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雑誌目次

雑誌文献

病院52巻9号

1993年09月発行

雑誌目次

特集 病院の医療費体系をどうする

ホスピタルフィーとドクターフィーの分離—診療報酬体系論の基本論点

著者: 広井良典

ページ範囲:P.762 - P.766

はじめに
 現在わが国において,中長期的な視点を踏まえた診療報酬のあり方をめぐる議論が様々な観点から活発に行われているが,そうした議論において繰り返し登場する主要な論点のひとつに「ホスピタルフィーとドクターフィーの分離」をめぐる議論がある.この論点は,本論でみるように「病院」という組織それ自体の性格や機能,さらには医師の雇用形態とも密接に結びつくものであると同時に,“そもそも診療報酬とは一体何を「評価」するものであるのか”という,診療報酬の根幹につながる意味合いをもつものである.本稿では,まずこの点に関する欧米諸国の状況がどのようなものとなっているのかをその背後にある考え方を含めて整理し,その上で「医業費用の構成要素」と診療報酬との関係を整理しながら診療報酬体系の今後のあり方について若干の考察を行うこととしたい.

長期療養の医療費—老人専門病院の立場から

著者: 柴田高志 ,   大熊正喜

ページ範囲:P.767 - P.771

介護力強化病院での定額制の採用
 平成2年4月に行われた診療報酬改定で初めて登場した介護力強化病院(特例許可老人病院入院医療管理料承認病院)において医療費の定額制が取り入れられ,平成4年12月末には436病院がこの定額制を選択している.これは全国の老人病床18万床の3分の1に相当する約6万床を占めている.
 この定額制は,特例許可老人病院入院医療管理料という名目で,介護職員を一般の特例許可老人病院の入院患者8人に対し1名(8:1)という最低基準より厚く配置した場合に,投薬・注射・検査と入院料のうちの看護料の部分を合わせた点数として1人1日最高で698点(4:1の場合)が算定できるというものだ.看護介護というマンパワーに対する診療報酬と投薬・注射・検査というほぼモノを中心とした外部費用とをひとまとめにマルメてしまったことがポイントだ.

精神病院における入院医療費

著者: 津久江一郎

ページ範囲:P.772 - P.779

 1993年3月19日,日本精神病院協会代議員会において,谷保健医療局長は,医業経営が厳しくなるなどの医療を取り巻く環境が変化していると指摘したうえで,「変わろうとしている医療に精神科医療も乗り遅れないように」と来賓あいさつをし,次いで広瀬精神保健課長は,「この1〜2年のうちに考えて行かなければならない」とその時期が早いことを示唆した.これを裏づけるように「わが国の医療供給体制の将来構想」(厚生省健政策局)によると,精神病院においては,「入院患者の病状に応じ,療養型病床群と専門病院に分化する」とある.
 確かに「医療施設機能分化と体系化を進め,医療施設機能にふさわしい構造設備,人員配置を定めることにより,患者の病状に応じた良質かつ適切な医療を効率的に提供する」という基本的な考え方が前提となっていることは,周知の通りである.現実に「今世紀最大の改定」と自賛した平成4年4月1日の医療費改定,これに遅れること1年後(平成5年4月1日)の第二次医療法改正は昭和23年以来の大改正であった.

病院の外来医療費

著者: 白方誠彌

ページ範囲:P.780 - P.783

はじめに
 1992年4月の医療費改定は,その後成立した第二次医療法の改正を先取りして決められた診療報酬市体系であり,今後の日本の医療制度の方向を決定する大きな転換を意味するものといえよう.入院診療機能に診療報酬面から格差をつけ,病院へ傾きつつある外来診療の流れを診療所へ向けようとしたものであり,また外来診療を中心とする開業医の診療報酬を手厚くしようとした試みとも考えられる.これは,同時に病院機能のあり方にも機能別の区分を試みたものであり,最も高度な医療を施す特定機能病院と長期療養を担当する療養型病院とを区別し,後者に定額制を導入したことは,特筆すべきことであろう.
 今後は,この第二次医療法改正で取り上げられなかった問題,すなわち一般病院をどのように分類するのか,有床診療所の取り扱いをどうするのかなど,第三次医療法改正を待って,21世紀に向けた新しい医療制度の全貌が明らかになっていくのではないかと思われる.これらがすべて施行され,かつそれによって生ずるいろいろの矛盾点が是止されて初めて安定した医療制度へと発展していくことを期待したい.本稿では,当病院の外来医療費が診療報酬改定によって,どのような影響を受けたかについて述べると共に,現在の外来診療報酬に対する私見を述べたい.

病院における特定医療費

著者: 幸田正孝

ページ範囲:P.784 - P.788

この問題の背景
 前史
 健康保険における差額徴収問題は,戦前に遡ることができる.すでに,昭和13年,「入院患者が上級室を使用を希望するときは,その入院料より健康保険の入院料を控除した額は当該被保険者の負担」としてよいとする行政方針が示されていた.
 しかし,この問題が本格的に論議され,とりあげられたのは,戦後であり,とくに昭和20年代終わりごろから30年代前半にかけて,健康保険が国民の間に普及し定着していく過程の中でであった.

医療費の地域差

著者: 西村周三

ページ範囲:P.789 - P.791

地域差のとらえ方
 地域差の問題は一見すると簡単なようでいて,意外に難しい.なぜならば一口に地域差といってもどのような地域差を指していうのかがかなり多様であるからである.極端にいえば全国に1万程度あるすべての病院は異なる地域に立地しているわけであるから,1万の病院の地域差をすべて考慮するというのも一つの考え方である.そこで最初に,地域差でイメージされるものを整理しておこう.

[対談]病院の医療費体系の現状と将来

著者: 島田恒治 ,   河北博文

ページ範囲:P.792 - P.797

島田市民病院の現状
 河北 本日は,現在の診療報酬体系と,それから将来に向かっての医療費体系の問題を,公立病院と民間病院の立場から,先生にお話を伺いながら探ってみたいと思います.
 はじめに,昭和49年に先生が島田市民病院に赴任されてからの状況を,経営的なご苦労を含めて,ご紹介をいただけたらと思います.

グラフ

天草地域の保健医療を推進する—天草郡市医師会立天草地域医療センター苓北医師会病院

ページ範囲:P.753 - P.758

 天草郡市医師会(中山要会長)は島民の大きな期待のなかで1992年4月,天草地域医療センターを本渡市に開設した.センターは天草中央総合病院,牛深市民病院,上天草総合病院をはじめ各自治体病院および地域の民間病院などと連携して天草地域をカバーする医療ネットワーク化を進めるに当たり,その中核としての機能と役割を担うというもの.
 同医師会はこれまで苓北町にある苓北医師会病院を運営してきたが,センターの開設により二つの病院を運営することになった.

日本医療社会事業協会会長に就任—順天堂大学附属順天堂医院医療相談室 吉田雅子さん

著者: 伊藤淑子

ページ範囲:P.760 - P.760

 吉田さんに初めてお会いしたのは「がんの子供を守る会」のソーシャルワーク研究事業の場だったと記憶している.お互いにまだ20代のころだった.それからの長い年月,いろいろな場所でご一緒に仕事をする機会を得ることができた.
 吉田さんは日本女子大学の文学部社会福祉学科を卒業後,順天堂大学医学部附属医院のソーシャルワーカーになられた.1989年からは同医院の医療相談室の主任となり,現在に至っている.

主張

次に求められる施設機能の体系化とは何か

著者:

ページ範囲:P.761 - P.761

 先の医療法の改正において,特定機能病院と療養型病床群の病院制度が導入され,すでに実施に移されている.周知のようにこれらの制度は申請による適用となっており,現段階ではその立ち上がりは決して芳しいものとは言えない.大学病院から特定機能病院への申請が未だ1件もなく,療養型病床群についても様子眺めの気配が強いという現況は,一部に今回の改正が本当に必要であったのかという疑問を示す向きもあると言われる.
 しかし,その立ち立ち上がりが鈍い大方の原因は,実質的に医師養成の機能を担っている大学病院や,医療の枠の中に福祉も抱え込んできた我が国の一般的な病院にとって,両制度が,それぞれの積年の問題を一気に解決するほどの包容力のある受け皿ではなく,何よりも限られた財源の下で設定された診療報酬が,理念的にも経営的にも,素直に受け入れられる形となっていなかったところにある.これは,高度医療機能を制度的に特化し,長期療養サービス体系を区分する方向の意義を損なうものではなく,状況の転換の困難性を示すものと見るべきであろう.

現代病院長論

病院経営25年の経験から—院長の能力と資質、経営管理の課題を考える

著者: 伊藤研

ページ範囲:P.798 - P.805

 わが国の医療は,自由主義的・資本主義的発想で行われている一般企業経営活動と異なり,社会主義的性格を持つ統制経済的な国民皆保険制度の下にある.したがって,同一業種間では価格競争の原理が働かず,同一の医療行為に関しては医療の本質と原価に関係なく価格統制的医療費が支給され,より良心的に医療を行えば行うほど収益が低下するといった状況にある.他方,病院の開設主体によって運営費と資本コストの扱いに差があり,経営基盤そのものも公私間のみならず病院ごとに格差がある.そこには院長業務の遂行に支障を生じるような問題が内蔵されているといえよう.
 では,院長は何を業務とするのか.この問いに対しては,「一般企業にたとえれば社長業務に相当する」と答えることができよう.院長の業務は,病院の開設主体によっても異なるであろうし,また規模やその病院の持つ機能によっても千差万別である.公立病院の多くは200床以上で,機能的にもこの規模で平均化できよう.他方,民間病院は20床から千数百床までと規模的にも機能的にも大きな差があり,おのずと院長の業務や経営姿勢にも大変な開きが出てくる.中規模以上の病院でも,一般中小企業の社長と同様,経営または運営管理上の問題と現場の業務を兼務する場合が多いのではないだろうか.

建築と設備・89

中規模地域中核病院—山梨赤十字病院・長野県立木曽病院

著者: 岡野覚 ,   袖山公靖

ページ範囲:P.807 - P.815

移転・開院までの経緯
 山梨赤十字病院は昭和12年(1937年)鳴沢村他3カ村(大嵐・勝山・小立村)による組合立診療所として設立され,昭和16年(1941年)日本赤十字本社に移管後,岳麓赤十字病院となり,昭和45年(1966年)山梨赤十字病院に名称変更され現在に至っている.本院は山梨県南部の地域の中核病院として長い歴史を誇ってきたが,近年医療の多様化の中で,施設の狭隘さと老朽化が目立つようになり,これを機会に全面移転が実施されるに至った.
 敷地面積48,000m2,病床数222床(一般210床,結核6床,伝染病6床),診療科目17科の基本構想に基づき,1年半の工事期間を経て,平成3年(1991年)7月1日開院を迎えた.

退院計画 病院に求められる新しい機能・2

対象者のスクリーニング

著者: 田中千枝子

ページ範囲:P.816 - P.819

 退院計画を日本の病院にも導入・定着させるに当たり,前号の退院計画の概説を踏まえ,今回からそれを具体的に実施していく上での現実的課題を検討したい.
 退院計画では,本来すべての患者・家族を対象にその計画が立てられるべきである.しかし日本の病院では,ソーシャルワーカーをはじめとするマンパワーが,すべての患者をカバーするにはあまりにも不足している.そこで当面の課題としては,とくに濃厚かつ複雑なケアを必要とする可能性の高い患者をスクリーニングして,漏れなく,入院の早期から援助に繋ぐルートを構築することが必要になる.

研究と報告

病院貸与の奨学金を考えよう

著者: 倉田トシ子 ,   田嶋美代子 ,   浜野市子 ,   上山悦代

ページ範囲:P.820 - P.824

奨学金は何
 筆者らの雑談中,一人が「卒業生が就職を拒否するのはあなたの教育の仕方が悪い」と,母体病院から叱られたとぼやき始めた.つられるようにそこに居合わせた専門学校で教育に携わる者達が,「病院が貸し出している奨学金はいつまで続くのだろう」「病院の看護婦確保は奨学金貸与しか道はないのだろうか」といった意見で諤々となった.
 昨年来,神奈川・高知・北海道と,病院から貸与された奨学金の返還に関して新聞報道されている.特に今年2月3日の北海道室蘭市の事例では,朝日新聞は「看護婦に『お礼奉公』強要」と見出しをつけている.報道は准看護婦教育だけであるが,看護教育全般にいわゆる“お礼奉公”の風潮は有形無形で残存している.

麻酔医が往く・9(最終回)

主治医と麻酔医

著者: 後明郁男

ページ範囲:P.825 - P.825

 麻酔科には,急性呼吸不全やがん終末期の患者が呼吸管理や痛みの緩和治療の目的で紹介されてくる.
 患者には担当医(通例,主治医ともいう)がいるが,患者との関係と同じくらい担当医との関係には気を使う.患者ががん終末期の場合,とりわけそうである.

厚生行政展望

政権交代と厚生行政

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.826 - P.827

五里霧中
 半年前の霞が関では冗談として語られることすらなかった政権交代劇が,自民党議員の一部離反に端を発するハプニング的衆院選を経て,8月9日,現実のものとなってしまった.この政権交代劇そのものは民意を反映したものであろうが,政権交代の後に訪れるであろう諸変化まで思いを馳せた民意は希薄であった.
 これは候補者諸氏が確たるビジョンを有権者へ示さないうちに投票日を迎えてしまったためであるが,おかげさまで,霞が関の役人は,これから選良諸氏がどっちの方向へ国政を引っ張ってゆかれるのか全く見当がつかず,五里霧中の状態である.

病院経営Q&A・20

モノのマネジメント

著者: 川渕孝一

ページ範囲:P.828 - P.829

 Q 当院は医薬品や診療材料の流れといったモノの流れや,帳票・診療録の流れ,院内統計・資料の流れといった情報の流れが非常に悪い.こうした「モノの流れ」や「情報の流れ」をいかにマネジメントしたらよいのか.

看護業務改善事例集

クラークを導入して思うこと

著者: 一本木節子 ,   佐伯幸子

ページ範囲:P.830 - P.831

はじめに
 看護婦不足問題が社会を賑わすようになって久しい.かつて厚生省が看護婦需給見通しを立て,平成6年には充足するという数字を発表したが,臨床を預る長として,日夜苦悩していた者の目には直感的に「信じられない数字」であった.
 ほどなく,その見通しは書き換えられたが,それとて実現の可能性があるのか.18歳人口の減少と急速な高齢化社会の到来によって,今後の看護婦需給バランスは一層深刻なものになると誰もが予想している.

老健Now・4

最適ケアプラン作成への挑戦

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.832 - P.833

 本年6月「高齢者総合ケアシステム研究会」(北海道医師会会長=吉田信座長)が,「高齢者総合ケアシスチム研究プロジェクト中間報告」を公表した.このプロジェクトは,現行の高齢者ケアシステムが,高齢者のニーズを平均的で,画一的にとらえていることから,高齢者一人ひとりの個別的ニーズへの配慮が欠如していることと,病院,老健施設,特養のサービスと実際の利用者のニーズがミスマッチを起こしているという前提を出発点にするものである.研究目的は,高齢者一人ひとりのニーズに即した「最適ケアプランづくり」を進め,それに基づき適切なケアが総合的で,継続的に提供されるシステムの確立を目指すものである.方法として,1990年以降,米国のナーシングホームの入所者に対して活用されている『高齢者データセット』MDSを活用して,ケアプランの作成を行う.この研究会の成果は,わが国の老健施設にも,なんらかの貢献をもたらすものと期待されている.

副院長考・7

院長の補佐として経営を支えるが,医療スタッフの一員でもある

著者: 石原哲

ページ範囲:P.834 - P.835

 副院長考シリーズの執筆者に民間病院の私が選ばれ,さて副院長として何をしているのか考え込んでしまった.民間病院は国公立の病院とは事情が違うからである.
 当,白髪橋病院は昭和の初期に,地域の病院としてスタートして以来60数年を経ようとしている.東京消防庁が救急搬送業務を確立した昭和11年に,救急告示病院となって以来,外傷などを扱う外科系を中心とした救急病院として経過してきている.

MSWの相談窓口から

「外国人」とかかわるMSWの視点

著者: 取出涼子

ページ範囲:P.836 - P.836

 1990年10月に厚生省が定住・永住資格を持たない,いわゆるオーバーステイの外国人を生活保護法の適用から外しました.それまでの外国人に対する生活保護適用は,あくまで「人道的な見地」による一時的なものだったのです.日本国民は納税の義務,就労の義務を果たすことで権利を享受しています.オーバーステイの外国人の方が日本人と全く同じ義務を遂行しているかどうかわかりませんが,確かなのは私たちの目の前で困ってしまっている患者さんが明らかに増えたことです.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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