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雑誌目次

雑誌文献

病院50巻11号

1991年11月発行

雑誌目次

特集 病院のチェーン化・ネットワーク化

現代の複雑性と医療におけるネットワーク

著者: 金子郁容

ページ範囲:P.933 - P.938

はじめに
 クーデターの試みが失敗に終わったことに端を発したソビエト連邦の「八月革命」以来,事態は混乱のなか急速に展開している.情勢は流動的であるが,この原稿を執筆している1991年9月初めの時点では,それぞれ主権を持った共和国が経済的,軍事的なある種の纏まりを持つ緩やかな連合体ができるという構想が具体化しつつある.ネットワークという観点からすると,この連合体が実際にどのような形態のものになるのか極めて興味深い.本稿の目的は医療の分野におけるネットワークの話をすることであるが,共和国連合体のネットワークとの関連はさておいて,今回のソビエトにおける出来事は次の意味でわれわれのテーマに,基本的なところで関連している.
 つまり,情報を集中し独占することによって一元的に社会を統制しようという形での秩序の作り方が時代遅れのものになったということ,そして,自発的で動的なやり取りの中で発生し流通する情報がこそ時代を動かしている中心的力であるということが劇的に示されたということだ.ニューズ・ウィーク誌のトム・マスランドとカレン・ブレスロー両記者はクーデター失敗の原因を「(クーデターを企てた一味は)ソ連にも情報時代が始まっていたことを知らなかった」と表現している.

私的病院チェーンの最近の動向

著者: 二木立

ページ範囲:P.939 - P.943

はじめに
 最近病院チェーンに対する関心が急速に高まってきた.私が,2年前に本誌上で,医療法人を中心とした私的病院チェーンの実態を統計的に初めて明らかにした当時は,病院チェーンについての報道・文献はごく限られていたことを考えると,隔世の観がある1).私は,病院チェーンの存在・行動を抜きにして,90年代の医療供給制度を論じることはできないと考えているので,この点での情報公開・研究が今後も進むことを期待している.
 小論では,私のその後の研究に基づいて,わが国の私的病院チェーンの統計面での全体像を示し,この面での「決定版」としたい.合わせて,病院チェーンの日米比較と,巨大病院チェーンの医療の質の検討も,簡単に行う.最後に,90年代に私的病院チェーンがどのように展開するかを予測したい.

[インタビュー]病院のチェーン化—何をめざし,何を実現したのか

著者: 中村哲夫

ページ範囲:P.944 - P.948

 抑制基調の医療政策が続くなか,いわゆるチェーン病院は従来型の拡大路線の変更を余儀なくされるのか? そして病院のチェーン展開は,わが国の医療界にいかなるインパクトを与えてきたのか,日本最大の民間病院チェーンCMSを率いる中村先生に,35年間の歩みをうかがった.

病院経営と協同組合

著者: 中村了生

ページ範囲:P.949 - P.952

はじめに
 民間病院が経営利益をあげねばならぬことは必須のことである.この利益(メリット)のなかには,金銭的メリット=プロフィットと精神的メリット=ベニフィットとがあり,この両方の利益をあげなければ病院の利益とはいえない.
 古来から,“医は仁術”とかいわれ,“仁心医療”(田代義徳),“開心医療を貫く”(武見太郎),“己をむなしゅうして医道に尽くすべし”(フーフェランド,医戒の書)等々,医療の理念が示されているが,21世紀を前に転換期にある医療が希望と活力を求めるためには,病院経済を加味しなければ,新しい病院経営はないだろう.

[座談会]医療政策と病院のチェーン化・ネットワーク化

著者: 早川大府 ,   山口剛彦 ,   河北博文

ページ範囲:P.953 - P.960

病院のチェーン化をどうみるか
 河北 本日は,お忙しいところをご出席いただき有り難うございました.今月の本誌の特集テーマは「病院のチェーン化・ネットワーク化」ということでございますけれども,何が一体チェーン化であり,ネットワーク化であるかということすら,我々は明確な定義をもっていないのが現状であろうかと思います.しかし,特に1970年代以降,目に見える形で,あるいは見えないところで,民間病院のチェーン化がかなり進行してきた感じがあります.それからチェーン化といって良いのかどうかわかりませんけれども,従来から日赤,済生会など横断的なつながりをもった病院組織もあります.
 1970年代にはアメリカでも同じような動きが起こっています.1965年にメディケア,メディケイドが導入されて以後,医療に対するアクセスが非常に高まり,それをビジネス化していく動きがみられ始め,70年代に営利病院のチェーンが急速に拡大すると同時に,非営利病院のボランタリー・チェーン化というものも進んできたわけです.これは非営利病院が営利病院に経営上対抗する形でチェーン化が進んだわけですが,現在では,両方ともチェーン化の動きは一段落というところです.

グラフ

「総合基幹病院」へ飛翔—北九州市立医療センター

ページ範囲:P.913 - P.918

 北九州市立小倉病院はこの7月に北九州市立医療センターと改称し,新たなスタートをきった.新病院は旧小倉病院の敷地に平成元年より改築が進められてきたが,本年3月末に竣工,5月に診療を開始した.

アジア6か国で草の根のヘルスワーカーを養成して10年 財団法人アジア保健研修財団専務理事 医療法人愛知国際病院院長 川原啓美氏

著者: 戸田安士

ページ範囲:P.920 - P.920

 名古屋市の近郊,日進町の広々とした牧場の緑に映えて,白亜のアジア保健研修所と愛知国際病院がある。それらは,玄関を中央に左右に位置し,礎石にはそれぞれ,「最も小さい者に」という聖句と,「神癒し,我ら仕える」という言菓が英文で深く刻まれている.
 二つの施設は,一方が「財団」,他方が「医療」と,法人としての形態こそ異なるものの,川原啓美先生が礎石に祈りを込めて,当初から一つのものとして構想し,現在も不即不離の関係を保ちつつ,両施設の責任者,指導者として運営して来られて10年を経た.

主張

節度ある病院

著者:

ページ範囲:P.921 - P.921

 バブル経済も水の泡と化し,証券界などのスキャンダルが明らかになると,日本は経済だけは一流との主張もあやしくなって来た.衣食は十二分過ぎるほど足りているのに,礼節はどこへ行ってしまったのだろうか.病院も本業そっちのけで,不動産事業で火傷を負った例が報告されている.例外であることを願うのみであるが,それでは本業では節度があるのか,反省も必要であろう.
 もちろん,節度について,客観的な測定方法や指標があるかはよく分からない.しかし病院職員と会って,利用者になってみて,病院のもつ雰囲気には大きな幅のあることに気がつく.一言でいえばそれは「心地よさ」である.いかに快適に感じさせるのか,サービスという言葉の1つの意味「人に奉仕する」とは,相手をいかに心地よくさせるかを考えて行動することであろう.患者サービスの向上が病院の永久の旗印であることは間違いあるまい.

今日の視点

[座談会]病院事務職は一生の仕事だ

著者: 関根茂 ,   玉木真一 ,   矢作允宏 ,   佐藤俊一

ページ範囲:P.922 - P.932

座談会の前に—問題提起
■はじめに
 社会全体が人手不足のなか,病院の現在の労働条件(賃金・休暇・福利厚生)などをめぐって今話題になっている看護職に限らず,多くの職種で良い人材を集めることに,どこの病院も苦労しているのが現状だろう.
 そんな状況のなかで,意外と表面にでてくる機会は少ないが,病院の将来を背負ってくれる事務職員の不足も深刻なものがある.その背景には,事務職員のことが病院のなかで真剣に考えられるようになったのが,一部の病院を除いて,ごく最近になってからだという事情もある.逆に,病院の組織としての運営は,その基盤をしっかりした事務職員が支えて初めて可能になる,ということの理解が多少なりとも浸透してきたということでもある.

特別寄稿

病院における組織改革と医局運営—医局が変われは病院が変わる

著者: 岸口繁

ページ範囲:P.961 - P.967

はじめに
 我が国の病院は過去30年余りにわたり医療制度や医療行政の変化,経済変動,医学の進歩,医療ニーズの増大,医療従事者の不足などに対応しながら,幾多の危機を乗り越えて今日に至っている.しかし,ここ数年来の医療情勢の変動は過去に例を見ないものがあり,しかもこの変動は今後一層加速されてゆくものと思われる.
 一方,病院経営の現状は,医局を始めとする専門職集団という人的構成および人件費が50%を超える労働集約的な組織としての特殊性,医療費抑制等を中心とする各種の診療制限,更に病院機能の類別化など,病院の内部,外部共に困難な問題を抱えている.

わが病院の患者サービス

松江生協病院—「参加」と「協同」の医療をめざして

著者: 河津美知子

ページ範囲:P.968 - P.969

はじめに
 近年,医療内容や療養環境に対する患者の要求は高度化・多様化してきている.それに加えて「病院冬の時代」といわれる経営環境の悪化から,経営問題としても患者サービスのあり方が問われるようになっている.
 当院は松江保健生活協同組合が設立した病院であり,その設立の趣旨に沿って,患者本位の医療サービスの実現に向けて様々な取り組みを行ってきた.これまで実施してきた取り組みを振り返り,最近とくに力を入れて取り組んでいる,患者の主体性を尊重し,「患者の参加と協同」の医療の実現をめざした取り組みについて述べてみたい.

精神科医療 総合病院の窓から・8

変わりゆく精神分裂病像

著者: 広田伊蘇夫

ページ範囲:P.970 - P.971

[至天院高風談玄居士なる人物]
 かつて筆者が都立松沢病院に在職していた時,毎年の病理解剖献体の回向忌は近くの古刹,豪徳寺で行われた.ここには水戸藩士によって殺害された幕末の大老,井伊直弼の墓,歩を進めると「至天院高風談玄居士」と刻まれた小さな円塔墓をみることができる.通称,蘆原将軍とよばれた分裂病圏の妄想患者,芦原金次郎の納骨処である.金次郎はもともと櫛問屋の奉行人だったが,20歳頃から精神に変調をきたし,将軍を自称し諸所を放浪,やがて当時の巣鴨病院(松沢病院の前身)に収容され,ほぼ50年間にわたり入院生活を送り,86歳で死亡した人物である.
 爾来,すでに半世紀を経た今日,蘆原将軍の名は人々の記憶から消えようとしている.将軍の名が久し振りに世に登場したのは,森繁劇団が明治座で「蘆原将軍」を公演した昭和43年のことである.将軍に擬せられた主人公,葭原眞次郎が「わしは55年もの長い間,だんだん狂ってゆく日本を精神病院の中からみつづけてきた.もうわしの出る幕じゃないが,日本全体が精神病院になってしまった」と語るのを記憶している読者もおられるかもしれない.当時といえば,高度経済成長のはしりであり,カラーテレビ,クーラー,そして大衆乗用車が新三種の神器としてもてはやされた時代である.それだけにこの狂乱的経済拡大を皮肉る公演は好評を博し,「死せる金次郎,駆ける日本をあざわらう」とでもいえるものだった.

勤務医からの発言

気管支喘息のリハビリテーション

著者: 斎藤勝剛

ページ範囲:P.972 - P.972

気管支喘息のリハビリ医療
 吉備高原医療リハビリテーシヨンセンターではリハビリテーション医療のコースを3つ設定した.
1.四肢・脊椎の外傷および疾患2.脊髄損傷・片麻卑など3.呼吸器障害

建築と設備・67

明石市立市民病院

著者: 暦利徹

ページ範囲:P.973 - P.978

改築までの経過
 明石市は神戸市の西に位置し,南に明石海1峡を望む子午線のまちとして有名であるが,人口は27万人,診療圏人口は40万人を超えている.
 当院は昭和25年に民間企業の病院から市に移管され,市立病院として発足した.その後,昭和30年から第一次の全面改築が行われ,鉄筋2階建の多翼式病院となった.その後も何回か増築をされていたが,動線が長く複雑になり,かつ考朽化・狭隘化し,医学の進歩と医療的な変化に対応できなくなったため,全面的な改築の運びとなった.

連載 今,なぜ戦後医療技術史か・4

戦後医療技術史の時期区分[2]

著者: 上林茂暢

ページ範囲:P.979 - P.984

 70年代に入り医療の現場に技術進歩の新たな潮流が生まれてきた.1つが病院自動化とすれば,他の1つはバイオテクノロジーである.これらは先端医療と呼ばれ,その成果や可能性が脚光を浴びると同時に,新たな困難を投げかけている.

統計のページ

薬剤師会調査からみた医薬分業の実態

著者: 岡本悦司

ページ範囲:P.986 - P.987

はじめに
 医薬分業が遅れているわが国では,国民医療費に占める調剤の割合は現在でも約2%にすぎない.しかしながら,国際的にも高い水準にあるわが国の薬剤比率を考えると,外来投薬の全てを潜在マーケットとする調剤薬局の将来性はきわめて大きい.事実,医療費低成長時代のなかで,ひとり調剤のみ2ケタ成長を続けている.
 薬局には,非営利,配当禁止,開設規制といった,病院,診療所,老健施設などをがんじがらめにしている制約が無い.実は,薬局にも薬事法による開設規制があったが,昭和50年の最高裁の違憲判決によって撤廃された.開設規制は憲法22条(職業選択の自由)とのからみが常に問題となる.公衆浴場の開設制限は合憲,薬局の開設制限は違憲,と司法の判断も微妙に分かれており,医療法による病院の開設規制が「知事の勧告」という法的効力の無い手段で行われているのも第二の違憲判決をおそれてのことだろう.

厚生行政を読む

薬価算定方式の改正

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.988 - P.989

はじめに
 今年5月31目,中医協(中央社会保険医療協議会)は厚生大臣に薬価算定方式に関する建議書を提出した.建議書の主な内容は,①薬価算定方式の変更(「加重平均値一定価格幅方式」の採用),②新薬の薬価算定の適正化,③小包装医薬品の供給の確保,④臨床試用医薬品(医薬品サンプル)の取り扱いの適正化等である.
 医薬品業界は今回の改正を機会に医療機関からの値引き交渉を有利に進めようとしているが,今回の改正により病院は薬を値切ることが困難になるのであろうか.

病院管理トピックス

[集中治療]集中治療の経済学/[薬剤]入院患者の服薬指導に取り組む/[病院経営]意思決定会計と病院経営⑨

著者: 浦上秀一

ページ範囲:P.990 - P.993

 医学の進歩は著しく,また医療をとりまく環境も激しく変化してゆくなかでは,ICUにおいても,その経済性を検討することが常に要求されている.ICUの経済性を論じるのは,高額医療機器の経済性を検討するのに似たところが多い.高額医療機器の場合,多くは次の2つの面での検討がなされている.
 1つには,その機器を使用することによる直接的な診療報酬が採算に合うものであるかどうか,1つには,その機器のもたらす二次的な経済効果により,施設全体として経営が好転するなどの効果である.つまり,その機器を直接使用して診断・治療される患者が,その経過のなかで,機器とは関連しない治療や検査を受けることになる経済的な波及効果である.その機器とは直接関連しない部門の患者数の増加,機器があることで施設に対する評価のランクが上昇するなどの効果も期待できる.直接的には算出できない,次のような効果もあるとされている.他の施設にはない高額機器が診断に,治療に用いられているという職員の精神的自信,誇りが施設全体に醸し出す前向きのエネルギーがそれである.

医療・病院管理用語ミニ辞典

[病院管理]ナーシングホーム(Nursing home)/[産婦人科医療]産婦人科の処置

著者: 一条勝夫

ページ範囲:P.994 - P.994

 一般に用いられる言葉であるが,国によって定義も内容も異なり,わが国でもこれに類する施設が多くあるが,これに該当する対象や範囲は明確ではない.
 アメリカでは次のように定義している.

時評

へき地勤務と医師患者関係

著者: 箕輪良行

ページ範囲:P.995 - P.995

 医療界がかかえる先端的諸問題には脳死者からの臓器移植,老人医療の拡大に伴う診療報酬の再分配,深刻化する看護婦不足など政治社会にかかわる制度的なものから,コンピュータやME導入による自動化,MRSAを典型とする院内感染,ターミナルケアと救急医療への対応など施設内で様々に扱われているものまである.これらのいわゆる「大世論」を論じるのが本シリーズの役割で,筆者に与えられたテーマであるのかもしれない.巻頭言を飾るにふさわしいこれらを扱う大家の先生方とちがって,総合診療,医学教育,救急医療,へき地医療などをフィールドにする筆者は辺縁的なテーマを時代の底流と考えて論じてきた.
 連載の終点にも近づき,へき地医療についてひとつの視点から論じてしめくくりたい.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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