関して意見のあわなかった例を紹介しよう.私の住む新潟県の人和町には国際大学があり,アジア,アフリカからの留学生が時々受診する.ガーナから来た26歳の弁護士M氏は口渇,多飲,多尿を主訴に受診した.外来担当医師は糖尿病を疑い,糖負荷試験を行った.その結果,血糖値が非常に高く,同時に測定したインスリン分泌が悪いので即,人院してインスリン皮下注射療法を勧めた.しかし,本人は入院とインスリン皮下注射療法を拒否し,医師も自分の考えを譲らず,2時間以上話しても折り合いがつかず,次回持ち越しとなり,私の外来に回ってきた.

研究と報告

案内書による入院医療の適正化

著者: 池上直己

ページ範囲:P.871 - P.877

はじめに
 入院医療の適正化が大きな問題となっているが,長期入院を是正するためには,医療施設の機能分化や在宅サービスの整備と同時に,医療供給側も国民の側も,「入院」に対する考え方,意識を抜本的に変革する必要があるように思われる.すなわち,現在のように成人病が疾病構造の中心を占めている状況下では,入院治療の目標を完全治癒に置くことは困難であり,特に複数の疾患を有することが多い老人の場合は,むしろ急性増悪時の対応に焦点を当てるべきであろう1).そこで,入院する際には,「どんな病気」に対して,「どの程度の期間を目安として」「どこまでの回復を期待して」治療するかを,医師,患者の双方が明確に確認する必要があるように思われる.このような情報を提供することは患者の知る権利に対応することにもなり,患者サービスの向上につながるといえよう.
 そこで本稿では,先に実施したパイロット・スタディの結果を踏まえて,入院時に予測される病名,入院期間,退院時状態等を案内書によって通知する可能性とその問題点を検討する.すなわち,病院の業務としてどこまで案内書を配付できるか,入院時にどこまで的確な通知ができるか,提供された情報に対して患者はどのような反応をするか,そして最終的には入院医療のあり方にどのような影響を与えるか等を分析することが本稿の目的である.

GROUPING & NETWORKING

大牟田医師会—昭和双葉会の活動

著者: 原寛

ページ範囲:P.878 - P.879

 大牟田市は,九州の福岡県の南端に位置する人口16万人の地方中都市である.現在,大牟田市には4つの公的病院と,17の私的病院,148の診療所があり,各々,地域医療に貢献している.この中で,地域の医療の未来に目を向け,自らの人間形成に強い意欲をもつ若手医師が集って作られたのが,大牟田医師会昭和双葉会である.設立は昭和57年4月1日であり,この時期は医療情勢が厳しくなり始め,また当市の社会,経済環境も悪化して来ており,医療機関の間に,将来に対する不安感,不透明感が広がりつつあった.
 設立の目的は,「医療の未来を模索し,人間形成に努め,互いに医学および医術の研鑽に励み,協調と融和の精神をもって,地域医療の発展に寄与すること」である.やや抽象的ではあるが,その底には,若手医師の智恵とエネルギーを結集して,医師会など既存の組織に対して積極的に発言,参加していこうという思いがあったようである.

わが病院の患者サービス

国立京都病院—月例で院内コンサート

著者: 西脇洸一

ページ範囲:P.880 - P.881

◇病院でこそ音楽を
 病院で入院生活を送っている患者さんの心の中は,病気による苦痛や将来の生活に対する不安,さらには死への予感など,深刻な孤独の中での葛藤が渦まいていることだろう.そうした中にあって,友人や家族との交遊やおいしい食物,美しい花などは,しばしの心の安らぎを与え,生命あることの喜びを感じさせる何よりの慰めに違いない.そして音楽も病の中にあって,普段と違った意味をもち,渇いた砂地に水がしみ込むように,心の中に拡がっていくのであろう.
 12年前,何気なく始めた私達の病院でのクラシック・コンサートは,こうした患者さん達の心の欲求に合致したのか,患者さん達によって支えられ育てられて,今日を迎えている.本欄を与えられたのを機会に,ささやかな体験を報告させて頂き,音楽を愛し同じ志を抱いておられる先生方に何らかのきっかけになればと思います.

病院運営の合理化を求めて

カルテの中央化

著者: 安田尚之

ページ範囲:P.882 - P.882

 病院の情報管理のうち,診療に関してはカルテ(診療記録=病歴)管理がその基本となる.病名の分類(保険診療上の病名と医学的病名の関係も含めて),カルテの記載の仕方,医師の記録と看護記録との関係,退院時サマリーの書き方などは診療録管理士に譲るとして,カルテの保管管理は病院全体の業務にかかわる大切な仕事である.
 どの病院でも種々工夫をされていることと思うが,今月は,昭和59年5月に開院した当院で,カルテ管理をどのように考えて実行に移してきたかを紹介してみたい.

病院管理トピックス

[病院労働]労働条件のこの官民格差をどうするか/[クリニカルエンジニアリング]ME機器安全管理と安全教育の実際

著者: 益田啓作

ページ範囲:P.883 - P.885

 「赤字をなんとかして黒字にしたいので意見をきかしてほしい」と,地方自治体の病院担当者から依頼されたことが2,3度ある.毎年1病院で数億から10億を超える赤字を出している自治体病院もあるくらいで,この赤字は一般会計から補助される.病院の労使にとっては痛くも痒くもない.羨ましいなと思いながら資料を見てゆくと,人件費率が65%になったりしている.「定数を減らさなければ黒字になりませんよ」というのが結論である.
 「定数を減らす」問題は大問題だから,病院担当者だけでは解決できない.各自治体の長,議会が取り上げてくれなけれぼどうにもならない.労働組合あるいは政党の反対を予想すれば,誰も火中の栗を拾いたくはない.結局うやむやになって,また,「公立病院の赤字は何とかならんのか」の声が繰り返される.

医療・病院管理用語ミニ辞典

〔病院管理〕インフォームド・コンセント/〔産婦人科医療〕悪性腫瘍特異物質治療管理料

著者: 小野丞二

ページ範囲:P.886 - P.886

 インフォームド・コンセント(in-formed consent)とは,医師が患者やその保護者に,必要な医療情報を十分に提供した上で,治療方針等について患者や保護者から同意を得ることである.この概念はアメリカで確立されたもので,その基本にあるのは患者の自己決定権である.患者の自己決定権を尊重するために,患者に検査,手術,その他の処置ならびに投薬等の医療行為によって侵襲が加えられる場合には,患者やその保護者の同意を必要とし,その前提として医師の説明義務を認めるという考え方である.
 自己決定権は基本的人権にかかわる問題であるので,これを否定することはできない.それ故に,世界的な流れでは,インフォームド・コンセントの考え方を受け入れる方向にあり,日本医師会においても,医療の現場にその考え方を導入する努力がなされている.

時評

体験的集団検診不要論—集検より個人精検へ

著者: 矢島嶺

ページ範囲:P.887 - P.887

 筆者は地域医療に従事して以来ずっと集団検診に疑問を持っていたが,自らの狭い体験からではあるが,集検に対する評価が疑問より不要論に変わってきた.「学問的」でない「体験的」不要論だからどこまで通用するか心もとないけれど,この点について考えてみたい.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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