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雑誌目次

雑誌文献

病院50巻10号

1991年10月発行

雑誌目次

特集 病院にとってのゴールドプラン

[インタビュー]ゴールドプランでは医療機関に何が求められているのか—厚生省老人保健福祉部長に聞く

著者: 岡光序治

ページ範囲:P.826 - P.831

ゴールドプランのねらいは
 本誌 厚生省,大蔵省,自治省の3大臣の合意で「高齢者保健福祉推進10か年戦略」,いわゆるゴールドプランが平成元年12月に策定されてから1年半が経過しました.世界一の長寿国であるわが国では,21世紀には国民の4人に1人が65歳以上の高齢者になると言われています.そのような将来を見据えて,21世紀になるまでの10年間に高齢者を対象にした保健福祉分野の基盤整備を行おうというのが,ゴールドプランのねらいだとうかがっておりますが,医療関係者の間には戸惑いもあるようです.
 と言いますのも,医療関係者の中には,老人福祉の分野を取り込んでいきたいと希望されている方も少なくないのですが,法体系や窓口が異なるためにとっつき難いという印象を,多くの方がもっておられるようです.例えば,ゴールドプランは,医療機関との関係については全くふれていないので,どこからアプローチしていけばよいかわからない,という声を多く耳にします.

ゴールドプランの実施に向けて

著者: 山口昇 ,   石井信芳 ,   大田浩右 ,   坪井栄孝

ページ範囲:P.832 - P.840

公立病院の立場から
公立病院は率先して参画を
高く評価できるゴールドプラン
 本格的な高齢化社会の到来を迎えて,国も平成2年度「高齢者保健福祉推進10か年戦略(ゴールドプラン)」構想を打ち出した.在宅福祉の充実をはじめ,寝たきり老人ゼロ作戦など7つの柱により成り立っている.ゴールドプランには保健,福祉という言葉が使われ,医療という言葉は使われていないが,私は,その背景には医療が存在しているものと考えている.
 ゴールドプランについては,私は平成2年4月の衆議院予算委員会における公聴会において,従来我々が行ってきた同様な活動と私見を公述させていただいた.私は,此度のゴールドプランをある程度高く評価している.第1には従来にはなかった思い切った発想であり,しかも我々が過去10数年来地域で行ってきた,在宅ケアや寝たきり防止という発想と共通していること.第2には在宅介護支援センターやケアハウスなどを新設したこと.第3にはこれまでにない予算措置であること.第4には10年間という中期的構想であること.第5には在宅ケアに関する診療報酬改定を思い切って行ったこと.第6には老人福祉法はじめ関連8法の改正を行ったこと.第7には21世紀を考えた場合,まさに時宜を得たものであること,等々である.以上については,私は昨年,本誌49巻6号でも同様なことを述べさせていただいた.

地域の実情を踏まえ利用できるものは利用する姿勢で—公立病院での実践を通して

著者: 斎藤芳雄

ページ範囲:P.841 - P.844

医療におけるパラダイムの転換はなぜ不可避か
 今,我が国で,一般病院の運営に責任をもとうとした時,国の「保健・福祉」の動向を視野に入れることなしに,純粋「医療」分野のみをみて運営にあたることは,よほどの条件がそろっていない限り,ほとんど不可能だと私は考えている.
 その第1の理由は,いうまでもなく,今,高齢化社会という我が国の歴史上,はじめての事態に直面しているからである.高齢化社会の到来により,引き起こされている事態は,我が国の社会構造の全面的な転換であり,決して「医療」という狭い枠内での転換だけではないからである.従って我々は,最低限「医療」に隣接する「保健・福祉」の動き位は十分キャッチしておかないと,「医療」自身の基本方針が見出せない情況に追い込まれているのである.

シルバープランからゴールドプランへ—超高齢化社会への民間病院の対応

著者: 金澤知徳

ページ範囲:P.845 - P.851

社会復帰を目指す医療機関として
 平成元年12月に「高齢者保健福祉推進10か年戦略」いわゆるゴールドプランが公開され,すでに時間だけは1年余を消化しています.この10か年戦略に対し民間病院はどのように対応したらよいだろうか,というテーマを与えられましたが,積極的に取り組んでおられる医療機関は全国に数多くあり,取り組み方も地域特性,立地条件,診療内容,経済状況,組織感受性などによって各々です.したがって本稿は,あくまでも地方都市の一例としてお読み戴ければ結構です.まず,自己紹介のつもりで昭和63年4月の当院の新聞に記載した記事を資料に示しましたので,ご高覧ください.
 これは,開設40年,内科単科255床の長期療養病院として当時地域の中で固まっていた当院の診療現場において,もっと意味のある医療機関になろう,社会復帰を目指す医療機関として認めてもらいたい,と院長就任前後の7年間にご家族と接しながら,少々突っ張ってきた一幕を,私なりの文章にまとめてみたものです.

ゴールドプランのゆくえ

著者: 小室豊允

ページ範囲:P.852 - P.855

福祉改革とゴールドプラン
 社会の変容に対応した新しい社会福祉のパラダイムを構築するための福祉改革も,平成2年福祉8法の改正によってひと区切りがつけられた.今回の福祉8法改正は,昭和61年から始まった「福祉関係3審議会合同企画分科会」において審議された成果が,法律改正の基礎に据えられて実現をみたものである.それと同時に,この法改正が,平成元年12月に策定された「高齢者保健福祉推進10か年戦略(以下では,ゴールドプランとする)」を推進させる基盤整備をねらいとしていたのは周知の通りである.しかし,このような福祉改策の経過から,この福祉8法改正をもって「福祉改革は終わった」といえるであろうか.
 福祉改革を振り返ってみると,福祉改革「Xデー」とされていた「福祉関係3審議会合同企画分科会」による意見具申「今後の社会福祉のあり方について」も,いざ発表されてみれば「泰山鳴動してネズミ一匹」の印象を与えるものであったことを忘れてはならない.消費税問題やリクルート事件などによる厳しい政治状況のなかで,予想されていた社会福祉の基本的枠組みの抜本的見直しは見送られたのであった.そのため,「今後の社会福祉のあり方について」でも,きわめて現実主義的な改革を選ばざるをえなかった.さらに,それまでややもすると悲観的に描かれていた福祉改革に明るい光を投げかけたのが,平成元年度12月に発表されたゴールドプランの策定であった.

民間ホームヘルプの現場からゴールドプランをみる

著者: 大久保さわ子

ページ範囲:P.856 - P.860

紹介記事掲載の反響の嵐のなかで
 神奈川県の広報紙「県のたより」にふれあいの広場というページがあるが,その広場にたった数行,私のかかわる神奈川県ホームヘルプ協会の紹介記事を掲載してもらったのが,昨年12月1日だった.
 さて,その日から事務局は電話の嵐でテンヤワンヤ,日常業務がストップするほどのありさまで,ホームヘルプに対する県民の関心の深さを今更のように認識させられたのである.以来,半年経過の現在までも,その記事を大切に保存している主婦たちから,「家族の介護に協力してくれないか」「私もヘルプの担い手として働きたいが,どんな条件か」という問いあわせが続いている.この反応のトータル約150件をざっと分類すると,1/3はヘルプの依頼,2/3は担い手志望であった.

グラフ

緑に囲まれた心温まる病院づくり—移転新築して診療機能を大幅アップ—盛岡赤十字病院

ページ範囲:P.817 - P.822

 盛岡赤十字病院が盛岡市の中心地から,岩手山を遠望する北上川畔の現在地(紫波郡都南村)に移転新築して,間もなく4年になろうとしている.都南村といっても人口4万8,000,盛岡市からバスで30分の同市に隣接した人口急増地で,来年4月には盛岡市に編入されることが決まっている.
 新病院の建築に際して最も気を配ったのが,家庭的な雰囲気のなかで患者さんにゆったりした療養生活を送ってもらえるようにすることだったという.そのため新病院はあくまで「病院らしくない病院づくり」に徹している.病院周囲に6万8,000株の植栽を配して四季折々の花を楽しめるようにしたり,敷地内に和風庭園や散歩道を備えているのがその一例である.通信教育で4年間,庭師の勉強をしたという川村院長の「病院を森で囲みたい」という夢はあと12〜3年後には実現しているはずである.

新しい発想の地域がんセンター創りに取り組む 茨城県立中央病院院長 長谷川博氏

著者: 松浦鎭

ページ範囲:P.824 - P.824

 このたび築地の国立がんセンターから,招かれて茨城県立中央病院の新院長に一人のがん熱血医が着任した.肝がん外科で名を馳せている長谷川博氏である.
 茨城県は新しい発想のもとに,地域がんセンター創りに取り組むためのがん臨床のフロント総指揮者として,その任に誠に相応しい人を得たものである.茨城県のがんセンター構想の特徴は,4つの既存の病院に各々100床ずつがんベッドを分散し,広く茨城県のがん医療をカバーしようというものである.県立中央病院をがん医療の中核とし,国立がんセンターと太いパイプで繋こうというのが狙いである.全国に類を見ない新しい試みである.

主張

地域格差と社会保険制度

著者:

ページ範囲:P.825 - P.825

 近年「豊かさとは何か」ということがよく話題になる.日本開発銀行設備投資研究所から「東京が豊かで地方が貧しいか—“豊かさの指数”の“地域カルテ”で地域格差の診断」という論文が出されているが,これは特に日本国内での地域間の社会水準の違いについて述べられたものである.豊かさの指標としては,①所得のゆとり,②時間のゆとり,空間のゆとり,④文教・余暇,⑤安心・安全,の5つの要素があげられ,それぞれの要素のなかでさらに細かに指標が設定されている.たとえば安心・安全の指標として,「安心」で医療の充実度,「安全」で災害や犯罪の発生頻度を比較している.
 総合的評価でみると第1位は東京であり,以下,第2位富山,第3位香川,最下位からは沖縄,青森,長崎の順となっている.首都圏3県すなわち神奈川,埼玉,千葉の豊かさは第34位で中の下に位置している.第1位の東京の人々の暮しをイメージすると,「高所得で時間のゆとりがあり,社会資本に恵まれ,大変活発な余暇活動を楽しんでいる.医療も一応の水準にあるが,犯罪・災害など安全面は芳しくなく,住宅は最悪」ということだそうである.

今日の視点

[対談]老人「医療」と「福祉」のあるべき姿を語る

著者: 横内正利 ,   今井澄

ページ範囲:P.861 - P.868

 本号の特集では「高齢化保健福祉推進10か年戦略」について取り上げた.近年,厚生省が矢継ぎ早に出してくる福視重視の政策に対して,医療機関には焦りのようなものがあるようだ.その1つの原因は,医療側が老人の医療と福祉についての,きちんとした概念を持ちえていないからではないかと思われる.そこでいま一度,老人「医療」と「福祉」を整理するためにこの対談を企画した.
 このテーマについては,ちょうど横内氏が『日経ヘルスケア』の6号(1991年)に「有料老人ホームにおける医療—あるべき老人医療の縮図を見る」と題して非常に示唆に富んだ論文を発表している.また,今井氏が院長をされていた諏訪中央病院は,地域医療への積極的な取り組みに加えて,最近では老人福祉の領域にも踏み込んで医療・福祉の包括的な展開を図っていることでよく知られている.

連載 今,なぜ戦後医療技術史か・3

戦後医療技術史の時期区分[1]

著者: 上林茂暢

ページ範囲:P.869 - P.873

なぜ時期区分が問題になるのか
 高齢化社会をむかえ,もはや感染症時代のパラダイムでは“死”を扱いきれなくなってきた.またテクノストレスのようなハイテク社会の病は,従来の職業病や公害病の理解を越えているのではないだろうか.これらの今日直面している課題やその背景をさぐるには,歴史的な検討を欠くことができない.
 このような変貌の重要なきっかけをなす医療技術自体は,いつの時代でも病気・健康に対する患者の願い・要求と,これになんとか応えたいという医療技術者の気持ち,時には欲望も交錯し,発展をとげてきた.また,さまざまの課題も生まれてきた.

建築と設備・66

[てい談]病院内のコミュニケーション

著者: 嶋﨑佐智子 ,   池川豊躬 ,   長澤泰

ページ範囲:P.875 - P.882

看護の方法によっても異なる情報の得方や共有の仕方
 長澤 病院のアメニティということがだいぶ言われています.病院には患者さんをはじめ,お医者さん,看護婦さん,コメディカルの方,事務や給食関係の方など,いろんな方がいます.そういう方々のコミュニケーションを図ることもアメニティを高めるひとつの重要な要素ではないかと思います.
 病院の建物をつくるとか設備を入れるといった場合も,最終的な目的,何のためにこういう建物にするのか,何のためにこういう設備を入れるのかといったことをはっきりとさせておく必要があります.きょうはその辺の根本的な問題をコミュニケーションというテーマを通して考えてみたいと思います.

実践・病院のマネージメント・12

医療の質とセグメンテーション

著者: 井手道雄

ページ範囲:P.883 - P.886

 前回はマーケティングを進めていく上で重要な〈ニーズとウォンツ〉(1991年5月号)について述べた.そこでは本院での人間ドックの再建を例示し,マーケティング・マネージメントを進めて行く上での一方法を示した.
 マーケティングの考え方の基本は消費者—病院の場合は患者—志向であるが,病院でマーケティングを推進していく上で大切なことはあくまでもその病院が提供する医療サービスの質である.その向上を放棄して,単にアメニティだけを強調しても薄っぺらで中身の無いものとなり,真の力とはなり得ないし,このような経営戦術は長期には継続し得ない.また,病院の医療の質を向上させると言っても,我が国の病院が全ての分野で,しかも,同等のレベルで向上することは不可能であり,限られた医療資源の有効利用上からも無駄である.

事例 医療施設間連携

7病院との連携による姫路市医師会のオープンシステム

著者: 滝谷泰博

ページ範囲:P.887 - P.890

 姫路市医師会で具体的に医師会活動として,機能連携が話題になったのは,昭和57年4月である.当時の勤務医委員会で,「勤務医相互間及び勤務医と開業医間の連携策」について検討がなされた.
 姫路市医師会は,昭和42年に医師会病院と臨床検査センターを設立して以来,人間ドック,各種検診の判定委員会などで,医師会員と勤務医,並びに医師会と病院は共同して運営に関与していたので,両者の協力体制は順次出来上がっていた.特に,勤務医委員会の構成メンバーが病院長を中心に構成されていたので,勤務医の医師会活動への参加が,比較的容易に行われたといっても過言ではない.そして,a)高額医療機器の共同利用b)臓器別疾患の連携システムc)姫路市医師会のオープンシステムが昭利59年4月から発足して,今年で7年日を迎えた.

勤務医からの発言

新生児医療の明日に思う—「医師過剰」時代の人手不足

著者: 加部一彦

ページ範囲:P.891 - P.891

 あらゆる職種において人手不足が問題となっている現在,医療の分野においても看護婦の不足が社会問題化しつつある.
 一方,医師については,「医師過剰」時代の到来が囁かれてはいるものの,医学部の入学定員削減が話題となるくらいで,未だ積極的な議論がなされているという印象をうけないのはなぜであろうか.「医師過剰」と言われつつ,その一方でいっこうに解決策の見出せない,無医地区解消の問題や,開業医の減少に伴う医療の構造的な変化をどうするのかといった問題など,いったい,「真剣に」対策が講じられているのだろうかと心配しているのは,何も筆者のみではないだろう.

GROUPING & NETWORKING

「医療機関連携の時代」に向けて—近畿病院団体連合会事務長会

著者: 海北幸男

ページ範囲:P.892 - P.893

●近畿病院団体連合会の下部組織として発足
 国の医療政策の変革が始まりかけた1985年(昭和60年)に,近畿圏における,各府県の病院団体の情報交換と,国の医療政策に対応する病院団体として,近畿病院団体連合会(通称近病連)が結成された.
 参加団体は以下の通りである.

厚生行政を読む

脳死と臓器移植(下)

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.894 - P.895

 前回は脳死判定が認められた場合の病院としての対応について検討を行ったが,今回は臓器移植を行う場合の病院としての対応について検討を試みる.

精神科医療 総合病院の窓から・7

「都心ノ病院ニテ幻覚ヲ見タルコト」の記

著者: 広田伊蘇夫

ページ範囲:P.896 - P.897

ある幻覚体験
 今回のタイトルは渋沢龍彦氏のエッセイ集の題名を借りている.氏が多彩な幻想的著作活動の果てに,頸動脈瘤破裂に襲われ,一瞬のうちに夭折されたことは御存知の方も多いかと思う.死の1年前,氏は下咽頭腫瘍の手術を受け,この時の術後の奇妙な幻覚体験がエッセイ集の1章に記されている.経過をかいつまんで紹介してみよう.
 ——術後2日間ほど,うつらうつらと夢と現実の狭間をただよいつづける.3日目にいたり,鎮痛剤ソセゴンの点滴注射を受ける.その数時間後から生々しい幻覚に襲われる.まず天井いちめんに地図が現れる.天井の蛍光灯の枠にはカンデンスキーと書かれた鮮やかな桃色の文字がみえるようになる.そのうち,天井の換気孔やスプリンクラーが少しずつ動き出す.これらの装置が舞楽の蘭陸王そっくりの恐ろしい顔となり,首をぐっと伸ばしにらみつける.また,この装置が自宅にある刺身の大皿と化し,天井にぴったり貼りつき,動かなくなったりもする.幻覚とはいえ,現実感と存在感にあふれ,目の底に焼きつく.そうかとみると,巨大なクモ,カニのような生き物が天井を這いまわり始める.ところが目を閉じると,瞼の裏にも不快極まるイメージが現れる.インドあたりの寺院のレリーフでみる半裸の男女のからみ合い,香港あたりの狸雑な市場,不恰好な動物の一群,どてらを着たヤクザのような男達などが次から次へと現れては消え,目を閉じることすらも不快となる.

統計のページ

司法統計からみた医療過誤訴訟の実態

著者: 岡本悦司

ページ範囲:P.898 - P.899

 最高裁判所は,昭和51年から62年までの12年間に判決が確定した医療過誤訴訟の判例を集めた「医療過誤関係民事訴訟執務資料」を刊行している.これをもとに医療過誤訴訟の実態をみてみよう.

病院管理トピックス

[放射線]コメディカル部門における日米格差/[薬剤]病院内における薬剤部の新たな展開・1—外来患者の服薬指導に取り組む

著者: 海老根精二

ページ範囲:P.900 - P.901

麻酔士?麻酔医?
 5月の半ば頃,病院の外科医の所にアメリカからの訪問者があった.アメリカからといっても外見もなかみも日本人である.それも女性である.彼女は麻酔士と名乗った.病院の外科医が3年程前に留学していた大学病院に勤務していた縁で今回の訪問になったらしかった.麻酔士という聞きなれぬ職種に好奇心を刺激されて集まった人々から幾つも質問が飛んだ.会話が進むにつれて,驚嘆と羨望と不安に似た疑問などがなりまぜになって座を支配した.その時の質問と答を要約すると次のようになる.
 まず,彼女の日常勤務の内容だが,聞いた限りでは私どもが病院で見ている麻酔医の仕事そのものである.彼女がはじめ麻酔士といった時には麻酔医の手伝いぐらいを想像したのだが,彼女は麻酔医の監督も制限も全く受けることはなく,患者の麻酔の計画を自分でたてて実行するという.それでは麻酔医と変らぬではないかときくと,そういうことになるという返事である.この辺は,40年近く“医師の指示”に基づいてX線撮影をして来た私の頭に理解不能の部分を残した.そうなると待遇も麻酔医とほとんど変らないと聞いても,そりゃそうだろうと半ば自棄気味に納得したのである.

医療・病院管理用語ミニ辞典

[救急医療]中心静脈圧測定/[病院管理]医療保険

著者: 中江純夫

ページ範囲:P.902 - P.902

 中心静脈圧(以下CVPと略す)とは右心房に近接する大静脈(主として上行大静脈)の静脈圧のことであり,右心房圧や右室拡張終期圧を反映する.したがって,CVPは循環血液量,心機能,胸腔内圧,末梢静脈系の緊張度などにより影響されるので,CVPを測定することで,後述の疾患や病態が推定される.
 CVPを測定するには,カテーテルを右心房近接部の大静脈内に留置する必要がある.現在は,イントロデューサ・シース,ダイレータ,ガイドワイヤー,カテーテル,その他の必要物品などがセットになっているキットが市販され広く使用されている.また,カテーテルの挿入は穿刺法で行われることが多いが,必要に応じて静脈切開法も行われる.穿刺部位の消毒,局所麻酔薬による鎮痛,覆布使用などにより,無菌的にカテーテルを挿入しなければならない.

時評

福祉を医療産業化しないために—診療所の役割

著者: 矢島嶺

ページ範囲:P.903 - P.903

在宅介護は掛け声倒れ?
 老健法により老人の退院が慣習化し,中間施設や老人ホームへ流れてゆく老人がめっきり増えた.その割に自宅に帰ってこないのは通過施設としての中間施設の当初の狙いが外れたことになる.それは期待に反して受け皿である在宅介護能力が益々減退しているせいであろう.これでは老人医療費削減の効果は無い.老人が中間施設と病院を行ったり来りしても,老人ホームに入っても公的医療費の削減にはならないからだ.
 筆者の試算によれば病院,老人ホーム,中間施設など施設収容型ケアでは老人1人当り年間300〜400万円を国庫が負担している.これに対して在宅介護は各種の福祉手当てを貰っても30〜40万円にしかならず,その上家族が在宅介護のために職を放棄すればその収入も減り,その家の家計はダブルパンチを受けることになる.だから在宅介護は政府が声高に叫ぶ割にはすすまない.しかし,少数とはいえ在宅介護希望者はいるし,町村も在宅介護能力を高めようとしてそれなりの努力をしている.その際問題になるのは在宅介護支援のための各種の施策である.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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