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雑誌目次

雑誌文献

病院54巻12号

1995年12月発行

雑誌目次

特集 問われる病院と地域の保健活動

保健活動の現状と問題点

著者: 西本至

ページ範囲:P.1118 - P.1121

はじめに
 我が国の保健活動は大正末期から昭和初期にかけて結核や児童の対策を中心に展開されてきた.1919年には大阪市に児童相談所が,また1932年には公立の結核予防相談所の第1号である健康相談所が東京市に設置された.これらは軍事体制の下でやがて保健所法の制定(1937年)や厚生省の設置(1938年),そしてさらに保健婦規則の制定(1941年)へと続いてゆく.
 今からちょうど半世紀前の1945年,日本は敗戦による窮乏と劣悪な衛生状態の中で連合軍司令部GHQの強力な指導の下に衛生行政の新しい夜明けを迎えようとしていた.1947年に保健所が全面的に改正されたのを皮切りに,以後の公衆衛生活動の基盤となる法律が順次改廃整備されていった.昭和20年代中〜後半の特筆すべき保健活動として大きな盛り上がりをみせた「蚊とハエをなくす運動」や「地区組織活動」を忘れることはできない.これらの運動を通じて地域住民が保健活動の意義を実感し,主体的に運動に参加した,という点で,昨年成立した地域保健法が強く訴える「生活者の視点」の萌芽を見てとることができる.

[インタビュー]トータルヘルスケアへの取り組み—勝木グループ代表 勝木道夫氏に聞く

著者: 勝木道夫

ページ範囲:P.1131 - P.1134

 石川県小松市にある勝木グループは「心と身体を包含する健康増進のための医学の実践」を目指して活動を展開している.この健康医学の中核を担ってきたのが,昨年10周年を迎えた北陸体力科学研究所で,「健康とは一体どんな状態をいうのか」を命題に健康増進活動を展開している.
 勝木グループは芦城病院および加賀八幡温泉病院の二つの病院を運営している医療法人勝木会,財団法人北陸体力科学研究所などから成る.機構上ではこれらの事業所と並列してサービス本部が置かれている.サービス本部は事業所が「地域のヘルスケアに関するすべてを引き受ける」べく,グループ全体の企画から人事・労務・財務・情報などを担当する各部で編制されている.現在の勝木グループ全体の総売上は約40億円,全職員数は約400名である.

検診データからの考察

著者: 矼暎雄

ページ範囲:P.1135 - P.1138

継年データの重要性
 「Aさんはここ3年間は毎年この検診を受けていますね?」
 「はい.」

健康診断と産業医活動

著者: 上田茂

ページ範囲:P.1139 - P.1143

はじめに
 職場における労働者の健康の状況については,職業性疾病の発生はこの十数年間で半減し,じん肺,腰痛や化学物質による健康障害等の課題が依然あるものの,一定の成果がみられる.一方,高齢化の進展等に伴い,高血圧症,虚血性心疾患等の疾病が増加しており,定期健康診断において労働者の3分の1がなんらかの有所見者となっている.これらの疾病の中には,労働の態様や職場における健康管理いかんによっては悪化する場合があることから,作業関連疾患対策としての取り組みが課題となっている.また,産業構造の変化,技術革新の進展等により,労働者の精神的負担の増加等から,疲労やストレスを感じる労働者の割合が増加している.
 職場における健康管理を進めるための基本的な法律として,労働安全衛生法(以下,安衛法という.)がある.この法律では,事業者に職業病も含めた労働災害を防止するための最低基準の遵守を義務づけるとともに,快適な職場環境の実現と,労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保することを規定している.また,産業医や衛生管理者,衛生委員会等の安全衛生管理体制,健康診断および事後措置,健康教育,健康相談,健康の保持増造のための措置などについて定めている.

病院経営における人間ドックの位置づけ

著者: 花岡和明

ページ範囲:P.1144 - P.1147

前書き
 編集室よりの課題は,「人間ドックを病院が経営する場合,診療にどう生かすか,また黒字のためのポイントは何か」である.「診療にどう生かすか」とは,健康診断業務を如何に保健診療と連携させるかであり,「黒字のポイント」は,現代の合理的価値観に沿うCost performanceを追及することで,機器整備やアメニティの良さは必要条件にすぎない.集約すれば,地域の求めを探り,それに病院全体で如何に応えるかである.
 予防医学も地域医療追及の一環である.そこで当院の置かれた環境特性の中での健診の在り方につき筆者の考えを具体的に述べる.課題に直接添った順序ではないが当院の状況から記すことをお許し願いたい.

病院と地域保健活動

患者主体—参加の医療を目指す関越中央病院

著者: 新島和

ページ範囲:P.1122 - P.1124

 地域保健活動について考える前に私達の病院の理念を明確にしておきたい.
 A.循環器疾患を中心に各科を併設し,高度医療の展開の中,地域でのセンター的役割を果たす.

検診活動から健康教育活動,さらに予防活動に取り組む佐久総合病院

著者: 松島松翠

ページ範囲:P.1124 - P.1127

佐久病院の地域保健活動
 佐久病院に「出張診療班」が初めて結成され,地域へ出ての巡回診療が行われるようになったのは,戦後間もなくの1945年12月であった.その当時は無医村も多く,手遅れになる患者が非常に多かった.そこで病院から一歩外へ出向いて,これらの患者を早期に発見することがたいせっだという考えから,無医村への巡回診療が開始された.
 やがて,予防活動に力を入れた計画的,定期的な集団検診が各地で展開されるようになり,1959年には八千穂村の全村健康管理に取り組むことになる.これは重症患者の減少や国保医療費の減少などに大きな成果をあげた.

地域社会と連携して広域圏における地域包括ケアシステムに取り組む三豊総合病院

著者: 今井正信

ページ範囲:P.1127 - P.1130

三豊総合病院の概要(図1)
 三豊総合病院(以下,当院と略.)のある豊浜町は四国の香川県高松市より50km,瀬戸大橋から30 kmの,愛媛・徳島と香川の3県の県境に接した所,瀬戸内海沿岸の燧灘に面した三豊平野にある.農・水産物の豊かな田園地帯で三豊地域保健医療園(二次保健医療園)は1市9町から成り,人口約14.5万である.
 当院は広域圏の基幹病院として発展してきた経緯もあり,1町の保健・医療・福祉をみるというよりも,各行政区の異なる1市9町の住民全体を中心としての保健・福祉を含めた医療事業を進めていかざるをえない立場にある.特に地域内の高度医療および救急医療を担当すると同時に,地域医師会と密接に連携して,各種の保健事業を進めることと,福祉面での事業も各行政と一緒に種々の試みを始めている.すなわち,地区医師会,行政および住民団体と連携を密にしない限り,包括ケアシステム化は困難な地域と言える.

[事例紹介]病院の予防活動

人間ドック—病院経営における人間ドックの位置づけ

著者: 岸口繁 ,   大野善市

ページ範囲:P.1148 - P.1149

人間ドックの開設と展開
 医療法人生長会は1955年11月に和泉市で府中病院を創設し,本年満40周年を迎える.“ゆきとどいた診療”“ゆきとどいた看護”“ゆきとどいたサービス”を院是とし,地域に密着した医療施設として運営してきた.1971年より病院経営の近代化にふみ出し,1977年府中病院本館竣工,1982年には法人多施設化にふみきりベルランド総合病院を堺市に開設した.4年後には総合病院となり,医療機器の整備と各診療科への専門医の大学よりの派遣を受けて,地域中核病院として病院経営を進めてきた.
 一方医学の進歩により我が国の疾病構造は一変し,成人病の増加により医療の質を大きく変化させ,予防医学の重要性が高まってきた.1954年聖路加病院で人間ドックが開始されてから,産業界・労働界団体の要望もあって急速にドック施設が増加し,1959年には人間ドック学会が,次いで総合健診医学会が発足し,健診の精度管理,人間ドックの問題点,検診の成果等が検討されてきている.

脳ドック—無症候性未破裂脳動脈瘤の診断と治療

著者: 佐藤昇樹

ページ範囲:P.1149 - P.1151

はじめに
 生来健康な人が,働き盛りの年齢で,突然死することは,本人はもちろんのこと,家族にとってもきわめて悲惨なことである.突然死の原因となる代表的な疾患の一つである脳動脈瘤を未破裂の状態で発見し,くも膜下出血を未然に防ぐことができれば,これは,理想的な治療法であり,第一線の救急医療に携わっている脳神経外科医にとってはつねに切望するところである.
 近年,画像診断装置,特にMR装置の発達に伴い,非侵襲的に脳の形態を把握することが可能となり,また造影剤を用いることなく脳血管を描出するMR angiography (MRA)の解像度も向上してきた.最近では,これらを利用して脳動脈瘤をはじめ,脳卒中,脳腫瘍,痴呆などの頭蓋内疾患を発病前に診断し,予防する試みが脳ドックとして全国に急速に拡がりつつある.しかし,脳ドックにより発見された脳動脈瘤が,いっ破裂するかを予想することは不可能であり,未破裂脳動脈瘤の長期追跡データが十分でない現状では,合併症の危険を冒してまで手術をするかどうかは社会的な重大関心事となってきている.

骨ドック

著者: 山門実

ページ範囲:P.1151 - P.1153

はじめに
 人間ドックの目的は,悪性腫瘍(癌)の早期発見とともに脳血管障害(脳梗塞,脳出血),心血管障害(狭心症,心筋梗塞)などの成人病の発症の予知,すなわちそれぞれの疾患の危険因子の同定にあるが,さらにはこれらの危険因子の管理,ことに生活習贋を改善させることにより成人病の発症を防止することにある.
 骨粗霧症は,加齢とともにその発産率は増加し,西歴2000年までにはその患者数は500万人以上になるものと推定されている(表1)1).そしてこの骨粗霧症は大腿骨頸部をはじめとする骨折により,脳血管障害とともに「寝たきり」となり,いわゆる国民の生活の質“Quality of life”を低下させ,時には生命予後にも影響を与える重要な成人病の一つである.したがってその早期の診断,あるいはスクリーニングは早期の治療にもつながることから社会的課題となっている.したがって「骨ドック」はこの社会的課題を解決する一手段と考えられる.

心臓血管ドック

著者: 武田隆久

ページ範囲:P.1153 - P.1155

心臓血管ドック
 康生会診療所の検診部門で実施している心臓血管ドックは,武田病院グループ(武田病院,医仁会武田総合病院)の循環器内科,心臓血管外科,神経内科,脳神経外科,高血圧科,糖尿病科での診療経験から考案された成人病の専門ドックです.
 この心臓血管ドックは,内科的に行う,脳・心臓・血管カテーテル検査および治療(コロナリーインターベーション・経皮的血管拡張術・経皮経管的人工血管移植術,経皮的脳動脈塞栓術),外科的に行う,脳・心臓・血管手術(CABG・大動脈瘤・血管内膜剥離・人工血管バイパス)の症例についての検査データに基づく,動脈硬化の評価を中心とした心血管系の精度の高い専門ドックです.

大腸精密検診—全大腸内視鏡検査

著者: 片倉重弘 ,   井本忠行

ページ範囲:P.1155 - P.1157

はじめに
 かつて言われたように日本人には胃がんが多く,直腸,大腸がんは少ないという時代は過去のものとなりつつある.高脂肪,高蛋白,低繊維な食事,つまり食生活の欧米化に伴って,近年,大腸がんの患者数は急激に増えつつある.このままの増加を続ければ,21世紀には新たに大腸がんにかかる患者数は8万人に達し,胃がんを追い抜くと予測されている.
 大腸がんの発生は20〜30歳台に比べて40歳台において急に増加し,さらに増加を続け60歳台において最多となる.つまり,社会において最も期待される“働き盛り”といわれる時期を襲うために,その早期発見とそれに続く治療は社会的な問題であり,大腸のドックを含む検診の在り方はわれわれの社会にとって重要な課題となってきている.

THPサービス機関として

著者: 萎沢利行 ,   結城真

ページ範囲:P.1157 - P.1158

THPへの取り組み
 1988年,労働安全衛生法が改正され,従来労働省と中央労働災害防止協会によつて進められてきた中高年齢者の健康づくり運動—SHP (シルバー・ヘルス・プロモーション・プラン)—を発展させ,すべての人を対象として,若い頃から継続的・計画的に心と身体の両面からトータルな健康づくりを進める運動—THP(トータル・ヘルス・プロモーション・プラン)がスタートされた.
 当時医療法人藤和会は,藤間病院において最新で高度な医療を提供し,地域に信頼される病院づくりを目指し,藤間病院総合健診システムを通して,疾病の早期発見,早期治療の二次予防に力を注いでいた.また,成人病予防,健康保持・増進を充実するために藤間健康・体力診断システムを開設し,施設・設備の充実を図っているときであった.

グラフ

着々と進む地域包括医療体制の整備—広島県・加計町国民健康保険病院

ページ範囲:P.1109 - P.1114

 広島市内のバスターミナルから高速バスで中国自動車道を約1時間,加計町の町境にある戸河内インターチェンジに到着する.
 加計町国保病院はここから車で約5分,加計町の中心部旧加計から約5kmの殿河内の集落にある.

第47回保健文化賞を受賞した 日本医療福祉建築協会会長 足利工業大学教授 伊藤誠氏

著者: 長澤泰

ページ範囲:P.1116 - P.1116

 病院や看護界で広く用いられている患者区分指標「看護度」は,先生の1960年代のご研究で提唱され普及したことをご存じの向きは如何ほどであろうか.このように先生は長年のご活躍を通して病院建築の発展のみならず,関連した各方面に多大の貢献をされてきた.
 1950年代に東京大学吉武研究室の大学院で先生は病院建築研究の中心的役割を果たされた.その後,千葉大学教授として研究や社会的活動を精力的に進められ,ご退官後,足利工業大学で教鞭を取られている.

主張

住民参加の地域医療を

著者:

ページ範囲:P.1117 - P.1117

 従来の医療は,ことに病院医療では医学を重視した診断と治療が中心であった.そこではしばしば医療は行われていないのではないかと椰楡されもした.サイエンスあってアートなしと.何をもってサイエンスとするかは別として,アートが欠如していたことだけは万人の認めるところとなっている.ただ急性疾患時代であったから許された行為であったとも言える.また医学・医術が余りに急速な発展を遂げたため,医学をするのに精一杯だったとも.
 しかし,今や医療供給体制は量的に満たされたとして,量的時代から質的に充実させることが時代の要請となってきている。しかも,高齢社会での慢性疾患の時代を迎え,QOL(Quality of Life)の向上を目指すことが医療の究極の目標とされている.

対談シリーズ 介護問題をめぐって・3

介護力強化病院からみた介護問題

著者: 坂梨俊彦 ,   日野頌三

ページ範囲:P.1159 - P.1166

介護力病院における介護の現状
 坂梨 私どもの阿蘇温泉病院は病床数200床で,現在,改築中で近々260床になる入院医療管理料Iの病院です.介護力強化病院全床ですが,阿蘇という地域性もあり,地域の救急医療も担っております.
 日野 私の病院は坂梨先生の病院のほぼ半分の規模で104床です.病院経営の安定を図る上でケアミックスが優れたシステムではないかと考え,そのはしりの時代にケアミックスにいたしました.

MSWの相談窓口から

地図にない街(地区)の病院その2

著者: 奥村晴彦

ページ範囲:P.1167 - P.1167

 大阪西成あいりん地区,地図にない街(地区)である.

連載 アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第14回

福井県民健康センター

著者: 安野哲武

ページ範囲:P.1168 - P.1171

はじめに
 本施設は県民の健康,生きがいづくりの拠点として計画された「ふくい健康の森」の中核を成す施設である.県民自らが積極的に参加,利用する施設として県民の心身の健康づくりと,体力づくりの指導育成の場として寄与するものである.

仙台市健康増進センターおよび泉保健所事務棟

著者: 渡辺宏

ページ範囲:P.1172 - P.1175

周辺状況
 建設地は,仙台市の北部副都市として発展の目ざましい泉区中央地区の一画で,仙台市の南北交通の要である地下鉄南北線の北の始点である泉中央駅から徒歩でおよそ5分の所にあります.近くには泉区役所をはじめ,イズミティ21(文化センター),イトーヨーカドー(大型ショッピングセンター),泉子供科学館+図書館,七北田公園等の都市施設が整備され,これらと一体となって地下鉄泉中央駅附近にはバスターミナル,大規模駐車場が整備されています.

厚生行政展望

加速する情報化

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.1176 - P.1177

はじめに
 この9月より,商用のパソコン通信ネットワークに「厚生省行政情報」が流れている(NIFTY-Serveの場合,>GO MHWBULでアクセスできる.).厚生省が発表する統計資料や記者発表資料などが,自宅のパソコンから自在にアクセスできるわけで,介護保険構想の動向などを詳しく追跡することができる.先の大震災の際に,厚生省は,情報提供のために初めて商用ネットワークの積極的な活用を行ったのだが,この経験によって,「商用」ネットワークを活用することへのタブー感覚が遠ざかったようである.今後も,一般に広くオープンされた商用ネットワークの活用は,積極的になされることであろう.
 医療面でも,今年度は,国立がんセンターのスーパーコンピューターと地方の中核的がんセンター(愛知県がんセンターと宮城県立がんセンター)とがネットワークで結ばれ,最先端の医療技術情報が地方でも利用できることとなっている.来年度予算の概算要求書では,さらにいくつかの地方がんセンターにネットワークが拡げられ,国立循環器病センターのスーパーコンピューターも地方の中核的循環器病センターとネットワーク化される予定である.従来,ナショナルセンターと他の医療機関との問に歴然とあった医療技術情報の落差が,地方の中核的医療機関と他の医療機関との間にも持ち込まれてくるわけで,情報化の動向にうかうかとしておれない情勢である.

医療技術革新の展望とこれからの医療政策—ヒト遺伝子研究の意味するもの

障害の受容,死の受容

著者: 広井良典

ページ範囲:P.1178 - P.1182

 本連載では,1年間にわたり,ヒト遺伝子研究のもつさまざまな意味について議論してきた.最後に,私たちがここまで遺伝子をめぐる多様な問題について述べてきたことの全体を受けとめていく場合の基本的な哲学について考えてみたい.
 すでにみたように,高齢化の急速な進展や慢性疾患への疾病構造の変化を背景として,現代の医療においては,看護や介護など「ケア」的な部分の比重や重要性がきわめて大きくなっており,これに関連する動きとして,過度の専門分化の見直し,在宅ケアの拡大,末期医療における緩和ケアといった方向が新しい形で追求されている.一方,医療技術そのものについては,メディカル・エレクトロニクスのさらなる展開や,近年における生命科学の飛躍的展開を基盤として,技術革新がさらに加速しているという状況がある.すなわち,こうして「ケアの比重の増大」と「医療技術のいっそうの高度化」という,一見異質なベクトルがく同時進行〉しているのが,現代の医療の特徴である.これは言い換えれば,先にふれた「生活モデル」と「医療モデル」それぞれの新しい展開と拮抗である.こうした状況の全体を,私たちはどのような視点で捉えていけばよいのだろうか.

訪問看護ステーション 実践レポート—北から南から

第三セクターによる「事業団」方式で全道展開をめざす—北海道総合在宅ケア事業団

著者: 山ノ内廣子

ページ範囲:P.1183 - P.1188

はじめに
 北海道は広大な地域に212市町村,570万人を擁するが,170万都市の札幌市(全道人口の30%が集中)が突出している以外は,人口2万台から1千規模までの市町村数が186で全体の約9割を占めている.
 老人の占める割合は道平均14%,これに比べいわゆる過疎地域では25〜32%と高く,高齢化率の地域格差も著しい.一方,北海道の老人保健福祉は病院や特別養護老人ホームなど施設ケアに大きく依存しており,従来から在宅ケアの立ち遅れが指摘されてきた.こうした中で,北海道では,行政的視野から訪問看護の役割に期待して,訪問看護ステーションを在宅ケアの基盤づくりの推進拠点とするために,全道各地に計画的に設置することとした.

病院の高齢化対策

病院歯科としての高齢者治療の在り方—訪問・在宅治療の問題点

著者: 山﨑正

ページ範囲:P.1189 - P.1191

はじめに
 数十年間いろいろな食物を咬み続けてきた歯は充分な手入れを怠るとしだいに抜け落ち,入れ歯を用いなければ食事ができなくなる日を迎えるのが何人も避けて通れない老いのプロセスです.しかし高齢者は歯の治療を望んでも各種全身疾患などのため介助者がいなくなければ通院が不能であったり,寝たきりで治療を受ける機会にめぐまれない場合もあります.
 歯科における受診患者は出生率の低下と相まって医科と同様に高齢者の割合が増えています.一方近年,歯磨きの重要性や歯周病に対する心得などの口腔衛生思想は歯ブラシや歯磨き粉のテレビ・コマーシャルとともに全国に浸透しており,患者の治療に対する意識も高く診療者側もそれに見合った治療を要求されています.

データ・ファイル

平成6年病院報告の概況

著者: 厚生省大臣官房統計情報部

ページ範囲:P.1192 - P.1196

 ●この概況は,全国の病院における平成6年(1994)(年間)の患者の利用状況および10月1日現在の従事者の状況をとりまとめたものである.

医学ごよみ

12月—December 師走

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1197 - P.1197

□2日 部分層植皮術の開発
 皮膚部分層植皮術(split thicknessskin-graft;STSG)のことを,開発者の一人であるチールシュ(Karl Thiersch,1822〜1895)にちなみ,われわれはチールシュ法植皮術という.しかし外国では,フランスの外科医オリエ(Léopold LE Ollier,1830〜1900)の功績も含めて,Ollier-Thiersch graftと呼んでいる.
 オリエはフランスのヴァン(Vans)に生まれた.彼の家は代々科学者の家系で4代続いた内科医であった.

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「病院」 第54巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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