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雑誌目次

雑誌文献

病院53巻6号

1994年06月発行

雑誌目次

特集 院内感染対策は万全か

[てい談]院内感染対策にどう取り組むか—病院管理の立場から

著者: 青木眞 ,   尾嵜新平 ,   紺野昌俊

ページ範囲:P.512 - P.521

臨床の弱さが露呈したわが国の院内感染対策
 紺野 最近,院内感染というとすぐMRSAが浮かび出てくるのですが,実際にはMRSAだけではなしに,たとえばHIV感染だとか,HB感染などの血液感染も重要な問題ですね.
 一方,環境汚染も問題で,汚物をどう処理するかというところまで院内感染の話は広がってきております.そうすると,今度は逆に本当の意味での院内感染対策はどうかというと,少しぼけて,空洞化してきているというような感じがしないでもありません.

院内感染対策のポイント

著者: 恵口利一郎

ページ範囲:P.536 - P.543

はじめに
 病院環境は清潔であるとともに見た目にも綺麗で快適なものが求められる時代になってきている.
 医療の場では感染防止が重要な課題であるが,あらゆる対策の基本が病院環境の整備にあるので,衛生的な病院づくりに対する根本的な対策が重要視されている.

医療廃棄物処理は万全か—改正「廃掃法」施行後の実態と問題点

著者: 渡辺昇

ページ範囲:P.544 - P.547

 医療廃棄物処理の実態については,ここ数年来ことある毎にそのずさんさを明らかにしてきたが,先般の「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(以下本文では「廃掃法」と略す)」改正によっても残念ながらあまり変わっていないと言わざるを得ないのである.
 「廃掃法」の改正により新たな局面を迎えたことは確かだが,法律用語として医療廃棄物という言葉は使われておらず,特別管理(一般・産業)廃棄物の中に感染性廃棄物として位置付けているにすぎない(図).その処理方法も多少厳しくしてはいるが,基本的には従来の産業廃棄物の処理方法を踏襲しているので,制度的には変わっても実態はあまり変わらないというより,変わりようがないとみるべきであろう.

[研究報告]MRSA院内感染対策の現況—佐賀県全病院の実態調査から

著者: 石塚正敏

ページ範囲:P.548 - P.551

はじめに
 MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による院内感染症が社会問題にまで発展している現況から,県内の各病院におけるMRSAの発生状況とその対応状況等を把握し,今後のMRSA対策を講じる上での基礎資料を得るため,昨年,県医師会の全面的な協力の下に佐賀県内の全病院を対象とする実態調査を実施したので,その概要を報告する.

感染防止モニタリングシステムの構築を目指して—システムの概要から、感染防止に役立つ設備・機器の紹介まで

著者: 野本亀久雄 ,   鈴木達夫

ページ範囲:P.552 - P.565

感染防止のモニタリングシステムについて
システム開発の基本的視点
 外来性の微生物や自己由来の異物的成分を処理し,個体の恒常性を維持するしくみは,原始的な食細胞や進化した免疫を含むものであり,筆者は生体防御機構として全体像を構築することを提唱してきた.病院に代表される医療環境は,感染症にかかっている人々がさまざまな微生物を持ち込む場であり,同時に何らかの病気のためあるいは強力な治療の副作用として,生体防御機構に機能不全をおこしている人々が集合する場でもある.一般生活環境よりもはるかに多い種類の微生物が大量に存在し,これらの微生物にかかりやすい人々が多数集まる場として病院を位置づけすることが必要である.
 このような必然的な条件から,(病)院内感染症を絶滅することは不可能であり,現代科学のベストをつくした最低のレベルに病院内の微生物汚染度を封じ込めつづけることが対策のポイントとなる.汚染度が許容限界以下に封じ込められていることを経常的に保障するモニタリングシステムが要求され,一方では科学的データーにもとづく許容限界の設定が要求される.

私たちの病院での感染対策とその費用

1 地域中核病院での取り組み—広島市立安佐市民病院では

著者: 岩森茂

ページ範囲:P.523 - P.527

はじめに
 われわれの病院では1980年開設当初より病院感染防止対策を積極的に推進してきておるので,ここにその大要を紹介し,これらにかかわる経費と保険医療への提言をのべてみたい.

2 腎移植を行う民間病院—札幌北楡病院では

著者: 川村明夫 ,   目黒順一 ,   久木田和丘

ページ範囲:P.528 - P.531

はじめに
 臨床医学の急速な進歩に伴い,様々な疾患の治療が可能になると共に,各種治療の結果として発生する新たな病態が,これまで以上に議論されるようになった.その最大のものの1つに感染症の問題がある.感染症は,古くから人類にとって最大の疾患であった.近代の医学は,まさに感染症との戦いであったとも言えなくはない.今日多くの抗菌剤,抗生物質の開発により,人類は感染症に対抗する強力な武器を手中にしたかに見えるが,そのことにより,感染症の問題は一層複雑になった観もある.MRSA1)を初めとする耐性菌の出現,compromised host(易感染者)の増加に伴う日和見感染症の増加,病院という狭い空間に,多くの患者と医療従事者が濃厚に接触しつつ生活するために発生する院内感染2)の問題等がそれである.
 これらの問題に対して,各種の感染予防対策が論じられているが,施設問での規模や,患者構成の違い等により,画一的な基準は定めがたく,更にはコストと効率の面からも,実際の運用には問題点も少なくない.

3 老人医療とMRSA対策—浴風会病院では

著者: 山岡実

ページ範囲:P.532 - P.535

はじめに
 ぶどう状球菌は皮膚常在菌であり健康な人には通常なんら障害を及ぼさない.現在大きな問題になっているMRSA (メチシリン耐性ぶどう状球菌)は抗生剤に耐性を持つことを除けば細菌としての性質は全く同等である.したがって健康な人は格別恐れる必要はない.免疫学的な弱者(compromized host)が病院という施設に集まったときに感染発病するということで問題になっている.MRSA出現以前にも院内感染は病院関係者の間では問題になっていたがMRSAの出現によってにわかに注目をあびるようになった.当院の院内感染における経験と対策を述べる.

グラフ

住民の健康づくりに挑む—熊本県・国民健康保険蘇陽病院

ページ範囲:P.503 - P.508

 「へき地勤務が前提の自治医大の卒業生でさえ“先生を尊敬する”といいます.5年,10年と根を下ろしへき地の医療を担おうという情熱のある医師はいませんかね.」と嘆息する浜田院長が蘇陽病院に赴任したのは1985年6月.当時は「住民に信頼されず,自治体にもお荷物」といった状態で崩壊寸前の病院であった.

信頼厚い地域医療の実践家—第34回全国国保地域医療学会学会長 長野県佐久市立国保浅間総合病院 倉澤隆平院長

著者: 鎌田實 ,   八木保

ページ範囲:P.510 - P.510

 倉澤先生に初めてお目にかかったのは20年前,浅間病院で開かれた東大外科医師連合の青年医師たちが中心になって集まった「外科医療研究会」の席であった.先生は大変腕の良い外科医であるが,痛恨の一例というテーマで一人の患者の治療法について真摯に分析しながら,より良いアプローチが他にあったのではないかと検討されていた.誠実な医療姿勢が印象的であった.
 今年,学会長に指名されるとメインテーマを「すすむ長寿社会に一発想の転換を求めて」とし,「自然と人間」の題で動物写真家の宮崎学氏に特別講演をお願いし,健康観や死生観,ライテスタイルのことなどに想いを巡らしつつ,「現代医療の功罪」,「医療幻想」,「診療所問題」,「国保病院のあり方」,「保健婦問題」,「折り返し点に立ってゴールドプランを考える」,「地域医療とMRSA」などの地域医療にとっての今日的問題をワークショップやパネルディスカッション,シンポジウムなどに企画した.

主張

病院機能評価結果の利用について

著者:

ページ範囲:P.511 - P.511

 病院機能評価とか医療の質の評価とか,ずいぶんと評価という言葉が人口に膾炙してきたものである.それは,多分に医療の質を評価することで,よりよい医療が提供してもらえるという期待があるからであろう.しかも,そのような気運が医療提供側からだけでなく,受療者である患者側や一般住民サイドからも高まってきたことは大いに歓迎すべきであろう.
 もっとも病院が良い医療を効率的に提供することはごく当たり前の話である.したがって病院機能についての適切な評価を受けることは必要なことであり,病院にとっての義務とも責務とも考えられる.

インタビュー

長野県厚生連・健康管理センター20年の活動

著者: 松島松翠 ,   若月俊一

ページ範囲:P.566 - P.570

 1959年(昭和34年),佐久総合病院によって八千穂村の全村健康管理活動が開始された.この活動はその後,長野県下の農協組合員を対象とした健診活動へと発展した.その中心的役割を担ってきたのが長野県厚生連・健康管理センターで,昨年10月に開設20周年を迎えた.この間のセンターの活動を松島佐久総合病院長にうかがった.

建築と設備・97

順天堂医院新本館の設計

著者: 伊藤誠

ページ範囲:P.571 - P.576

はじめに
 天保9年(1838年)佐藤泰然の創設した蘭学塾順天堂は,明治8年(1875年)あとを継いだ佐藤尚中の手により湯島の現在地に移されて順天堂医院となった.尚中はその頃「洋医界の泰斗」1)として大学東校大博士に任ぜられている.3代佐藤進は外科学の第一人者として西南戦争(明治10年)で大きな働きをしたが,その時の一挿話をまとめたのが渡辺淳一の出世作『光と影』2)である.
 第二次大戦後いちはやく,専門学校だった順天堂の大学昇格に尽力したのが第4代佐藤達次郎で,その名を記念した病棟が3号館である.大学の付属病院に発展した今日でもこの輝かしい“医院”の呼名は変えていない.

厚生行政展望

病院の信頼

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.578 - P.579

はじめに
 今年の3月,日本医師会の病院機能評価検討委員会は「病院機能評価検討委員会報告書」をまとめた.全日本病院協会はこの報告書を全会員に配布し,病院側の自主的な努力による病院機能評価の必要性についてPRに勤めている.また,1月には日本病院会の医療制度委員会が「インフォームド・コンセント」について病院が示すべき基本姿勢をまとめ,院内に掲示するよう会員に呼びかけた.
 今回は,「病院の信頼」低下が問題視される中で,従来は厚生省主導で行われてきた医療政策を医療団体サイドが自主的・積極的に取り組んでいる事例について,このような活動が「病院の信頼」に結び付くのかについて検討を行う.

老健Now・9

平成6年4月の療養費改定で老健施設は変身?

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.580 - P.581

 平成6年4月の老人保健施設療養費の改定は,老人施設の在宅シフトを一層推進するとともに,ナイトケアの新設により多様なサービス機能が可能となった.経営面でも,基本施設療養費の約5%の引き上げをはじめ,デイケアの大幅評価により,在宅支援に熱心な施設ほど収支状況が好転することになる,老健施設の「在宅シフト」は自明であり,在宅に結びつく入所サービスの質の向上が焦点にならざるを得ない.制度の本格実施以降満6年を経過した今回改定で,特定治療の内容の見直しが行われたことも見逃せない.これで治療行為が必要な入所者に対しても,老健施設は頼れる施設に変身することができるであろう.

病院管理フォーラム

[病院の委託業務]消毒滅菌業務および寝具業務

著者: 塚田慎吾

ページ範囲:P.582 - P.583

消毒滅菌業務
①業務内容
 消毒滅菌業務も検査業務と同様病院運営の重要な部分である.
 当院の委託は病院の施設を利用し,中央滅菌材料室の滅菌業務およびその関連する業務を全面委託しており,その点は検査業務の委託と同じである.

[病院関連サービス]聖路加サービスセンターの事業(1)—売店運営[その1]

著者: 石山稔

ページ範囲:P.584 - P.585

聖路加サービスセンターの事業と組織
 サービスセンターは病院出資100%の会社組織となっている.社員は現在10名,そのうち3名は病院からの出向となっている(図1).
 事業内容は売店経営,保険代理店運営,駐車場管理等から,理髪サービス,葬儀・寝台車の手配まで病院本体の運営管理を円滑ならしめるための,あらゆる業務を目指している.これらの業務は収益事業としての性格をもち,医療関連サービスの「センター」としての機能を発揮している.財団法人医療関連サービス振興会の調査報告はサービスセンターの業務取組みについての指標である(図2).

MSWの相談窓口から

面接考—ワーカーのしごと

著者: 森山正治

ページ範囲:P.586 - P.586

白衣の呪縛
 もう10数年も前になるが,私は病院最初のMSWとして配属され白衣を手渡された.どうもおかしい.福祉の勉強をあまりしてこなかった私は仕事中,患者に対して医師と同じような話し方になっていることに気づいた.今思えば「援助あってソーシャルワークなし」といったところか,医師の指示をただ具体化するだけの仕事に追われていた.以来10年,白衣は身につけていない.

事務長の業務を考える・6

事務長が泣きたい時,笑える時

著者: 緒方廣市

ページ範囲:P.587 - P.587

泣きたい時
 この時期なのでどうしても平成6年4月の医療費改定に言及せざるをえない.大げさにいえば2年間待ち焦がれた時が来たわけである.
 ところが実際の医療行為(4月分)を追跡して得た結果が1.1%のアップ率にとどまった.他病院の結果も同じような数値を示しているようだ.病院団体の要求には2ケタアップ率もあったが到底及ばない悲惨な数字となった.

医学ごよみ

6月—June 水無月

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.588 - P.588

 医学史上に重要な3人の人物の誕生日と命日を紹介する.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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