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雑誌目次

雑誌文献

病院49巻5号

1990年05月発行

雑誌目次

特集 増大する看護ニーズの分析と対応

〔鼎談〕看護ニーズを決めるもの

著者: 高橋美智 ,   加藤政子 ,   山崎絆

ページ範囲:P.388 - P.396

看護ニーズ増大の整理
 高橋 きょうのテーマは「看護ニーズを決めるもの」ということですが,そもそもこのお話をいただいたときの,最初のテーマは「増大する看護ニーズにいかに対応するか」ということだったのです.このテーマ,私自身はいささか聞き飽きたという感じがあって,お引受けできないと言ったのです.そこで,あれこれ話合っているうちに,“増大する看護ニーズ”の「増大」の中味を整理しないまま,対応を考えることはできないのだから,そのあたりのことを話合ってみようということになったのです.今日は,看護ニーズを左右する要素をいくつか拾い上げて,話合ってみたいと思っているのです。その話合いを通して私たち看護職が背負うべきニーズをうきぼりにできれば,「いかに対応するか」という課題の一歩を踏み出すことにも通ずるのではないかと考えているのですが,よろしくお願いいたします.

看護マンパワーの需給分析

著者: 杉谷藤子

ページ範囲:P.397 - P.400

はじめに
 看護マンパワーの需給を考えるとき,①今後の看護ニーズの増大と多様化,②そのニーズに対応する看護サービスは,どのように提供されなければならないか,③その看護サービスを誰(どの職種)が担うのか,④医療経済上,質的確保がどこまで可能か,可能にしなければならないか,⑤医療経済上,量的供給はどこまで可能であろうか,などの視点をもっての分析が必要といえよう.
 今,社会のニーズは,一般的に量的拡大を求めた時代から,質的充実を求める時代に変化した.医療においても,病院数,病床数および医師数などは,量的に充足し,増加傾向の鈍化が予測されている.

看護ニーズの増大の中で基礎教育が目指すもの

著者: 近田敬子

ページ範囲:P.401 - P.403

はじめに
 1990年代に入って,いよいよ今世紀も最終ラウンドを迎える意識が強くなった.この時代に生きる我々は,核戦争に対する不安をはじめとして,情報化社会の真っただ中にいながら日々驚異を感じて生活している.そして,バイオテクノロジー等の超科学的な技術が身近な日常生活の中に入り込んで来ている.さらに,平均寿命が90歳を越える高齢化社会を目前にして,家族の崩壊がさらに進み,自分の身に置き換えても不安を隠しきれない.
 もちろん,不安のみならず多大の恩恵をこうむっており,便利で快適な生活に慣れ親しんでいるのも事実である.ただ余りにも急激な変化に戸惑いを感じている年代の人間なのかも知れないが,要は,それらの社会現象が人間の価値基準をどのように変えるのか,少なくとも我々が従事している看護教育においても,いかなる変革が求められて行くのかが問われているものの,明快な答えが出せない苦しみを味わっているのである.

老人看護における質の捉え方—病院と老人保健施設の経験から

著者: 細井恵美子

ページ範囲:P.404 - P.407

はじめに
 いま,医療界における話題の中心は,超高次医療と老人の問題である.看護分野においても同様に,一方では,専門・細分化された身体各部の機能とそれに呼応する科学技術の応用,ME機器の知識や技術等が要請されており,また他方では,残存機能を生かしての老人の介護やターミナル患者との関わり,患者の個別性やQOLの尊重など,対応の質も深まり,専門職としてのあり方が問われてきている.
 特に最近,理学療法士や作業療法士,臨床工学士,社会福祉士,介護福祉士など看護の専門分野と重なり合う新しい職種が誕生し,若く新しいエネルギーにより,学術的にも実践面においても目覚ましい成果を発揮してきている.

高機能病棟における看護—問題点と今後のあり方

著者: 寺沼幸子

ページ範囲:P.408 - P.411

はじめに
 最近,病院の機能別類型化に関する様々な考え方が,医療界のニュースなどで議論をかもしている.また,高機能病院か,高機能病棟かについても意見が分かれているところである.いずれにしても日進月歩の医療の場は,常に患者を中心とした効率の良い運用が必要であり,そのため区分を行うとしたら,科学的な病院の機能を示す指標がなければならないと思う.
 昭和63年度に厚生省が示した基準看護特III類では,在院日数の制限が病院管理上の指標として,行政的に取り入れられたが,その根拠ともなる基盤の曖昧さから,現場の混乱を来たしたことは事実といえるのではなかろうか.

看護ニーズの多様化—セルフケア病棟の立場から

著者: 葭田美知子

ページ範囲:P.412 - P.415

はじめに
 この原稿依頼を受けた時,基準看護体制の再検討や年度末,年度始めの諸般にわたって多忙な日々を過ごしていたので,以下言葉を尽くせない点もあろうかと思われる.
 しかし,折角の機会でもあり,当院のセルフケア病棟の担当婦長としての私見をまとめ,今後の当院の看護の方向性をも考えていくために,自分の実践してきた看護を振り返るよい機会と捉え,私見を述べさせていただくことにした.皆様のご意見を賜われば幸いである.

90年代の看護婦養成—問題点と展望

著者: 桑野タイ子 ,   三木福治郎 ,   田島桂子

ページ範囲:P.416 - P.422

少なくない課題
はじめに
 わが国の近代的な看護教育は第「次世界大戦後,占領軍(アメリカの看護婦)の指導によって始まったが,それから40年余たった.その戦後から今日まで,看護教育は徒弟式の技能者養成からの脱皮を図り,学校としての組織や設備と運営,財政,カリキュラムなどの諸側面で改善が図られ発展してきた.
 戦後の看護教育の改革は,財政的,組織的に病院に依存する企業内教育的色彩の濃い看護婦養成から,独立した学校組織を作り教育内容の充実を図ることであった.

グラフ

—医療法人一羊会 上武呼吸器科内科病院—中小病院のガンバリズム—医療法人養真会 上総記念病院

ページ範囲:P.371 - P.376

 群馬県の前橋市に昨年8月,呼吸器科の専門病院が誕生した.名称は「上武呼吸器科内科病院」である.

第30回全国国保地域医療学会学会長に就任された 山口県大和町・町立大和病院長 有馬喬氏

著者: 石本正己

ページ範囲:P.378 - P.378

 「保健予防はもちろん重要であるが,地域の住民はまず,病の苦しみからの解放,難しい病気の治療,救急医療への適切な対応を望んでいる.」というのが有馬院長の地域医療に対する基本的な考えです.有馬院長は昭和40年に大和町立病院の院長に就任以来,この基本にそって老朽化した60床の病院を高度な機能を持つ350床の病院にまで発展させました,これは大和町住民のみならず私たち職員にとっても大きな誇りです.
 さらに,保健センター,デイケアセンター,総合デイケア外来部,リハビリセンターなどの施設の整備・充実をなし遂げられ,地域包括医療の確立を図られました.院長ご自身はこの発展の過程を,時代に即して「自然に流されてきた」ものと表明されています.

主張

看護の必要性とは

著者:

ページ範囲:P.379 - P.379

 看護婦不足の声が大きい.地域医療計画の影響で,いわゆる病院の駆け込み増床のためとも分析されているが,そればかりではなさそうである.昨年5月公表された厚生省の看護職員需給見通しについても様々な分析がされているが,年間の必要看護職員数にして,平成元年度で7万人の新規参入があっても,4万7千人5.4%の不足が全国レベルでの需給見通しである.地域による差も大きいが,平成6年までは,看護職員の需給のバランスがとれないということでは,わが国病院医療の基本がゆるがされるといえる.
 この需給計画では,現在の病院病床数当たりの看護職員は,昭和64年度の34.3人から平成6年度には40.9人まで高めると計算されている.果たしてこの人数は,急速に増大する病院の看護の必要性に対応できるかということを考えてみたい.

今日の視点

[対談]病院医療における看護の明日

著者: 南裕子 ,   塙正男

ページ範囲:P.380 - P.387

看護の専門性をめぐって
 塙 南先生は,民間の精神病院で精神科看護を実践され,患者に対する看護ケアの質を変えたという実践記録(南裕子,稲岡文昭監修『セルフケア概念と看護実践—Dr.P.R.Un-derwoodの視点から』,へるす出版,昭和62年)をまとめられていますが,これを読みまして大変感銘を受けたわけです.この記録はだれが書いたか分かりませんね.
 南 分からないようにしてあるのです(笑う),共同の仕事ですから.

医療・病院管理用語ミニ辞典

〔病院管理〕オペレーションズ・リサーチ(OR)/〔救急医療〕心マッサージ

著者: 一条勝夫

ページ範囲:P.423 - P.423

 戦争遂行の作戦をたてる場合,軍人でない科学者の知恵を借りるという例は古くからある.これが特に発達したのは第二次世界大戦においてである.ドイツ軍の空襲に悩まされたイギリス陸軍は,侵入機の迎撃対策を研究するグループをつくった.このグループには数学者,物理学者,生理学者,測量技師などが動員され,高射砲の対空射撃のための砲座の調整,レーダーによる敵艦船の探知,ドイツ潜水艦に対する爆撃対策など数々の功績を挙げた.
 アメリカ軍もこれにならって,日本の経済封鎖のための機雷敷設作戦,神風特攻機に対する作戦などに大きな成果を挙げることができた.

辛口リレーエッセー 私の医療論・病院論

過疎地域の地域医療

著者: 籾井真美

ページ範囲:P.424 - P.424

 私が33年間院長を務めている病院は大分県東国東郡にある.当地は,「佛の里」といわれているところで,大分空港の完成,テクノポリスなどの地域振興策がとられているにもかかわらず,かつて6万以上あった人口が4万3,000に減少,老齢化率は21%を超え,病院には老人が溢れている.先祖伝来の土地と家を守っている独居老人が骨折などで入院すると家に帰れなくなるし,介護人が入院すれば寝たきり老人も一緒に入院させてくれということになったりする.
 同居家族があるにもかかわらず,退院させたがらない例も多い.訪問看護をするからと説得して退院してもらったものの,それでも面倒をみきれない家族は,老親を郡外の施設に入院させる.郡内の施設が絶対的に不足しているからだ.馴染みのない病院に追いやられた老人の気持ちを思うと,胸が痛む.在宅介護が無理なら,せめて人生の終わりは,生活圏内の施設で面倒をみてあげたいものだ.

病院管理の現場から 医事課窓口から見えるもの

病院事務職員覚え書き

著者: 佐藤俊一

ページ範囲:P.425 - P.425

いつのまにかスペシャリストに
 ある事務管理職の長期研修会のことであった.30名近い参加者(大半が30〜40代の男性)に,「学校を卒業するとき,病院へ就職しようと積極的に意思決定された方は手を挙げてください」と訊いてみた.参加者のうちわずか1名の方が手を挙げただけだった.何回か同じ質問を他の同様の研修会でもしたことがあるが,大体いつも結果は同じであった.
 おそらく,こうした動機づけと関係しているのだろうが,多少なりとも問題意識をもって病院事務職を希望して就職してくる人は,その仕事をマスターし,生き残っていくために与えられた業務(例えば医事業務)に精通しようとして努力する.そうした努力の結果として,ある業務に精通し,課の柱となっていく人間を,中小病院の場合そう簡単には人事異動させるわけにはいかない.

医療を囲む声 病院の視力・聴力・感性

病院建築に体系的手法を

著者: 梶原正樹

ページ範囲:P.426 - P.427

病院建築の体系的手法を
 病院建築を計画・設計している視点から,最近の「病院建築」に参画し,試行した方法を提案したいと思います.いくつかの計画は,競技設計(コンペ方式)で委託された自治体病院・公的病院が主で,企業内病院のコンサルタントの委託もありました.いずれも病床規模300〜600床の総合病院で,建築手法は移転新築,現地建替えです.
 開設者は各々異なりますが,問題とする項目は4点くらいに絞られました.

建築と設備・49

老人保健施設3題

著者: 河口豊 ,   菅野實 ,   佐藤昌男 ,   米満弘之

ページ範囲:P.428 - P.434

老人保健施設の計画
 本年1月で老人保健施設は218施設になった.定員は17,300余である.うち約3割(定員で1/3)が独立型,6割近く(定員で5割強)が病院併設型,診療所併設と特別養護老人ホーム併設型は各々1割に満たない.施設の定員規模は50〜99床の施設が6割,100床以上が1/3,49床以下は1割もない.平均では80床である.また設置主体別に見れば,医療法人が2/3を占め社会福祉法人は2割強である.本稿では病院併設型と診療所併設型それに特別養護老人ホーム併設型で,種々の工夫がなされている3例を紹介して戴く.
 基本的には広い意味で障害者に対する十分な配慮をすればよい.例えば,滑りにくい床材料の選択,つまずかないよう段差のない床,手摺りの設置などである.特別なものとしては介助浴室,機能訓練室などがある.あとは自らが生活したいような療養環境を整備すべきであろう.

医療従事者のための患者学

“生”への希求(その2)

著者: 木村登紀子

ページ範囲:P.435 - P.439

問いの旅としての“患者学”
 “患者”を理解するとはどのようなことか,患者の“こころ”を真に理解し援助するには,どうすれば良いか.これが,筆者の視点から見た“患者学”への問いの出発点であった.過去2年余にわたり,しばしば心理学の枠をはみ出しながら,仮称“患者学”を模索してきたが,問いは深く広くなるばかりで留まるところを知らずの感がある.しかし,次号をもってひとまずシリーズを閉じる予定である.
 患者学の展開の過程は,「患者を理解し援助するには,どのような理念や知識・技能・態度が必要であり,かつ適切で有効か」と問うていく作業であった.そして,その問いは必然的に「なぜ,それを必要または適切であると判断するのか」と筆者に問い返してくる.それゆえ,筆者自身の患者観を明らかにしなければならず,それは取りも直さず,人間への見方を問われることでもあった.また,患者をより良く援助するためには,患者だけでなく,医療従事者を含む“医療の場のヒューマニティ”の回復を問題にする必要があった.そして,それへの問いは,往々にして身近な職場や家庭での筆者自身のヒューマニティの実現や人間としての在り方を厳しく問い返してきた.

統計のページ

フランスの医療費統計①

著者: 中島誠

ページ範囲:P.440 - P.441

 「フランスの社会保障制度はヨーロッパのなかでも最も発達し,最も普遍化されたものの1つである.このため,医療に関しては,1人当たり医療費の水準および医療費支出のGDPに占める割合においてEC諸国のトップに位置する.この医療制度は,医療における自由の原則と医療費の償還の集団的保障の恩恵を受けたいというフランス人の希望に応えたものである.」(1988年7月のOECD厚生大臣会議に提出されたフランスのナショナルステートメントより).

厚生行政を読む

医療法改正(上)

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.442 - P.443

はじめに
 本コーナーが「厚生行政を読む」と題している以上,病院関係者が多大なる関心を寄せている医療法改正の動向について触れないわけにはゆかないであろう.しかしながら,医療法がどういう方向へ向かおうとしているかについては,いまさらこのコーナーで紹介するまでもなく,すでに多くの医療関係誌に取り上げられており,また,それらは「情報源」に比較的忠実に報道されているようでもあるので,ここではやや異なる観点からの記述を試みてみよう.

病院運営の合理化を求めて

パートタイマーの採用

著者: 安田尚之

ページ範囲:P.444 - P.444

 現代の企業経営にはパートタイマーの採用が不可欠といわれている.病院も例外ではなく,パート労慟を導入している病院が増えている.病院の収支率を改善するためには,抱える職員を最低限に抑えることが必要だからで,その1つの方法として,今回はパートタイマーの採用について考えてみる.
 病院は専門家集団の集まりではあるが,部署によって,医療に関する知識や技能がなくても可能な仕事も沢山ある.例えば,一般事務,医事,外来受付,カルテの抽出と搬送,カルテヘの検査成績の貼付,中材業務(器材の洗浄・セット・消毒),看護補助業務などが,それに該当しよう.有資格の専門職をパートタイマーとして採用し,忙しい時間帯に応援してもらうことも考えられる.

病院管理トピックス

〔放射線〕Interventional Radiologyの紹介/〔リハビリテーション〕リハビリテーション専門病院を作り上げるまで

著者: 角田清志

ページ範囲:P.445 - P.446

 1967年MergulisによってInter-ventional Diagnostic Radiologyという名称をあたえられたこの領域は,1980年代に入って画像診断機器や器具の進歩・改良とも相俟って,放射線科診療の中で大きなウエイトを占めるようになった.そこでこの欄を借りて,用語の説明ともあわせて簡単に紹介させていただく.

時評

医師分布に医療の様相を見る

著者: 箕輪良行

ページ範囲:P.447 - P.447

 医師の分布は横軸に年齢,縦軸に人数をとると,25歳から40歳前後までの左側に裾野の長いボタ山と約60歳以降からなる急峻な峰,その間に広がる平坦な谷という景観を呈する.この地形を「勤務先」という地層で色分けすると景色はさらに変化する.
 左端の鈍な山は病院勤務と大学勤務とが大きく2層をなし,診療所の層は薄い.右のコニーデは診療所開設が厚い岩盤となり,病院開設が中間層をなしてわずかに大学関係者がいる.医学界では指導的なピークである.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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