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雑誌目次

雑誌文献

病院52巻3号

1993年03月発行

雑誌目次

特集 どうする中小病院

わが国における私的中小病院の「これまで」と「これから」

著者: 川渕孝一

ページ範囲:P.204 - P.210

 医療サービスの供給者として私的病院と公的病院が存する.
 わが国の医療供給システムの特徴として,明治以来の長い伝統を持つ私的病院が,わが国の医療機関の中心的存在として発展を遂げてきたことが挙げられる.これは,わが国の医療制度が自由開業医制を原則としてきたことによるものである.すなわち,個人診療所が規模を拡大することによって個人病院へ,そして医療法人へと成長し,さらには,総合病院・救急病院への転換,病院の病床・病棟の増設という歴史的過程が明治以来存続してきたわけである.その結果として,公的病院に比べて私的病院の規模は小さくなっている.

有床診療所と中小病院

著者: 犬尾博治

ページ範囲:P.211 - P.213

中小病院と有床診療所の困惑
 以前,筆者は結核の病棟があった頃小病院をやっていた.30数床ではあるが,毎年病院への医療監視や各種書類の整備に悩まされた.なかでも19床が20床になれば医師は1人から突然3人必要だというのには驚かされた。昭和23年に医療法が制定されて以来,今日まで44年間この法は生きている.
 診療所については,医療法13条の入院期間の努力規定,48時間を越えないように努めなければならないというのも生きている.

これからの中小病院はどうするのか

単科の小病院で最高水準の医療を提供

著者: 大橋正實

ページ範囲:P.214 - P.215

 動植物の生態系には,自然淘汰があることは周知の通りである.最近,医療業界で良く耳にする「生き残り」も,まさにこの自然淘汰の考えに基づいていると推察される.資本主義経済が導入されて以来,一般企業社会では常にこの自然淘汰の原則の下で連続した企業間競争を繰り広げてきた.この競争がほとんど表面化しなかったのが医療業界であり,中でも病院がそうであったと考えられる.つい最近までは,誰が,どんな病院を作っても,それなりに経営できた.言い換えれば,経営できる医療制度があったと言える.スタートラインに立ちさえすれば,すべての病院が拍手で迎えられる幼稚園の運動会のようなものである.それを21世紀を見据えて上位入賞者以外は,2度と走ることを許さなくしようとしているのが,昨今の様々な医療法改正および診療報酬改定であると私は解釈している.
 ではどうすれば良いのか.速く走れるように努力すれば良いのである.自分の行っている医療に,それだけの努力を払う価値があると確信できたらその努力をするのが最も現実的であろう.もっと速く走れるように,公私病院間の不公平をなくしてもらいたい,土地単価を含めたキャピタルコストを考慮に入れてもらいたい,少なくとも人件費アップ分の診療報酬アップをしてもらいたい,と私も思う.しかし現実にすでに走り始めている訳であるから,より速く走れる努力はしてみようと思う.

医療に恵まれない山陰過疎地の病院

著者: 藤田英輔

ページ範囲:P.216 - P.219

 執筆依頼の趣旨は,当院の今後の展望や生き残り戦略ということであるが,これは開院後2年半という発展途上の幼い病院にとっていささか酷な質問である.現代は医療にかぎらずあらゆる面で疾風怒涛の時代と承知してはいるが,病院が生まれると直ぐに生きるか死ぬかの問題に直面するということについて,改めて時の流れのきびしさを痛感するものである.私達はふだんからこの問題を真剣に受けとめており,開院以来種々の難局に対処しながら今日までやってきたというのが偽らざる実感である.
 ここでは,このような将来の問題に触れる前に,先ず当院の概要と開院の動機を含めた経緯,つまり生みの苦しみと,開院後今日まで遭遇した種々の難問に生き残りのためにとってきた対処の仕方など,つまり誕生後の生いたちを回顧し,次いで将来どのような方向を模索しているかについて触れれば,編集の趣旨に多少ともそうことができるのではないかと筆をとった次第である.

保険外収益の増加で病院を建て替える

著者: 梶原優

ページ範囲:P.220 - P.221

 昭和36年国民皆保険制度が実施され,日本国民は誰でも,いつでも,どこでも,比較的良質な医療が安価で受けられるようになり,その結果医療需要の増加と共に医療供給体制も増加の一途を辿りました.当然国民医療費は増加の一途を示し,特に,昭和48年老人医療費の無料化が行われてから更にこれに拍車がかかったといえます.これに対し昭和56年より総医療費抑制政策がとられ,医療の量から質への転換の名の下に,昭和60年12月医療法の改正が行われ地域医療計画が実施され,各都道府県毎の医療圏の設定をし,病院病床の量的規制が行われました.これに対応し病院病床の駆け込み増床が発生し,その結果,医療の過剰供給と,医療に携わる人的資源の不足が社会問題化してきました.さらに,平成4年には医療法の改正が行われ,病院の特性,規模による類型化が行われようとしています.
 基本的には,今後迎える超高齢化社会に対し,限られた医療原資で医療の質を落とさず高度医療にも対応でき,さらに福祉,予防医学,環境等を念頭に置いて,いかに合理的に無駄を省いた体制に再構築するか,また国民が受け入れ可能な負担率にしていくかという大きな命題が与えられていると考えられます.

愛とまごころをもって地域医療に専念

著者: 清水英範

ページ範囲:P.222 - P.223

 当院は昭和54年に愛媛県大洲市に開設された,許可病床数81の小病院である.市内には,一般病院として他に,市立病院(201床),医師会立病院(240床),医療法人T病院(270床),同K病院(96床)がある.医療圏は大洲市,喜多郡で人口が約8万,病院経営的には厳しい環境下にあり,とくに昨年4月の診療報酬の改定以来,前途の多難さを痛感している.将来に向けて有効な生き残り戦略は持たないが,今までの歩みを振り返り,整理し,展望してみたい.

安心して死ねる町づくり

著者: 森俊介

ページ範囲:P.224 - P.226

 3年前,本誌に「老人・障害者とともに生きる」と題して拙文を載せていただいた.その中で,崩壊しつつある地域社会にふれ,私達の町で患者さんが安心して身を任せることのできる在宅医療システムを本気になって作り上げようとするならば,地域社会が本来持っている潜在的相互扶助力を引き出すために,病院が中心になり地域婦人会や子供会,老人会の力を結集していく以外に方法はないのではないかと述べた.そしてそのための手段として,学校や地域社会の中での健康教育を強調した.さらに将来展望として,「在宅医療」の拠点として町立病院,および「町のふれあいセンター」をあげ,その運営方法にまで言及した.今回はその後の展開と今後の展望を書かせていただくことによって,私に課せられた「これからの中小病院はどうするのか」の責任を果たさせていただきたいと思う.

国保直診病院の現況—地域包括医療をめざす

著者: 山口昇

ページ範囲:P.227 - P.231

 国保診療施設は昭和30年代の前半,国民皆保険の一環として全国各地に設置された.当時は国民健康保険事業の直営診療施設として開設されたため,所謂「国保直診」と呼ばれたが,その後「国保診療施設」という名称に改められた.しかしその後も「直診」という従来の呼称で呼ばれて現在に至っている.
 国保診療施設(国保直診)は国民皆保険を契機として,“予防と治療の一体化”をめざして開設されたもので,これは言い換えれば包括医療の実践である.年々高齢化が進むなかで,医療の流れもキュアからケアへ,更に施設ケアから在宅ケアへと変わり,“病気”をみる治療中心から“人”をみる医療へと変わりつつある.国保直診はこの4半世紀にわたって,開設目的をふまえながら地域で包括医療にとり組み,病院内での“待ち”の医療から地域へ“出ていく”医療へと転換をはかって来た.

[座談会]岐路に立つ中小病院

著者: 松本文六 ,   佐藤真杉 ,   中佳一 ,   今井重信

ページ範囲:P.232 - P.239

 今井 いま中小病院は様々な意味で大変な時期にさしかかっていると思います.今日の座談会は,「岐路に立つ中小病院」ということで,それぞれのお立場から忌憚のない,ざっくばらんなお話をしていただきますので,よろしくお願いします.
 はじめに,皆さん医師として仕事をする場としては様々な選択がございますが,中小病院を,しかも経営責任を担った形でおやりになっているということについて,信条めいたことも含めて感想を述べていただきたいと思います.

グクフ

限られた資源を活かし包括医療を展開—日南町国民健康保険 日南病院

ページ範囲:P.195 - P.200

 鳥取県内では最も雪か深い町と言われている日南町を訪れた.JR伯備線の生山駅.小雨が降っていた.「冬は雪か,ほとんどこんな天気が続く」と言うのは案内してくれた事務長さん.「雪道を走る訪問看護車」を撮れるかという思いも虚しく,年末に降っていた雪も正月の暖かさで全く解けてしまったという.
 日南病院は島根県,広島県および岡山県との県境を接した鳥取県西南端の町,日南町にある国保病院.町の主な産業は農林業.住民の健康と豊かな町づくりを進め,昨年,保健文化賞を受賞した.井上靖記念文学館や松本清張文学碑などがあり,文化活動にも力を注いでいる.

「地域リハビリの推進」で朝日社会福祉賞を受賞—兵庫県立リハビリテーション中央病院 澤村誠志院長

著者: 浜村明徳

ページ範囲:P.202 - P.202

 十数年前,知人の紹介で先生を訪ねた.部屋に通され地域リハビリテーションの考え方を詳しくうかがった.初めてのものにも,昔からの友達であるかのように語ってくださる“気さくで優しい”先生である.その性格はISPO(国際義肢装具連盟,次期会長)などの活動を通して,世界に友達が多いことにもつながっているのであろう.
 義肢とのかかわりは,事故で義足を余儀なくされた御尊父に「使いやすい義足を」という思いから始まり,もう一つのエネルギーを燃やされている地域リハビリテーションは,アルツハイマーの御母堂を家族で介護され学ばれたという.誰でもいろんな体験はするが,それを普遍化して活動に結び付けるものは数少ない.“情熱”の人であり,弱いものや困っているものの立場に立ってものが考えられる人である.新しい病院の最上階には展望浴場が作られた.家族や患者の立場に立って考えるだけでなく,これと思ったら“すぐ実行”しなくては気が済まないのも先生の性格である.

主張

病院における長期療養サービスの行方

著者:

ページ範囲:P.203 - P.203

 我が国の病院が急性期の一般医療機能と長期療養機能を,ことさらに区別することなく合わせ持って今日に至っていることは周知のとおりである.従来からその平均在院日数が諸外国に比較して著しく長いことなどがしばしば指摘されてきたが,その主たる要因は高齢者も含めた生活支援的需要に病院が十分に対応しえてきたからに他ならない.
 このような病院の状況に明確な問題提起をしたのが,昭和62年の「国民医療総合対策本部中間報告」であった.長期入院の是正を強く謳い,一般病院と慢性病院を区分する方向が示されて,長期療養施設体系の制度面からの検討の起点となったと見ることができよう.この流れを受けて施設類型化論が展開され,その後の医療法改正論議を経て,長い経緯の末に,今回の療養型病床群が制度として導入されることになったわけである.

特別寄稿

インフォームド・コンセントの実践とその必要性

著者: 山中直樹

ページ範囲:P.240 - P.245

 医療は,患者の思っているほど全人的人間とは言えない医者によって行われている.今日,医療は科学的ベースと人間性の保障を基本に行われなければならなくなった.しかも今や,医療を地球環境資源的な立場からも深く考えなければならず,人の命を少しでも延命すればよいという考え方は肯定されない場合も出てくることがある.言ってみれば,医療関係者も一般の人々も,常にどのように生き,どのように死ぬか考えていなければならなくなった.
 そうした観点から,名古屋記念病院では,インフォームド・コンセント(I.C)の日常的な医療現場での履行,実践が今後の建設的な医療の発展に必要条件と考えて,1987年から取り組んで来た1).現在,入院に際して医療を受けるに当たっての患者自身および家族の考えを書式でまず聞いている(図1,図2).その上で,患者や家族に対して,医療のいろいろな局面で,説明・同意を得るようにしている.その説明・同意についても書式をもって行い,ダブルコピー様式にして記入してもらっている(図3).医者,患者自身の双方がサインの上,一方を患者に渡している.また,家族等の関連者についても同様の形をとっている.

研究と報告

電動ベッドの使用による寝たきり予防の効果に関する研究

著者: 鎌田ケイ子 ,   橋本速子 ,   岳本波枝 ,   佐藤幸子

ページ範囲:P.246 - P.251

 高齢患者は発病後離床が遅れることによって寝たきり状態になりやすい.発病を契機として寝たきり状態が生ずることは,高齢者本人の望むところでもなく,また高齢者を世話することになる家族にとっては是が非でも回避したい事態である.医療者は高齢者や家族のこのような期待に応える必要がある.
 高齢患者は病状の回復に手間どるばかりでなく,臥床による体力や筋力の低下から若年患者に比べて離床が遅れる傾向にある.そのため体力や筋力の低下した高齢者には,発病後の離床を早めるために特別な手段が必要とされる.そこで,高齢患者の離床を助ける手段として,電動ハイローベッド(ベッドの高さの調節等が電動でできる)を使用することが,離床を早めることになるとの仮説をもとに調査を行った.

インタビュー

へき地へ代診医を派遣する拠点病院が発足—社団法人地域医療振興協会 吉新通康 理事長に聞く

ページ範囲:P.252 - P.255

 社団法人地域医療振興協会が運営管理する第1号の病院が昨年8月に発足した.本誌の45巻10号(1980年10月号)で紹介したように,この社団は地域医療を担う医師の確保および研究を目的として,1980年に設立された.自治医大の卒業生およびへき地医療に挺身しようという医師を主な会員とした組織である.現在の会員数は1093名(1992年3月現在,正会員993名,準会員2名,賛助会員98名)である.

建築と設備・83

フィンランドの医療・保健施設

著者: 伊藤誠

ページ範囲:P.256 - P.262

 “森と湖の国”フィンランドは,面積33万8,000km2,人口495万人,つまり日本とほぼ同じ広さの国土(正確にいえば日本よりは1割がた狭い)に日本のわずか4%に当たる人々が住む国である.長くスウェーデンとロシアの双方から支配され,やっと独立したのが1917年のことだ.第二次大戦ではソ連と過酷な戦いを交え,結局国土の1割以上を失うことになったが,その後は難しい地政学的な位置にありながら,ソ連とも友好的な関係を続け(それだけにソ連邦解体の影響は大きいだろう),着々と近代化を進めてきた.経済復興とともに医療や福祉にも力を入れ,今やスウェーデン・デンマークなどと並ぶ豊かな福祉国家に成長した.
 日本に対してはきわめて友好的で,何度訪れても気分のいい国であるが,我々建築家にとっては特に建築の質の高さに脱帽させられる国である.

MSWの相談窓口から

どんなときも—新人ワーカーとして

著者: 国分洋佳

ページ範囲:P.263 - P.263

病院というところ
 私は,1992年4月から勤めたばかりの新人ワーカーである.入院経験が全くない私にとって,日常生活の一環として病院に通うことは,最初のうちは違和感があった.ナースステーションでは医師や看護職の専門用語が飛び交い,病室では寝巻き姿の患者さんが横になっていたりすることが,とても不思議に思えたものである.自分の仕事に関しても,何を,どのようにやれば良いのかさえ分からなかった.先輩ワーカーのスーパーバイズを受け,やっと1年経過して,医療ソーシャルワーカーとしてのアイデンティティを持ちながら,遠和感なく仕事が見えてきたように感じる.

厚生行政展望

医療のキャピタルコスト

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.264 - P.265

 医療もひとつの産業である以上,キャピタルコスト,すなわち再生産のための投資的経費が必要であることは論を待たない.とくに,医療の場合には,建物,設備等のハードのためのコストのみならず,医療関係者の生涯教育なども含めた,ソフトのためのコストが重要である.今回は,このキャピタルコストと現在の診療報酬支払い制度について,若干の問題提起をしてみたい.

病院管理フォーラム

[診療録管理]診療録管理部門の設備と備品

著者: 木村明

ページ範囲:P.266 - P.267

 病院開設当初は診療録管理部門の設備は簡便なもので対応できる.しかし,記録は廃棄処分しないかぎり年々増加する.近年その増加の速度がすべての病院で早くなっているが,特に病院機能が高度であれば,活発であればある程早いことを忘れてはならない.
 担当者は量の増加の予測を適切に行い,永久保存の建前とは別に,どこまで管理し,どの時点でどう廃棄処分を行うかについて現実問題として検討しておく必要がある.その上で年次計画に基づき収納スペースの有効活用と管理労力の効率を考えた整備を進める必要がある.

[臨床工学技士]高気圧酸素治療

著者: 西山博司

ページ範囲:P.268 - P.269

 われわれが携わる高気圧酸素治療(以下,hyperbaric oxygenation therapyの頭文字をとり,HBOと略記)は,大気圧よりも高い気圧環境に患者を収容して酸素吸入を継続させ,血液中の溶解型酸素を増量させる特殊な酸素療法である.全身および局所性の低酸素症による種々の疾患治療に効果があり,近年ますます有用性を増している.HBOは患者に異常な環境条件を課する治療法であり,予想されるあらゆる危険から患者を守るため万全の注意をしなければならない.とくに酸素の使用による環境雰囲気の酸素分圧上昇は火災発生の誘因となり,患者を危険に陥れる可能性が大きいので,装置の操作,治療の管理など安全管理上の問題点も多い.以下,HBOに携わる技師の立場から業務内容を紹介する.

[放射線]『おまえ,何様だと思ってるんだ』

著者: 宮内兼義

ページ範囲:P.270 - P.270

 当院では,検査予約を放射線科予約センターを設けてそこで一括して受けている.
 当日は金曜日で,私は朝から一般撮影をこなしていた.11時を回った頃になって,予約業務を行っていた女性が私の所へ困った様子でやって来た.『明日の検査予約はもう一杯なんですけど,先生からの日にち指定が明日になっているので,どうしても検査をしてもらいたいという予約の電話が入ったんですが,どうしたら良いでしょうか』.またかと思いながら,『それじゃあ,私が出ます』と言って受話器を手にした.『明日はすでに予約で一杯で,通常の予約分以外に無理矢理頼まれた検査が1件余計に入っていますので到底受けられません』と明日の予約状況を簡単に説明して断ろうとした.しかし,先生から日にち指定されていることを理由にらちがあかなかった.最後には来週の火曜日に手術の予定なのでと検査を急ぐ理由を言い始めた.

麻酔医が往く・3

蘇生術と麻酔医

著者: 後明郁男

ページ範囲:P.271 - P.271

蘇生術は麻酔科の専売にあらず
 現在の麻酔学の本質は,何らかの大きな侵襲に曝されている人の,急性期の全身管理学である.人を眠らせるだけが商売ではない.とするなら,ごく短い経過で生じた心肺停止とその回復が,麻酔学にとって重要な研究テーマの一つであることは,容易にご理解いただけましょう.大学によっては,麻酔科の看板を麻酔蘇生科に変えたところもあるくらい.蘇生を専門に研究している学術団体である「日本蘇生学会」の会員も,大多数が麻酔医である.
 ここまで認識いただいているかどうかは分からないが,蘇生術と麻酔科には何やら親密な関係があるらしいことは病院内で広く知られていて,蘇生術が必要と思われる事態が発生すると,全部とは言わないが,多くは麻酔科に連絡が入る.麻酔医としても自分の仕事と思うから,何はともあれ,おっとり刀で駆けつけることになる.

病院アメニティの改善・8

病院アメニティの三本柱—高槻病院の場合

著者: 根岸宏邦

ページ範囲:P.272 - P.273

 アメニティ(amenity)なる言葉をウェブスターの辞典で引いてみると,pleasant (楽しい,心地よい),agreeable(快い,感じのよい)という意味がまず目に入る.次に,manner, civilityという意味があることが解る.すなわち,礼儀とか丁寧さということである.そして,「Some-thing that conduces to physical or material comfort or convenience or to a pleasant and agreeable life.」と説明がある.すなわち,便利さもアメニティの重要なポイントであることが解る.すなわちアメニティとは,快さ,丁寧な礼儀正しさと便利さが三本柱であると理解される.病院におけるアメニティを病院の広さや美しさ,生活施設の豪華さや住み心地を問題とする場合が多く見られるが,それも大切であるが,そこに働く職員達の礼儀正しさや鄭重さ,診療を受けるに当たっての便利さもアメニティの大きな部分である.そうであれば,莫大な資金や,広大な敷地もなく,たとえ旧式の建物の病院であっても,努力次第でアメニティの向上をかなりはかれるはずである.以上のような考えをもとに,今回は当院で試行錯誤しながら行っている,アメニティ向上の試みについて上記の三本柱の順に,編集部の要望により費用の点も若干含めて紹介してみたい.

病院経営Q&A・15

マーケティングと病院経営

著者: 川渕孝一

ページ範囲:P.274 - P.276

 Q うちの病院は,次のような問題をかかえているが,何かよい手立てはないだろうか.①全体に患者が減っている.②産科,小児科の病床利用率が特に低い.③病院の患者数には,大きな季節変動がある.すなわち,夏場が著しく少なく,冬場が多い(正月を除く).④以前には,社保,労災の患者が多かったが,最近は,国保,生保,老健の患者の割合が増えている.⑤入院・外来とも65歳以上の患者の占める割合が増えている.特に80歳以上の患者の急増ぶりが著しい.⑥年齢の若い患者は,近くにできた新しい病院に移っている.⑦新患比率,すなわち新外来患者数を外来患者延べ数で除した比率が伸び悩んでいる.⑧職業別に見ると,以前は会社員や公務員が多かったが,最近は無職が増えている.⑨医師は高齢化しており,士気の低下が著しく,当院は医師の態度の悪い病院として評判になっている.⑩看護職も厳しい労働条件と医師からの叱責などで働く意欲をなくしている.病院は常に看護婦不足の状態で,新規採用してもきてくれる看護婦はいない.⑪そのため患者からの不満が募っている.退院する患者にインタビューしたところ,“看護婦は不親切で,食事はまずく,部屋は狭すぎて気が滅入った.こんな病院には2度と入院したくない”というコメンドが多い.⑫以前は,ポランディアで患者の食事介助に来てくれる学生や主婦がいたが,今は全くいない.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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