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雑誌目次

雑誌文献

病院51巻10号

1992年10月発行

雑誌目次

特集 在宅ケア新時代

21世紀の在宅ケアを求めて—老人の在宅ケアを中心に

著者: 辻哲夫

ページ範囲:P.870 - P.877

なぜ今在宅ケアか
 我が国においては世界に例を見ない高齢化が進んでおり,65歳以上人口の割合が現在12%程度であるが,平成12年(西暦2000年)には16.3%に,平成32年(西暦2020年)には23.6%に達すると見込まれている.高齢化に伴い様々な問題への対応が必要であるが,特に大きな課題が,後期高齢期におけるケアの問題である.
 慢性疾患中心の疾病構造の下で国民誰もがねたきりになったり痴呆になる可能性を持つに至っているが,その場合の対応のシステムが社会的にまだ確立されているとはいえない状況にある.データは少し古いが,昭和61年現在で我が国のねたきり等要介護老人は約60万人である.うち25万人が病院に長期入院し,12万人が特別養護老人ホームに入所,残りの23万人が在宅である.

病院が進める在宅ケア

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.878 - P.882

はじめに
 平成4年4月1日実施の診療報酬等改定によって,在宅療養に関する点数が大幅に評価された.また,老人訪問看護ステーションが制度化され,老人訪問看護療養費が新設された.
 これと並行して,老人保健施設の在宅ケア支援機能が拡充され,特にデイケアが大幅に評価された.

在宅ケアの組織化に何が必要か—ソーシャルワークの立場から

著者: 岩見太市

ページ範囲:P.883 - P.885

はじめに
 医療法人渓仁会は,札幌市内に総合病院手稲渓仁会病院(500床),特例許可老人病院として西円山病院(942床)と定山渓病院(366床)を有する他,関連の社会福祉法人南静会(医療法人渓仁会と同じ加藤隆正理事長)が経営する特別養護老人ホーム西円山敬樹園(定員100名)と老人保健施設コミュニティホーム白石(定員100名),さらに別法人で人間ドックとフィットネスクラブを経営している.
 それらの各病院や施設の横の連携を保つために医療福祉部が創設されて,各病院,施設の医療福祉スタッフ(医療ソーシャルワーカー)がお互いに情報交換し合いながら,患者家族のニーズに合致した対応をするようになっている.

公的病院で在宅ケアと取り組んで—ゼネラルコーディネーターの立場から

著者: 岡島重孝

ページ範囲:P.886 - P.889

 時代の要求に応えて病院も変わらなければならない.先見でも理想でもなく常識のはずなのだが,実現は極めて難しい.

在宅ケアにおける医療面での有機的な連携を考える—老人訪問看護ステーションを開設して

著者: 宮崎和加子

ページ範囲:P.890 - P.893

はじめに
 私は,14年前から柳原病院・地域看護課で訪問看護婦に携わっている看護婦である.老人保健法の改正で今年の4月から「老人訪問看護ステーション」が全国的にスタートした.当法人である健和会がこの6月に東京都で第1号の老人訪問看護ステーションを開設し私がその責任者になった.母体である柳原病院での在宅ケア・訪問看護を基盤におきながらも半ば独立し,新たな地域に看護婦だけの事業所を開設したのである.そして地域の中で開業医はじめたくさんの関係機関と連携をもつ活動をはじめた.わずか2か月の実践だが,今までと違った様々な経験をし,学ぶことが多かった.そのことを報告しながら在宅ケアの中でも特に医療・看護面での連携と看護婦の役割について考えてみたい.

病院、老健施設、そして在宅ケアへ—“大原健康村”構想の実現に向けて

著者: 児玉博行

ページ範囲:P.894 - P.898

はじめに
 医療ニーズを一気に喚起させた国民皆保険制度が発足して30年経過した.医療技術の進歩,高齢化社会の到来と共に,治療可能な感染症を主体とする疾病から,加齢と共に現象(退行性変性)の一部として生じてくる慢性疾患へと疾病構造も大きく変化して来ている.よく1つの時代は30年と言われるが,このような社会的環境の変化の中で,国民の医療に対するニーズも大きく変化し,医療のみならず,保健,福祉の分野に対するニーズも幅広く多様化しつつあると言えよう.私が管理する施設はこのように国民の価値観が変化してゆく社会的背景のもとで,折しも薬価切り下げ等,一連の医療費抑制策が始まった昭和56年に,京都洛北大原の地でスタートした.表1は,現在に至るまでの事業内容の経過を示した.医療法人「行陵会」には,病院機能としての大原記念病院と,老人保健施設機能としての博寿苑がある.本稿では医療・保健・福祉の包括的プログラムという観点からこの両施設の特徴を示し,最後に在宅医療についてふれることにする.

開業医が望む在宅ケア新時代の病診連携

東京都渋谷区医師会の地域活動—老人訪問看護事業への展開とその経験

著者: 川上忠志

ページ範囲:P.899 - P.902

はじめに
 渋谷区医師会の地域医療活動は,大都市東京の渋谷区を中心に展開されている.近年都心の過疎化現象の一端で住民人口は年々減少の一路をたどり21万人であるが,昼間人口は逆に増大して60万人と推定されている.
 医師会員はA会員318名,B会員(勤務医)115名で平均年齢60歳である.区内の医療施設は,大病院(日赤,都立広尾,東京都職員共済組合青山,JR東京総合)と中小病院(一般病院6,老人病院2,甲状腺専門1,循環器専門1,結核1),診療所は290である.しかも隣接して幾つかの大学病院も存在し,現代医学の機能をすべて提供可能な地域と言えよう.

都心で透析医療から在宅ケアを手がけて

著者: 野中博

ページ範囲:P.903 - P.905

 本年4月の診療報酬の改定は,従来にない画期的な内容だったと言われている.その1つが在宅医療についての評価であり,開業医の積極的な参加を促している.これからの高齢化社会においては,好むと好まざるとにかかわらず,在宅医療の果たす役割は大きい.しかしながら開業医が在宅医療に積極的に取り組むには,解決しなければならない多くの問題がある.とくに入院の問題をはじめ,病診連携のあり方は,是非検討されるべき課題と考える.開業以来の経験から考えてみたい.

名古屋市在宅療養支援事業の実情と課題

著者: 水野勉

ページ範囲:P.906 - P.909

 在宅ケアを充実して行っていくためには,病診連携を含む機能連携が不可欠である.現在,名古屋市で行っている在宅療養支援事業およびその推進に必要な機能連携について考えを記す.

[座談会]在宅ケア新時代

著者: 伊藤雅治 ,   杉山孝博 ,   矢野聡 ,   岩﨑榮

ページ範囲:P.910 - P.917

 岩﨑 本日のテーマは「在宅ケア新時代」ということで,これは本号の特集テーマでもあります.何が新時代かということについてはこのお話し合いのなかで追々出てくるでしょうが,在宅福祉拡張を支える5つのメニュー,すなわち,ホームヘルパーの育成,ショートステイ,デイ・サービスセンターの拡充,在宅介護支援センターの設置,そして,いよいよこの4月1日から訪問看護ステーションがスタートして5本柱がそろいました.
 そうは言うものの,これらがほんとに地域のなかで定着をしていかなければ意味がないわけで,地域におけるチーム医療と,そのなかに住民も巻き込んでいくといったようなごとが大変重要になってくるだろうと思います.メニューがそろったところで,逆にいろいろな課題が明確になってくるのは,これからだろうと考えるわけです.

グラフ

統合第一号病院の重責を担う—国立南和歌山病院

ページ範囲:P.861 - P.866

国立病院・療養所の統合計画
 昭和60年の閣議報告『国立病院・療養所の再編成・合理化の基本指針』に基づいて,国立病院・療養所の再編成計画が策定された.21世紀に向けて国立医療機関にふさわしい機能の質的強化を図るのが目的であった.国立医療機関としての役割分担を明確にするとともに,再編成によってその機能を強化しようとするものである.昭和60年8月には61年度着手分の統合計画が発表され,翌61年1月にその全体計画が公表された.
 この統廃合計画の61年度着手分の第1号として,和歌山県の国立田辺病院と国立白浜温泉病院の2つの病院が統合されて,平成4年7月1日に開院したのが国立南和歌山病院である.同じく7月1日に千葉県柏市に国立がんセンター東病院も開院している.

果断の人 全国公私病院連盟会長・財団法人日産厚生会佐倉厚生園園長 遠山正道氏

著者: 荻野貢

ページ範囲:P.868 - P.868

 私は遠山園長とは50年のおつきあいで,彼の人となりやご苦労をよく知っている者です.
 佐倉厚生園が結核全盛期から一転して斜陽の途を辿りつつあった昭和35年,同じ東大物療内科の先輩であった先代園長に懇請されて彼が赴任されました.昭和40年にニューヨーク大学で研修を受けた後当園でもリハビリテーションを開始,その後着々と地域中核病院としての体制を整えました.昭和60年には待望の近代的新病棟を落成,相前後しての成人病検診センター,特別養護老人ホームおよび老人保健施設の開設,日本老人福祉財団「佐倉ゆうゆうの里」との提携など,高齢社会へ向けての複合施設を完成しました.かくて彼の物静かな中に秘められた情熱と,熟慮の上の決断は事業遂行の大きな原動力となりました.

主張

国民医療費を国民総生産対比9%に

著者:

ページ範囲:P.869 - P.869

 共産主義国家の崩壊とともにイデオロギー闘争の時代が終焉した.人類と他の自然との共生が叫ばれ,企業のあり方が問われ直している今日,われわれは個人の自由と規律の下に精神的かつ物質的な豊かさの方向を模索し始めている.
 この変化の中でアダム・スミスが頻繁に引用されている.スミスはどちらかというと経済学よりも道徳哲学に重きがあったと論じられている.スミスは手放しの自由放任主義者ではなく,自由競争に内在するルールを想定していたとも言われている.他人の目を通すことにより自制心が自分の中に定着し,自身を客観的に見ることができ,自分の中の他人の目が良心として育つのである.さらに,社会資本の充実は私的資本の採算にだけ委ねておくわけにはいかず,この点においては国家による公共的機能の必要性を認めていたわけである.ただし,その機能の発揮の原則はフェア・プレイに基づく自由競争の自立にあった.アダム・スミスといえどもその資本主義論の中で社会政策としての社会保障の重要性を指摘していた.

現代病院長論

市立舞鶴市民病院院長10年の経験から—2 医療理念システム・医療の実践

著者: 瀬戸山元一

ページ範囲:P.918 - P.922

医療理念システムの垂直軸
 保健・診療・福祉の三位一体の論理を貫くには,広い意味での行政がその柱です.狭義の医療にのみとらわれることなく,人間の行動や環境などにも広く目を向けなければなりません.個人的価値観や立場からのみでは医療理念システムの確立はあり得ません.単に机上の建前論や形式論では実際の成果や将来の発展は期待できません.
 現実と理想との整合,本音と建前との調整,部分と全体との調和,さらに分化と連携など,より本質的な課題について十分に認識し,検討を加え,社会状況の実態把握のみにとどまらず将来を予測し,絶えず理想に向かう方向づけがなされなければなりません.各種のデータを分析し,これらのデータを参考に自分たちの病院をどう運営していくかという建設的な考え方をすべきです.

連載 今,なぜ戦後医療技術史か・7

高度医療と生死観[1]

著者: 上林茂暢

ページ範囲:P.923 - P.929

現代の生死観とその背景
 生死観が,今日,新たな社会問題になってきた.このようなテーマが取り上げられ,関連の図書も急速に増え,一種のブームの感じさえする.これらは関心の深さを示すものといえるが,その背景には高齢化社会の到来も関係していよう.
 戦後,平均寿命は大幅にのび,1983年以来わが国は世界一の長寿国になった(男76.11歳,女82.11歳,1991年).“人生50年”といわれた戦前・戦中とちがい,定年後の生活(家族との関係・年金・暮らし),生きがいを考えざるをえなくなる.また,年齢を感じさせない高齢者も多いが,程度の差はあれ病や障害をともなってくるのも否めない.多くの調査で病気と医療が老後の最大の関心事になっている.

MSWの相談窓口から

病院と社会福祉施設のあいだ

著者: 沼尻香代子

ページ範囲:P.930 - P.930

 現在ほど社会資源,とりわけ社会福祉施設への要求が高まっている時はない.
 医療と福祉の連携が叫ばれる中,高齢者の介護型老人病院への移行と,医療行為そのものの在宅ケアへの移行は著しい.特に,総合病院では,新診療報酬改定に伴う特3類基準看護への転換が図られており,平均在院日数が25日に延長したとはいえ,症状固定を理由に退院を促進せざるをえない状況に変わりない.

建築と設備・78

山梨県立北病院

著者: 藤橋和光

ページ範囲:P.931 - P.938

はじめに
 武田の里,山梨県韮崎市の郊外に県立北病院はある.病床数300床を有する単科の精神病院で,県社会福祉村の一隅にある.今回,築後20年余りを経て既存施設が全面改築を必要とするに至ったのは,概ね次に示す事情による.

看護管理用語解説

看護方式

著者: 高橋美智

ページ範囲:P.939 - P.939

 通常,病院病棟部門において看護要員が看護ケアを遂行するための看護業務分担の仕方を「看護方式」と呼んでいる.このような呼び名の普及は,昭和30年代である.当時チームナーシングという考えが米国から導入されたことを契機に,新しい看護サービスの提供方式に関心がよせられるようになり現在に至っている.現在わが国で用いられている主要な方式について説明する.

厚生行政展望

地域医療と老人保健福祉計画

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.940 - P.942

 厚生省は今年7月の組織改革で老人保健福祉部が老人保健福祉局に昇格し,高齢化社会に対応するための保健・医療・福祉の総合的体制づくりに拍車がかかっている.平成2年の老人福祉法等の改正により来年4月から市町村と都道府県は「老人保健福祉計画」を作成することが義務づけられており,このたび,厚生省より「老人保健福祉計画」作成にあたり,同計画に盛り込むべき内容や作成上の留意事項について通知が示された.今回は高齢者対策における医療と福祉の連携について分析を行ってみた.

病院経営Q&A・10

診療情報管理

著者: 星野桂子

ページ範囲:P.944 - P.945

Q 「病院の情報は次々コンピュータに入力されるようになっているが,診療録は旧態依然としている.今後,診療情報の管理はどのような方向に進めるべきであろうか」「診療録を電子化してペーパーレスにしたいが,現在の法律では紙に書かれた記録を無くしてしまうわけにはいかないと聞く.同じ情報をコンピュータと紙の両方で管理する必要があるのか」「オーダリングシステムの導入が予定されているが,これと診療録管理はどのような関係にあるのか」

看護管理の目・9

安全管理と事故処理の目

著者: 川嶋みどり

ページ範囲:P.946 - P.947

 患者は疾病を癒し苦痛を緩和できることを願って入院する.その過程で,疾病のなりゆき以外のハプニングによって,生命の危険に直面したり病状の悪化をするなどと思いたくないのが常であろう.だが,朝日新聞の連載小説「麻酔」(渡辺淳一)のように,予期しない医療事故は後を断たない.1つの事故が及ぼす影響は,それに出会った患者の生命や生活を奪うのみならず,身近な家族を始め周辺の人々にまで及ぶ.
 その事故に直接・間接にかかわった医療関係者の苦悩も大きい.時に法的な裁きを受け,資格や身分を失うこともあり得る.明らかにミスがあり,医事紛争ともなれば,医療機関の設置主体が多額な賠償責任を負う場合も生じる.

病院管理フォーラム

[臨床検査]検査技師の病理解剖

著者: 高橋正雄

ページ範囲:P.948 - P.949

保存法と解剖指針
 病理解剖の目的は,昭和24年6月10日制定の死体解剖保存法(目的)第1条に記されている.すなわち,「死体の解剖及び保存並びに死因調査の適正を期することによって公衆衛生の向上を図るとともに,医学教育又は研究に資することを目的とする」とある.
 それまでさまざまな法律で運用されていたものを,わが国における伝統的な死体尊重の感情を配慮しながら,包括的,統一的な法制に整備したものである.

[栄養]在宅医療と栄養指導

著者: 中村丁次

ページ範囲:P.950 - P.950

ホーム・インフュージョン・セラピーとは
 9月3日,東京赤坂の都市センターホールにて,ホーム・インフュージョン・セラピー研究会の主催による第1回公開セミナーが開催された.ホーム・インフュージョン・セラピーとは,在宅においてチューブ等の機材を用いて,輸液・薬剤・栄養剤などを注入する治療法である.すでに,アメリカではハイテクのホームヘルスケアとして広く普及し,具体的には,中心静脈栄養,経腸栄養,輸液療法,抗生物質投与,化学療法,ペインコントロールなどが挙げられている.高度の医療技術を要するために,従来,病院以外では実施が不可能とされてきた治療法を,家庭で行おうというのである.
 したがって,この研究会はそのための方法を広範囲に議論し,患者のクオリティ・オブ・ライフの向上に寄与することを目的に設立された.メンバーは,医師,看護婦,保健婦,薬剤師,栄養士等で在宅医療を支える医療関係者によって構成され,代表世話人とし大阪大学小児外科の岡田正教授が当たられている.

[環境整備]病院の廃棄物対策

著者: 酢屋ユリ子

ページ範囲:P.951 - P.951

 医療活動の結果そこで使用された物質は悉く変質,変容し廃棄物となって病院の至る所から夥しい排出がある.廃棄物処理難という社会的な背景もあり,その処理は困難を極めている.病院が,各医療従事者が,時代の変化に即応して真剣に考えるべき問題であり,病院職員全体が医療の一環として捉える意識改革と,現実的な取り組みが必要である.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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