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雑誌目次

雑誌文献

病院50巻1号

1991年01月発行

雑誌目次

特集 病院のパラダイムシフト

[てい談]医療の枠組みをどう変えるか

著者: 諸橋芳夫 ,   村瀬敏郎 ,   大道久

ページ範囲:P.18 - P.24

 大道 今日の座談会は「医療の枠組みをどう変えるか」という,かなり大きなテーマを掲げさせていただいております.「病院」誌も記念すべき50巻を迎え,この記事がその第1号の巻頭を飾るということで,このような大きなテーマを設定した経緯があると承っております.
 そこで,日本病院会の会長でいらっしゃいます諸橋先生,日本医師会の副会長でいらっしゃる村瀬先生においでいただいて,高い視点からいろいろとお話をしていただきたいと思います.

医療における社会保険の役割と限界

著者: 安田恒人

ページ範囲:P.25 - P.28

 わが国の貿易黒字が依然として続き,資産の蓄積の解消のために海外での投資も依然として行われ,外圧もあろうが海外への援助も次々に発表され,国内では今後10年間に430兆円の公共投資を行うと政府が表明しているのに,医療の世界では病院の経営があっぷあっぷで,やっと運営を維持することの限界にあって,民間の病院が身売りをする話があちこちで囁かれ,現実化し始めている.
 先行きが不透明だとはいわれながら,とにかく医療以外の自由経済社会は成長を示しているのに,この社会のなかで取り残された統制経済の医療がここにある.このような現実に当面するに至った原因と,よってきた制度運用のあり方や責任の所在を掘り下げて,どうすればこのような歪みを解消できるのかを検討することが急務であろう.そしてそれがこの特集企画の目的なのだろうと考える.

[インタビュー]もっと医療に競争の原理を—浅田敏雄・日本私立医科大学協会長に聞く

著者:

ページ範囲:P.29 - P.33

 本誌 第2次医療法の改正問題を持ち出すまでもなく,これから21世紀の初頭にかけて,日本の医療は大きく様変わりするのではないかといわれます.いわば,既成の枠組みを超えたところで,医療がいかなる変化を実現できるのかが問われているのかと思います.そこで今日は,日本私立医科大学協会の会長でもあられる浅田先生に,わが国の医療とか病院,医学教育といった広範な問題について日頃のお考えをお聞きしたいと存じます.

医療費の将来を展望する—大幅な伸びは期待できるか

著者: 田中慶司

ページ範囲:P.34 - P.39

 21世紀を目前にして,医療のパラダイム転換を考えるとき,その切り口には様々なものがあり得る.国民のニーズの高級化や,医療技術の高度化,医療マンパワーの供給,制度面での対応等々である.その中で1つの大きな側面を占めるのが経済的な観点で,これに関して私見を述べてみたい.長期的な展望であること,また病院の医療費に限ったものでないことを,あらかじめお断りしておく.

公私の病院が共に生きる道

著者: 廣田耕三 ,   早川大府

ページ範囲:P.40 - P.43

公的病院の立場から
相互理解を前提とした連携を!
はじめに
 21世紀に向けての日本医療のパラダイムシフトは,第1次医療法改正をうけて実施された地域医療計画で,その第1段階が踏み出されたと考える.これと並行して,「国民医療総合対策本部中間報告」に基づく医療政策が,診療報酬点数改定という経済的手段によって着々と実行されつつあるのが現状である.
 更に今後の第2段階としては,先年発表された「転換期に向けての厚生行政の新たなる展開」が医療政策のアウトラインを構成するものであり,近く予定されている第2次医療法改正によってより明白となり,かつ,その方向での政策転換はより加速されるであろう.

[座談会]病院に求められる発想の転換

著者: 中山耕作 ,   海北幸男 ,   柳澤忠 ,   川渕孝一 ,   川島みどり

ページ範囲:P.44 - P.52

 問題提起(川島) 先だって,ある社会学者とお話しをしていて,医療について次のような疑問を投げかけられました.病院はどんどん巨大化しているが,その巨大な病院は一体何をしているのか,患者さんの健康へのモチベーションが高まっているにもかかわらず,それを利用していないのはなぜか,セルフコントロールしたり,ライフスタイルを変えればかなり長生きできる慢性疾患患者が緩解と増悪を繰り返しながら死んでいくのはなぜか,それも医者や看護婦が一生懸命頑張っているにもかかわらず,そんな状態が続いてるのはどうしてなのか,病院の医療スタイルはどうして変わらないのかというわけです.
 もう1つ似たようなエピソードがありました.特別養護老人ホームの寮母さん,生活指導員,福祉関係の方がたくさんいらっしゃっているシンポジウムに,私は病院の看護を代表して出席させていただきました.そこでは病院の看護婦が大変悪者にされまして,お年寄りが寝たきりになって,おむつを当てられ,留置カテーテルが入っていて,そして褥瘡をつくって病院から特養に入ってくるようでどうするんだ,ということで,かなり攻撃の的にされたわけです.そんな病院の看護婦に対する厳しい目は,福祉から医療に投げかけられたものでは決してなく,患者さんの代表というか,国民の厳しい声として受けとめなくてはいけない,と思ったわけです.

グラフ

心をつなぐリレー—東京・東大和病院

ページ範囲:P.9 - P.14

 午前8時30分.野口総婦長(61歳)は,もうり階外来フロアの片隅で新患の受け付け準備にとりかかる.患者や家族に最も身近かな看護職こそ病院への評価のカギを握ると信じ,接遇教育に自らの姿勢を示すためである.インフォメーションや健康相談,苦情処理などが主であるが,思わぬメリットもあることに気づいた.患者の生の声が聞けることと,職員の動向や応対ぶりが非常によく把握できることである.この病院に来て4年余り.自身も見られていることを意識しつつ,日々新たな発見と爽やかな緊張感を味わう.
 総婦長室は,ない.ただ,4人の病棟婦長と共有の部屋が1つ.院長はじめ他の職員のと同様,旧館の北向きである.誰でも自由に,気軽に出入りできるようにと,ふだんはカギもかけない.

沖縄県立中部病院院長に就任された 真栄城優夫氏

著者: 宮城征四郎

ページ範囲:P.16 - P.16

 平成2年4月より本院の新院長になられた真栄城優夫先生は,文字通り沖繩の医療界に新風を吹き込み,modern medicineを導入された立役者である.昭和31年に九州大学医学部をご卒業ののち米国に渡られ,基礎医学研究を主とした留学制度流行りの風潮の中で,敢然と米国卒後臨床医学研修に挑戦され,chief resi-dentを含む厳しい5年間の外科研修の後,当時の日本人としては数少ない米国外科専門医(American Board of Surgery)の資格を得られて帰国された.
 その後の先生の八面六臂のご活躍ぶりは夙に有名であり,臨床の場にあっては血管外科,腹部外科,胸部外科は言うに及ばず開心術を中心とした循環器外科に至るまで幅広い分野にわたってその鋭いメスを振るわれ,また,多くの著書・論文の執筆のみならず学会活動や講演活動も活発にこなされ,国際外科学会,日本医学会総会,日本外科学会,日本臨床外科学会,救急医学会,などでのシンポジウムや特別講演,教育講演などを通じて日本の医学界に寄与された多大な功績をすべて紹介するにはここでは紙面が足りない.

主張

望まれる医療評価の開発研究

著者:

ページ範囲:P.17 - P.17

 医療の量から質への転換がいわれて久しいが,現実の医療の場面では一向に変わってきたという印象はもたれない.もっとも,量的にも本当に満たされたのだろうかと疑いたくもなる医療の現場の状況である.
 確かに,トータルで見れば,医師数にしても人口10万対164.2人(昭和63年末)となり,目標値150人を上回っている.病床数にしても,平成元年10月1日現在で,病院の病床数は166万床(人口10万対1,348.4床)で,一般病床だけでも124万床で,人口10万対1,005.9床となっている.

特別記事

医療記録の証拠価値

著者: 鹿内清三

ページ範囲:P.53 - P.58

医師法が予想していなかった電子カルテ時代
 医師法は,診療録の作成・保管を義務付け「医師は,診察をしたときは,遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない.」と規定しているが,この法律制定当時には現在の電磁的記録方法は発明されていなかったのであるから,法律の「記載しなければならない」という規定はあくまでも紙の上で読み取れる記録方法を要求しているものである.したがって,現在の医師法は全くのペーパーレスカルテすなわち100パーセント電磁的記録方法による電子カルテというものは許容していない.
 しかし,現実には診療録の情報処理化の要求が多くの関連機器を開発しており,コンピューターの導入によってカルテの内容は変わってきている.ことに診断画像の磁気記録,光記録,半導体メモリーは情報の管理には欠かせないものとなってきている.

勤務医からの発言

病院の求める医師—プライマリ・ケアのできる専門医

著者: 福間誠之

ページ範囲:P.59 - P.59

医師の原点
 最近の医学部を卒業した若い医師の傾向として,卒業直後から専門医になることを目指して,幅広い卒後臨床研修を希望しないようであるが,医学部の臨床教育の現状を見聞きすると,これでこれからの医療を担う医師が養成できるのか危惧する.
 21世紀の医療はさらに細分化され,高度化すると予測されるが,そのような時こそ医療の原点ともいえるプライマリ・ケア(患者に初めて接する初期診療から,全人的医療やターミナルケアまでの継続医療も含む)ができる医師が必要であると考える.大学病院以外の一般総合病院での夜間や休日の当直は内科系と外科系の医師が一人ずつ担当して,専門分化した科の医師が当直することもあり,この時,専門外の患者が時間外に受診すると対応に困ることがある.医師は国家試験に合格して免許証が与えられ,医療に携わることを法律的に許されているので,どのような患者がきても,医師としてできる範囲のことはしなければならない.自分の手に負えないような患者は,適切な専門医に紹介すればよいのであって,まず,患者の問題は何であるか判断ができなければならない.

わが病院の患者サービス

松波総合病院—鬼手仏心

著者: 松波英一

ページ範囲:P.60 - P.61

 松波総合病院は昭和8年に開院,250床の一般病院であったが,昭和63年,隣接地に437床の総合病院を新築完成した.(旧病院は,老人保健施設100床,附属診療所19床に転換)
 この「病院冬の時代」に何故?各方面から疑問視され,非常識,無謀とささやかれたが,新築オープン後2年有余を経た今日,完全に軌道に乗り,新築のスケールメリットが各所に現われ,外来患者数は1日平均1,200名(旧病院の約3倍)を越え,病床稼動率も98%となり,高度な医療サービスの提供が可能になった.その原動力となったのは何か?医師,看護婦,事務職員の極限に近い努力があったことが最大の理由であるが,残念ながら我々の体力,知力には限界がある.これをカバーしたのが当新病院のインテリジェントホスピタル化と,有機的な拡張性のあるパワーを発揮できた優秀なソフトであった.

厚生行政を読む

価値観の変化と受療行動

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.62 - P.63

はじめに
 インフォームド・コンセントの概念が世間に紹介されてこのかた,医師-患者関係に関する話題が賑やかになってきている.人間の価値観というものは時代とともに変遷してゆくものであるが,遅ればせながら医療においても,医療を提供する側本位に医療が進められてゆくのを当然としていた永年の価値観が,近年,大きく変わりつつあるようである.個々の患者はそれぞれの価値観に基づいて医療機関を選択する(しない)わけであるから,この急激な価値観の変化は,病院経営のあり方,ひいては医療のあり方を大きく変えてゆくことになるであろう.

医療を囲む声 病院の視力・聴力・感性

より多くのデータから学ぶ大切さ

著者: 山本和利

ページ範囲:P.64 - P.64

 医師というものは一般に患者を診察し,必要があれば検査をし診断を下し,治療に当たるものとされている.しかし,これは口で言うほど簡単なことではない.まず,診断を下すまでにいろいろなアプローチの仕方があり,医師によって千差万別である.

建築と設備・57

市立芦別病院

著者: 名古屋大学柳澤研究室 ,   久米建築事務所

ページ範囲:P.65 - P.70

■芦別市活性化中核:市立病院
 芦別市は北海道のほぼ中央に位置し,豊かな自然に恵まれた市である.大正年間に始まる石炭産業によって町は大きく発展したが,昭和30年代中頃のエネルギー革命とともに鉱業中心の産業都市から脱皮し,スキー・温泉・牧場などを生かした観光都市へと生まれ変わりつつある.
 三井石炭鉱業所が最も華々しく業績を上げていた昭和23年に芦別厚生病院が開院し,25年に町立に移管されたが数年後に焼失し,28年の市制施行を記念して29年に市立芦別病院が落成した.以来幾度かの増改築を重ねて,芦別市の医療の中心的役割を担ってきたが,厳しい自然条件の中で建物の老朽化が進み,近年の医療の高度化に対応できなくなり,全面的な移転新築が計画された.

特別企画 診療報酬の請求・審査・支払をめぐって〈連載・3〉

保険医療機関に対する指導・監査

著者: 岡本悦司

ページ範囲:P.71 - P.75

行政による指導・監督
 医療機関に対する行政の監督は保健部局(保健所)による「医療監視」と,保険部局による「指導・監査」の二重構造になっている.
 保健部局による「医療監視」は,開設者や管理者に必要な報告を命じたり「清潔保持の状況,構造設備若しくは診療録,助産録その他の帳簿書類」の立ち入り検査を行うもの(医療法第25条)で,このため都道府県,保健所を設置する市には「医療監視員」が置かれ,厚生省健康政策局指導課には医療監視専門官が置かれている.

医療施設間連携

兵庫県立尼崎病院

著者: 藤岡晨宏

ページ範囲:P.76 - P.79

 兵庫県立尼崎病院と尼崎市医師会の間に,病院のオープン化を基本とした病診連携のシステムが発足して4年が経った.病院と診療所が連携しても病院側にあまりメリットは無いのではないか,利益を受けるのは診療所側だろうと,当初私達は考えていた.だが,4年が過ぎた現在,このシステムによって恩恵を受けているのは病院の方であり,私達こそもっと真剣に取り組んでいれば良かったとさえ感じている.今後このシステムの整備を急ぎ,如何に発展させるべきかについて,4年間の実績を総括しながら考察を加えてみたい.

統計のページ

自治体病院の運営管理状況の推移(1)

著者: 米田啓二

ページ範囲:P.80 - P.81

はじめに
 全国自治体病院協議会では,会員病院を対象に2年ごとに運営管理状況について項目を指定して調査を行っている.調査項目は,簡単な項目にしぼり,回答しやすいようにしている.したがって回答率は高く,平成2年の例をとれば,調査対象病院数993病院に対し,調査表収集病院は949病院で回答率は95.6%となっている.
 調査項日は,この調査を最初行った昭和46年では数項目に過ぎなかったが,平成2年では35項目に及んている.この稿においては,そのうちの基本的な項目にしぼり,昭和46年以降,平成2年に至るまでの調査結果の推移,平成2年の結果については,さらに病床規模別の結果についても紹介することとする.

病院管理トピックス

[集中治療]集中治療—最近の考え方/[病院経営]意思決定会計と病院経営④

著者: 柴田淳一

ページ範囲:P.82 - P.85

はじめに
 生命の危機に瀕した重症患者に対し,呼吸,循環,代謝等を濃密に監視しながら,最先端の技術を駆使して集中的な治療を行い,救命へと導くのが集中治療である.臨床各科または各病棟で,これら重症患者への高度な治療を分散して行うのは,設備,機器,人員配置などの面で極めて効率が悪い.したがって,院内の1か所で最高の医療が行えるように設備を整え,専任の医師と看護婦などを配置して集中的に治療を行うためにつくられたのがICU (Intensive Care Unit)である.日本集中治療医学会ではCritical Care Unitも同意語として扱っている.

医療・病院管理用語ミニ辞典

[病院管理]採算管理と損益分岐点/[救急医療]緊急心臓ペーシング—経静脈的カテーテル電極挿入

著者: 一条勝夫

ページ範囲:P.86 - P.86

 欠損を出さないように経営するためには,常に正確に収益(売上高)と費用を把握し,収益が費用を上回るように努力しなければならない.
 収益をあげるには費用の発生を伴うが,費用には収益の増減に比例して増減する変動費と,ある程度までは収益と関係なく,毎期,定額の支出を必要とする固定費がある.

時評

学会の認定医制度とは

著者: 箕輪良行

ページ範囲:P.87 - P.87

 診療科の標榜をめぐる議論と学会の認定医制度とは,どうも私たちの日常診療と非常に密接に関係しているようだ.
 それらを推進している指導的な医師の一部は,あるレベル以上の質を保証する専門医制度が定着すればむだな診療が減り,適切なケアが提供されうると考えている.これは医療政策立案者にとっても国民にとっても願うところだ.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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