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雑誌目次

雑誌文献

病院49巻9号

1990年09月発行

雑誌目次

特集 「高機能病院」の目指す道

「高機能病院」を考える

著者: 伊賀六一

ページ範囲:P.740 - P.743

はじめに—医療法の改定について
 医療を取り巻く環境の変化は,現代に入ってその速度を増し,医療にとって激動の時代を迎えているといって過言ではない.すなわち医学・医療の専門分化による高度な発展,高齢者社会の到来,医療の経済性の問題,更には医の倫理の問題なども含め,それに対してこれからの病院がどうあるべきか,病院の概念,また病院の構造や機能について,常に新しい問題が提供され,かつ解答が迫られているといってよいであろう.
 我が国の医療社会で,「医療資源の開発と配分」,「病院機能の明確化」,「インフォームドコンセント」,「病院機能評価」などについて語られるのも,そうした認識から出発したものである.その意味で病院医療の質の向上と効率化を具体的に図ることは現代の医療社会の大きな命題であろう.

「高機能病院」の条件

著者: 古川俊之

ページ範囲:P.744 - P.749

高機能病院の条件
 高機能病院を作る環境をどう醸成するかは大問題であるが,高機能病院の条件を定義するのは却って容易である.いわんや高機能病院の備えるべき機器・設備などを列挙せよといわれれば,これほど簡単なことはない.しかし今日の時点で最高の高機能と考えた機器・設備は,この小文が読者の記憶に残っているうちに陳腐化している可能性すらある.したがって,たとえ困難でも,高機能病院をどう実現するかを論じるのが正論であろう.
 その前に壁えとして,都市のランク付けの条件といわれる尺度を紹介しておこう.世界都市ともいうべき国際都市の備える条件は6つある.①有名な建築物がある(聖ペテロ孝院,エッフェル塔,エンパイアビルディングなど),②芸術・音楽の発信地である(ウィンナワルツ,ジャズ,ビートルズなど),③映画・小説などの舞台となって知られている(凱旋門,戦争と平和,など),④世界史的な事件の舞台である(バスチーユ牢獄,ベルリンの壁など),⑤ビジネス・経済の中心地である(ウオール街,ボンド街など),⑥自然景観と人工環境が特異な調和を形成している(セーヌ川,テームズ川,レマン湖など)である.なぜこんな馬鹿馬鹿しい譬えを挙げたかというと,高度先進病院と他の病院とどこが違うかと問われると,同じような答えになることに気付いたからである.

「高機能病院」と患者の流れ

著者: 大道久

ページ範囲:P.750 - P.754

はじめに
 患者のいわゆる大病院志向が指摘されて久しい.事実,東京都内の大学病院には,1日4千人を越える外来患者が受診することが珍しくない場合があるという.これ程でないにしても,地域の基幹的病院に,より多くの患者が殺到する傾向は年々強くなっており,診療所の開業医師とこれらの病院との関係は,相互の機能の連係と分担が叫ばれながら,実際の患者の流れは一向に変っていないように見える.
 一方,制度としての医療施設の体系的区分の方向付けは,医療法の改正法案として,その概略が明らかになってきている.それによれば,従来の病院を,高次の機能を担うべき特定機能病院と一般病院に区分し,さらに長期療養を目的とした療養型の病床群を設定するという.高齢化による医療ニーズの構造的な変化を受けた療養型病床については,一応の必然性を認め得るものの,病院の高機能部分を制度的に区分することの意味合いについては,十分な論議が必要であろう.

「高機能病院」制度化の是非

著者: 岩﨑榮 ,   小山秀夫

ページ範囲:P.755 - P.760

まず病院認定の制度化が必要
はじめに
 高機能病院という言葉の,特に「高機能」の部分にこだわってみたいと思う.何をもって「高機能」と判断するのかということである.
 恐らく「高機能」を測る物差しは判断する人の立場,価値観等によって,さまざまな解釈が成り立つと考えられる.

〔鼎談〕「高機能病院」の将来

著者: 浅田敏雄 ,   川﨑明徳 ,   紀伊國献三

ページ範囲:P.761 - P.768

 紀伊國 本日は,「高機能病院の将来」ということでお話をしたいと思います.
 ご承知のように,第二次医療法改正を控えて,大学病院等が高次機能病院に該当するのではないだろうかと議論されたわけです.

グラフ

“静内型”精神科医療めざして—北海道静内町 石井病院

ページ範囲:P.731 - P.736

 北海道静内郡静内町.
 日高支庁の中央に位置し人口9,155世帯24,419人(1990年6月末日現在).この10年やや減少傾向.

九州人の気骨をもつ知性派 第十六回診療録管理学会長・国立津病院院長 岡崎通氏

著者: 安部宗顯

ページ範囲:P.738 - P.738

 岡崎通先生の広く秀でた額は知的であり,その下に鋭い目が光っている.物事の核心を的確にとらえ,また論理的に話を進めていく迫力は今も変っていないことを先日久し振りにお会いしたある学会のロビーで感じた.
 九大医学部第三内科でお互いに澤田藤一郎先生から内科学への目を開かせていたださ,また宮地一馬先生の研究へのひたむきな姿勢に強く影響されたことが懐しく思い出される.フライヴルグ大学・ハイルマイヤー教授の下への留学は西欧的合理性を身につけるのに大いにあずかったのではないだろうか.大学の教室での多くの蓄積が学外に出たとき,いろいろの形で発揮されるものであるが,岡崎先生にとつては今のような立場で国立医療に参画し,また日本病院会にあって学術の面で持ち前の英知と指導力を発揮されるのがもっともふさわしいと私は思う.

主張

医療関連ビジネスと病院

著者:

ページ範囲:P.739 - P.739

 医療を支える周辺事業のあり方が議論され始めてから数年が経過した.給食業務の外部委託の是非が問われて以降,この議論の流れは新たな方向に視座を移していったと見ることができる.すなわち,外注による単なる経済効率の追求という観点から,病院機能の一部を,外部の組織が契約的関係によって支えることのあり方についての問題へという方向である.
 清掃・洗濯業務,施設・設備の安全管理,検体検査,電算システムの運転・保守等については,業務の画一性や規模の経済性などによってその質の確保が十分に期待でき,委託外注の合理性は一般的に納得できるところである.ところが,給食,薬剤,訪問看護等の業務となると,それぞれの領域に専門職種が確立し,医療そのものを担う病院機能として定着してきただけに,院外の事業体へ委託する場合には,特別の配慮が求められる.すなわち,専門性に基づく医療の論理と,委託先の企業の論理との調和を図る努力が求められるのである.

辛口リレーエッセー 私の医療論・病院論

日本の医療と看護婦対策

著者: 大田満夫

ページ範囲:P.770 - P.770

 退院される患者さんから,お宅の看護婦さんには,いつも嫌な顔一つせず,家族でもできないようなことを親切にして貰った,と感謝されると,院長としてこれほど嬉しいことはない.しかし,看護婦は2人夜勤で忙しいので夜は気の毒でなかなか頼めないという声も聞こえてくる.日本の医療とman power,ことに看護婦の充足は今後の重大な問題である.1986年の調査で,病床100に対する看護職員は,厚生省33.3人,公立47.1人,日赤48人,済生会45.3人である.この人数をみれば,国立病院の院長がいかにman powerの不足に苦悩しているか,少しはご理解いただけると思う.
 日本人の平均寿命は急速に延びて,世界一の長寿国になった.ところが年齢階級別の受療率をみると,65歳を越えると壮年の受療率の2倍以上,70歳以上では3〜4倍にも増加し,病院が老人で占められている所も少なくない.病院のman powerの必要性は大きくなる一方である.

病院管理の現場から 医事課窓口から見えるもの

OA化と手作りの業務

著者: 佐藤俊一

ページ範囲:P.771 - P.771

言われた仕事,言われなかった仕事
 「そういうことは説明されていませんでした」という台詞を最近職場でよく聞くようになった.そこで言われていることは,マニュアルにない,あるいは職場において当たり前の仕事の仕方に関わることが多い.特に若い人たちにその傾向が強いが,病院全体を見渡しても同じような傾向が見られる.そのことの歪みが,仕事のやり方にいろいろな影響をもたらしている.
 ある病院の外来医事課のカウンターで見た風景である.医事課の方々は皆一生懸命与えられた業務をこなしていた。それぞれの人が,自分に与えられた事務処理を早くこなそうとコンピュータを操作し,自動カルテ抽出機を稼働させていた.ここまでは,どこの病院でも見られる医事課のカウンターでのごく一般的なものだった.

建築と設備・53

東京都リハビリテーション病院

著者: 川島浩孝

ページ範囲:P.772 - P.777

■はじめに
 この病院は,東京都におけるリハビリ医療の三層体系(初期・専門・地域リハビリ)の中での,専門リハビリ医療を担う中核的施設として機能する一方,災害(特に関東大震災級の大地震を契機として発生する一連の災害)時には,江東地区防災拠点の1つである白鬚東地区(防火壁となる高層住宅群と隅田川に囲まれた避難用公園)内の災害医療センターとして機能するという,2つの役割を併せ持つべく設立された施設である.
 平成2年5月,165床(初年度は89床)の病院として開院した当病院では,その運営を東京都医師会に委託するという公設民営方式における新スタイルが採用されており,今後の都立病院運営の1モデルケースとしての位置付けもなされている。

医療を囲む声 病院の視力・聴力・感性

患者の病感に向き合うとき(1)

著者: 山本和利

ページ範囲:P.779 - P.779

違和感はどこから
 患者が医師を訪れ,診断をつけてもらい,治療法を確定してもらったにもかかわらず,何かしら釈然としないものを感じて医師のもとを去る,といった経験を持ったことはないだろうか.患者側からみると思っていることの半分も伝わらないようで,何か期待が裏切られたような妙な違和感を医師との間に感じてしまう,そんなことが往々にしてあるように思う.私は医師なので,こんな言い方は無責任のように聞こえるかもしれないが,日々医療に携わりながらそんなことをふと感じてしまうことがある.
 私たちは医学部教育の場や,初期研修の現場で,「医師は患者に優しく接しなければならない.患者を包括的にまるごと人間としてみなければならない.」と教えられてきた.患者は実際には病気(disease)といえなくとも,主観的に病気と思いこんで(illness)医師を訪れる場合がある.しかし,医療の現場では,この患者の悩んでいる問題(illness)を解決する前に診断をつけることが優先されがちになる.そのことから,患者が望んでいないような無理を押しつけられるようなことも出てくる.それはよく指摘されるように,医療が専門分化し過ぎ,患者を包括的に診ず,臓器のみを診るという傾向にあるということが一因となっていると言えるだろう.

実践・病院のマネージメント・8

コミュニケーションと権限の委譲について(1)

著者: 井手道雄

ページ範囲:P.780 - P.783

 現在までの病院の組織としてのあり方について考えると共に,現在そして将来の病院に影響を与える環境の変化を考えると,病院は他企業と比較して組織としての未熟さを数多く有している.また,今後病院を叩き潰すような環境は組織としての未熟さを無視し,組織の成長を待たずに激しく容赦なく襲いかかってきており,この2つの格差には唖然とする.
 同時に,今後これらの問題にいかに対応し,いかに改革していくかが重要な課題として呈示されており,これらを自らの手で乗り越えなければ解決策は無いことにも気づかされる.

ルポ&インタビュー 病院アレコレ見聞録

脳神経外科主体の外科系専門病院—医療法人秋葉病院

著者: 秋葉弥一 ,   田澤俊明

ページ範囲:P.784 - P.787

 秋葉病院は秋葉弥一理事長(前院長)により昭和54年に埼王県浦和市に開設された.開設当初から外科,脳神経外科などを標榜した外科系の専門病院として,浦和市およびその近隣の医療に貢献してきた.一昨年,脳神経外科専門医の田澤院長が就任した.先般施設の拡充と整備を図り,第2のステップに入っている.

厚生行政を読む

出生率の低下と医療(上)

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.788 - P.789

 厚生省は去る6月9目に平成元年の人口動態統計を発表したが,我が国の合計特殊出生率(ある年間の女子の年齢各歳毎の出生率を合計したもの.仮にその産み方で生んだとして,1人の女子が一生の間に生む子供の数)は1.57となり,丙午(ひのえうま)の昭和41年を下回って戦後最低となっている.これは人口の維持に必要とされる数値である2.1を大きく下回っており,この結果,今世紀中にも老年人口(65歳以上)が年少人口(14歳以下)を上回る可能性もでてきている.出生率の低下は人口の高齢化を加速するものであり,それが社会経済全体に与える影響は大きい.そこで,今回はこの問題にスポットを当て,出生率や我が国の人口の現状を分析するとともに,それが今後の医療に与える影響について探っていきたい.

統計のページ

スウェーデンの医療費統計

著者: 渡邉芳樹

ページ範囲:P.790 - P.793

1.高位安定型の国民医療費
 1985年におけるスウェーデンの国民医療費総額は806億9,800万Skr (スウェーデンクローナ.平成2年6月18日現在1Skr=約25.3円.このレートで換算すると約2兆円)であった.同年のGDP (国内総生産)が8,625億2,200万Skr (上記レートで換算すると約21兆8,000億円)であり,国民医療費総額の対GDP比は9.4%であった(表1参照).
 近年の国民医療費の伸びの特徴は,対GDP比9%台でほぼ安定期に推移していることである.表1に明らかなように同比率が6%台であったのは1966年と1967年の2年間のみであり,7%台であったのも1968年からの7年間,8%台が1975年と1976年の2年間のみという急.上昇振りであったものが,1977年以来9年間9%台に留まっており,しかも1982年に9,7%を記録して以来年々わずかながらも低下していることが特徴といえよう.

病院運営の合理化を求めて

医療事務のコンピュータ化

著者: 安田尚之

ページ範囲:P.794 - P.794

 医療事務のコンピュータ処理に早くから取り組んでいる病院もあると思うが,歴史的にみて,病院で広く利用されるようになったのは,昭和50年代後半であろう.病院内にコンピュータ機械室を設け,情報の入力とデータの取り出し(レセプトの打ち出し)も病院内で行うのが一般的な方法である.更に最近は,オールトータル(オーダリング)システムを採用する病院も増えてきている.
 コンピュータの採用には,人,スペース,装置(ハードとソフト)のイニシャルコストとランニングコストに膨大な資金を必要とするので,安く,早く,楽に,正確に医療事務の処理ができるシステムを考えなければならない.

病院管理トピックス

〔病院経営〕意思決定会計と病院経営②/〔リハビリテーション〕OTは,いま—21世紀に向けて

著者: 川渕孝一

ページ範囲:P.796 - P.797

◆設備投資の経済計算
 前回は意思決定会計の特微・諸概念について述べたが,今回はそれを踏まえて設備投資の経済計算について述べる.
 しかし,設備投費の経済計算という言葉は聞きなれない言葉なので,その基礎概念を簡単にまとめておくことにしよう.

医療・病院管理用語ミニ辞典

〔病院管理〕ファイリング・システム/〔救急医療〕大動脈内バルーンパンピング法

著者: 一条勝夫

ページ範囲:P.798 - P.798

 情報を記録し,伝達し,保存するのが文書帳票であるが,こうした文書をいつでも容易に引き出して使えるように,要領よく整理し保存する方法に,ファイリング・システムがある.
 病院で最も重要な文書が診療録である.患者がいつ来院しても,彼の診療録を直ちに引き出して使えるように,保管しておくことが必要である.それには,患者ごとに「フォルダー」という見出し耳のついた厚手の紙挟みに納め,分類索引をつけて整理保管する.フォルダーの並べ方は,図書館の索引カードのように耳を上にして立てて並べ,ファイリング・キャビネットやロータリー・ファイルに保管する方法と,一般の書架を使って書籍のように耳が横に出るように立てて保管する.フォルダーを立てて保管するので,バーチカル・ファイリングという.

時評

診察時間を科学する

著者: 箕輪良行

ページ範囲:P.799 - P.799

 いま私は大学附属病院で診療している.可能な限り十分な時間をかけて診察したいと思う.おそらく大学人の贅沢の最たるものに,この「十分な診察時間」があるのではなかろうか.そうしていられることをありがたいと感謝している,と同時に,後ろめたさに似たものも感じている.特に相当な立場にある医者が,大学でそれだけ十分な診察時間をかければそういうことができて当たり前だと,言外に込めて発言するのを聞くと,むしろ空しくさえ思われる.
 申し開きになるが,大学で十分な時間がとれる背景を私は次のように考える.附属病院の経営に関して収入面では,大学一般会計からの繰り入れなどのバックアップ,市中病院に比べて外来もだがそれ以上に高額な報酬単価をあげられる高度入院診療,支出面ではどこよりも安価な若手「医師」の人件費などが大きな要因であろう.利用者サイドからは,じっくりと,あるいはすみずみまでみてもらいたいという患者の期待と,大学なのだからどんな診療でも我慢しようという権威への順応などが考えられる.そして決め言葉は「大学は診療機関であると同時に,研究,教育の場なのだ」という伝家の宝刀であろう.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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