文献詳細
医療技術革新の展望とこれからの医療政策—ヒト遺伝子研究の意味するもの
文献概要
はじめに
今年になってアメリカ・ネブラスカ州の最高裁が判決を下した医療訴訟は,近年における遺伝子レベルの医療技術の急速な変化が,私たちが通常抱いている「疾病」や「障害」あるいは「治療」や「予防」という概念をいかに根底から揺さぶっているのかを示すものであった.
事件は次のようなものだった.1990年,同州に住むある女性が,担当の婦人科医のすすめに従い,遺伝子性のがんについての専門家である別の医師に相談をした.背景として,彼女の母と叔母はいずれも卵巣がんで死亡しており,それぞれがんの診断を受けたのは47歳と48歳の時だった.この家族歴からすれば,彼女が卵巣がんないし胸部がんを持つに至る確率は50%となる.そのような家族歴がない場合には,卵巣がんの発病リスクは1.5%程度だ.相談を受けた専門医は,彼女について「遺伝的に卵巣がん発病の傾向が強い」と診断し,子宮および卵巣の摘出手術がこの場合のような遺伝性のがんのケースには予防的措置として有効と判断のうえ,手術をすすめる.
今年になってアメリカ・ネブラスカ州の最高裁が判決を下した医療訴訟は,近年における遺伝子レベルの医療技術の急速な変化が,私たちが通常抱いている「疾病」や「障害」あるいは「治療」や「予防」という概念をいかに根底から揺さぶっているのかを示すものであった.
事件は次のようなものだった.1990年,同州に住むある女性が,担当の婦人科医のすすめに従い,遺伝子性のがんについての専門家である別の医師に相談をした.背景として,彼女の母と叔母はいずれも卵巣がんで死亡しており,それぞれがんの診断を受けたのは47歳と48歳の時だった.この家族歴からすれば,彼女が卵巣がんないし胸部がんを持つに至る確率は50%となる.そのような家族歴がない場合には,卵巣がんの発病リスクは1.5%程度だ.相談を受けた専門医は,彼女について「遺伝的に卵巣がん発病の傾向が強い」と診断し,子宮および卵巣の摘出手術がこの場合のような遺伝性のがんのケースには予防的措置として有効と判断のうえ,手術をすすめる.
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