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雑誌目次

雑誌文献

病院52巻5号

1993年05月発行

雑誌目次

特集 社会からみた医療の質の評価

[座談会]医療の質の評価をめぐって

著者: 福島雅典 ,   北原光夫 ,   辻本好子 ,   河北博文

ページ範囲:P.386 - P.393

 河北 本誌では過去3回「病院機能評価」の特集をしております.今回また「医療の評価」をめぐって座談会を企画したわけですが,前と同じ議論を繰り返すのか,それとも何か進展があったのかというようなことをきょうは検討してみたいわけです.病院をめぐる環境がいろいろ変わってきている.第2次医療法改正が行われ,病院という施設・設備はこうあるべきである,人員配置はこのぐらい必要だ,あるいは財務管理も,病院会計準則に従ってこのようにしてもらいたいということです.このような経営・運営の資源をそろえて,さて病院は中でどういう機能を発揮しているのかということに関しての議論がほとんどなされてこなかったような気がします.平成元年4月に,厚生省と日本医師会から「病院機能評価マニュアル」が出されたわけですが,それがどう活用されているのか,全くわれわれに還元されていないというようなことがあります.そんなことも考えながら話を進めさせていただきたいと思います.
 最初に,現在されている仕事を中心にして,どのように医療にかかわりをもたれているのか,自己紹介をお願いします.

医療のテクノロジー・アセスメント—医療の質を保証する社会的な枠組み

著者: 久繁哲徳

ページ範囲:P.394 - P.401

健康改善の不明な医療技術
 われわれが直面している最大の課題は,高齢化社会における保健医療の問題である.例えば,慢性・老人性疾患の治療,機能障害に対する長期ケアー,健康増進と疾病の予防,在宅医療・社会的ネットワークなど,緊急に対応しなければならない課題は山積みされている1)
 しかしながらこうした課題に対して,現在,開発・利用されている高度医療技術の多くは,その有効性が明らかにされていない.というのも,これらの技術は不完全技術(halfway technology)だからである.最先端の科学技術が使用されているものの,対象となる疾患の基本的な機序が解明されていないため,最終的な健康改善の達成は明確でない.その意味では,真の医療技術(genuine tech—nology)に到達するまでの中途段階に過ぎない.しかも,こうした医療技術には多額の費用が必要とされる.

医療の質の科学的評価とその歩み

著者: 郡司篤晃

ページ範囲:P.402 - P.405

医療の質とは
 Donabedian1)は,医療の質を定義することは医療のあるべき姿(norm)を定めることであるとしている.したがって,良い質の医療とはその時点が人々が受けることが出来る最高の医療ということになる.なぜなら,医療技術は日々進歩しつつあるからである.
 Donabedian1)は医療の質には多くの要素が考えられるが,最も単純化した場合には,①技術的要素,②人間関係的要素,および③アメニティの要素があり,かつ,これらが独立に医療の質を規定するだけではなく,相互作用的であるとした.

患者が望む医療のあり方

著者: 星野一正

ページ範囲:P.406 - P.408

患者の価値観の多様性
 医学の理論的発展と共に医療機器の開発や医療技術の急速な進歩により,従来寿命と諦めざるをえなかったような病気や怪我が治療の対象となり,社会復帰まで可能な時代になってきている.一方,斬新な生命維持装置による終末期医療への介入が患者の延命を可能にしてきた.それに伴って,人工呼吸器が進歩向上するまでは見られなかった脳死という新しい死の現象が斬新医療の落とし子として臨床現場で見られるようになり,人の死の診断において,従来のいわゆる三兆候説に基づく死の社会的認識を揺るがす大きな問題となった.また,従来医師の手に委ねられていた患者の「死の迎え方」についても患者自身が決めたいという風潮が高まり,尊厳死はもちろん安楽死をも求める人々が次第に多くなってきている.死をめぐる問題ばかりではなく,人間の誕生をめぐる問題にも革命的な変化が起こっている.

医療の質の向上と経済的裏付け

著者: 池田俊也 ,   池上直己

ページ範囲:P.410 - P.413

 これまで医療の分野においては,経済性や効率性を追及することは,医療費の削減あるいは医療の質の低下と同義と捉えられ,忌み嫌われてきた.しかしながら,有限の医療資源のもとで医療の質を向上させるためには,医療の効率性に目を向ける必要がある.諸外国と同様,わが国においても,医療の効率化は,今後の医療政策における中心的課題であると考えられる1)
 本稿では,個人の医療技術の効率性を評価する方法論として近年注目を集めている「臨床経済学」につき,その方法論と応用事例を紹介する.次に,わが国において医療の効率性を達成するための一つのモデルとして,公私の病院の機能分化につき筆者らの意見を述べる.

医療関連サービスからみた医療の質の評価

著者: 矢野聡

ページ範囲:P.414 - P.419

 医療サービスに関する評価は,大きく分けると2つの点に集約される.1つはサービスの有効性および技術的な練度の高さによる評価である.そしてもう一つは,経済学的評価,つまり効率性の評価と,価格ないし投入されたサービス量に対する受益者の満足度に関する評価である.これらは,いずれも医療サービスの質を規定する上で必要なものであるが,ときには両者が分かちがたく結び付いている場合もある.しかしながら,従来の医療サービスでは,両者を一応区分しながらその特徴を抽出する作業があまり行われてこなかった.つまり,医療法人はその全責任を負わされている医師が,自分の医療機関のサービス内容とその評価を,技術的な側面と経営および顧客満足度に関する側面とに分けて考える作業を,あまり行ってこなかった,ということである.
 ところで,特にわが国の場合,医療サービスの分野では評価を可能にするためのマニュアルと項目別の情報量の不足から,いわゆるテクノロジー・アセスメントとよばれる評価のための領域も,いまだに不十分のままである.周知のように,サービスの有効性および医療技術水準の評価は,例えばアメリカで行われているようなピア・レビュー(Peer Review)ないしセカンド・オピニオン(Second Opinion)として,基本的には医師間の相互評価法の確立を待つことになる.

他産業の品質評価

著者: 師岡孝次

ページ範囲:P.420 - P.424

 医療が所属している第3次産業以外の産業で品質評価機構の優れているのは第2次産業の製造業であろう.それは第2次産業で製造される製品(自動車,テレビをはじめほとんどの)の品質が世界的に高品質の評価を得ているからである.
 これら製品の品質を向上させた要因は多岐にわたるが,製造される製品の品質管理と,それを製造する設備の設備管理による品質評価機構が主要な要因であろう.これらの管理活動は実践的なもので,その活動で成果を上げた企業に与えられる,デミング賞やTPM賞はこれらの活動を推進し,結果的に日本製品の品質評価をする実践的な機構の重要な使命を果たしてきている.形式的なJISの品質標準規格などはここでは割愛して,両管理で代表的なTQCとTPMを中心に,またデミング賞とTPM賞の審査機構などを詳細に紹介し,最後に医療への本格的な導入の可能性についても触れることにしよう.

グラフ

長岡西病院を開院し新たな発展段階に入った長岡医療と福祉の里

ページ範囲:P.377 - P.382

 新潟県長岡市の人口は18万人余.県内では新潟市に続いて二番目の規模の中都市である.雪国の印象が強いが,ここ5年ほどは地球の温暖化現象の影響か,冬季の降雪はずっと少なくなってきているという.取材に訪れた3月下旬はコートさえ要らないほどのポカポカ陽気.名残雪も郊外の日陰で稀に目にする程度だった.
 「長岡医療と福祉の里」はその名称から,ある地域に医療と福祉の施設が固まって存在しているさまを想像しがちだが,資料に示したように,関連施設が5地区に点在する広がりをもっている.旧「長岡医療と福祉の里」にあたる田宮病院を中心にした深沢町の施設群.これに近年新たに三ツ郷屋町に建てられた長岡西病院,老人保健施設「サンプラザ長岡」が加わり,新旧の二大施設群を形成している.これらを恒星にたとえると,残りの3地区にある各施設は機能的にも規模的にも衛星に見立てられるだろう.

第31回日本病院管理学会で初の女性学会長を務める 聖路加看護大学教授 荒井蝶子さん

著者: 紀伊國献三

ページ範囲:P.384 - P.384

 「真摯の人」である.昭和36年創設された病院管理研究所で同室で過ごさせていただいた.石原信吾先生の,若い者は1人1室は早すぎるとの御命令であった.しかし若手は塚本(旧姓)蝶子さんと小生のみ,止むなく狭い扇風機もない小部屋で研究生活をスタートした仲間てある.
 新制度の高看教育を原素行先生(わが国中央材料室の生みの親)のもとで受け,育てられた逸材で,千葉大から慈恵に移られた吉武香代子教授と同期である.ちなみに蝶子さん(と昔なじみで呼ばせていただくが)が結婚され,お子さんが生まれると吉武さんが後任となられた.

主張

入院医療の質の評価が必要

著者:

ページ範囲:P.385 - P.385

 第二次医療法改正に基づき新しく生まれた病院の体制に対する診療報酬が決定した.
 特定機能病院においては紹介率を重視した上,特定療養費として診察料に自己負担を導入したことが注目される.今後病院における外来診療のありかたがどうなるのか,紹介外来の評価がどう拡大されていくのか興味のあるところである.一方,療養型病床群に関しては従来の特例許可老人病院の診療報酬とあまり変わらない点数体系となっている.わずかに施設利用料として病床の広さに配慮がなされているが,今後どのくらいの病院が療養型病床を導入するかが問題である.

MSWの相談窓口から

在宅医療—理想と現実のはざまで

著者: 田村里子

ページ範囲:P.425 - P.425

ホームケア
 医療の見直しが様々の方向からなされ,在宅医療の拡大もその一つの方策とされてきている.
 一般病院においてパリアティブケアに取り組む当院でも,在宅ケアのホームケアサービス部門が活動している.当院の考えるホームケアの形態は,“Hospis without wall”の言葉で示すごとく,単なる訪門看護にとどまらないより広い概念を包括するものである.

ふぉーらむ 民間病院はこれでよいのか・2

病院機能分化と民間病院,他

著者: 河北博文

ページ範囲:P.426 - P.435

〈医療の目指すべき方向〉
 どう社会が変わろうとも医療の原点は,安心して,いつでも,何でも,相談ができ,ケアを受けられる体制が近くにあることである.言い換えれば,信頼できるホームドクターをできるだけ多くの世帯が持つことが基盤となる.この考えに基づいて医療の諸制度は社会の変化に対応しつつ検討されていくわけである.従来からの診療中心の医療から社会生活にかかわりを強くもった医療へ変わっていく.同時に,医療の担当する範囲は,医療を受ける利用者の立場を優先しながら拡大していくわけである.さらに,医師主体であった機能から,今回改正された医療法にも明示されたようにその担い手として看護婦および薬剤師が加わり,総合的な体制が組まれつつある.

特別寄稿

「地域医療」—とくにへき地医療の現状を問う

著者: 三木知博 ,   山村典子 ,   星恵子 ,   新田則之

ページ範囲:P.436 - P.442

 筆者の一人,三木は,常勤の4年を含め10年近く地域医療にかかわってきた(島根県鹿足郡日原町厚生連日原共存病院)(表1).その後,大学へ転出したが,現在も地域医療,特にへき地医療は様々な意味において十分ではないことを痛感している.そこで自身の経験を通じて「地域医療」の現状について考え,いくつかの提案を行いたい.
 ここでの「地域医療」とは,岩崎氏のいう「きめ細かく文化的にも風土的にも共通した基盤を有する小さな社会」1)の医療ととらえ,その中でも特に「いわゆる交通条件をはじめとする自然的,文化的,経済的など諸条件に恵まれていない地域」1)であるへき地医療について考えていきたい.

ケース・レポート

中規模病院における分散処理システムの試み

著者: 渡辺博康 ,   畑田和男

ページ範囲:P.443 - P.447

 近年,大病院では医師によるオーダリングシステムをはじめとする医療情報システムは飛躍的に発展している.
 これは言うまでもなく,ますます厳しくなってきた医療環境の下で,院内ネットワーク化による効率的,かつきめ細かな情報の提供が病院運営の点から必要不可欠となってきたためである.

建築と設備・85

宗像水光会総合病院

著者: 友清貴和

ページ範囲:P.448 - P.454

 現在の「宗像水光会総合病院」の前身である「津留病院」の移転新築構想が院長と私の頭の中に漠然と浮かんできたのは,1980年代の早い頃であった.すなわち,地域医療計画とこれに続く医療法の改正が進められようとする中で,医療を取り巻く環境が大きく変わろうとする兆候が見えはじめた時期であった.
 津留病院は,当時すでに300床を越え,地域の中核病院であったが,20年あまり増築を続けた結果,あちこちに無理や矛盾が出てきていた.今後,21世紀へ継続する医療の道を模索するなら,住民が健康を守りやすく心身ともに安らぎを享受する場を新しく創造する以外にない,との理念がまず生まれてきた.このためには,地域の各医療機関が連携と機能分担を図り,本来の「地域医療」を展開することが必要であるとの考えの下で,まず我々が奔走したのは,当病院の新築計画ではなく,開放型病院としての宗像医師会病院の建設であった.宗像医師会病院が建設され経営が軌道に乗り始めた1987年,やっと新しい津留病院の具体的な基本構想固めに着手した.

麻酔医が往く・5

看護部と麻酔医

著者: 後明郁男

ページ範囲:P.455 - P.455

フィールドワーカーとしての麻酔医
 麻酔医にとって手術室をホームグラウンドとするなら,それ以外の診療部門のすべて(救急外来,各診療科外来,全病棟)はフィールドである.麻酔医はフィールドワーカーでもある.
 さて,救急蘇生や呼吸管理などで突然お座敷がかかることも多いわけだが,咄嗟の場でまごまごしないよう,フィールドの状況を常日頃から大ざっぱで良いから把握しておくというのは,フィールドワーカーとして当然の嗜みというものである.

厚生行政展望

診療報酬点数の改定(下)

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.456 - P.458

 昨年4月の診療報酬点数の改定により新しく導入された特定機能病院と療養型病床群の点数はあらゆる方面で話題になっている.療養型病床群(「療養病棟」と同義)においては定額制の導入をはじめ長期療養にふさわしい看護職員,看護補助者の配置や療養環境の向上を評価するとともに,看護レベルの向上につながるような特定看護料の新設が行われた.今回は療養型病床群について検討を試みた.

看護業務改善事例集

看護1号紙の活用による業務改善

著者: 田岡キヌ子 ,   金森葉子 ,   岩田和子 ,   野坂忍 ,   野口弘

ページ範囲:P.459 - P.461

 大阪府立羽曳野病院は,呼吸器・アレルギー疾患の基幹病院である.対象が慢性疾患で多くの患者が入退院を繰り返す.そこで,看護部では記録の省力化と患者サービスの向上を目指して,1988年4月に看護1号紙(患者背景表.以後は1号紙)のシステム化に取り組み,1989年3月には稼働させた.1号紙は,前回入院時の情報を保存するので,変化のない項目は入力の必要がなく省力化された.しかし,再入院時に情報が利用できる程度の便利さだけでは,システムとして一応の安定は得られても,内容に深まりは得られない.
 そこで,1号紙の情報が患者の個人情報としての域にとどまるだけでなく,蓄積された情報を活用するシステム,管理日誌や看護度とのリンクによる情報の活性化などに取り組んでいる.その結果,義務的な情報入力の姿勢が改善され,情報に対する興味が引き出され,情報の精度も向上の傾向が窺えるようになった.また,開発の目的である省力化による業務改善は十分に達成された.自分たちが入力した情報が,ワークシートなどスタイルを変えて使用できることに感動している.

病院アメニテイの改善・9

ハード面とソフト面でバランスのとれたアメニティの向上を—小林記念病院

著者: 小林武彦 ,   杉浦春彦

ページ範囲:P.462 - P.463

 小林記念病院は,愛知県の中央部に位置する(名古屋より約40km南)人口約7万人の碧南市にある.
 昭和20年に小林外科医院として開院,昭和55年に全面改築,昭和59年には南館を増改築し,現在は総病床数196床,職員数約160名の地域中核病院として活動をしている.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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