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雑誌目次

雑誌文献

病院50巻5号

1991年05月発行

雑誌目次

特集 看護と介護—共存の道

[対談]ニーズへの対応 看護・介護

著者: 杉谷藤子 ,   井上千津子

ページ範囲:P.370 - P.377

高齢化で求められるサービスは
 杉谷 11月20,21日にデンマーク,スウェーデン,アメリカ,イギリス,オーストラリアの5か国の方が招かれて「不安なき高齢化社会をめざして」という国際シンポジウムがもたれました.日本の在宅サービスが非常に不足しているのではないかという指摘があったそうですが,井上さんはその辺どう感じていらっしゃいますか.
 井上 世界に冠たる福祉国家と比べれば,確かに数の上からもサービスの内容からも,日本は格段に落ちるとは思います.実際ホームヘルパーも数が足りない.ただ,生活文化や精神構造の違いを抜きにして,だから足りない,日本はだめだというのはどうかなという思いはあるんですね.現実には在宅ケアを進めるための条件は整っていません.在宅の実態をみると,介護する側もされる側もともに疲れている.寝たきりの期間が長くなればなるほど医療からも,家族からも,当然地域からも遠ざかっている.家族にしても,間違いなく健康を損ねている.排泄の世話から,食事,入浴……と考えてみると,介護は口で言うほど簡単ではなく,しかも24時間解放されることがないですから,拘束感で精神的に非常にイライラしているという状況があります.

病院の立場からみた看護と介護

著者: 寺田一郎 ,   小林房子

ページ範囲:P.378 - P.383

病院における介護の位置づけ
看護と介護はどう違うのか
 看護と介護という言葉はそれぞれの定義が明確でなく,使用する人の思い込みのままに使われており,いろいろと混乱を呼んでいる.以下,両者の関係についての考察を進めてみたい.

リハビリテーション施設からみた看護と介護

著者: 長谷川幹

ページ範囲:P.384 - P.387

 高齢社会の到来が言われて久しいが,従来は,「寝たきり」老人が100万人を超えるとか,悲観的で第三者的な話で強調されていたようである.最近,少しずつ変化の兆しがみられてきた.
 ①政治—経済の国際化につれ,障害者—老人の問題も世界的規模の情報交換がなされてきた.例えば,スウェーデン,デンマークの福祉の紹介がテレビに登場したり,「障害をもつ米国人法」が素早く伝わってきたりした.そのため,日本の様々な問題点を外から比較でき,「寝たきり」という言葉は,「寝かせられきり」ではないかという,本人というより周囲の責任ではないかという意見も出されるようになった.

老人保健施設,特別養護老人ホームからみた看護と介護

著者: 平井基陽 ,   南溢

ページ範囲:P.388 - P.391

 わが国では,寿命の延長による老人人口の増加と出生率の低下によって,老人人口比率は急速に上昇し,それにともなって75歳以上の後期老人人口が増加しつつある.当然のことながら老化を基盤とした疾病や障害などのために日常生活を営む上で援助を必要とする老人(要介護老人)の急激な増加が見込まれ,いかに対処するかが大きな社会問題となっている.
 一方,1963年には老人福祉法が制定され,心身の健康障害をもち,常時介護を要する老人を対象とした特別養護老人ホーム(特養ホーム)がスタートした.「介護」という用語が法律にとり入れられ始めたのもこの時であった1).それから20年後の1983年には老人保健法が施行され,それまでの医療法による一般病院とは区別したいわゆる老人病院(特例許可病院)が設けられることになった.さらに1986年の老人保健法の改正に基づき,モデル事業を経て1988年より老人保健施設制度が本格実施され,病院と家庭の中間,さらに医療と福祉の中間施設として老人保健施設(老健施設)がその運営を開始した.老健施設は寝たきり老人などの要介護老人に対して医療サービスと日常サービスを併せて提供する中間施設としてスタートすることになった2)

看護と介護—つきそい制度とケア強化病棟

著者: 吉岡充 ,   田中とも江

ページ範囲:P.392 - P.394

つきそい制度の見直し
 看護という行為(ナーシング)は,看護と介護の両方の行為を意味しており,この両方の行為も明確に分けられるわけではない.看護婦が両方を行うことも全く問題ないわけである.しかし,看護婦の需給関係の現実と,おそらくは経済的効率も考えて,図のような,看護婦でなくてはしてはいけない業務が少ない病棟,すなわち,慢性疾患の患者さんの多い病院・病棟では,ライセンスのない職種の人達の助けを求め,人手と看視の目を増やした方が良いのではないかという1つの現実的な判断から,特例許可老人病棟がうまれてきたのであろう.
 これ以前にも,福祉の分野において,例えば終生入所型の特別養護老人ホームでは,少数の看護婦と,多数の寮母という組み合わせのスタイルはあったわけである.また,基準看護というシステムにおいては,正看,准看,無資格者の比率が5:3:2,4:4:2という特例が存在していることも現実である.介護を主とする役割の職種は,福祉の分野にも,医療の現場にも存在し,十分にその機能を果たしてきていたわけである.もちろん,多くの問題が存在している.教育の問題,待遇も含めた資格やモラールの問題.このあたりが,整理されないまま,老健法成立の際に,特例許可老人病院の中に,介護員の導入が行われてきたわけである.この情況の中に,病院の組織に属していない.

看護・介護要員の需給

著者: 星野桂子

ページ範囲:P.395 - P.399

 昭和62年5月に「社会福祉士及び介護福祉士法」が公布され国家資格として発足した.看護婦と介護福祉士の業務は重なるところも多い.両者の業務の区分をどうするか,あるいは,福祉領域の専門職である介護福祉士は病院など医療施設でも活用できるのではないか,専門学校で教育を受けた看護婦や基礎学歴として中学卒業でもよい准看護婦と高校卒業以上の介護福祉士とでは学歴面で差が出るが問題にならないかなど,いろいろに議論されている.
 ここでは,医療の現在における両者の具体的な関係や教育制度に触れることはせず,これからの高齢化社会において看護や介護を必要とする人口がどのようになるのか,どの位の看護介護者数が必要になるのかを中心に考えてゆきたいと思う.

在宅ケアでの看護と介護

著者: 関寛之

ページ範囲:P.400 - P.403

 高齢化社会をむかえ,医療対象は急性回復型から慢性終末型の疾病に,その比重が急激に変化しつつある.急性回復型の疾病ではキュアが効率的に行われれば,医療はその段階で完結し,ケアはキュアの補助的な役割りを果たすだけでも問題は少なかった.
 しかし,回復が期待できない合併症や後遺症をかかえる高齢者,病期の進んだいわゆる難病,悪性腫瘍の末期など慢性終末型の疾病に対してはキュア主導の従来の医療システムでは適切な医療サービスを提供することができないことがある.このため病院での治療が終わると,残った障害に対するケアについての計画も立てずに在宅に返したりすることがおこり,これが医療に対する不信感を醸成する一因になっていることは否めない.また,医療サイドには,身体の障害で在宅生活が営めない者は入院すればなんとかしてくれるはずという,病院を都合のよいブラックボックスと考えている社会常識に対する抵抗感は大きい.

グラフ

地域に開かれた医療に向けて—医療法人日鋼記念病院

ページ範囲:P.361 - P.366

 「21世紀の医療を担うのに相応しい病院」を基本方針に増改築を進めてきた日鋼記念病院が本年1月に竣工し,かつての「野戦病院」のイメージを一新し近代的な病院に生まれ変わった.この増改築は昭和58年(1983)以来3期,8年間に及ぶ工事で総工費約80億円が投入されている.
 かつて鉄鋼の町として栄えた室蘭市にある本院の歴史は古く,明治44年に創立されている.その後,日本製鋼所の職域病院として運営されてきたが,昭和55年(1980)10月に独立,医療法人社団日鋼記念病院と改称し,今日に至っている(独立前後の動きや西村昭男院長の経営哲学は本誌44巻10号,他で紹介).

脱精神病院に深い関心 東京都立松沢病院院長 金子嗣郎氏

著者: 大谷藤郎

ページ範囲:P.368 - P.368

 大正時代,トイツ留学から帰朝した東京帝国大学教授であり松沢病院長でありた呉秀三は,「日本の精神病者は,精神病者である不幸の上に,日本(精神病者の人権を認めない)に生まれた不幸という二重の不幸を背負っている」と喝破し,政府に対して精神病対策の無策を批判した.
 彼の運動が,大正12年精神病院法の成立を促し,全国に府県立精神病院設立の契機をなした.松沢病院は現在に至るまで日本の精神病治療の中心であったし,内村祐之先生,林暲先生,秋元波留夫先生など代々の院長は日本の精神医療史に燦然と輝いている.

主張

明るい病院

著者:

ページ範囲:P.369 - P.369

 新年度を迎えて若い人々が職場に入ってくる.若葉の季節にふさわしい眩しさが病院にも差し込む.3Kと呼ばれる職場にこの明るさを持ち込みたい.
 明るい病院は職員にとっても,患者さんにとっても,何時も目指すもの,希望するもの,実現すべきものであろう.この明るい病院はどうすれば生まれるものであろうか.

特別寄稿

日本臨床工学技士会が目指すもの

著者: 沢桓

ページ範囲:P.405 - P.409

 病院のなかで働く技師に対し,新しく国家資格による臨床工学技士制度が制定されましたが,まだ広く世間に認識されていないのが現状であります.そこで,この臨床工学技士制度および貴施設の技師達に対し,より一層のご理解とご支援をいただけますよう,臨床工学技士制度,技士が果たす役割,アメリカの技士制度との比較などについて述べさせていただきたいと存じます.

厚生行政を読む

パワーシフト(下)

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.410 - P.411

 前号においてアルビン・トフラーの「パワーシフト」を紹介し,病院を取り巻く権力構造が今後短期間で変化してくであろうことを述べた.
 「パワーシフト」は1人の作家の単なる1著作物にすぎないが,行政運営上は,権力構造をより正確に把握した上で,その権力構造をうまく活用して施策をより効率的に実現することが重要であるので,厚生行政の今後の動向を占うに当たっては,仮説の域に止まらないものの,この著作の主張するところは無視できない.

わが病院の患者サービス

市立舞鶴市民病院—薬剤師外来開設

著者: 丸山豊和

ページ範囲:P.412 - P.413

◇真の医療への模索
 市立舞鶴市民病院は,プライマリ・ケア理念を根幹として『地域社会から信頼される患者と医療職員,心と心のふれあいのある患者さんサイドの医療の実践』を基本的医療方針に掲げ,理念に終わることなく,それを如何に実践するかに重点をおいて活動している.
 『医療』は,住民の生活支援のために存在し,住民の生命と健康,暮らしを守るために援助・協力することを目的として社会から必要性を認められている.しかし,専門的知識,技量だけで行われるものは『医学』であって,医学レベルが幾ら高くても,医学を基礎に総合的に実践されるサービスでなければ『医療』とは言えない.つまり,人々が医療に何を求めているのかを考え,それを実践し,信頼を得ることが最も大切であり,それには医療を行う側から考えるのではなく,受ける側から考えるのでなければ,その本質は決してつかめない.

医療を囲む声 病院の視力・聴力・感性

「総合医療」をめざして(最終回)

著者: 山本和利

ページ範囲:P.414 - P.414

包括的にみるということ
 このコーナーでの私の連載も今回で最終回となる.
 患者を診る場合,単に臓器だけを診るのではなく,その患者の人間関係や家族,職場,地域社会,さらにその地域の医療文化的背景まで十分に把握する必要があるということ,患者が望んでいることに応えられるような医師になるには何が必要なのかということについて,これまで何回かに分けて述べてきた.

実践・病院のマネージメント・11

ニーズとウォンツ

著者: 井手道雄

ページ範囲:P.415 - P.419

 前回〈組織の継続について〉(1991年3月号)では,組織はその成長に伴い,より公的な存在となること,および組織に対する私的な所有意識を速やかに捨ててその継続を図ることを最優先課題にすべきであると強調した.
 さらに,組織が継続し発展するには,七つのSが必要であり,その基礎となるコミュニケーションには七つのCが必要なことも示した.この七つのSと七つのCのいずれが欠けても組織の健全な発展は困難になるといわれるが,その前提となる共通の考え方がある.すなわち,マーケティングマネージメントであり,これらは本来,病院経営の根底ともいえるものである.

事例 医療施設間連携

大分市医師会立アルメイダ病院

著者: 吉川暉

ページ範囲:P.420 - P.423

発足の経緯〜病診連携の中心
 話は25年前に遡る.検査技術の急速な進歩は従来の医療機関内の自己完結を難しくしていた.日本医師会も早くから地域医師会主導による臨床検査センター,共同医療施設の必要性をとき,徐々にその成果が現れつつあった.わが大分市医師会立アルメイダ病院もほぼ5年の準備期間と甲論乙駁の経過を経て昭和44年とりあえず100床をもって開院した.臨床検査を中心とし,内科系に力点をおく共同医療施設が誕生した.
 スタートの段階から開業医の機能を,高機能技術の集積によって補うという発想に立っていたから,最初から病診連携,というよりは一体であって,最近の診療所機能と無関係に発足した国公立等の高機能病院を部分開放して,既存の医療機関と結ぶという連携とは本質的に異なっていることをまず指摘しておきたい.アルメイダ病院の機能をみながら,それぞれの医療機関が必要なソフトとハードを準備してきた20年という歴史がある.

建築と設備・61

病院の緑化計画

著者: 三沢彰

ページ範囲:P.424 - P.428

 病院といっても種類と規模に大きなひらきがあり,それらを一纏めにして論じることはできないであろう.ここでは個人病院ではなく,布立病院程度の総合病院を想定して記を進めて行きたい.
 病院にとって緑化は,必要条件ではないが十分条件ではあろうとかねがね考えているが,私の住んでいるM市の市立総合病院では敷地一杯に建物が建ち,建物以外は駐車場で緑は皆無と言っていい.市役所や県立図書館などの方がよほど緑が多い.緑にお金を掛けるよりは少しでも多くの医療機器を購入し,車を1台でも多く駐車させたい,ということなのであろうが,緑がもっている多くの環境保全の働きや快適空間を創造する上での役割はおおいに意味のあるもので,病院の本来の目的からしても,緑を駆使して快適環境,快適空間を作り出すことは重要と考える.また,緑化空間は治療の一環に取り込める要素も有している.

勤務医からの発言

医事紛争は防げるか

著者: 浅井登美彦

ページ範囲:P.429 - P.429

 我が国でも医事紛争や医療過誤訴訟が増加しつつあり,いずれは欧米並みになるであろうと言われている.それでも,まだ紛争や訴訟を,直接当事者として体験されたことのある医師は,全国の臨床医のなかで,微々たるものであろう.
 従って,医事紛争や訴訟が多発する傾向にあるといわれているわりには,第一線の臨床医のなかには,他人事のように受け取る先生方も多い.それどころか,「自分だけは訴えられたり紛争に巻き込まれることはない」という奇妙な確信をお持ちの方々もいるようだ.

精神科医療 総合病院の窓から・2

アメリカの精神科病棟の発展—J.Montgomery Mosherという人

著者: 広田伊蘇夫

ページ範囲:P.430 - P.431

 前回は最近のヨーロッパ諸国の総合病院精神科病棟の動向を,わが国との対比で記してみた.今回はアメリカの足取りを簡単に紹介してみよう.
 アメリカで総合病院精神科病棟がはじめて設立されたのは,今を去る90年前の1902年,ニューヨーク州の郡立Albany病院だったとされている.発足時,この病棟は一般病棟なみにF病棟と呼ばれていたが,後に設立・運営に尽力したJ.M.Mo-sherを記念して,Mosher病棟と呼ばれるようになっている.

統計のページ

税務統計からみた保険料負担

著者: 岡本悦司

ページ範囲:P.432 - P.433

 医療機関が受ける診療報酬の総和である「国民医療費」は,9割近くが保険または公費から支払われている.言い換えれば,国民は医療費の大半を租税または保険料という形で負担していることになる.前回は患者が医療機関に直接支払う狭義の医療費の負担を検証したが,今回は保険料負担を所得階層別に検証しよう.

病院管理トピックス

[集中治療]ICUの効率的運営/[病院経営]意思決定会計と病院経営⑥/[薬剤]変革する医療社会と医薬品情報

著者: 松原泉

ページ範囲:P.434 - P.437

 集中治療室(以下,ICUとする)は,あらゆる疾患の重篤な状態の時期に,血圧,脈拍数などの生体情報のモニタリングと,人工呼吸管理や血液浄化法などの臓器サポートを,技術集約的に行い得るユニットである.そのためにICUには,生命危機管理に習熟した医師と看護婦が配置され,きめ細かな患者管理がチームとしてなされる必要がある.多くの病院でICU設置の重要性が語られ,中央部門として構成されてきているが,その運営に関しては種々の問題を含んでいることも事実であり,当科における経験をもとにICUの効率的運営について,検討してみる.

医療・病院管理用語ミニ辞典

[病院管理]大規模経済の原理/[産婦人科医療]監視装置による検査,負荷試験

著者: 一条勝夫

ページ範囲:P.438 - P.438

 企業経営において,大規模経済利益(large-scale economy)という原理がある.
 商品生産における原価には,材料費のように生産数量に比例して増減する変動費と,管理費や施設費など生産数量にそれほど関連せず,ある程度までは一定である固定費とがある.したがって大量に生産した場合,一個当たり原価は,変動費部分は変わらなくても,固定費の割当分は逓減するので,より安くなる.また,材料を大量に仕入れたり大量に販売することによって仕入原価や販売経費が安くなり,またその商品市場におけるシェアを大きくして支配力を増すことができる.

時評

都心部のプライマリケア

著者: 箕輪良行

ページ範囲:P.439 - P.439

 都心部のプライマリケアは近い将来,破綻するのではなかろうか.事業所やオフィスビルが林立し,定住人口は減少するばかりで,高度医療のメッカがいくつもあるから,開業医や小さな病院はなくても住民は困らないだろうという意見が聞こえてきそうだが,果たして本当に大丈夫なのか.
 現在,例えば,東京都区内の開業医は平均年齢が約65歳といわれている.この十年来静かに進行している勤務医志向や専門医志向,医療の経営環境の悪化傾向.全体として医師数は増加しているにもかかわらず,都内の開業医の後継者確保は容易ではないようだ.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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