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雑誌目次

雑誌文献

病院49巻3号

1990年03月発行

雑誌目次

特集 グルメ時代の病院の食事

病院での食事の意味—治療食か生活食か

著者: 田中慶司 ,   池田義雄 ,   桑田隆志 ,   立川倶子 ,   田川熊夫

ページ範囲:P.213 - P.220

病院給食のかかえる問題 行政の立場
 病院給食が,生活食と位置づけられるべきか,医療の一部と見なすべきかという問いに対しては,その質問の設定の立場によって答が異なってくると言わざるを得まい.
 まず,社会保険の診察報酬上は給食料に対し,特別食(治療食)加算が区分され,生活食と医療の部分が分離評価されているようにも見えるが,給食全体として「医療の重要な一部門であり,収容患者の症状に応じて適切な食事を給与し,その治癒あるいは病状回復の促進を図るもの」と位置づける見方が一般的である.いっぽう,例えば精神病の患者に対する食事等,それが治療的な配慮がされている割合は多くないと考えられるものがある.医師がすべての患者に対し,適時適切な食事処方を行い,健康回復,維持の目的で医療の一環として食事をプログラムしていると胸を張って断言する人も少ないであろう.もちろん,これについても,医療的な視点からの意義は全くないと言い切ることも出来まい.

オーダーメード食事はできるのか

著者: 本間律子

ページ範囲:P.221 - P.224

当院の概要
 私どもの病院は4町村による一部事務組合立で,一般病床数350床,さらに健康管理センターと老人保健施設50床を併設する総合病院である.また敷地内に特別養護老人ホーム100床があり,廊下で病院と連結されている.栄養科は診療部に所属し,管理棟東端の最上階(3F)に905m2を占め,湿気を徹底的に排除した設計になっている.また併設する老人保健施設の食事も担当し,その食事内容についても病院と同様の複数献立制を導入している.最近の給食数は1日平均の延食数で病院分819食で,うち特別食は212食(26%),老人保健施設分131食である.
 現在,病院給食において喫食率を下げている大きな理由として,早すぎる夕食時間,嗜好の違い,冷たい食事等があるように思われ,厚生省国民医療総合対策本部の中間報告によってもその改善を強く求められているところである.私どもは夕食6時配膳をすでに昭和51年7月から実施して本日に到っている.次に,同じ入院患者でも,年輩者と若者では食べ物に対する嗜好がまったく違っているといってよい.そこで,両者に同じ食事を提供するのは大変な現実無視であり,少なくとも年輩向きと若向き程度の献立の違いがあるべきではないかという発想から,昭和53年12月より複数献立制の導入に踏みきったのである.ここに私どもの行っている複数献立の実状について報告したい.

病院食事のなぜ

著者: 篠田よし ,   中村丁次 ,   下田尾洋 ,   山下茂子 ,   戸崎千恵子 ,   宇井美代子

ページ範囲:P.225 - P.232

朝食は何時が適当か
はじめに
 病院の適時給食は,患者サービスとして,また完全喫食対策として考えられ,社会一般の食事時間に近づけること,栄養生理上の理にかなっていることを目的としています.しかし近年増加傾向にある慢性疾患は,習慣病といわれ,食生活習慣を正しくすることが,重視されてきています.日常生活の基本となっている,食事時間を正しくすることは,生活を正すことになり,治療より根本的なことであるので,サービスというより食事療法の一環として行うべきことだと思います.また習慣病の原因の1つとして,社会的諸環境条件が質・量共に加速度的に急変し,生活が忙しくなったため,人間本来がもっている体内時計による,1日24時間周期のリズム(生体リズム)による生活ができにくくなり,社会的リズムを重視した不自然な生活があげられています.したがって,病院の食事時間の設定に当たっては,患者個々の生体リズムを基本とし,気候,風土性,歴史性,民族性,習慣,体質などの条件にも配慮して,1日24時間の治療日課の基本として決めるべきだと考えます.

「患者の特別注文による追加食」はどう実施されているか

著者: 編集部

ページ範囲:P.233 - P.234

 昭和62年6月26日に発表された厚生省国民医療総合対策本部中間報告は,「病院給食の改善」の具体的な方策として,「給食に対する患者の不満を解消し,患者がおいしく食べられる食事を提供し,医療サービスの一環として給食の効果が十分に発揮されるよう,カロリー等に偏った給食の在り方を見直すとともに,それに応じた診療報酬面での対応を図る.また,ニーズの多様化,高度化に対応するため患者が選択できる複数メニューの提供を図ることとし,そのための費用負担の在り方を検討するとともに,病院給食の外部委託の活用を図る.(以下略)」とまとめた.
 昭和63年4月の診療報酬改定のさいに新設された「患者の特別注文による追加食」(以下,特注食と略)は,この中間報告を受けたものといえよう.つまり,「患者の選択の幅の拡大」を図るために盛り込まれたものである.

残食処理の考え方と実際

著者: 近江富美代

ページ範囲:P.235 - P.237

当院の概要
 当院は高村光太郎夫人智恵子さんが病める一時期を過した病院を前身とした東芝大井病院が発展的に新築移転したもので,昭和39年10月に設立され満25年を経過した.現在,診療科13,病床310,外来患者1日平均約700名,職員365名の中規模の職域病院である.
 医用機器製造販売を含めた先端技術で社会に貢献する(株)東芝が設立母体であるので,先端医用機器と優れたスタッフを擁し,東芝グループ従業員とその家族並びに地域の皆さんに「安心して利用してもらえる病院」を合言葉に地元医師会とも連携をとりながら「患者本位の医療」に全力投球中である.

在宅給食サービスの可能性を探る

著者: 矢内伸夫

ページ範囲:P.238 - P.241

はじめに
 昨今,高齢化社会の到来と共に,いわゆるシルバー産業の在宅給食サービス参入が取り沙汰されているが,その多くは一般家庭の生活食を中心とし,傍らに「老人食も,治療食も」とうたっていることに気付かれよう.
 いっぽう,病院もサバイバル作戦の1つとして,個性化を課題とし,給食こそサービスの原点と考える所も増えている.これは喜ぶべきことである.また,その延長線に在宅給食に「治療食を,老人食を」と検討する病院もあるようだ.その理念には共感するが,いざ,実践するとなれば,病院独自の運用には疑問が残る.どうしても,在野資源との連携が条件になろうし,そのほか,いろいろな障害を克服する覚悟も必要となってくるからである.

〔レポート〕小規模病院における適温給食の試み

著者: 東千恵子 ,   高田美穂 ,   石川一枝

ページ範囲:P.242 - P.244

 1986年,病院給食委託の認可が出された時期を前後として,病院給食の改善を求める声がマスコミによって過剰といえるほどに取り上げられた.それまで世間の注目を浴びることのなかった病院の食事が,「早い,冷たい,まずい」という簡単な言葉によって概念的に報道され,病院の栄養部門の近代化を図るべく体質改善が話題になった.
 食事がまずいか,おいしいかは,ある程度主観的な部分もあるが,あまり早い時刻に出されたり,本来熱いはずのものが冷たかったり,また冷えていなければならないものがなま温かいような食事であるならば,客観的に「まずい食事」という表現になる.

グラフ

松江生協病院住民と医療人による地域医療の拠点づくり—松江生協リハビリテーション病院

ページ範囲:P.197 - P.202

 現在わが国では,116の医療生協が組織され,その傘下で80病院,180診療所が各地でユニークな活動を展開している.これらの医療機関が,生協組合員の健康づくりはもとより,住民の健康を守る運動の拠点として,しっかり地域社会に根を下ろした幅広い医療を行つて,国民医療のなかに独自の地位を確保していることは周知のところであろう.
 人口約14万の島根県松江市を中心に,〈組合員参加の医療活動,救急から在宅までいのちのネットワークづくり,たゆみない医療内容の充実と向上〉を基本姿勢として,40年間にわたって地域医療に取り組んでさたのが,松江保健生活協同組合(長谷川仁理事長,組合員約1万2,000人,昨年末現在)だ.松江保健生協は,松江生協病院(333床),松江生協リハビリテーション病院(185床)の2つの病院と2つの診療所を擁し,それぞれの医療機能を有機的に結びつけ,高度・先進的な医療から在宅医療・看護,保健・予防活動まで,医療生協ならではの組織活動て住民の厚い信頼を獲得している.

研究・教育・国際舞台で大活躍 第二十二回国際助産婦連盟(ICM)学術大会を主宰するICM会長・千葉大学看護学部教授 前原澄子氏

著者: 吉武香代子

ページ範囲:P.204 - P.204

 前原澄子先生と最初にお会いしたのは,病院管理研究所で看護管理を担当していた頃,東芝中央病院の総婦長として婦長研修コースを受講された時でした.
 東大衛生看護学科のご卒業であり,また当時の社会通念からは信じられないほど若い(若く美しい)総婦長さんとして記憶に残りました.ご子息のお年など考え合わせますと,先生はあの頃,幼児の母親の役割も果たしておられたことになります.

主張

病院機能評価の今後と病院認定

著者:

ページ範囲:P.205 - P.205

 厚生省と日本医師会が合同で,病院機能評価に関する検討会を持ち,100項目の評価項目がとりまとめられたことは記憶に新しい.これをきっかけに,病院サービスの質とその評価のあり方についての関心が高まったが,その社会的な適用についての今後の動向が注目されるところである.
 この評価表に基づいて,全病院の管理者による自己評価が試行され,その結果がマスコミ等にも取り上げられて話題となったが,医療の質を何らかの形で外に示すという,時代的な要請にどの程度応えているかという観点からは疑問が残る.やはり,自己評価方式には限界があると言わざるを得ない.

今日の視点

〔対談〕病院医療における在院日数

著者: 伊賀六一 ,   大道久

ページ範囲:P.206 - P.212

 大道 本日は,病院医療における在院日数の管理のあり方について,伊賀先生とお話し合いをしたいと思います.伊賀先生は,東京都済生会中央病院で長きにわたって第一線の病院管理者・病院長として,この問題について熱心にご努力されてこられたので,そのご経験を踏まえたお話を承りたいと思います.

建築と設備・47

スウェーデンの高齢者施設ケア

著者: 外山義

ページ範囲:P.245 - P.251

■はじめに
 わが国に30余年先立ち,スウェーデン社会では,既に1950年に老年人口比率が10%を突破し,今日その値は17%を超えて,世界で最も高齢化の進んだ社会となっている18).しかしながら,わが国の老年人口比率は,来世紀に入りこのスウェーデン社会を短期間で抜き去り,最高齢化先行社会となることが予測されているのはよく知られているところである.
 ところで,今日,高齢化先輩国スウェーデンが抱える課題は何であろうか.それを一言で要約すれば,高齢者の中でもとりわけ,自立生活の維持が困難となってくる後期高齢者層の増加と,その層に集中する独居老人数の増加への対応の問題である.

辛口リレーエッセー 私の医療論・病院論

今,社会が望んでいる医師は

著者: 松浦啓一

ページ範囲:P.252 - P.252

 大学病院は学生の教育のために設置されるものであるから,所謂com-rnon diseaseを診療することを禁止されたのでは困る.しかし診療に追われっぱなしでは大学としての使命は達せられない.一つの専門分野を深く掘り下げ英知を集めて考究することも必要である.1970年以降の科学技術の進歩はこの専門分化の方向を驚くべき速度で助長し続けた.不可能と思われていたものを可能とし,神秘のヴェールは少しずつ剥がれていくようで,若い医師は挙って専門医を指向するようになった.
 一方,分子生物学や遺伝子工学などの基礎医学分野も飛躍的な進歩をとげつっあり,臨床技術と相俟って21世紀には体外受精や臓器移植などは日常茶飯事になっているかもしれない.

病院管理の現場から 医事課窓口から見えるもの

在宅医療・ケアの点数化の行方

著者: 佐藤俊一

ページ範囲:P.253 - P.253

患者さんのために
 ある暑い夏の午後のことだった.出張から病院に戻ると,私の帰りを待っている何人かの人がいた.彼らは,ある患者さん(30歳で脳血管障害で寝たきりのBさん)の在宅での経管栄養法の健康保険への適応が可能かどうかということで,私の意見を聞きたかったのである.この患者さんは,訪問診察および訪問看護実施中である.実は,このことについては,すでに院内で一般的なこととして繰り返し説明したことだったので,「何でまた」というのが私の素直な気持ちだった.
 最初にBさんの主治医から問い合わせがあった.「在宅での経管栄養法を健康保険で行うためには,疾病が小腸関係の消化器系のものに限定されているのは分かっているが,Bさんを担当している福祉課の人がいうには,解釈の仕方,運用の仕方で,Bさんの場合にも適応可能ではないか」といわれた.「こうしたことは,他の病院では行われているのに,なぜ当院では認められないのか」と問われて困っているという内容だった.

味わいエッセー 出会い

袖ふれ合うも昭和の縁

著者: 松角康彦

ページ範囲:P.254 - P.254

 出会いという言葉の持つ人の世の運命的な色合いを,思い出の中に尋ねてみても,これといった劇的な邂逅に恵まれた記憶がない.人さまに受けた情けを知らずに過ごした鈍さによるものか,あるいは余りにも自分中心の輪の中で生きてゆかねばならなかったことが,この世の美しさに気付かせなかったのか.それでも過ぎた日々のひと駒ひと駒を振り返ってみると,私の履歴書の中にごく当然のように幾たりもの人の姿が重なっては消えてゆく.いわば出会いの連なりであり,出会いなしには成り立たない歳月であった.ことに昭和という時代枠の中で60年余りを過ごしたものにとり,誰にも共通した最大の出会いは,昭和との出会いではあるまいか.
降る雪や明治は遠くなりにけり

医療・病院管理用語ミニ辞典

〔病院管理〕X・Y・Z理論/〔救急医療〕人工呼吸

著者: 一条勝夫

ページ範囲:P.255 - P.255

 アメリカの経営学者D.マクレガーは「企業における人間関係的側面」と題する著書においてX理論,Y理論なるものを唱えた.
 X理論は,欧米における古来の伝統的な労働観である.すなわち,人間は本来的に怠け者であり,生存や欲望の充足のためにやむなく働く.賃金は労働という苦痛犠牲に対する代償である.したがって,こうした労働者を働かすためには,厳格な監督,詳細な指示命令のもとに,能率給などの金銭的な刺激で,労働能率を上げることが必要になる,というものである.

病院運営の合理化を求めて

委託外注の徹底的採用

著者: 安田尚之

ページ範囲:P.256 - P.256

 「病院経営を取り巻く環境はますます厳しくなってくる」という言い方は,病院経営・管理に携わる者の合言葉のようになっている.そんな厳しい環境のなかで,病院運営合理化の1つの手段となるのが,委託外注の採用である.
 当院の委託外注項目は,①設備管理,②警備,③清掃,④基準寝具・リネン洗濯,⑤電話交換,⑥駐車場管理,⑦給食(患者給食,職員食堂),⑧レセプト作成,⑨自動車の運転と車両管理,⑩医事当直,⑪用務業務,⑫看護婦寮の管理,⑬塵芥の焼却,⑭検体検査(一部),⑮各種機械装置のメンテナンスと,非常に多岐にわたっている.

特別論考

精神科急性期治療の臨床経済学試論(3)—精神病院が病院であるために

著者: 平田豊明

ページ範囲:P.257 - P.267

 前回は,千葉県精神科医療センターの診療システムとデータを紹介し,入院医療費と在院期間を指標にして,当センターの短期入院治療システムの費用効果分折を試みた.その結果,対象とした全国データに比較して,当センターの入院治療システムでは,退院という治療効果を得るために要する医療費が,1件の入院につき約70万円安くすむことが分かった.同一コストに対する治療効果という形で表現すれば,当センターの入院治療システムは,全国平均に比べて1.8倍の費用効果性をもつ,ということができる.
 しかし,この結果には,いくつもの但し書きをつける必要がある.そのなかで最も重要なのは,いうまでもなく費用の算定に関するものである.すなわち,今回の分析では,コストの項目が,保険医療に規定された1日当たり入院医療費だけで構成されており,実際に要したランニングコストの原価計算が無視されている.

厚生行政を読む

在日外国人の医療(上)

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.268 - P.269

 我が国の国際化に伴い,日本に来る外国人の数は急増している.また,それとともに,外国人が我が国の病院で診療を受けたり,あるいは入院するケースも増加し,一部では様々なトラブルを引き起こしている.医療の国際化とは,従来は研究の国際協力であるとか,ODAであるとかの文脈で語られることが多かったが,今回は,医療の国際化のもう1つの側面——すなわち,在日外国人の医療——にスポットを当て,その実態と問題点を探ってみたい.

病院管理トピックス

〔医療社会事業〕ソーシャルワーカーの専門性/〔用度〕消費税と用度の役割/〔放射線〕画像診断における医師と技師の境界線

著者: 橘高通泰

ページ範囲:P.270 - P.272

 包括的な医療が求められているということは,医療に携わるすべてのスタッフにより広い視野から患者を理解することが求められるようになったということに他ならない.ところが,専門分化の進んだ現代においては,様々な専門領域の人々の有機的なつながりなしに包括的な医療は実現しない.
 したがって,それぞれの専門家はそのようなつながりのなかで自分がどのような位置を占めるのか,つまり,他の専門領域のスタッフとの相対的な位置関係をしっかり捉えておく必要があろう.

時評

ある医学生の悩み

著者: 箕輪良行

ページ範囲:P.273 - P.273

 昨秋の話だが,入学して4年目,臨床の実習をはじめた後輩のO君が,突然電話をかけてきた.会って相談したいので時間を作って欲しいというのだ.卒後の研修病院や診療科の選択についてならば早すぎるし,留年や退学の相談としても時期が合わない.痴話喧嘩の相談をほとんど見知らぬ先輩にするものもおるまい.全く心当たりがないまま,ともかく会おうということになった.
 O君はすぐれて真面目な医学生であった.ひと言ひと言かみしめるように話してくれた.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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