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雑誌目次

雑誌文献

病院51巻7号

1992年07月発行

雑誌目次

特集 公立病院はこれでいいのか

[インタビュー]公立病院のあり方を問う—諸橋芳夫全国自治体病院協議会会長に聞く

著者: 大道久 ,   諸橋芳夫

ページ範囲:P.584 - P.590

 大道 きょうは,これまで我が国の医療の非常に重要な一角を担ってこられた公立病院の今後の展望を,当事者のお立場でどのようにごらんになっておられるかを中心にお話を承りたいと思います.
 公立病院がこれまでに果たしてこられた基本的な役割と功績について,先生の病院の管理者,あるいは全国自治体病院協議会会長としてのこれまでの長いご経験を踏まえて存分にお話をいただきたいと思います.

公立病院の役割と機能—その歴史的背景と現状

著者: 一条勝夫

ページ範囲:P.591 - P.595

医政改革と自由開業医制の確立
 病人の収容施設あるいは治療施設としての病院は,わが国でも古くからないわけではなかったが,たいていの場合,「病院」—つまり西洋型の病院は洋式医術に伴うものであったため,漢方医が主流の明治以前にはきわめて少なかった.
 明治維新以後,洋式医学が認められて積極的に導入されることになり,新政府は維新戦争の傷病者の収容治療施設として軍事病院を作った.また,明治元年には一般市民を対象とした御所病院を京都に開設した1)

公立病院評価の視点

著者: 池上直己 ,   針谷達志

ページ範囲:P.596 - P.603

公私の機能分化を前提としたモデル
公立病院の評価
 これまで病院に対する評価といえば,日本では主に財務諸表による評価を意味し,それに従うと公立病院は概して悪い評価を得ることになる1).ところが,一方では社会からは公立病院は一般に高く評価されており,その理由は公立であるがゆえに医療としての公共性と高い質が保たれているという信頼感が置かれていることにある.これら2つの評価は矛盾せず,むしろ財務面以外で医療を評価することが困難なために行われていないことが,住民の公立病院に対する評価を高めているといえよう.
 本稿ではこのような財務による評価と,住民が公立というブランド・イメージに基づいて行っている評価に代わる方法を提示することが目的であり,そのためにまず財源の問題と運営の問題を分けて考える必要性を説明する.その上で,公私の病院が互いに自由に競争することを前提とするモデルと,両者がそれぞれ機能分化してゆくことを前提とするモデルを提示し,日本における公立病院のあり方として後者のほうが適切である論拠を示す.

公立病院の経営

著者: 板倉敏和

ページ範囲:P.604 - P.608

わが国の医療に占める公立病院の地位
 本稿を進めるに当たり,まず初めに公立病院がわが国の医療に占める地位を概観しておきたい.
 平成元年の厚生省調査によれば,全国の病院数は,10,054病院(らい,伝染病専門病院を除く)で,このうち10.6%に当たる1,064が地方公共団体立の病院である.なかでも,300床以上の一般病院に占める割合は,24.2%となっている.なお,病床数の割合は,14.8%である.

[座談会]公立病院はこれでいいのか

著者: 寺田一郎 ,   高橋勝三 ,   河北博文 ,   伊賀六一

ページ範囲:P.609 - P.615

 伊賀 きょうは「公立病院はこれでいいのか」というテーマが与えられました.こうしたテーマが問題になる背景には,急激に変貌する現在の医療社会のなかで,経済的な面からも,また医療の質という面からも,民間病院の経営基盤が危機に陥っていて,そうした危機感が公立病院との格差の問題として認識されてきた結果だと思います.そういった認識が果たして正しいかどうか,あるいはまた,地域医療計画の設定が進むなかで,民間病院に対して公立病院の役割とは何かとか,もし問題点があるとしたら,この現状に対してどのような道を開いたらよいか,忌憚のない意見の交換ができれば幸いだと思います.
 まず最初に,公立病院はどんな役割を果たしているか,あるいは果たすべきか,そのようなことに対して寺田先生にお話をいただければと思います.

グラフ

地域中核病院としての期待に応える—横浜市立市民病院

ページ範囲:P.575 - P.580

病院の歴史
 横浜市立市民病院は,横浜駅の西,豊かな自然環境に恵まれた三ッ沢公園の近くにある.昭和35年の開院以来横浜市の基幹病院として,市民に良質な医療を提供して来た.その後医療の高度化が進み,市民の医療需要も増加かつ多様化して来たのに伴い,医療を整備する必要に迫られた.
 人口300万人を超す横浜市は人口急増の中,医療整備のため市域をいくつかのブロックに分けて医療の充実を図った.本院はそのうちの中央部に該当する.その医療整備計画の一環として,医療機能の拡充,患者サービスの向上などを図り,公立病院としての使命を果たすため,昭和55年に再整備事業の基本構想を策定し,第1期(南病棟),第2期(東病棟),第3期(西病棟)と順次工事を進め,平成3年に637全床がオープンした.

みんなに愛されている院長 第31回全国自治体病院学会会長・石川県立中央病院院長 山田浩氏

著者: 浅野周二

ページ範囲:P.582 - P.582

 大きな耳に温和な目.いい男であるかどうかは見る人の判断にゆだねるとして,この顔が病院職員の間では大変な人気なんです.平成元年4月に山田新院長が誕生したとき,私も含め何人もの職員が彼に忠誠を誓ったんです.そしてその年の12月,病院ぢゅうの職員が年に1回集まる忘年会で,何かの拍子に会場から「ヤマダ,ヤマダ!」と大変な山田コールが湧き上がり私はびっくりしたことがあります.どこにそのような魅力があるのでしょうか.さっと,この大きな耳から多くの情報を内へ入れ,頭の中でよくこなしたあと口に出すときに同時に放つ穏やかな目の光がみんなをそうさせるのでしょう.
 山田院長は金沢大学整形外科に在局中の昭和40年ごろ,この北陸地方の手の外科,形成外科のパイオニアとして活躍,主任教授も長く教室に残ることを望んでいたのですが,本人は第一線の医療の方が肌に合っているといって昭和42年に県立中央病院に赴任し,整形外科を創設しました.昭利51年,病院の移転新築に当たり,当時目新しかった1患者1カルテ,病歴の中央管理に興味を示し,また救急体制の整備にも情熱を燃やし,初代の病歴ならびに救急委員長としてこれらの実現発展に尽くしました.

主張

問われる医療計画の見直し

著者:

ページ範囲:P.583 - P.583

 病院界にもバブルの崩壊がやってきたというのであろうか.かつて昭和61年の医療計画という医療法改正前後に見られた,あのおぞましいばかりの“駆け込み増床”の狂騒曲は終演の幕を閉じた.都道府県における医療計画が策定された当時の医療界に巻き起こされた数多くの議論は何であったのだろうか.その時に問題となった事項はどのような形で解決が図られたのであろうか.
 患者のニーズ,行動様式を尊重した計画であるはずの医療計画が,患者の実際の行動様式とは大きく異なるものとなっていて,地域の特性が必ずしも生かされていないように思える.

特別記事

精神保健法で病院精神医療はどう変わったか

著者: 高臣武史 ,   藤野ヤヨイ ,   金杉和夫 ,   関健

ページ範囲:P.616 - P.627

 精神保健法は,患者の人権擁護,社会復帰施設の整備を2つの大きな柱として1988年7月1日に施行され,4年間が経過しました.新法の成立・施行当時から多くの関係者が,第三者機関の精神医療審査会,指定医制度など画期的な内容を含んでいるものの,幾多の宿題を積み残したままのスタートであったと指摘していたことは記憶に新しいところです.そこでこの企画では,新法の下で,入院形態,日常診療業務,医業費用などの面で病院精神医療がどのように変わったのか,また,5年目の来年には法律の見直しが行われることになっており,4年間の運用経験を振り返って,どこを,どのように見直していくべきか,など実際の経験を報告していただいた.

研究と報告

職員の力では変えられない経営条件の病院経営に及ぼす影響—自治体病院の場合

著者: 阿部廣介

ページ範囲:P.628 - P.631

緒言
 自治体病院は地方公営企業法の適用を受ける.地方公営企業は利潤追求が目的ではないが,地方公共団体が経営しているため倒産の危険がないこと,医療の公共性,医療水準の確保が強調されることなどにより,ともすれば経営の合理化・能率化の努力を怠りがちである.合理的・能率的運営により,最小の費用で最大の効果をあげることこそ公共性の確保につながるといわれている.自治体病院の経営悪化の原因として,病院経営を取り巻く外部事情に起因する問題点と内部事情に起因する問題点1)があげられている.
 経営悪化の原因が指摘されると,当該病院の職員は,自らの力では変えることのできない不利な経営条件が病院経営を支配していると考え,また他病院の良好な経営成績が示されると有利な条件によると決めつけやすい.そこで,職員の力では変えることのできない経営条件(以下,外部条件)を検討する必要があると考えた.また,経営を改善するには経営の現状の良否を知りたい.そのための指標として,医業収支比率に準じた医収支率を算出し,外部条件の及ぼす影響を検討した.その結果,病院経営上興味ある所見を得,これが自治体病院の経営診断に役立つと考えられたので,ここに報告する.

現代病院長論

新任病院長1年間のチャレンジから—2日本の病院の“後進性”いろいろ

著者: 古川俊之

ページ範囲:P.632 - P.637

“時は金なり”を率先垂範
 さて,私が院長になって大変困っているのは時間がないことです.朝のうちに考えごとをまとめようとしていると,大変なことが起こりまして・・てなことを突然言ってきます.困り果てて暫定的に9月1日から「午前中の3時間は人に会わない」と決めました.私は教授職から離れてから,何も勉強できず頭脳が急速に退化するのではと,非常に危機感を持っております.ですから午前中を勉強に当てることにしたのです.しかし悪い知らせといやな事件は,私が勉強中でも思索中でも,構わず即座に報告することにしております.
 スタッフの性格・能力を見ていますと,とにかく時間の使い方のまずい人がいます.その特徴は,人が訪ねてきた,会議が長引いた,電話が急に入った,と言い訳の多いことです.勇気を持ってノーと言えないタイプが多いのです.管理職の時間利用法は大切な条件です.友人の東京大学名誉教授で現在は慶應大学教授の石井威望さんは,超多忙人の代表でしょうが,のっぴきならない急な用件が起こったら一番忙しい人に頼め,と言います.忙しい人ほど時間の管理が上手ですから,どんな無理をしても直ぐにやるというのですね.確かに忙しい人は反応が早いですね.なぜか暇な人はのんべんだらりとしていて,何か頼みごとを電話すると,まず一度はお会いして趣旨を伺って1週間ほど考えさせて頂いて・・などと呑気なことを言います.

建築と設備・75

聖路加国際病院

著者: 丸谷武久 ,   瀬川寛

ページ範囲:P.638 - P.645

 聖路加国際病院は,1902年にドクター・ルドルフ・トイスラーによって開設されて以来,キリスト教精神によるホスピタリティーによって,わが国病院界の指導的役割を果たしてきた.設計のテーマはこの伝統あるホスピタリティーをどう新病院に表現するかであったといえる.
 病院の企画・規模計画においては,アメリカのホスピタルコンサルタントMPA (メディカル・プランニング・アソシエイツ)と共同で進められた.オール・シングル・ケア・ユニットをはじめとする数々の新しい病院計画はMPAの提案によってなされた.この試みは,単に最新の医療システムを採用するといったものではなく,患者のプライバシーを尊重する聖路加国際病院の伝統あるホスピタリティーを背景として具体化されていった.

Report

高齢化社会の医療と経済—国際シンポジウム報告

著者: 矼暎雄

ページ範囲:P.646 - P.647

 「高齢化社会の医療と経済」に関する保健経済と医療制度をめぐる日本シンポジウムが昨年11月19日および20日,東京・箱崎のロイヤルパークホテルで開かれた.今回のシンポジウムはニューヨーク大学スクールオブビジネス,東京大学医学部中央情報部,同国際交流室,ハーバードメディカルスクール医療施策部・政策部などの主催でもたれたもので,保健医療および医療経済などの関係者が,主催者の予想を上回る多数の参加者が参集し,この問題への関心の高さを窺わせた.
 最初にマウントサイナイ医療センターのバトラー教授により「21世紀に向かっての日米医療政策—老年医学の役割」と題する基調講演が行われた.この中で老年医学は以前は関心が低かったが,高齢化が進むなかで漸次関心が持たれるようになり,1970年代にマウントサイナイ大学に初めて老年医学部が設置されたこと,また老年医学をこれからの医学・医療の展開に広く取り込む必要性を述べた.さらにわが国の「ゴールドプラン」を政策上評価した.筆者はわが国の老年医学の誕生については無知であるが,教授の著書にも見られるような「地域に密着した老年医学」の展開に米国の医療の広がりを見る思いがした.

看護管理の目・6

看護婦から見た院長論

著者: 川嶋みどり

ページ範囲:P.648 - P.649

問題がない限り,遠くの人
 病院の規模にもよるが,院長室は通常管理棟の奥深くにあって,一般の職員が直接訪れる機会はあまりないのがふつうであろう.患者の場合も,特診以外の人にとっては,院長は日常的には無縁の存在であるといってよいかも知れない.何か大きなトラブルか苦情が発生しない限り,院長がどなたかさえ知らずじまいで過ぎていく.病院によっては,朝礼時に幹部職員が集まって打合わせをしたり,一般職員も集まって院長訓示を聞き,1日が始まる場合もあるようだが,こうした病院は数少ないといっていいだろう.
 病院管理面では,事務部門,看護部門の長が院長のもっとも近くにいて,種々の情報交換や報告が行われる.したがって,院長の病院管理哲学や,リーダーシップは,直接的に看護管理面にも影響してくる.失礼ないい方ではあるが,院長となられる方のすべてが,行政手腕や経営能力に長じている方ばかりとは思えない.名前だけの飾りに徹しておられる場合はそれなりに対応の仕方もある.だが,おもし院長や独走院長の場合には,これを補佐する事務部長と看護部長の苦労は大変大きいようである.

厚生行政展望

診療報酬点数改定—各論・老人医療

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.650 - P.651

はじめに
 今回の診療報酬点数の改定では,看護料が重点的に引き上げられ,評価する着眼点が物から人へ移行したことが挙げられる.反面,薬剤料が引き下げられ,薬漬け医療の是正が図られたことも従来と同様であるが見逃せない.今回は老人医療の流れについて検討を行った.

病院経営Q&A・7

救急医療

著者: 筧淳夫

ページ範囲:P.652 - P.653

Q 「病院の移転新築に伴い第二次,第三次救急病院への展開をどのように進めてゆけばよいのか」「自分の病院で第二次,第三次救急医療を行いたいのだが」

統計のページ

「1991年病院における訪問看護実態調査」より—[2]医師と看護婦の関係

著者: 岩下清子

ページ範囲:P.654 - P.655

看護婦による医療的処置
 医療的処置を必要とする患者への訪問看護は,自治体と比べ病院のほうがやりやすいと考えられるが,実際には訪問先で看護婦により,どの程度の医療的処置が行われているであろうか.
 病院単位の回答では(表1),「留置カテーテルの交換」,「膀胱洗浄」は過半数の病院で実施しており,「導尿」,「経管栄養チューブの交換」,「点滴注射」を実施しているのは4割弱である.訪問を始めたばかり,あるいは訪問対象者が少ないため,まだ該当者がおらず,「必要があれば行うつもり」との回答も多い.

MSWの相談窓口から

3度目の大失敗

著者: 高橋紀夫

ページ範囲:P.656 - P.656

 「H・Tさんがお会いしたいそうですが…….」精神科事務室からの電話である.「すぐ行きます.」
 H・Tさんにお会いするのは久し振りのことであるが,その人の前に立っといつも萎縮した自分を感じる.理由ははっきりしている.1つには,H・TさんがS市の元民生部長で,以前お世話になった方であること.2つには,弟さんの医療費をめぐって大変迷惑をかけた経緯があるからである.

病院管理フォーラム

[人事・労務]管理職教育について—職場は管理職で変わる/[臨床検査]臨床検査技師の採血業務/[薬剤]薬剤科におけるコンピュータ化

著者: 関根茂

ページ範囲:P.657 - P.661

 最近の社会・経済を取り巻く環境は,めまぐるしい変化を見せており,それは医療を取り巻く環境においても,医療法の改正,健康保健法の大幅改正など,今後の病院経営の根幹にもかかわるような急激な変化を見せている.
 このような厳しい状況の中で,健全な病院運営を実践するためには,病院職員が一丸となって多種多様の問題を解決・実践して行く必要があり,その率先役となるのが現場の第一線管理・監督者の務めである.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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