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雑誌目次

雑誌文献

病院50巻13号

1991年12月発行

雑誌目次

特集 病院経営の実態に迫る

[座談会]病院の経営基盤をどう安定させるか

著者: 坪井栄孝 ,   秀嶋宏 ,   小田清一 ,   河北博文

ページ範囲:P.1014 - P.1024

赤字基調が続く民間病院
 河北 本日はお忙しいところを,日本医師会から坪井先生,全日本病院協会から秀嶋先生,そして,厚生省保険局から小田先生にお越しいただいております.私が一応司会役を務めますが,日本病院会の立場から発言もさせていただきますので,よろしくお願いいたします.
 昨今,医療機関の経営が非常に厳しくなっているといわれております.その実態はどうなのか,本題に入る前に経営者の立場から,坪井先生,それから秀嶋先生,そして私の順でそれぞれの病院の経営実態を示してみようかと考えております.平成元年度,平成2年度を比較して,あるいは平成2年度のみでも結構ですが,どういう経営状態になっていますでしょうか.

数字で見る当院の経営実態—公立病院,公的病院,民間病院10施設の調査から

著者: 寺田守 ,   井手義雄 ,   高橋勝三 ,   岩崎照宣 ,   寺田一郎 ,   大橋芳男 ,   河野良一 ,   伊藤硏 ,   河北博文 ,   西能正一郎 ,   大江唯之 ,   横内正典 ,   一条勝夫 ,   緒方廣市

ページ範囲:P.1025 - P.1055

 最近,病院経営が相当苦しくなっているという話をあちこちで耳にする.しかし,その実態はどうなのだろうか.
 病院経営の内容を示すデータとしては,中医協による医療経済実態調査をはじめ,いくつかの調査が挙げられるが,個々の病院の生のデータ,とくに私的病院のそれはなかなか入手しにくいのが現状だ.本誌の編集会議でもそのことが話題になり,いっそのこと本誌で調査をしてみてはどうかということになった.つてを頼りにいくつかの病院に協力を仰いだ結果,ここに公表した10施設から回答を得ることができた.とはいえ,病院経営の根幹にかかわるデータを公にするのは躊躇こそすれ,決して快いことではないに違いない.公表に踏み切ってくれた病院経営責任者の勇気ある決断に感謝したい.

公的病院における採算性向上への取り組み

著者: 星和夫

ページ範囲:P.1056 - P.1060

まえがき
 最近,国の医療費抑制政策の影響から,公的病院における経営状況も一段と悪化してきており,その改善策が強く求められるようになった.このようなタイトルが取り上げられること自体,公的病院財政のひっ迫した背景を物語るものであると感ぜられる.
 私自身経営に骨身を削っている最中で,いまだ大した実績も上げ得ないでいる現状では,「採算性向上の方策」に関しては何も書く資格はないと考えるが,本誌の読者には私的病院の方々も多いことであろうから,公的病院とくに自治体病院の財政の仕組みをご紹介したり,また我々が採算性の向上にどんな取り組みをしているか,などを知っていただくのも多少は意義あることかと考え,敢えて筆を執った次第である.

大規模病院経営の新しい指標—聖マリア病院における積極経営の軌跡

著者: 井手義雄

ページ範囲:P.1061 - P.1065

はじめに
 昭和60年の医療法の改正,その後の国民医療総合対策本部中間報告は,我が国病院の特徴でもあった高齢者対策,長期入院の是正,患者サービスの向上等,病院経営の根幹を揺るがす重大な出来事であった.
 また,近年の国民所得の向上は,病院に患者サービスとしてのアメニティ重視の姿勢を促しつつあり,従来,医療における患者への公平なサービスを基本に進められてきた日本型医療供給システムは,その根本的な見直しを迫られているといっても過言ではないだろう.

病院経営の位置づけのための指標—病院経営コンサルタントの立場から

著者: 松田紘一郎

ページ範囲:P.1066 - P.1068

はじめに
 病院の経営コンサルタントとして,病院経営を繁栄せしめつつ,その近代化・安定化に貢献するためには,医療機関を取り巻く環境変化を適正に把握し,かつ,病院の経営力がどこまで対応していけるか,どのように対応力を高めていくかの把握が必要である.
 今日,病院の経営環境は,厚生行政面(支払者側による医療費の傾斜配分,医療施設の類型化等),医療市場面(患者ニーズの高度化・多様化,疾病構造の変化,人口の構造の高齢化),住民の生活面(人口の都市集中化,出生率の低下等),および医療供給面(医師の過剰化,医療機器の高度化・高額化,医療施設の集中化等)が激変している過程にある.

病院経営とキャピタルコスト

著者: 高原亮治

ページ範囲:P.1069 - P.1073

キャピタル問題の所在
 医療経営におけるキャピタル(資本財)のファイナンシング(財源調達)問題が近年注目を浴びている.本特集の問題意識も編集部からの依頼によれば,「私的病院は公的病院に比べるとキャピタルコスト(ファイナンシング)において決定的なハンディを負っています.これをどのように考えればよいか……」ということのようである.
 しかしこの問題を公・私病院のキャピタルにおける不平等という点にのみ注目するなら決して新しい問題ではない.わが国のように,私的病院と公的病院が並立した医療供給体制にあっては,大げさにいえば明治以来存在したはずである.それがなぜ今日,とくに注目を浴びることになったのか.敢えていえば,私的病院はこのような「不平等」を予め承知の上で参入してきたはずであり,参入後に競技のルールが自分に不利であると気づいてルールの変更を主張するのは子供じみたふるまいといわれても仕方のない話であろう.事実,つい最近に至るまでこの問題は正面きって取り上げられることはなかったわけであり,今まで黙っていた私的病院関係者が声高く「不平等」を主張しはじめたことは単に「子供じみている」というだけではなく,やはりそれなりの理由があると見なければならないのである.

グラフ

「きれいな病院作り」を合言葉に患者に選ばれる病院を目指す—青梅市立総合病院

ページ範囲:P.1005 - P.1010

 東京都青梅市と言えば,区部にいる人間が真先に思い浮かべるのは多摩川の清流であろう.都民の日帰り行楽地として人気が高いが,都市化の波は当地にも押し寄せてきている.中央線の特別快速が青梅線に乗り入れてからは,青梅市立総合病院が立地する河辺(かべ)駅—東京駅間がほぼ1時間で結ばれるようになり,昨今,人日の流入が急である.
 青梅市立総合病院は1957年,293床でスタート.昨年新館の南病棟が完成し,18診療科,総病床数497床を数えるまでに発展してきている.東京都は2次保健医療圏を13地区に分けているが,当院は診療圏人口37万人を擁する西多摩地区(3市5町1村)の中核病院に位置づけられており,都の委託を受けて伝染病棟20床を持つほか,第3次救急医療センターにも指定されている.名実ともに地域の基幹病院として,その機能をフルに発揮している.

病診連携への貢献で日医最高優功賞を受賞 兵庫県立尼崎病院院長 藤岡晨宏氏

著者: 西村亮一

ページ範囲:P.1012 - P.1012

 藤岡晨宏先生はロマンの人である.どうすれば患者さんに良質の医療を提供できるか,先生の理念はただ一点,“患者サービスの向上”に尽きると思う.
 15年前,我々は藤岡先生を中心として「病診連携」について討論した.まさに白熱の討論であった.当時の日医武見会長は「医師会病院」を中心とした地域医療論を展開されていた.尼崎市医師会でも,医師会病院を作るべきか,はたまた,既存の公的病院をオープンにすべきか,意見は真っ二つに分かれた.その時,中核病院の副院長であった藤岡先生は我々に,病院と診療所の機能分化を説き,お互いの閉鎖性を打破しようと熱っぽく持論を展開された.

主張

勤務医選別の時代

著者:

ページ範囲:P.1013 - P.1013

 医師過剰時代突入といわれている.確かに我が国の就業医師数は20万人を越え,人口10万対医師数も欧米諸国の水準に達しつつある.しかし医療の現場では,まだまだ医師不足の分野が多い.地方都市,民間病院では未だに勤務医不足が目立ち,過疎地の医師不足も解消されていない.一方,大都市における開業医の減少傾向も見受けられる.その高齢化も顕著である.このような医師の偏在は,年代毎の医師供給のアンバランスによりさらに助長されてきている.第2次世界大戦後の数年間に医学部を卒業し,開業してプライマリケアを支えてきたいわゆる開業医の団塊の世代がそこにあるからである.その後,医療供給体制は病院を中心にシフトし,医師の勤務医志向が強まった.昭和40年代の医大増設と共に養成された医師の多くが勤務医の道を歩み,大きな勤務医師の山を形成している.
 地域保健医療計画の1つの目的であった必要病床数の策定は全国各医療圏でほぼ終わり,今後の病院病床数の大幅な伸びは不可能な状態となった.即ち新しい勤務医師の需要は今後大きくは期待できない.当面,偏在する不足を解消する方向で新しく養成された医師は吸収されるはずである.いま仮に,全ての勤務医が一生このまま勤務医を続けるとすると,病院医師の高齢化問題は避けられまい.

建築と設備・68

横浜労災病院

著者: 和田篤

ページ範囲:P.1075 - P.1080

計画の背景
 平成3年6月に診療を開始した横浜労災病院は全国で37番目の労災病院である.労災病院は戦後,労災医療の基幹施設として労働福祉事業団により建設,運営されてきた.
 80年代以降産業界が3次,4次産業へ重心を移動する中で労災医療の在り方が問われている.それは従来の労働災害による「けが」が減少し,技術革新によって生まれた新たな職業性疾病やストレス,突然死といった作業性疾病が増大したことと,職場への女性の進出や高齢化に伴う勤労者の質の変化にどう対応するかということである.

事例 医療施設間連携

窓口,情報の一元化でより迅速・緊密な病診連携を目指す名古屋第二赤十字病院

著者: 安藤恒三郎 ,   栗山康介 ,   羽衣石文恵 ,   長友貴代美 ,   山口和宣 ,   小瀬勇

ページ範囲:P.1081 - P.1084

はじめに
 名古屋第二赤十字病院は,名古屋市東部に位置し,地域の中心的総合病院として,最新の医療設備と医療機器を備え,救命救急センター,腎移植センターの指定を受けるなど,積極的に救急医療,高度医療に取り組んでいる.
 敷地面積は24,367m2,建物延面積は54,791m2で,ベッド数は835床(一般805床,結核30床),22診療科を有している.

勤務医からの発言

ホスピスの現場から

著者: 恒藤暁

ページ範囲:P.1085 - P.1085

 セント・クリストファー・ホスピスが1967年にイギリスのロンドン郊外に設立されたのが近代的ホスピスの始まりとされる.それ以後,ホスピス運動はイギリスやアメリカをはじめ世界各国で普及し高まっている.日本では1970年代にホスピスが紹介され,その必要性が言われ始めた.わが国で第1号の院内独立型ホスピスが,聖隷三方原病院に1981年に誕生した.続いて1984年,淀川キリスト教病院において院内病棟型ホスピスが設立された.それ以降,医療従事者のみならず一般の人々もターミナルケアに高い関心を示すようになってきた.
 こうした状況の中,厚生省が1990年4月に「緩和ケア病棟入院料」を新設し,国としてホスピスや緩和病棟を経済的に援助してターミナルケアの充実を図ろうとしている.ホスピスの現場で働く者として,今後のわが国におけるターミナルケアの発展を願って発言させていただく.

厚生行政を読む

—コーヒーブレーク—拡大座談会'91—診療報酬改定を占う

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.1086 - P.1091

改定の目玉は看護料
 司会 昨年のコーヒーブレークでは医療法改正案が国会を通過することを前提に議論を行ったのですが,みごとに外れましたね.まだ11月臨時国会での状況を見極める必要があります.ことしはいろんなことがありました.中医協では薬価の算定方式について大幅な見直しが行われ,来年の4月の薬価から適用されることになっています.そして,来年の4月にこの薬価改定と絡めて診療報酬点数改定があるんじゃないかと予測されていますので,その辺に的を絞ってご議論をいただきたいと思います.
 浅野 今回の薬価算定の見直しは,バルクライン方式だと価格操作がされやすいというので,加重平均に改めたと説明されています.これを診療報酬という点から見ると,バルクライン方式より加重平均方式のほうが大きく薬価が下がる,つまり現在の保険財源でいくと,何とか診療報酬改定の原資を多く確保したいということで加重平均になったというふうに見えます.

精神科医療 総合病院の窓から・9

老人医療にかかわってみて

著者: 広田伊蘇夫

ページ範囲:P.1094 - P.1095

私は安楽死したい
 本文を記しているのは9月15日,敬老の日である.そこで今回は趣きを変え,老人介護・医療にふれてみる.勤務する同愛記念病院の敷地内に,同じ財団の運営する特別養護老人ホームがある.地域の要請も強く,設置されたのは1年半前である.入所者は100名,これにショート・ステイの受け入れが8名,加えて1日に15名程度のデイ・ケアが行われている.現時点で要介護老人は全国でほぼ130万人,痴呆性老人は軽重さまざまであろうが約100万人かと推定されている.もっとも,この8月の「高齢者対策に関する行政監察結果(総務庁)」は,この数値が正確なものではなく,より的確な実態把握を厚生省に勧告している.とはいえ,この推定値からすれば,筆者の関与するホーム入所者は波打つ稲穂の数粒程度である.が,この数粒の場でも考えさせられることは多い.
 特別養護老人ホームの対象者は身体的,精神的障害をもっ65歳以上の,常時の介護を要する人々である.そこでデイ・ケア来所者のほとんどは,地域を巡回するホーム専用バスを利用している.同伴する家族には女性が多い.同伴者は入浴をはじめとして,日常介護の手法をみようみまねで少しずつ身につけてゆく.老人介護に関する出版物や講演会などでは,ついぞ得ることのない体験を重ねるわけである.

統計のページ

老人保健施設調査からみた老人保健施設の状況

著者: 岡本悦司

ページ範囲:P.1096 - P.1096

 老人保健施設の発足に伴って平成元年より「老人保健施設調査(以下「調査」)がスタートした.調査票は,平成元年7月1日現在の施設の静態を調査する「施設票」と,同年6月中に施設を利用した全ての利用者(入所・通所を含む)ごとに作成される「利用者票」の2つがあり,いわば医療機関対象の「医療施設調査」と「患者調査」を併せたもの.
 ただ患者調査が抽出調査であるのと違って,老人保健施設調査は利用者数がまだ少ないこともあって全数調査となっており,それゆえ得られた利用者統計は「推計値」ではなくそのものズバリの実測値である.

病院管理トピックス

[薬剤]退院時の服薬指導を中心に/[放射線]技術革新の行き着く果ては……

著者: 斉藤明

ページ範囲:P.1098 - P.1100

 1992年は病院薬剤部の業務が大きく変貌する年と考えられる.今まで薬価差益に頼っていた病院経営は見直しが迫られている.一方調剤のみに偏っては薬剤部の業務は不採算部門の代表となり病院薬剤師の存続も危い状態となるだろう.
 しかし人材不足の昨今,薬剤師ほど潜在能力を生かされていない職種もめずらしい.もっと調剤業務は合理化・機械化し,医薬品の質的管理,服薬指導,DI業務,無菌製剤,TDMの解析等,患者指向の医療支援業務に目を向けなければならない.

時評

人間管理化すすむデイケア事業

著者: 矢島嶺

ページ範囲:P.1101 - P.1101

在宅ケアに必要な2本の柱
 在宅介護で老後をすごす老人たちは,困難な環境の中で苦労しながら生きている.
 老健法による病院追い出し(結果としてそうなる)と本人負担の増額,更に在宅介護は,主婦や配偶者などの“ただの介護力”を当てにしてすすめられている.これらはすべて老人医療費抑制政策が基礎となっている.

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「病院」 第50巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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