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雑誌目次

雑誌文献

病院51巻3号

1992年03月発行

雑誌目次

特集 病院クリーン作戦

医療廃棄物から医療、環境、地球を考える

著者: 白戸四郎

ページ範囲:P.214 - P.223

 1991年10月2日,廃棄物処理法の改正案が国会を通過した.この改正案では一般廃棄物と産業廃棄物という分け方の他に,特別管理一般廃棄物と特別管理産業廃棄物という概念が導入されている.一般廃棄物のなかにも産業廃棄物のなかにも「爆発性,毒性,感染性等の人の健康又は生活環境に係わる被害を生ずるおそれがある性状を有する廃棄物」があるということが認められたことになる.1989年11月に出た厚生省のガイドラインが感染性廃棄物のみを対象としたため,医療廃棄物すなわち感染性廃棄物と受け止められがちであったが,医療廃棄物の抱えている問題はそれよりもはるかに複雑である.本稿では医療廃棄物のもっている様々な問題点を概観し,これからの医療人の有り様に思いを寄せたい.

医療廃棄物の適正処理とは—その実態と今後の課題

著者: 渡辺昇

ページ範囲:P.224 - P.227

 適正な医療廃棄物処理ということになると,まず現在の処理状況について述べなければならない.なぜならば,関係者全員が適正処理といっているわりには,その実態が不明のまま言葉だけが一人歩きしているきらいがあり,一応意識はあっても実際にどのような行動をしているかをみた場合,まことにお粗末といわざるを得ない状況が多すぎるためなのである.
 確かに今すぐ理想的な形にもってゆく状況にないことは承知しているが,少なくとも現状より2,3歩程度は前進させたいと願っているし,その程度ならば実現可能と思っているので,適正処理方式もこの辺のところを念頭において考えることにしている.

改正廃棄物処理法と感染性廃棄物

著者: 中川晃一郎

ページ範囲:P.228 - P.229

はじめに
 1988年,米国ニューヨーク州の海岸に大量の医療廃棄物が漂着し,これらからB型肝炎ウイルスやエイズウイルスが検出されたことから,感染性廃棄物についての関心が高まった.
 わが国でも,医療機関内における職員の感染事故例が多数報告されており,三重大学医学部付属病院の医師の死亡事故は記憶に新しい.幸いなことに,医療機関から排出された感染性廃棄物が原因でB型肝炎等の感染症に罹患した例は報告されていないが,これらの廃棄物が感染源となる可能性は否定できず,清掃作業員や廃棄物処理業者が感染するのではないかという不安から,感染性廃棄物の適正な処理の確保が求められるようになった.

病院から出る廃棄物の処理—自家処理か委託処理か

著者: 古川俊之 ,   川畑貞美 ,   大塚宣夫

ページ範囲:P.230 - P.236

地域のなかで集約的処理を
今,なぜ病院の廃棄物処理問題か
 廃棄物処理は大袈裟にいうといまや全地球的問題である.産業廃棄物は膨大な量で地表を覆う危機にあるばかりか,有害物質の隔離技術の有効性が疑われている.一方,生活廃棄物は繁栄のつけとなって,湖沼や海の汚染源として難問をわれわれに突き付けている.それでは医療廃棄物はどうか.病院は生活空間でもあるから生活廃棄物も当然出る.この分は一般市民の生活廃棄物と同じ過程で処理できる.特別に問題になるのは産業廃棄物,しかも有害廃棄物に分類される感染性廃棄物の処理である.
 感染性廃棄物は『医療廃棄物処理ガイドライン』に記載されている.1992年春に施行が予定されている改正廃棄物処理法によって,厚生省としては感染性の特別管理廃棄物に関して,具体的な省令の整備が検討されている.ただしガイドラインについては医療機関のなかで若干の混乱があり,なお流動的で統一見解には至っていない.

[座談会]病院として環境問題にどう取り組むか

著者: 伊藤伸一 ,   酢屋ユリ子 ,   長澤泰 ,   河北博文

ページ範囲:P.237 - P.244

 河北 この座談会のテーマは「病院として環境問題にどう取り組むか」ということで,病院を中心とした環境問題について先生方にお話し合いをお願いしたいと思います.私が環境問題を考えるきっかけになったのは,今から数年前,当時,小学生だった私の子どもが学校で出された自由課題のテーマに環境問題を取り上げたことで,今や環境問題は子どもたちの間でも大きな関心事になっています.
 環境問題という場合,現代の自分たちのために考える問題と,現代の人が将来の人たちのために,あるいは将来の地球のために考える問題と,大きく2つに分かれるのではないかと思いますが,最初に長澤先生に,医療とか病院を取り巻く環境としてどんなものが考えられるのか,その辺を整理していただければと存じます.

グラフ

協同組合精神を基盤に、地域に深く根ざした医療を展開—上都賀総合病院

ページ範囲:P.201 - P.206

 栃木県鹿沼市にある上都賀総合病院.許可病床.数542床(一般392床,精神150床),13科の診療科目を有する典型的な地方都市の公的基幹病院である.昭和10年,上都賀産業組合を始めとする地域住民の運動によって創立された当院は,昭和25年に経営主体が上都賀厚生農業協同組合連合会となり今日に至っている.現在県下には5つの厚生連病院があるが,最も占い歴史を持つのが当院.厚生連ならではの協同組合精神を基盤として,地域に深く根ざした医療を展開している.

「発展途上国の小児糖尿病を救う会」を発足 神奈川みなみ生活協同組合葉山病院院長 平尾紘一氏

著者: 岡田朗

ページ範囲:P.208 - P.208

 「やっぱり,ジョビイとノエルを日本に呼ぼう」.2人に会ったあと平尾先生は言いだした.昨年,IDF (国際糖尿病連盟)総会(米国ワシントン市)に参加した時のことであった.
 その時の総会では,発展途上国の小児糖尿病患者のことが議題の1つとして取り上げられていた.このため,フィリピンでインスリンを買えない小児糖尿病患者のために,財団をつくり活動し,自らもインスリン注射が必要な糖尿病患者である若いジョビイとノエルも招待され,総会に参加していた.この2人に小児糖尿病サマーキャンプの会議で知りあっていた私が平尾先生に紹介した直後のことであった.

主張

医療にも豊かさを

著者:

ページ範囲:P.209 - P.209

 平成3年度の「国民生活白書」には,豊かさをより一層実感できる社会生活の実現が主たる課題とされている.長期に渡る景気上昇により国民の生活水準は世界に例を見ない早さで高いレベルに達し,その間,人々の意識の中に経済面以外の生活をもっと大切にしようという意識が強くなってきた.豊かさの指標の1つに生活の「安心」と「安全」が取り上げられているが,安全な社会と健康水準という点でも,現在の日本は世界第1位と言える.ところが,今日の我々日本人にとっては,それらは当然のことであり,その価値はなかなか認識されにくいようであるが,教育制度等と同じように高い水準を維持するためには多くの責任と努力と共に経済的負担が必要とされる.また,医療は日本の行い得る国際貢献の代表的事業であり,国内的に見ても,国際的な意味からも医療制度の充実は今後ますます重要性を増す.
 現在,国民医療費は年間約20兆円で,国民総生産の約5%に当たるが,先進諸国の中では米国の12%等と比較して最も低い数字である.日本は紀元2020数年には人類史上例を見ない高齢社会になることが予想されているが,今後それに向けて一層の医療・福祉・保健の充実が必要とされている.病院や医師の数といった,戦後一貫した量的な整備を中心とした医療政策から,現在の国民生活の水準と調和した質の高いサービスへと,更には,良質で効率的な福祉制度の確立に転換しなければならない時代となってきた.

今日の視点

チーム医療における放射線技師の専門性とは

著者: 海老根精二

ページ範囲:P.210 - P.213

チーム医療の場としての病院
 テレビでプロ野球の放送を観ていると,一試合で一度は解説者がチーム・バッティングという用語を使うのを聞かされる.その場面が来ると,またチーム・バッティングのお話かいなと,うんざりする.
 第一,あのチーム・バッティングというのは何語なのか,れっきとした英語(この場合は米語だが)なのか,ナイターと同じ和製英語なのか.用語のことも気になるが,そもそも,チーム・バッティングなる戦法なり技術が本場のアメリカにあるのだろうか.解説者に質ねてみたいのだが,聞いたら彼はきっと眼を白黒させるに違いない.

精神科医療 総合病院の窓から・12

精神科治療の動態と望むこと

著者: 広田伊蘇夫

ページ範囲:P.246 - P.247

総論的に
 今回は筆者の勤務する総合病院精神科の患者動態を紹介し,いくつかの間題を提起してみよう.本院の全病床定数は409床,精神科は外来部門のみで運営されており,人的構成は常勤医4名,看護婦2名,および非常勤の臨床心理士1名からなっている.黒木宣夫らの報告(1988年)によれば,精神科を併設し,かつアンケートに答えた全国584総合病院のうち,大学病院を除く公的,法人立,企業立病院の62.2%では,2名以下の常勤医体制で精神科が運営されているという.この数値からすれば,本院の医師勤務体制は恵まれたものといえる.
 この体制下での外来患者延べ数は,多少の変動はあるにせよ,月平均1,450名前後というのが1991年度の実態である.これをレセプトの実数からみると,1991年12月分は798名,その診療報酬点数は72万4,059点となる.人件費は国家公務員並みとなっており,経理的には薬剤・検査材料費,施設運営費等を組み込むと,収支差はほとんどゼロに近い.俗に言えば,採算の合わない診療分野とみてよい.

看護管理の目・3

ターミナルケアと看護体制

著者: 川嶋みどり

ページ範囲:P.248 - P.249

一般病棟ではできにくいターミナルケア
 ターミナルケアの重要性が認識され始め,緩和ケアが診療報酬上に認められるようになった.看護婦たちの関心もきわめて強い.だが,実際に一般病棟でターミナル患者のケアを実施できるかというと極めて心細い限りである.第1に,体制上の問題がある.現在の基準看護体制では不可能に近いといってもよい.重症看護加算とひきかえに生まれたともいえる特三類の場合の,ベッド数対看護婦の比率が2:1であっても,到底ターミナルケアは覚束ない.
 なぜなら,1看護単位約50名の患者に対して,20数名の看護婦が配置されている場合,日勤看護婦が8〜9名もいれば恵まれた状況である.重症者や高看護度患者の世話に加えて,昨今の医療行為の複雑さは,看護婦の動きを片時も止めない程の過密な様相を生み出している.ターミナル患者への精神・心理面のケアを初め,家族への支援まで,到底行き届かないのは当然であるともいえよう.

MSWの相談窓口から

交通事故による若者の死を悼む

著者: 高橋紀夫

ページ範囲:P.250 - P.250

 正月3日の早朝,私の初夢は病院からの電話で破られた.21歳の若者が交通事故で運ばれ,極めて深刻な状態だと言う.急いで病院に駆け付けたが,私にはなす術がない.その青年は結局,11時過ぎに亡くなってしまった.
 一昨年の11月にも高校生がバイク事故で死亡している.両親は彼の一周忌にあたり,追悼集を発刊した.題して『花にかこまれ,愛につゝまれて—亮,十七歳の青春—』である.私も両親に懇請されて拙文を寄せたので,印象的な“あの日”を思い起こしながら,ここに転載させてもらうことにした.

特別記事

日本における医療と他産業との比較論—東京都私立病院会青年部会主催「全国若手医療管理者合同研修会」から

著者: 河北博文 ,   小山秀夫 ,   西澤寛俊 ,   竹川節男 ,   川合清毅 ,   大塚宣夫 ,   高木安雄 ,   勝呂敏彦 ,   麻生泰

ページ範囲:P.251 - P.260

 東京都私立病院会青年部会(代表:河北博文,以下「東私青」と略す)ではこれまで8回の研修会を開催してきた(表1).標記のテーマを取り上げた第9回の研修会は,1991年6月22〜23日の両日にわたり,静岡県裾野市・富士教育研修所で行われたものである.「東私青」と全国各地区の青年部会との合同の初めての研修会となった.
 研修会は土曜日の午後4時に開会,短い夕食をはさんで夜11時まで討議が続き,そのまま深夜におよぶ懇談会になだれ込んだ.翌朝は朝食もそこそこに,昼の解散まで研修スケジュールがびっしり.どうもこれが,「東私青」研修会のいつものパターンのようだ.若手医療管理者たちの貪欲とも言える知識吸収欲とタフネスぶりには舌を巻くばかりだった.

建築と設備・71

高齢者入所施設3題

著者: 河口豊 ,   張忠信 ,   網代友衛 ,   野口恵一郎

ページ範囲:P.261 - P.267

 高齢者の支援体制については,高齢者保健福祉推進10か年計画,いわゆるゴールドプランが1988年に策定され,在宅福祉対策として,ホームヘルパー,ショートステイ,デイサービス,在宅介護支援センターの増新設,施設対策として特別養護老人ホーム,老人保健施設,ケアハウス,高齢者生活福祉センターの増新設が進められている.さらに,高齢者の生きがいと健康づくり推進事業も展開され始めた.これは地域社会の中で家事をし,趣味の活動をし,あるいは仕事に携わっている多くの高齢者ができるだけ現在の生活を続けていけるように支援すべく,体制を整備していこうとするものである.例えば,手芸などの創造活動や中高年者教養講座,高齢者ボランティア活動,高齢者スポーツ活動などを身近な市町村段階で推進しようとするもので,そのために必要な支援指導,コーディネーターやシニアリーダーの育成を都道府県段階で行い,さらに全国段階での調整,調査などを国が指導援助するものである.
 このようなグランドプランがあってこそ,今回取り上げる高齢者入所施設の位置づけが明確になろう.今まではなかなか高齢社会全体に対する展望を描きだせず,個々の対策に追われてしまっていた感が強いが,新しい取り組みが動きだしたのである.具体的な事例では調整すべき問題もあろうが,大きな道筋は出来上がりつつある.

病院経営Q&A・3

病院組織

著者: 白髪昌世

ページ範囲:P.268 - P.269

Q 「当院は糊はあっても組織はないという状況であり,中小企業的なワンマン親父の経営という状態から脱皮したい」「当院は院内に複数の診療所が存在するような状況で,各部門ごとに努力をしているにもかかわらず病院全体としてのアクティビティに欠ける」といった問題を抱えるところが多くなっている.全体の運営をどのように考えればよいのだろうか.

厚生行政展望

病院のPR戦略

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.270 - P.271

 社会の情報化がますます進展している.また,病院の方はといえば,差別化,サービス充実の競争もますます激しくなってきている.患者は,1人の消費者として,病院の情報を知りたがっている.
 このような中で,情報は円滑に流通しているのだろうか.医療行為そのものについては,現在「インフォームド・コンセント」の理念がかなり市民権を得てきている.これは医師と患者との,一種の情報交換である.これに対して,病院(医療機関)と患者との情報交換については,病院側からの発信は,通常,掲示,看板等の「広告」の形でなされ,患者側からの発信は例えば「苦情」のような形でなされるだろう.

統計のページ

病院看護職による保健相談・指導(3)—地域に開かれた医療・看護の窓口

著者: 菊池令子

ページ範囲:P.272 - P.273

 看護職員が慢性疾患患者の療養生活上の相談にのるための専門部署をもつ病院が増えつつある.日本看護協会では,相談・指導担当部署を設けている病院を対象とした「病院看護職による保健相談に関する調査」を1990年1月に実施し,139病院から回答を得た(1月号参照).調査報告のなかから,今回は,他職種・他機関との連携,および,医療・看護内容に関する苦情への対応について述べる.

病院管理フォーラム

[臨床検査]ブランチ検査室を斬る・2/[人事・労務]職場の活性化/[薬剤]薬剤師の病棟活動(2)

著者: 高橋正雄

ページ範囲:P.274 - P.276

 病院と衛生検査所との間で交わされるブランチ検査室に関する請負契約のうち,検査機器や試薬とともに送り込まれる検査技師は,労働関係法に照らして一体どのような存在なのかを明らかにしてみたい.
 労働者派遣事業法(略称)は特別な16業種を対象にしていて,臨床検査業務は対象になっていない.

病院管理用語解説

経営,管理,作業/患者,患者数

著者: 一条勝夫

ページ範囲:P.277 - P.277

 経営には,営利活動を行う企業そのものを指して経営体と同義に用いる場合と,これを運営するという動詞的な意味がある.現在では,企業にとどまらず,一定の施設を基盤とし,経済的活動を行うことを目的とした人的・機能的組織体であり,自己の計画と意志によって独立して事業を営む意志的組織体であるとされている.
 経営体を機能的に分析すると,経営,管理,作業の3つの階層から成り立っている.

病院アメニティの改善・3

(財)太田綜合病院附属太田西ノ内病院—必要性に基づくアメニティの追求

著者: 松﨑公昭 ,   樽井典夫 ,   稲田豊

ページ範囲:P.278 - P.279

 太田西ノ内病院は福島県の中央部,人口約32万人の郡山市に在る.総病床数1,841床,職員数約2,000名を有する財団法人太田綜合病院の附属病院の1つであり,当法人の中心的役割を担っている.当院は昭和50年に内科系病院として開院していたが,平成元年9月にSRC (鉄骨鉄筋コンクリート)造り,地上7階,地下1階の第3期増改築工事を完成させ,診療科27科,病床数1,000床,既存棟と合わせ建築面積9,430m2・延床面積40,534m2の第3次救急医療を含む総合病院として本格稼働した(本誌49巻2号に詳細紹介).
 当法人は附属病院と関連施設がそれぞれの機能を分担し,法人全体として保健・医療・福祉を網羅する機関であり,平成2年,創立95周年を機に制定した「私たちの誓い」と昨年の法人設立40周年に際し植樹したヒポクラテスの木を拠に医の原点にたちかえって地域医療に貢献する考えである.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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