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文献詳細

雑誌文献

病院50巻11号

1991年11月発行

文献概要

精神科医療 総合病院の窓から・8

変わりゆく精神分裂病像

著者: 広田伊蘇夫1

所属機関: 1同愛記念病院神経科

ページ範囲:P.970 - P.971

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[至天院高風談玄居士なる人物]
 かつて筆者が都立松沢病院に在職していた時,毎年の病理解剖献体の回向忌は近くの古刹,豪徳寺で行われた.ここには水戸藩士によって殺害された幕末の大老,井伊直弼の墓,歩を進めると「至天院高風談玄居士」と刻まれた小さな円塔墓をみることができる.通称,蘆原将軍とよばれた分裂病圏の妄想患者,芦原金次郎の納骨処である.金次郎はもともと櫛問屋の奉行人だったが,20歳頃から精神に変調をきたし,将軍を自称し諸所を放浪,やがて当時の巣鴨病院(松沢病院の前身)に収容され,ほぼ50年間にわたり入院生活を送り,86歳で死亡した人物である.
 爾来,すでに半世紀を経た今日,蘆原将軍の名は人々の記憶から消えようとしている.将軍の名が久し振りに世に登場したのは,森繁劇団が明治座で「蘆原将軍」を公演した昭和43年のことである.将軍に擬せられた主人公,葭原眞次郎が「わしは55年もの長い間,だんだん狂ってゆく日本を精神病院の中からみつづけてきた.もうわしの出る幕じゃないが,日本全体が精神病院になってしまった」と語るのを記憶している読者もおられるかもしれない.当時といえば,高度経済成長のはしりであり,カラーテレビ,クーラー,そして大衆乗用車が新三種の神器としてもてはやされた時代である.それだけにこの狂乱的経済拡大を皮肉る公演は好評を博し,「死せる金次郎,駆ける日本をあざわらう」とでもいえるものだった.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1383

印刷版ISSN:0385-2377

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