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雑誌目次

雑誌文献

病院49巻8号

1990年08月発行

雑誌目次

特集 救急医療体制の問題点と将来像

救急活動の実態からみた救急業務の課題—東京消防庁救急部

著者: 林栄太郎

ページ範囲:P.644 - P.648

救急活動の実態
増大する救急需要
 東京消防庁の救急業務は,昭和11年に業務を開始して以来50余年が経過し,質量ともに大きな変貌を遂げています.特に近年の救急出場件数の伸びは毎年更新を続け,救急業務が法制化された昭和38年と比べ3.7倍以上の伸びとなっています(図1).これは,高齢化社会の進展や医療ニーズの高まりなどを背景とした社会環境の変化に,核家族化や住民の権利,危機意識の変化などの要因が複雑に関係し,救急需要の増大に拍車がかかっているものと思われ,この傾向は今後も続くと考えられます.

〔座談会〕一次,二次,三次救急医療の連携

著者: 大塚敏文 ,   石原哲 ,   小泉和雄 ,   河北博文

ページ範囲:P.649 - P.660

 河北 本日は「一,二,三次救急医療の連携」というテーマでお集まりいただきました.大学,三次救急というお立場から大塚先生,地域に根づいた病院,あるいは診療所というお立場から小泉先生,石原先生.一次,二次,三次救急医療に限らず,現状から将来に向けての問題点,さまざまなシステムづくりということでお話しいただければと思います.
 救急医療という言葉は昔からございまして,医療あるいは診療のひとつの大きな柱ですが,どうもその目的からは外れた議論ばっかりという気もしないではないわけで,まず現状をどのようにとらえていらっしゃるのか,そのあたり大塚先生からお話しいただけませんでしょうか.

救急隊員の行うプレホスピタル・ケアの充実

著者: 相川直樹

ページ範囲:P.661 - P.665

はじめに
 東京消防庁の救急業務懇話会(会長:都築正和東大教授)は,平成2年4月23日「呼吸・循環不全に陥った傷病者に対する救急処置はいかにあるべきか」について,中條消防総監に答申した.答申には半自動式電気的除細動器による心室細動の除細動など,救急隊員が緊急の医療行為を施行する方策が述べられており,これをめぐって,自治省,厚生省をも含めたプレホスピタル・ケア充実への対応が迫られるようになった.
 筆者は本懇話会の委員として2年間にわたり審議に携わってきたが,本稿では,東京消防庁の答申内容を中心に,我が国の救急隊員が行うプレホスピタル・ケアについて述べていきたい.

民間による患者搬送サービス

著者: 山崎彰美

ページ範囲:P.666 - P.667

患者搬送とは
 患者搬送には,いくつかの種類がある.消防署の救急自動車による搬送,市町村による搬送,民間企業による搬送などである.
 消防署や病院の行う患者搬送の対象は,緊急に医療機関への搬送や転院の必要のある患者である.市町村や民間企業によって行われているのは,定期的な通院など緊急性のない患者である.市町村では医療の機会に恵まれないへき地の住民などに対し定期的に行われており,民間企業は主に都市部において事業を展開している.

救急医療はペイするのか

著者: 安田和弘 ,   深野富士雄

ページ範囲:P.668 - P.671

はじめに
 救急患者は,夜間も休日にも発生する.人が眠っている時あるいは休んでいる時にも,医師・看護婦をはじめ多くの医療従事者を動員し治療に当たる必要がある.慢性疾患の患者の治療と大いに異なる.特に重症傷病患者を救命するためには,高度の医療機器と共に多額の人件費を要する濃厚治療が必要である.現在の保険制度のもとで,救急医療はペイするのかどうかに関して,日本医科大学救命救急センターの実状を中心に検討してみることとする.

精神科救急医療体制の現状と展望

著者: 江畑敬介

ページ範囲:P.672 - P.675

精神科における「救急」の定義
 精神科救急の対象とする「救急」事態を定義することは,身体救急の対象とする「救急」事態を定義することよりはるかに困難である.その理由として,次のようなことが考えられる.まず第1に,臨床精神科医の対象とする「精神障害」自体の概念が必ずしも明確ではないことである.第2に,それぞれの人びとがその人生行路において体験する精神的危機状況一般が精神科救急の対象としての「救急」事態と考えて良いかどうか問題であることである.米国のG.カプランの危機理論に展開される精神的危機は,次のように定義されている.「危機的状況に陥り,それから逃れることもできず,それまで使い慣れた問題解決手段によっても解決することができずに心理的均衡を失った事態」としている.これは,かなり広範な日常的心理状態をも含む定義である.このように定義された精神的危機を精神科救急の対象とすることがわが国の文化土壌に適合するかどうかは十分に検討すべき課題である。第3に,精神科診断が患者の主観的体験に大きく依拠しているために,「救急」事態の判断もまた患者の主観的体験に依拠せざるを得ない面のあることである.第4に,社会的要因が「救急」事態の発現ないし事例化に大きく関与していることである.すなわち「救急」事態の発現の様態と頻度は,社会文化状況と密接な関連をもつと考えられるので,「救急」事態を普遍的に概念化することが困難となる.

外国人の対応をどうするか

著者: 波多野誠

ページ範囲:P.676 - P.679

はじめに
 外国人の診療,特に救急医療にあたり多くの一般医療機関で直面する問題は外国語である.病気についても我々が通常診なれない輸入伝染病もある.文化や生活習慣の違いから,日本の医療に対する過度の期待や不安,医師への信頼度も様々であると思われる.健康保険証を持っていない外国人や東南アジアからの出稼ぎ的労働者の医療費の支払いも問題になっている.
 周辺に在外公館,外資系会社,ミッション系や外国人留学生の学校をもつ九段坂病院での経験を中心に問題点を述べてみたい.

グラフ

障害者の社会復帰・自立を目標に—医療法人恵愛会大分中村病院 社会福祉法人太陽の家

ページ範囲:P.635 - P.640

■よりよき快適サービスの提供
 人口約40万人の県都大分市の中心街,県庁に隣接した市街地にある医療法人大分中村病院は今春,増改築を終えた.今回の増改築は,医療技術の進歩に合わせた最新の医療機器の導入と患者への快適サービスの提供,職員の職場環境の改善などを目標に行われた.
 6階建ての新棟には最新の機器を設置した手術部,中央材料部,病室(2フロア),研修室,外来診療部門および管理部門などが配されている.

建築分野からは初.第28回日本病院管理学会会長に就任した 明治大学理工学部建築学科教授 浦良一氏

著者: 松本啓俊

ページ範囲:P.642 - P.642

 先生の活動分野は多彩である.主要なものの一つに医療がある.
 地域医療計画という言葉はともかくとしても,その計画手法は先生がすでに40年も前に開発し,発展させたものがその原点となっている.

主張

医療法人における継承について

著者:

ページ範囲:P.643 - P.643

 我が国における医療施設の特長の一つは,医療法人立病院の開設であろう.
 昭和63年度の厚生省「医療施設調査」によれば,病院総数は10,034施設となり,前年度に比較して1.9%の増加となった.

辛口リレーエッセー 私の医療論・病院論

21世紀へ向かっての医療を考える

著者: 佐藤武男

ページ範囲:P.680 - P.680

 第2次大戦後,20世紀後半に入ってから,日本は経済の高度成長を達成し,その影響もあって人口の大転換(出生率低下,死亡率低下,平均寿命の延長)が行われた.この奇跡的な変容は日本人の資質によるところが大きいといえる.
 現象面では,大衆高齢化社会が到来し,疾病構造は変貌してしまった.人口ピラミッドは崩れて円筒形になり,急カーブを示して高齢社会に突入してゆく.2021年には65歳以上の老人が総人口に占める割合が23.6%になり,さらに2043年には24.2%にまでなると推計されている.この世界一の高齢化社会となる原因の一つに,戦後のベビーブームの老齢化があげられている.したがって戦後が今から始まると考えてよいのではないか.具体的には,高齢者単独世帯の増加,および痴呆性老人,寝たきり老人の激増がある.

医療を囲む声 病院の視力・聴力・感性

プライバシーは高くつくのか

著者: さとうつねお

ページ範囲:P.681 - P.681

旧態依然の生活空間
 ある有名な大学病院に入院見舞で友人を訪ねた.高層ビルに1,000床以上の病室を持つ大きな病院である,設備も一流で,医療面に関しては何らいうことはないように思われた.だが,心理面を考えると,入院している患者個人個人に対する生活空間は旧態依然として少しも進歩は見られない.というのは,大部屋に入院している患者にとっては,プライバシーを完全に放棄しなければ入院生活を続けて行けないからである.
 ごく普通の8人部屋でベッドの間隔は5〜60cm,用のある時はカーテンで閉ざせるが,布一枚である.目を上げれば両隣,向かい側の4人の患者は常に視野に入る.全て他人である.知らない個人同士の侵されないプライバシーの空間は80cm以上というデータがあるときいた.

病院管理の現場から 看護最前線

看護部の教育目標に思う

著者: 棚田秀子

ページ範囲:P.682 - P.682

 平成2年度の当院の看護目標は,“提供する看護レベルの質的な検討を行い,患者さん本位の看護サービスの向上に努める”というものである.その目標を達成するため,“患者さんを大切に思う心を養い,それを態度をもって表す”ということを看護職員の教育目標の1つに掲げた.具体的にいえば,挨拶を励行する,新入院患者さんへの自己紹介を徹底させる,患者さんとの会話には必ず敬語を使う,看護動作時には必ず声かけをする,患者さんの退院時にはお見送りする,といったことである.
 このような内容は看護婦としてごく当たり前のことではあるが,さらに徹底させるために,あえて教育目標として掲げたわけである.

建築と設備・52

茨城県立中央病院

著者: 金井信一

ページ範囲:P.683 - P.689

 茨城県立中央病院は,当初結核療養所として開設され,その後総合病院として整備されたが,施設の老朽化,各種設備的な対応,将来的な医療環境に対する展望,といったさまざまな形で旧病院が抱えている課題に対して回答を与えると同時に,周辺施設の整備も合わせた形で改築計画がたてられた.
 旧茨城県立中央病院は,現在駐車場として整備された場所に建てられており,その西側に県立看護学校及び保育所(病院職員用)があったが,これらの施設は病院の改築に先立って現在の敷地に接した形で先行整備(看護学校は県立中央看護専門学院として拡充整備)するとともに,西側部分をさらに拡張して病院敷地として用意したものである.

わが病院の患者サービス

船橋市立医療センター—病院運営の合理化を求めて

著者: 奥山武雄 ,   佐藤裕俊

ページ範囲:P.690 - P.691

 「病院の患者サービス」という言葉は幅広い意味を持っている.大別すれば,1つは迅速で適切な医療の提供という医療の本質に係わる部分,もう1つは建物の構造,設備あるいは種々の情報の提供のあり方など,院内環境の快適性や利便性の側面である.両者が二律背反するものでないことは論を俟たないが,現今,医療機関に対しては,とくに後者に対する風当たりが強く,一部マスコミはこれに便乗して病院にはサービス精神が皆無であるかのように喧伝している.その結果,ピカピカの設備や医療機器,愛想のよい応待がよい病院という偏った評価を一般の人に植えつけかねない事態も生じている.
 わが国の医療界のサービスが劣悪で,その原因に努力不足があったことを否定はしないが,この面のみが強調される余り本質論が不在になることを恐れ,嘆かわしく思うのは筆者だけではあるまい.

医療従事者のための患者学(最終回)

“援助”を問う—患者学終章へ向けて

著者: 木村登紀子

ページ範囲:P.692 - P.699

 本シリーズでは,患者をより良く理解し援助するにはどうすれば良いかを模索してきた.最終回の本号では「援助とは何なのか,患者は果してどんな援助を求めているのか」について考察する.

特別寄稿

看護システムと医療管理(下)

著者: 宇都由美子 ,   熊本一朗 ,   朝倉哲彦

ページ範囲:P.700 - P.703

 前号では,鹿児島大学医学部附属病院における,コンピュータを介した看護システムの構築・導入・運用の経験について述べてきた.今回は,看護システムの評価を中心に,医療管理面への応用例を紹介したい.

統計のページ

フランスの医療費統計④

著者: 中島誠

ページ範囲:P.704 - P.705

1.医療費構造の分析
 一般制度における疾病保険の給付の内訳の推移は,表1に示した通りであるが,病院医療費の割合が1984年の54.8%から85年に51.8%に下がったのは,1984年に公立病院および公的病院サービス(一般医療の他,救急医療並びに医療関係者の研修および医学研究がその使命となり,公立病院はすべてこのサービスを担う)を担う私立病院に「総枠予算」方式が導入されたためである.
 フランスの病院類型は,公的病院サービスという概念を中核に図1のように分類されている.そして表2からわかるように,長期入院および内科については公立病院が,外科については私立病院が,主要な役割を果たしている.こうした病院医療費の給付内訳の概要は図2の通りである.

GROUPING & NETWORKING

若手医師の会

著者: 松原雄一

ページ範囲:P.706 - P.707

◆成立の経緯
 さまざまな運動が困難な後退局面にあった1970年代後半,医学生運動の要である医学連(全日本医学生連合)を再建しようと動きだした医学生たちは,1980年6月に医学連第23期大会を開き,全国的なネットワークを持った.
 この活動を中心的に担ったものたちがやがて医師となり,1983年5月,15名の参加で青年医師の交流を図ることを目的として「若手医師の会」を結成する.

病院運営の合理化を求めて

倉庫のない病院

著者: 安田尚之

ページ範囲:P.708 - P.708

 どこの病院でも同じだろうが,外来,病棟,医局,管理部門などの部署には,書類,図書,機器,什器備品など種々な物が増えてくるものである.ところが当院では,建設の段階で各部署のスペース配分をするときに,倉庫(物置)は置かないことに決めていた.倉庫を置くと不要なものまで抱え込み無駄が生じる,ということで,病棟にも倉庫を設けないことにした.それをカバーするために,搬送システムとワゴンによる物品の供給,ナースステーションの面積を広くして回診車,包交車などの道具類を内部に収める計画を立てたわけである.ところが,開院5年目に保管スペースに問題が生じることになった.
 その具体例を挙げると,外来・入院カルテ(光ディスクによる保管を検討中),X線,シネアンギオなどのフィルム類,心エコー図,ホルター心電図,脳波などの記録類,手術台帳,X線照射録,病理報告書,解剖例ファイルなど,5年間にどんどん増えてきたものである.

病院管理トピックス

〔クリニカルエンジニアリング〕我が国の病院CE部門の現状と将来—三井記念病院MEサービス部を例にして/〔病院労働〕病院組織と専門職/〔放射線〕「画像診断における医師と技師の境界線」は…

著者: 小野哲章

ページ範囲:P.710 - P.713

 臨床工学技士制度が発足して,早や3回の国家試験が行われ,すでに5000人近くの「臨床工学技士」が誕生している.
 しかし,その大部分は,小規模の透析クリニックに属して,透析業務のみに携わっている.病院全体のCE業務に1つの組織として総合的に携わっているCE部門はまだ非常に少ない.我が国のクリニカルエンジニアリング(CE)の発展のためには,病院の診療部門の1つとして,病院全体に組織的に係わっていく「病院CE部門」の確立が不可欠である.

厚生行政を読む

新医療技術の臨床適用

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.714 - P.715

はじめに
 最近,肝臓移植を始めとした新しい医療技術の臨床適用が盛んになってきているようである.医療技術が進歩すること自体は,基本的には歓迎すべきことであろうが,新しい医療技術にはそれが未開拓分野であればあるほど,新たな医療被害を生み出す可能性も内在していることを銘記しておくべきであろう.医薬品の場合は,サリドマイド事件以来,有効性と同時に安全性についても関心が向けられるようになってきたが,医療技術の場合は有効性が高ければ良しとされる傾向もあり,有効性よりも危険性の方が大きい医療技術が登場してきても気づかれにくい状況にある.医療用医薬品も医療技術もその目的とするところは同じであるのに,異なった考え方で臨床適用がなされているのである.これは是認してよい現状なのであろうか.

医療・病院管理用語ミニ辞典

〔病院管理〕包括医療/[産婦人科治療]検体検査(2)

著者: 小野丞二

ページ範囲:P.716 - P.716

 1946年,英国の「国民保健サービス法National Health service Act」で,すべての英国民は包括医療com-prehensive health careを受ける権利を有するとされてから,包括医療の概念は世界各地で注目されるようになった.
 現時点では,包括医療とは,次の三点が満たされる概念ということができる.

時評

死にたがる人々

著者: 矢島嶺

ページ範囲:P.717 - P.717

 最近やたらに「死にたい」と言う患者さんにぶつかる.外来でも往診先でも多く聞くようになった.
 「ぽっくり死にたいから先生その時は頼むね」というのと,「もういやになったから先生死なせて……,さよならさせて」との2派に分かれる.老人も80代後半になるとこういうことを言い始める.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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