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雑誌目次

雑誌文献

病院50巻8号

1991年08月発行

雑誌目次

特集 病院のヒューマン・リソースは万全か—病院職員の採用と募集

産業構造の変化とヒューマン・リソース

著者: 高梨昌

ページ範囲:P.646 - P.651

産業構造の変化
 わが国の産業構造は昭和48年のいわゆる石油危機を転機にし,急速に変化してきた.すなわち,従来の資源・エネルギー大量消費型産業から資源・エネルギー節約型産業に急速に転換してきた.つまり,通産省が言う「知識集約型高付加価値産業」が急速な成長過程に入ってきている.これはまた「サービス経済化」ともいわれるように,ものをつくる製造工業はME (micro-electro-nics:電子工学)技術を中心とする技術進歩によって急速に自動化,機械化が進み労働投入量が節約されはじめてきているということである.
 これまでの技術は大量生産技術で,大規模な製造工業が大量の労働者を雇うというように資本集約型であると同時に労働集約型産業であった.それがME技術をはじめ省力化技術が導入され,多品種少量生産でも効率的にものが生産されるようになったのである.これが,「脱工業化」という考え方であるが,「脱工業化」は単に工業部門が縮小することを意味するのではなく,工業部門が効率的な生産を行って必要とする人員が節約されはじめているということである.

労働力不足時代の婦人の就業動向—「平成2年版婦人労働の実情」より

著者: 労働省婦人局婦人労働課

ページ範囲:P.652 - P.655

 平成元年の我が国経済は,引き続き内需主導型の順調な景気拡大が続き,これに伴い労働経済も,有効求人倍率が1倍を超えたほか,雇用者の増加,完全失業率の低下等労働力不足の状況にある.
 労働省「労働経済動向調査」(平成元年11月)より労働者の過不足状況をみると,サービス業では66%の事業所が不足しているとしており,職種では「専門・技術」での不足率(60%)が高くなっている.

ヒューマン・リソースのマネジメントと医療界の問題

著者: 池上直己

ページ範囲:P.656 - P.659

はじめに
 現在,病院では看護を中心としたヒューマン・リソースの確保が緊急の課題として取り上げられている.そして,そのための様々な方策が練られているが,結果的には絶対量が不足しているため個々の職員の奪い合いに陥る傾向にあり,十分な対策には必ずしもなっていない.もちろん,奪い合いの結果,質の高い医療機関だけが生き残り,そうでない所が淘汰されるのであれば,こうした状況もある程度容認できるといえよう.しかしながら,全体として見た場合に,奪い合いの弊害の方が目だち,効率的なヒューマン・リソースの活用に結びついていないように思われる.そこで,本稿では,まずヒューマン・リソースをマネージする際に踏むべき原則的なステップを提示し,次いでその障害となる医療界の固有な問題点について分析する.最後に,このような障害を乗り越えるための戦略を提示する.

病院におけるヒューマン・リソース・マネジメント

著者: 黒田幸男

ページ範囲:P.660 - P.663

はじめに
 平成3年2月における有効求人倍率は1.46と,1974年以来の求人難となり,人手不足状況は深刻である.病院は人手集約産業といわれ,しかも,職員人口の約8割が国家認定資格を必要とする専門家であり,かつまた,看護婦をはじめ女子職員の占める割合は70%前後と高く,平均在職年数が短いのが特徴である.これらのことから,病院経営計画を立案する場合,その達成に人的資源の確保が大きな障害になることも珍しくない.
 病院の経営計画は,地域の医療需要を基礎にして,どういう診療体制をもつか,それに必要人的体制をどうするか,収支計画がどうなるか等の予測のもとに立てられる.

公立病院における募集と採用

著者: 時任純孝

ページ範囲:P.664 - P.666

 鹿児島市立病院職員の採用に当たって,当院で実施している事項についてその概略を述べることとする.

[インタビュー]企業におけるヒューマン・リソースの募集と採用

著者: 藤本勝政 ,   内尾研二 ,   井手義雄

ページ範囲:P.667 - P.672

経営計画と求人対策
 井手 こちらの会社ではいわゆる先端技術の分野での製品を研究・開発から製造,販売までされていますが,経営計画にそった求人計画を立てて採用されているのでしょうか.
 藤本 経営計画に基づく採用計画はありますが,人を採用するに当たっては細かい採用人員は流動的です.応募してきた人の適性が合わなければ採用計画が未達成となっても採用しません.そのためには社内の現員で業務を進める体制づくりが必要だということです.そういう点も含めて5〜10人の人を常に求めているのが実情です.

医療関係職養成施設卒業生の就職動向

著者: 藤間英雄 ,   森芳夫 ,   有馬克彦 ,   萩原利昌 ,   若山佐一 ,   横田一彦 ,   高橋雅人 ,   中村春基

ページ範囲:P.673 - P.680

診療放射線技師養成施設
 診療放射線技師養成施設の卒業生の就職動向について,(社)日本放射線技師会では全国の養成機関の協力を得て,昭和62年度の卒業生より詳細な調査を実施している.平成2年度については現在データを集計中であるため,平成元年度までの3年間についてその動向を追ってみる.

グラフ

総合的リハビリを目指して—国立療養所長崎病院

ページ範囲:P.637 - P.642

 長崎は坂の多い街である.山あいの幹線道路を一歩横に入ると,麓から項に至るまで細い路地がうねり,あるいは階段が続く.そんな山腹の家に住む人たちにとって,いったん病気になると,病院に通うのも大仕事である.退院した患者さんも一歩屋外に出るとそこには階段が待っている…….
 市内の繁華街から車で約10分,野母半島を茂木港へと横断する幹線道路が峠を越える川上町付近は住宅が密集した高台の街である.国立療養所長崎病院はそこから徒分数分,海抜約170メートルの高台にある.病院は療養所から都市型病院として機能の転換を進めている.

指導者教育の発展を期待 厚生省看護研修研究センター所長に就いた 門脇豊子氏

著者: 野村かず

ページ範囲:P.644 - P.644

 前職の国立病院医療センター附属看護学校副学校長ご在任中には,全国の国立病院療養所附属看護学校副学校長教育主事協議会長として,私たちは,本当にお世話になりました.先生は常々“人間尊重を土台にプロとしての看護実践者を育てたい.学生は多くはそのことを実習を通して学んていくから,職員間,患者さんやご家族との対応に相互尊重がみなぎっていて欲しい”と言われておりました.
 看護教育に対する先生のお考えには,昭和30〜40年代の看護新生の時代に,母校石巻赤十字高等看護学院の専任教員として後輩の教育に若い情熱を傾注されたこと,国立がんセンター草創期に婦長として第一線の臨床看護を実践されたこと,さらにWHOのフェローとして英国,デンマーク,スウェーデンに赴き臨床看護,地域看護,看護教育を学ばれたことなとが,着実に蓄積され,さらに洗練され続けております.

主張

賞与と病院経営

著者:

ページ範囲:P.645 - P.645

 我が国経済界の本年度夏期賞与支給実績は,バルブのはじけた証券業界等一部業界を除いては昨年並みの実績であり,病院業界と比較すると羨ましい状況であると言わざるを得ない.すでに多くの病院で夏期賞与は支給されたはずだが,この数年間の病院経営実態より推測すると,果たして世間並みの支給が行われたのか疑問である.
 賞与資金が保障されている公的病院は別として民間病院では,賞与資金は社会保険診療報酬による自己資金で賄うか,または借入金に依存するかの方法しかない.そして,今日のような資金事情のもとでは,借入金に頼らざるを得ないというのが多くの病院の経営実態であろう.経営が悪化している一部の病院では,支給率等の変更を行ったところもあると聞いている.

特別記事

アメリカにおける医療評価の歴史と現状2—病院内各部門におけるモニタリングによる質の評価

著者: ,   岩﨑榮 ,   吉田穰

ページ範囲:P.681 - P.685

 この記事は1990年11月23日に開かれた「病院医療の質に関する研究会」設立総会の記念講演を翻訳したものです.

連載 今,なぜ戦後医療技術史か・2

ハイテクノロジーとローテクノロジーとの共存

著者: 上林茂暢

ページ範囲:P.686 - P.690

華々しい成果とハイテク志向
 ハイテク医療に対する医療技術者,国民の期待はきわめて大きい.一般にハイテクノロジー(先端技術)とは,1970年代以降のマイクロエレクトロニクスの発展を基礎に登場してきた新技術の一群を指している.製造部門ではNC工作機械,マシニング・センター,産業ロボットなどで構成されるファクトリー・オートメーション(FA)があげられる.事務部門でのパソコン,ファクシミリ,複写機,ワープロによるオフィス・オートメーション(OA),炭素繊維やガラス繊維などの素材で強化された繊維強化樹脂,機能材料としてのファインセラミクスなどの素材を用いた製品,光通信,INS,キャプテンシステム,CATVといった通信技術の進歩,バイオなども含まれる.
 このような他産業での成果を背景に,医療技術の新たな展開を図ったのがハイテク医療にほかならず,診断,治療の分野で飛躍的な成果をもたらした.

建築と設備・64

中小病院3題

著者: 河口豊 ,   水登裕 ,   石田好 ,   野崎庸之 ,   古賀信二

ページ範囲:P.691 - P.697

中小病院の展開
 本誌昨年2月号,本年4月号に中小病院の将来が特集として取り上げられた.現在,中小病院の動向に高い関心が寄せられているからであろう.地域医療計画,人員確保,あるいは患者の大病院志向など中小病院の抱える問題点が,今日的状況を反映して示されるとともに,各病院の様々な対応が紹介されている.
 中小病院に対する地域住民の要望の第1は地域医療の担い手であろう.入院を中心とした一般医療をきちんと受け止め,Common diseaseに十分対応できることである.そのためには“総合診療”の態勢がとれ,予防やリハビリテーション活動を診療所や保健センターなどと展開できる力が要求される.特に高齢社会において,トータルヘルスケアを射程においた活動が求められている.

精神科医療 総合病院の窓から・5

リエゾン精神医学とは

著者: 広田伊蘇夫

ページ範囲:P.698 - P.699

[リエゾン精神医学の領域]
 最近,リエゾン精神医学の論議が多くみられるようになっている.もともとが1930年代から,アメリカを中心に発展してきた精神医学の一分野のことである.わが国でも総合病院の精神科によっては,すでにその活動が日常化しているところもみられる.そこで今回は,この分野の動きに触れてみたい.ことのはじめに,いささか硬苦しくはなるがリエゾン精神医学の活動領域を紹介しよう.
 リエゾン精神医学というのは,総合病院をベースにする精神医学の一分野であり,その黎明期から,精神的問題を抱える患者について,担当医の求めに応じて,精神科医が診断・治療の助言を行うことを中心的課題としてきたし,現在もなお,この側面が中心テーマであることに変わりはない(狭義にはこれをコンサルテーション精神医学と呼ぶ).が,臨床経験の積み重ねととともに,その領域は拡大してきており,今日では活動の局面を担当医の要請に限定するだけでなく,精神科医がはじめから他科のスタッフの診療活動に定期的に参加し,患者の抱く精神的問題を早くみつけ出し,対応策を検討し合い,更には臨床場面でしばしばみられる患者とスタッフ,また時には患者と家族との間の感情的わだかまりをほぐし,より効果的かつ安定した治療環境を作り出してゆくことを目指すようにもなってきている(こうした活動も含めて,これをリエゾン精神医学と呼ぶ).

統計のページ

人事院統計からみた病院職員給与

著者: 岡本悦司

ページ範囲:P.700 - P.701

 人事院は国家公務員の給与改定に資するため毎年,民間企業サラリーマンの給与調査を行っている.類似の調査は国税庁も行っているが,サラリーマン給与を比較する上で,職種,職階,年齢は無視できないファクターであり,その点人事院調査の方が統計としての価値が高い.平成2年4月の調査結果より病院職員給与をみてみよう.
 なお給与は全て月額であり,給与には次のものを含む.

勤務医からの発言

老人医療,精神医療の中で

著者: 今村千弥子

ページ範囲:P.702 - P.702

 初めにお断りしなければなりませんが,私は当医療法人の常務理事かつ無給勤務医であり,真の意味での勤務医ではありません.なぜ無給なのか——その理由を述べることが,実は本稿のテーマと丁度重なりそうです.
 当院は元来は243床の精神病院に,10年前より徐々に内科,小児科,歯科,理学療法科が加わったものです.平成元年5月には老人保健施設,同年7月には痴呆性老人専門治療病棟,平成2年春には精神障害者社会復帰施設援護寮を加えています.

事例 医療施設間連携

活気づく「高齢者ケア・ネットワーク」—松原市からの報告

著者: 岡本祐三

ページ範囲:P.703 - P.707

はじめに
 松原市は大阪府下の衛星都市で,総人口13万6,000人,市域は東西5.8×南北5.2km.高齢化率は9,0パーセントと,全国平均あるいは府下平均よりも低く,人口学的にはまだ成熟していない都市である.しかし「寝たきり老人」は全市で240人を越え,高齢者問題は年々深刻の度を増している.もともとは農業地帯であったが,1950年代頃から高度経済成長とともに,地方から大阪へ働きに出てきた人々のベッドルーム・タウンとなった.これという名所旧跡は勿論,めぼしい企業とて数少なく,市民の平均所得も低く,当然税収も乏しい.下水化率も府下最低レベルと,一言でいえば,典型的な貧しい大都市近郊の衛生都市としての特徴を全て備えている.
 しかしこの市域が全国的に誇れるもののひとつが,高齢者の医療福祉ネット・ワークである.この地域ケアシステムは,1970年代から,「阪南中央病院」(312床,「健康管理部・在宅ケア課」あり),「大阪府松原保健所」,「松原市社会福祉協議会」(以下「社協」と略),「特別養護老人ホーム」(大阪老人ホーム・新生苑,計180床—以下「特養」と略),[松原市福祉担当課」「松原デイケアセンター」(図)が,力を出し合って営々として作りあげてきたものだ.そして近年では,この連携システムが市の正式機構として認知され運営されるまでに至ったのである.

GROUPING & NETWORKING

地域に密着したトータル・ヘルス・ケアを目指して—地域医療研究会

著者: 亀井克典

ページ範囲:P.708 - P.709

●地域医療研究会の歴史的経過
 地域医療研究会の前身は,1968〜69年の大学闘争の中で,既存の医学・医療のあり方に批判的な若手外科医師たちにより開催された「外科医師連合夏季合宿」である.1970年代には信州蓼科で,浅間総合病院と諏訪中央病院の交互当番で開催されていた.
 その中心的メンバーであった,今井澄氏(現諏訪中央病院名誉院長)らの呼びかけにより,1980年「地域医療研究会'80」が,長野県茅野市で開催された.その基本的なコンセプトは,大学医局講座制を中心とした医学・医療,診断・治療にあまりにもかたよった医学・医療,「病気をみて,人をみない」医学・医療に対して,あくまで,患者や地域住民の健康と幸福を追求するという立場からの,実践的な医学・医療をつくりあげようというものであった.

厚生行政を読む

脳死と臓器移植(上)

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.710 - P.711

 平成3年6月14日に臨時脳死及び臓器移植調査会(脳死臨調)は「脳死及び臓器移植に関する重要事項について」の中間意見を発表した.脳死臨調は内閣総理大臣の諮問機関で,平成4年1月までの2年間,総理府に設置されるが,その庶務は,関係行政機関の協力を得て,厚生省が行うことになっている.

病院管理トピックス

[薬剤]TDMシステムとその実際/[放射線]放射線部門の運営を技師の手に/[外来運営]外来運営のシステム化

著者: 吉岡優子

ページ範囲:P.712 - P.716

 TDM (薬物治療モニタリング)を薬物血中濃度測定と同義に考えている医療関係者はまだ多い.しかし,TDMは元来,誰に対しても画一的に薬物療法を適用することへの疑問から発生したもので,いかに個別化された薬物療法を適切に行っていくかを志向しているものなのである.
 TDMには薬物血中濃度測定を伴うものと,伴わないものがある.例えば,血中濃度測定は行わなくても,糖尿病患者に対してインシュリンの量を決定する際や,癌に代表されるような疼痛に対する薬物療法,あるいはステロイド剤の離脱,催眠剤の決定などに際して薬剤師が薬物療法をモニターすると,その効果は高い.実際に米国では,高血圧や狭心症の治療に薬剤師が加わって,薬物療法をモニターすると,安全性,有効性のほか,経済的にも有意義なことが既に証明されている.

医療・病院管理用語ミニ辞典

[救急医療]観血的肺動脈圧測定・心拍出量測定/[病院管理]ターミナル・ケア

著者: 中江純夫

ページ範囲:P.718 - P.718

 急性心筋梗塞,各種ショック,多発外傷,熱傷,その他の重症患者の管理に際し,循環動態をより精細に把握して適切に対処する目的でバルーン付カテーテルが集中治療室で使用されることが多い.
 バルーン付カテーテルは発案者であるスワンおよびガンツの両氏の名をとって「スワン-ガンツカテーテル」と呼ばれる.このカテーテルの特徴はカテーテルの先端にバルーンがついていることで,これを膨らますことにより,X線透視なしでもベッドサイドにおいて,安全にカテーテルを右房,右室,肺動脈へと進めることができる.

時評

地域医療の常識を再検討する

著者: 矢島嶺

ページ範囲:P.719 - P.719

現われては消えていく用語
 地域医療のための用語やフレーズは特に横文字が目につく.多くは2〜3年ぐらい使われていつの間にか下火になっていく.「プライマリーケア」「メディコポリス」「ジェネラルフィジシャン」「コンプリヘンシブメディシン」「地域看護」等あげればきりがない.
 これらの用語は偉い先生が欧米先進国から概念だけを輸入してきてマスコミを通じて拡げ,実践が伴わず放置されることが多い.「ノーマライゼーション」等も内容を正確に広め,障害者が地域の人々に混じって普通に暮らすような運動を実践すれば,「メディコポリス論」などは収容型介護の亜流であることが分るはずだ.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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