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雑誌目次

雑誌文献

病院55巻8号

1996年08月発行

雑誌目次

特集 待ち時間解消はどこまでできるか

“待つ”“待たされる”の心理—病院の待ち時間に関する心理学的考察

著者: 松田文子

ページ範囲:P.726 - P.730

はじめに
 一様に流れる物理的時間に対して,心理的時間は縮んだり伸びたり,人により状況により複雑に変化する.日常生活の中でどういうときに,なかなか時間がたたないと,あるいは時間がとても長いと感じられるか,考えてみよう.「人を待っているとき」,「おもしろくもない講演を聞いているとき」,…….では逆に,どんなときに時間がアッという間に過ぎるか,あるいは時間が短く感じられるかを考えてみよう.「原稿の締め切りに追われているとき」,「飲み屋で同僚と話が盛り上がっているとき」…….
 こうしてみると,心理的時間は,早く過ぎ去ってほしいときにはかたつむりのようにノロノロ進み,ゆっくり進んでほしいときには矢のように飛んでいく,大変皮肉な性質の持ち主のようである.そうすると,病院の待ち時間というのは,実際の時間以上に心理的には長く感じられる宿命なのではないか.取り組む相手はなかなか手ごわい.

病院の待ちの実態—タイムスタディによる外来診療における待ち時間の分析

著者: 久保喜子

ページ範囲:P.731 - P.733

はじめに
 「3時間待って3分診療」.大病院の外来診療を表してよく聞かれる言葉である.実際,待ち時間の問題はどの病院にとっても大きな課題である1,2).国民医療総合対策本部の「中間報告」3)で,大学病院などにおける外来診療の在り方の見直しとして紹介外来制の検討が打ち出されて以降,今日,大学病院は高度の医療を提供する役割を担う特定機能病院として,周辺地域の医療機関からの紹介患者を受け入れる必要があり,また,紹介を受けた患者の満足と安心を高めるための配慮もなされなければならない4)
 しかし,一般的に大規模病院の外来は患者の大病院志向ということも手伝って,紹介状の有無にかかわらず非常に長い待ち時間を強いられているのが現状で,日本大学板橋病院でも現在改めて問題となっているところである.

「待ち」の総体的環境

著者: 山下哲郎

ページ範囲:P.734 - P.737

 医療の社会保障が進むにつれ,病院が広く多数の患者を限られた費用の中で診療を行うために,能率的経済的な運営を行う方策として,診療機能の中央化に向いたとき,吉武は,以前は各科の窓口を訪れれば,ひととおりの診療を受けることのできた患者は,この中央化によって,受付・診察・治療・放射線などの検査・会計・薬局などの窓口を転々と移動し,それぞれである時間を待つことになるのではないかとの危惧を述べている.つまり中央化による能率化は,患者を溜めて(待たせて)おいてさばくことによって可能になるからである,と1)
 この指摘は,今でも新鮮に受け止められるものであるが,本質的には,中央化に因を求めるのではなく,医療の高度化に伴って,診断に様々な検査が必要になったことが,患者を移動させ,またそれぞれの場所で待たせる結果を生んでいると考えたほうが良い.ここでは様々な「待ち」の様態を,患者・スタッフ・建築・システムといった総体的環境として捉え,与えられた「待ち時間の解消」をテーマとした議論に参加してみたい.

予約診療制度の活用

著者: 馬場富男

ページ範囲:P.738 - P.740

予約制度の目的
 予約制度に対する考え方は,病院によっていろいろである.それも外来患者数が多すぎる病院と,多くしたい病院との間の差であるように思われる.従来の外来をそのままにしておくと不定期的に患者のピークが起こり,それが病院全体の機能に悪影響を来してくることは明らかである.予約診療を行うと患者数が少なくなるというが,予約のやり方によっては患者数を多くすることも少なくすることも可能である.
 患者数を常に一定数以上確保することは,病院機能の面からみて当然である.良い診療を行うには,まず良い医師(診療陣が患者を引きつける魅力を十分に備えていること)と良い医療設備とが必要であるが,それに加えて患者1人当たりの診療時間を確保することが大切である.このためには計画的な診療時間の割り振りが必要となる.この診療時間が病状によって異なるのは当然で,一般に神経内科などの場合には長く,眼科,耳鼻科などの場合は短くする.しかし,一定時間を割り振った後でも,弾力的な時間の再配分があることを念頭に置く必要がある.この二つがうまくいけば,その病院の診療レベルを質的に維持し,向上させることが可能となる.そして,これが予約制度の最大の目的であり,終局的には患者に良質の医療を提供するという病院の使命に合致する.

当院の再診予約制

著者: 松尾宏一

ページ範囲:P.741 - P.743

はじめに
 病院にとって「適正な」外来患者数なるものが存在するのかどうか知らないが,以前から漠然と「ベッド数の倍」といったことがいわれてきているようである.
 当院のような地方都市の中規模病院でもここ数年,地域の高齢化や病院指向の影響か患者数の伸びが著しく,施設の規模や病床数をはるかに超える数の外来患者が押し寄せ,外来スペースの問題のみならず長い待ち時間が悩みの種であった.またかつては診察券の提出順で受け付けていたため,その順番確保に早朝や深夜から患者が並ぶ異常事態が起こることもあった.

待たせない手立てと患者の評判

自動支払機導入による患者待ち時間解消

著者: 楫野學而 ,   山下稔

ページ範囲:P.744 - P.746

掛川市立総合病院の概要
 掛川市立病院は,1959年4月掛川市宮脇366-1の地に病床数182床(一般88床,結核64床,伝染30床),診療科目4科(内科,外科,産婦人科,放射線科)にて誕生しました.
 1962年,眼科,整形外科開設と同時に名称変更で総合病院となり,1977年には病床数364床(一般304床,結核30床,伝染30床)の総合病院へと発展しましたが,施設の老朽化,敷地の制約により,高度医療に対応できなくなり,1984年72億円の事業費をかけ,現在の掛川市杉谷721の地に,14科,450床の設備を有する新病院として全面移転しました.

外来会計の自動引き落とし清算

著者: 冨田信也

ページ範囲:P.746 - P.748

自動引き落とし清算の目的
 当院では1983年から薬の待ち時間の短縮のためにも院外処方箋発行を行ってきた.患者は診察室で医師より手渡された処方箋を持って,調剤薬局に行けば直ぐに薬を処方してもらえる.しかし,その前に外来診療費の支払いを会計窓口で済まさなければならない.診療の待ち時間のほかに会計の待ち時間が長くかかる.これをなんとかできないものかとの発想で診療費の自動引き落としサービスが考案され,1985年7月より,病院では初めてといわれた外来における診療費の自動引き落とし「制度」が実施された.
 目的は外来の待ち時間を短くすることである.さらに,このサービスを受けると現金の持ち歩きが不必要であり,一つの銀行口座で家族の誰もが利用できるメリットもある.

患者にポケットベルを

著者: 大島聡彦

ページ範囲:P.748 - P.750

はじめに
 当大島病院は,1991年9月に静岡市下川原の大島医院より移転開設した.許可病床数90床,診療時間平日8時半より午後6時半,土曜日は午後3時,1日当たりの平均外来患者数は290名(1995年度実績),外来患者のうち老人通院比率は,平均30%程度である.当院では,胃腸科,外科,肛門科,放射線科の4科を標榜し,その他,糖尿,循環器,呼吸器外科の外来診療も行っている.

ダブルダブルトラック診療

著者: 高山瑩

ページ範囲:P.750 - P.752

はじめに
 ダブルトラック診療は診療用のベッドを2台以上使用し,待ち時間短縮に効率的な方法と思われるが,現実には特定の診療科を除いては必ずしも多くの医療機関で行われていないのは何らかの問題点があるのか.その対策を検討する.

待ち時間における予診の役割

著者: 青沼孝徳

ページ範囲:P.752 - P.754

はじめに
 当院は,医療,福祉,保健を包括的に扱うことを目的とした複合施設医療福祉センターの医療部門の核として1988年に開設された比較的新しい病院である.許可病床数は100床.仙台市の北50km,農業を中心とした町に位置している.
 開院時より予診システムを取り入れているので,予診により待ち時間の短縮がなされているかどうかの比較データはない.したがって現在当院で行われている予診システム導入の経過や実態を再考することによってその功罪を明らかにし,待ち時間短縮という面での予診の役割を述べたい.

オーダリングシステム—その導入はトータルでどれくらいの時間を効率的に短縮できたか

著者: 松波英一 ,   後藤誠一

ページ範囲:P.754 - P.755

 当院は,1988年に従来の病院の隣接地に437床の総合病院(診療科18)を増設新築した.旧病院は150床の老人保健施設と,19床の付属診療所に転換されたので計606床,従業員650人の規模であり,臨床研修指定病院である.
 旧病院では既に1981年より医事,会計のみのシステム化がなされていたが,新病院建設のコンセプトは,インテリジェントホスピタル化を最重点課題とした.しかし当時はまだ珍しく,まともに稼働している病院はほとんどなかったがあえてリスクに挑戦し,トータルオーダリングシステムを構築した.これにより患者を診察した医師自身や看護婦が,自分のID番号で自分の責任において端末に入力し,伝票レスが図られ,それにより得られた時間を患者サービスに充てることを徹底的に図った.結果として情報伝達の正確さと迅速化,薬剤管理の徹底,ドラッグインフォーメーション,処方オーダーの迅速化,医事レセプト,会計業務のリアルタイム化処理などにより患者さんの待ち時間は見事に短縮された.

表示・案内の工夫

著者: 西村昭男

ページ範囲:P.756 - P.759

はじめに
 わが国には,待ちの時間を楽しむという文化が存在するが,多くは未知への期待など価値創造の場面である.医療がサービス業の一つに数えられる以上は,病院における待ち時間も適切に短くなくてはならない.わが国の病院における外来診療の実態には,「3時間待って3分診療」というレッテルが悪評として貼られてきた.本特集が取り上げている「待ち時間解消」は,単に3時間を30分にすれば良いという課題ではないように受け止められる.ここでも,「原点から考え直す」という視点から,わが国の医療の在り方や制度など構造への改革的アプローチが求められているものと考える.逆説的に言えば,3時間以上待たされても顧客が十分に満足するような“価値ある3分間診療”があっても良いのである.しかし,一物一価の保険医療制度のもとでは“価値ある診療”に点数評価を期待することは難しい.
 ここでは,現実問題として,私どもの施設で,待ち時間にかかわる表示・案内をどのように考え,どのような工夫をしているかについて紹介する.

待ち時間解消対策の総合的成果

診療前受け付けの時間的分散に努力を傾注

著者: 船津武志 ,   中井洋一 ,   鈴木捷之

ページ範囲:P.760 - P.762

はじめに
 「3時間待って3分診療」と病院の外来は患者サービスの悪い代名詞のようにいわれて,すでにかなりの年月が経過している.規模の大きな公立病院などではコンピュータによるオーダリングシステムでの予約診療が実施され,長い待ち時間の解消に役立っているとの報告もある.しかし,中規模の民間病院では莫大な費用のかかるシステムの導入は当分不可能であり,待ち時間の短縮という問題も今までどおり人手をかけてのいろいろな工夫で対処するしか方法がない.

特定機能病院として定着すればさらに効果を発揮

著者: 今井壽正

ページ範囲:P.762 - P.765

はじめに
 順天堂の新本館(正確には順天堂大学医学部附属順天堂醫院新本館)は,1988年に創立150周年を迎えた順天堂の最大の記念事業として増改築されたもので,1993年10月より診療を開始しました.しかし,正面玄関のオープンが1995年8月,駐配車設備の完成が1996年4月であり,今まさに新装が完成したところです.順天堂醫院は,東京都心に位置する私立医科大学病院の本院であり,その規模は,現在の病床数が計1,020床で,1日の外来患者数が最近は4,000人に達します.
 「新しい皮袋には新しい酒を」の格言を実行すべく,順天堂醫院開設以来のモットーである“患者サービスを中心にする医やす院”の実現と発展に向けて,石井昌三理事長以下全スタッフが懸命の努力を続けています.

グラフ

10年の構想を実らせる—新装成った済生会宇都宮病院

ページ範囲:P.717 - P.722

□新築移転まで
 1942年5月30日済生会宇都宮診療所として産声を挙げた.戦災に遭い,仮病院に移ったりもした.1957年に総合病院となり,県救命救急センターを開設するなどし,544床まで展開してきたが,1967年までに建て増しされてきた建屋は,ビルに囲まれた太いL字型の敷地に密集しており,閉塞感,アメニティ不足,最新機器の導入スペースがないなど住民の期待する医療との差が生じてきていた.そこで地域に信頼される高レベル医療を提供すべく,現在の地での新病院の建設が日程に上った.基本コンセプトはわかりやすい全体構成,動線計画,患者の立場を配慮した外来診療部,きめ細かな看護と快適な療養・生活環境,総合医療情報システム等々であり,これらの実現までに10年の構想があった.
 1993年3月11日,県より644床の新病院開設の許可が下りた.

第35回全国自治体病院学会会長を務める 川口市立医療センター 原田充善院長

著者: 佐藤泰三 ,   八木保

ページ範囲:P.724 - P.724

 昭和60年春,川口市立医療センターの前身である川口市民病院の創立以来の院長であった古津博先生に後継者を誰にしたら良いかと相談を受けた.私はためらうことなく原田充善君を推薦した.患者の評判が良いこと,永瀬市長以下の市幹部や市会議員の信頼が厚いこと,医師会員との付き合いが良いこと,当時計画途上にあった新病院の建築を進めるのに適任であること,などの理由であった.かくして原田院長が誕生しはやくも11年を経過した.
 この間の彼の活躍は刮目に値する.

主張

医療における記録について

著者:

ページ範囲:P.725 - P.725

 医薬品に関する情報や入院治療計画を患者に文書で示すと診療報酬が支払われることになった.患者に対する十分な説明を行って医療を実施したことを評価するのであるという.医療の在るべき姿をこのような形で誘導することに違和感もあるが,ここで改めて医療における記録の在り方について考えておきたい.
 わが国の医療においては,医の理念や医師の専門的裁量を重視して,医療の内容に関する記録を客観性のある公式的な文書として整備することを,必ずしも十分に行ってこなかった.診療録には,高度に学術的な記載が行われる一方で,単なる備忘録の域を出ないものも少なくない.社会制度として医療を運営する場合にも,患者の人数や年齢,あるいはその割合などの数値を基準とせざるを得ず,一方でレセプト病名のように管理が必ずしも十分でない診断名が用いられている状況がある.本来ならば重症度やADLのような指標が活用されるべきであろう.

病院進化論・4

第三世代への進化

著者: 古川俊之

ページ範囲:P.766 - P.771

病院設計思想の進化の跡をたどる
 病院の設計思想の変遷は,幸い建物の現物か設計図からたどることができる.それは一口でいうと,受診者側のアメニティに対する配慮が重視されるようになったことと,前回に述べたスタッフの動線の短縮を目指したフロアプランになったことと,同時に建築資材の鉄骨スパンが長くなったことである.それを時代順に病院のフロアプランで追ってみよう.

厚生行政展望

医療保険改革のプログラム

著者: 厚生行政研究会

ページ範囲:P.772 - P.773

はじめに
 国会終了後の6月21日,医療保険制度の改革を検討している医療保険審議会が第二次報告書を発表した.11月ごろには最終報告がまとめられる予定であるが,内容は刺激的なものが多く,今後,議論を呼ぶことになる.発表された報告の背景と概要は図のようにまとめられている.議論されているキーワードを整理してみると以下のようになる.社会保障と国民経済の相互作用の中で租税負担と社会保障負担とを合わせた国民負担率(対国民所得)を50%未満にする必要がある.しかし,経済の低成長により保険料収入が減少し,医療保険財政が赤字構造に陥っており,保険料の引き上げは厳しい状況にある.そこで,医療提供体制の見直し(保険医定年制・定数制),患者負担の見直し(給付率,薬剤給付範囲),診療報酬体系の見直しなどを検討項目とする改革が必要である.今回は各項目の主なものについて議論を深めることとする.

連載 アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第21回

病院建築のライフスパン

著者: 筧淳夫

ページ範囲:P.774 - P.777

病院建築のライフスパン
 医療活動を支える器である病院の建物は,常に医療活動の「成長と変化」に対応するために,増・改築や改修がなされている.そのため,近年,病院の構造を耐震性能の面から見直しをしてはいるものの,建物の構造的寿命がくる前に既存の建物を壊し,新しく建物を建てることは非常に少ないといえよう.このように構造的な明確な理由ではなく,様々な要因によって病院建物の寿命が左右されるために,病院建築のライフスパンに関する明らかな資料はなく,経験的に30年程度をひとつの目安としてきた.
 わが国の病院は今日,その数が9,731(1994年10月1日,医療施設調査),病床数168万(同)となり,欧米先進諸国と比較して量的には比肩するようになった.これからは量から質の整備が課題であるといわれて久しく,国も医療施設近代化施設整備事業を発足させ,補助金による援助を開始した.一方,医療計画が定着し,病床数は地域の状況により定められている.このような現況の中で今後病院建築の需要がどの程度あるのかは,医療界や建築界にとって大いに関心のあるところである.

病院経営の新しい指標

新指標を創造する経営手法

著者: 石塚隆男

ページ範囲:P.778 - P.780

はじめに
 「病院経営の新しい指標」をテーマに,本誌で過去数回にわたり既に病院・医療管理を専門とする研究者から新たな指標の提案も含めて詳細で体系的な整理が行われている.病院経営上,優れた指標であるためには満たすべきいくつかの規準があるように思われるが,そのひとつとしてその指標を算出あるいは把握するためのデータを容易に恒常的に生み出すシステムあるいは仕組みが病院の諸業務の中に組み込まれていることが必要であろう.同時に,指標をどう読み,どのように活かすかが重要である.病院機能評価の場合でいえば,該当しなかった項目(what)について,「なぜ,当院では達成できていないのだろう?」(why)とともに,「どのようにすれば達成できるのだろう?」(how)という問いかけがなされなければならない.
 本稿では,このような観点から病院経営において新しい指標を創造する経営手法についていくつか紹介し,考察する.

精神保健福祉法と病院の対応・5

地域精神医療と地域ケア

著者: 渡嘉敷暁

ページ範囲:P.781 - P.785

はじめに
 与えられたテーマは地域精神医療であるが,精神障害者の場合,医療と生活することとは他の疾患の場合よりもはるかに密接に関連している.換言すると,他の疾患の場合には,生活すること自体は患者あるいはその家族に委ねられている部分が多い.
 疾患の治療としては必ずしも入院を必要としないが,地域で生活することが現状では困難なために入院を余儀なくされている,いわゆる社会的入院が,13〜33%といわれている1〜3).ということは,外来医療を成り立たせる一つの条件として,地域におけるケアが前提であることを意味しているので表題のようにした.

レポート

公立病院グループの再編

著者: 草苅典美

ページ範囲:P.786 - P.790

はじめに
 地域医療は今,大きな転換期を迎えている.慢性的な医師不足,病院経営の悪化,市町村財政の硬直化,住民の医療内容の高度化,アメニティの確保に対する要請,急速に進展する人口の高齢化への対応など過疎地域を抱え,中小の自治体病院が地域医療の主体を担っている地域ほど厳しい現実が顕在化している.
 このような自治体病院の経営をめぐる閉塞的な状況から脱却し,住民が求める高度・専門医療を提供するため,今,山形県置賜(おきたま)地域で三っの自治体病院の再編整備に取り組んでいる.

研究と報告

病院の色彩環境に関する調査

著者: 半田晃子 ,   中山栄純 ,   佐藤千史

ページ範囲:P.791 - P.793

 患者をとりまく環境要因の一つである色彩環境に注目し,病院で実際にどのような色彩が使われているのか,積極的な色彩利用が行われているのか,を調べるために東京都23区内の総合病院(89病院)を対象に実態調査を行った.さらにそれらの色彩はどのような決め方がされているのかを調べるために,全国の総合病院から無作為に抽出した109病院の病院長を対象としてアンケート調査を行った.
 基調色については,外来および病室ではベージュが,リネン類では白が多く使用されており,病院の色彩は,ベージュを主とした「白っぽい色」を基調として構成されていた.しかし,病棟ごとに基調色を分けるなどの色彩利用を行っている病院は少なかった.また,アンケート調査で,「患者の意向を取り入れて色彩を決めている」という回答は0%であった.一方,「どのように決められているのかわからない」という回答が21.7%あった.

癒しの環境

歩きたくなる廊下

著者: 横山睦子

ページ範囲:P.794 - P.795

はじめに
 病院内には,いたる所に廊下がある.廊下は,「移動のための通路」,「外来・検査の待合い場所」,「部屋と部屋の仕切り」としての役割を持っている.廊下を利用する人は,患者,家族,医療者,業者など様々で,年齢も異なる.また,歩いている人,松葉杖の人,車いすの人,ストレッチャーの人が行きかい,元気な人もいれば,不安や痛みを持っている人もいる.廊下は,人と人との出会いの場でもある.
 入院している患者にとって,廊下は,医療環境,治療環境である.また,さらには,病室という限られた空間の中から抜け出した大切な生活環境,生理的環境にもなりうる.

訪問看護ステーション 実践レポート—北から南から

継続サービスの実施に,待ちの医療福祉から出てゆく医療福祉に—訪問看護ステーションおおはら

著者: 児玉博行

ページ範囲:P.796 - P.801

概要
 医療法人行陵会は,京都市の洛北大原にあり(鞍馬口診療所を除く),市街からのアクセスは必ずしも良くない.しかしこの地域には,三千院や寂光院という歴史的に有名なお寺があり,平安のロマンが草木の一本一本にまで漂っているような,そんな文化の薫りがする地域でもある.春の桜,初夏から夏の新緑,秋の紅葉,冬の寒いながらも暖かい病室から見る冬景色はまた一味違って格別なものがあり,おのずと自然の大きなアメニティが備わっているといえよう.
 表1に示すように医療法人行陵会は,1981年に74床の内科病院として大原記念病院が開設された時に端を発する.筆者の専門は外科(一般外科)という事情もあり,1983年には手術室・中材部門の増設も含め病床も203床と増床した(駆け込み増床ではありません).この地域の人口は3,000人弱と少なく,市街からのアクセスもあまり良くない.当然のこととして外来患者は少ない.そして高齢者の入院患者が多いという傾向が1985年くらいから顕著になってきた.

病院管理フォーラム

[病院図書室]これからの病院図書室

著者: 奈良岡功 ,   野原千鶴

ページ範囲:P.802 - P.805

はじめに
 病院図書室の歴史を振り返ると,1960年代はまだ病院における図書室は十分に設置されておらず,設置されていてもその機能は不十分なものであった.しかも,医局図書室が中心でコメディカルが使用しにくいものであり,さらには担当者も医局の秘書と図書室の管理・運用を兼務するといった具合で,病院管理者の図書室に対する認識も低く,整備に力を入れているところは数えるほどしかなかった.また,当時は,担当者の資質も一部の担当者を除いてはあまり高いとは言い難く,その上,個々の図書室は他の病院図書室との連携体制もないまま「点」として業務を行っており,コンソーシアム(研究会・協議会=ネットワーク)も存在してはいなかった.
 1970年代に入ると,まず近畿地区に病院図書室のネットワーク化(近畿病院図書室協議会)が1974年にスタートし,これに遅れること1年4か月後の関東地区にもネットワーク(病院図書室研究会)が誕生した.現在のこの二つのネットワークは,前者は機関単位の会員制で近畿地区外からの会員も擁し,後者は個人単位の会員制で全国(海外にも会員がいる)に会員を擁するに至っている.

[薬剤師の新たな業務]TDM業務

著者: 木村利美 ,   島田慈彦

ページ範囲:P.806 - P.808

はじめに
 TDM(therapeutic drug monitor-ing)とは薬物治療モニタリングと訳され,患者に使用される薬物の副作用を最小限に止め,より効果的な治療が行えるように薬物治療に関する様々な因子(血中濃度,臨床検査データ,臨床症状など)をモニタリングすることである.多くの場合,血中濃度をモニタリングすることを指すことから薬物血中濃度モニタリングと解釈される場合もある.ここでは後者の薬物血中濃度を測定しモニタリングを行う場合を扱い説明する.

医学ごよみ

8月—August 葉月

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.809 - P.809

□7日 血圧計発明者
 ちょうど100年前の1896年に水銀血圧計を発明したイタリアのリヴァロッチ(Scipione Riva-Roci,1863〜1937)が,生まれた日である.
 彼は1886年にチューリン(Turin)大学医学部を卒業したのち,フォルラニーニ(Cario For-lanini)が主宰していたチューリン病院の助講師(assistant lecturer)に任命され,次いで1894年に病理学の講師になった.その後(1896年),彼はあの有名な血圧計を開発した.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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