icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院56巻6号

1997年06月発行

雑誌目次

特集 医療関連ビジネスの展開

規制緩和と医療関連ビジネス

著者: 矢野聡

ページ範囲:P.498 - P.502

規制緩和の軸について
 高度成長期を支えたわが国の社会経済の枠組みが,いま根本から問い直されようとしている.バブルの崩壊,リセッション,金融ビッグバン,公的部門の有する問題の露呈等々.これらは現代日本がわれわれに課した社会経済上の課題であり,われわれはこれらの課題に誠実に対応し,一つ一つに解決法を見いだしながら乗り切っていかなければならない.新たな産業システムに対するミスマッチと思われる基本的要因はできるだけ早期に徹底的に除去し,それらに順応した仕組みと社会的意識を育成する必要がある.
 医療介護福祉サービスの分野においても,このことは全く例外ではない.基本的なラインはこれらの動向に軌を一にしているといってよい.しかし,医療介護福祉に関する法律や制度などのあらゆる形での社会ルールが,これらの方向に進んでいないという状況は,衆目の一致するところである.むしろ,自然科学の分野で医学や薬学そして医療関連の技術が切り開いている未来へのビジョンと改革実現へのエネルギーに比べれば,同分野のイノベーションへの努力は,「目をおおう」ほどに悲惨である,と表現するのが妥当かも知れない(注1).

市場としての医療

著者: 阿部哲夫

ページ範囲:P.503 - P.507

はじめに
 平成8年版(1996年)の厚生白書によれば,国民医療費は次のように解説されている.
 ①国民医療費は,1993年実績で24.3兆円,1995年推定で26.7兆円と報告されている.これは日本の代表的産業と考えられる自動車産業の1993年生産額の42兆円および同・小売額の18兆円に匹敵するもので,医療は今や日本有数の主要産業である(図1).

医療関連サービスの動向

著者: 小原敏秀

ページ範囲:P.508 - P.511

 医療機関が行う業務には,様々な業務があり,そのすべての業務を医療機関自ら行わなければならないわけではなく,医療そのもの以外の業務,例えば寝具類の洗濯や患者に提供される食事や血液検査,尿検査などの検体検査のように業務委託によって医療関連サービスが提供されているものが少なくありません.
 1992年7月1日に公布された改正医療法は,医療を取り巻く環境の変化に対応するための医療供給体制改革の第一歩と位置付けられていますが,その15条の2には,業務を外部に委託する際には,「厚生省令で定める基準に適合するものに委託しなければならない.」ことが新たに規定されております.これは医療機関が一定の業務を外部に委託する場合の基準が示されたものです.

〔座談会〕改革期の病院と医療関連ビジネスヘの期待

著者: 早川大府 ,   竹川節男 ,   池田茂 ,   大道久

ページ範囲:P.512 - P.519

 大道 現在制度面では医療保険改革が,また,医療の提供体制についても医療法の改正法案が既に出され,数年来の重要懸案であった介護保険制度法案も国会に上程と,ここ1,2年の医療をめぐる動きは大変急です.そこで本日は「改革期の病院と医療関連ビジネスへの期待」と題し,新局面をとらえた医療関連ビジネスへの思いを語っていただきます.その際,古典的な製薬産業との関係まで拡散させず医療関連ビジネスに限らせていただきます.
 最初に早川先生,お願いします.

各分野の市場性をみる

院外給食,今なぜセントラルキッチンなのか

著者: 廣江研

ページ範囲:P.520 - P.522

はじめに
 私自身30年間の医療現場体験より,給食の質の向上と在宅のお年寄りや疾病を持つがゆえに食事制限をしなければならない人たちへの配食サービスの可能性について関心を持っていましたが,1989年アメリカの病院を訪れた際みたバラエティに富んだメニューと大量調理を目にして,このときより院外調理による安くておいしい食事づくりをしたいという夢を持ちはじめました.1996年4月に病院給食の院外調理が認められるという情報を得て1995年秋より本格的に実施すべく準備作業にとりかかりました.

変革期を迎える受託臨床検査業界

著者: 白鳥武

ページ範囲:P.523 - P.526

医療機関への集団的個別指導の影響で“検査抑制”進む
 1995年度の受託臨床検査市場は前年度の落ち込み(業界始まって以来のマイナス成長)からはやや回復傾向にあるが,引き続き1996年4月の診療報酬改定により保険点数の包括化(マルメ)強化,あるいは老人の外来診療にも包括化(定額制)を導入するなど,臨床検査医療費の抑制策がより強められている.
 厚生省「社会医療診療行為別調査報告」(1994年6月審査分),および国民医療費(1994年度実績)の推計によれば,臨床検査(検体検査)医療費は1兆7,151億円(実施料と判断料の合計:弊社推定による),前年比8.0%増となり,約7年前の1987年度(9.1%増)以来の比較的高い伸びを示している(表1).

医療機器の保守点検

著者: 百村明徳

ページ範囲:P.527 - P.528

はじめに
 昨今の医療を取り巻く環境が非常に厳しいことは周知のことであり,その解決策の検討は,以前より各方面で行われてきた.さらに,環境保護の立場から,いわゆる「エコロジー」の動向が次第にその重きを加えている.また,別の視点では,医療技術の進展は,医療の幅を広げ,例えば救命率の向上や,侵襲性の低い医療による患者のQOLの向上など,医療の実態の変化が少しずつ発生しているところである.一方,このような環境のなかで,医療機器の果たしてきた役割は,決して小さなものではなかったと思われる.
 当日本医用機器工業会は,この医療機器を製造もしくは輸入している企業131の団体であり,主として治療用機器などを取り扱っている.

物品管理の現状と動向

著者: 川口弘之

ページ範囲:P.529 - P.531

はじめに
 今日,物品管理システムが着目されている背景には以下の事由が考えられる.
 1)国民医療費の高騰による政府の医療費抑制策の影響による医業収益の伸び悩みがある.

医業経営コンサルタント

著者: 松田紘一郎

ページ範囲:P.532 - P.534

はじめに
 病医院,社会福祉施設およびその周辺での医療関連ビジネス(以下「病医院など」という)を対象とする経営コンサルタントの業務範囲は,その対象の多様性・職種の多様性などから複雑多岐なものとなっている.
 実施主体となる経営コンサルタントも,その出身職種による得意分野の違いなどにより様々な分野を,個々に実施している現況にあり,それらを区分整理することはなかなか困難である.

医療事務代行

著者: 麻生玲子

ページ範囲:P.534 - P.536

医療機関を取り巻く現状
 医療機関を取り巻く環境は日増しに厳しい.保険財政の窮迫を受けて,様々な問題が提起されながらも先送りとなっていた事柄が,1997年度の診療報酬の改定では急ピッチで浮上し,そして網羅されてきている.まさに待ったなしの変化である.
 しかし,今も昔も,また現体制では将来も変わることのないのが,医療機関の収入のほとんどは保険収入であるという事実である.そして,この重要な役割を担うのが診療報酬請求業務(いわゆるレセプト業務)である.

グラフ

療養環境の改善を柱に新築精神医療の向上に向けて整備 財団法人創精会松山記念病院

ページ範囲:P.489 - P.494

 次の世紀に向けて精神科医療の大きな転換の動きが始まっている.
 松山記念病院は本年3月,新病院へ移転,21世紀に向けて新たな歩みを始めた.

第8回全国老人保健施設大会会長 社会福祉法人晴山会 平山登志夫理事長

著者: 紀伊國献三 ,   八木保

ページ範囲:P.496 - P.496

 何よりも実行の人である.平山先生とは1957年(昭和32),先生が聖路加国際病院の新進の外科医としてご勤務のころに知り合ってから,40年近いご交誼をいただいている.
 先生の叔父様は出身校日本医科大学の同窓会長も務められ,日本医師会常任理事,全日本病院協会会長を歴任された菊地真一郎先生であり,だれもが菊地病院の後継者ではないかと噂していた.

主張

責任ある個人

著者:

ページ範囲:P.497 - P.497

 わが国では今日,社会に広く閉塞感が広がり,それを打破すべく社会保障を含め6つの分野で構造改革が進められようとしている.現在生きているわれわれの視野の範囲にある今後の約30年間,豊かさを実感できる社会を形作っていくためには,まさにわれわれ自身の知恵と努力が求められる.
 制度,政策を論じるときには現在と未来,そして国内と国際的課題とを別々に考え,その連携を図ることが必要である.医療を含めた社会保障制度を議論するときにも同じであり,30年後にどのような社会を想定するかによって,それに向かって今日からどう準備していくかが異なってくる.それが未来からの投影であり,将来の社会に現在の人々が責任を持つことでもある.特に社会保障は,個人の自由によって選択されることと同じ次元で社会全体の秩序を維持することもたいせつである.現在のように若い世代に長期的負担を強いながら主に高齢者の人たちが給付を受けるという仕組みは,将来の社会に与える影響が極めて大きいと考えられる.したがって,手後れにならないうちに従来の制度の延長でなく,新しい制度への大きな変革が求められることになる.

連載 病院主導の保健・医療・福祉複合体の実証的研究・8

第3報 その3 病院・老人保健施設・特別養護老人ホームを開設しているグループの全国調査

著者: 二木立

ページ範囲:P.537 - P.543

〔前項より続く〕
 4.3種類の施設の平均開設年と開設順
 次に,「3点セット」を構成する各施設の平均開設年と開設順を検討する.どの施設でも,複数施設開設グループでは,最初に開設された施設の開設年を用いる.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第32回 老人保健施設3題

ゆさか

著者: 冨田恒雄

ページ範囲:P.566 - P.568

はじめに
 老人保健施設『ゆさか』は広島県の湯坂温泉に隣接し,北側を流れる賀茂川は春は桜が咲き,夏には蛍が美しい光を見せるという恵まれた環境に立つ定員80名の老人保健施設である.
 発注者は竹原市内で産婦人科医院を開設する医療法人で,医院での医療に加え,老人保健施設により高齢者医療,介護を行い女性を中心にトータルな地域保健医療を提供するという主旨のもとに建設された.同時に将来の施設競合に耐え,利用者に選ばれる施設造りをしたいとの理念を提示された.

ジェロントピア菊華

著者: 加瀬幸次

ページ範囲:P.569 - P.571

高齢者の豊かな生活と自立を願って
 江戸川を望む区東部地域ゾーンを担う診療所に併設された老人保健施設である(写真1).自立と社会復帰を目指す中間施設としての老人保健施設が医療体制整備の一翼となり,また,高齢者支援に対応できるものと期待して設置された.

みあ・かーさ

著者: 辻野純徳

ページ範囲:P.572 - P.574

 老人保健施設みあ・かーさの属する財団法人浅香山病院は,大和川を境に大阪市南部に接する堺市の北端,南海電鉄高野線浅香山駅南500mの交通至便な地で,1922年単科精神病院として創設された.以来,地域住民の一般診療と在院患者の合併症治療のための一般科を併設,現在は一般260床と精神1,043床を擁する.合併症と精神分裂症の治療では大阪府全域の中核病院となっている.一方,デイケアサロンや老人性痴呆疾患センターなども設置し,日常的環境の中で患者の生活の質を向上させ再発を防ぐ,地域に密着した福祉的働きも担ってきた.これらの働きをより円滑に進め,充実させるため,痴呆専門棟46床,痴呆性老人加算承認施設15床を含む100床の老人保健施設に,デイケア(30名),在宅介護支援センター,事業所内保育所(30名)を加えた複合施設が計画された.

インタビュー

医療におけるノーマライゼーション—畑田和男 医療法人恵愛会大分中村病院長に聞く

著者: 編集部

ページ範囲:P.544 - P.548

 ▼まず,畑田先生の現在の肩書をご紹介ください.医療法人恵愛会大分中村病院の院長,社会福祉法人「太陽の家」の理事長を務められていますが,そのほかにどのようなお仕事をされているのでしょうか.
 畑田 一つは身体障害者のあらゆるスポーツに関するセンター的役割を果たしている日本身体障害者スポーツ協会の理事です.この協会の主な事業はパラリンピックへの選手の派遣や身体障害者国民体育大会の主催や参加選手の資格審査,身体障害者スポーツ指導者の育成,また,陸上競技や水泳,卓球などのジャパンパラリンピックの開催などです.

早期退院計画・1

平均在院日数短縮と病院経営

著者: 余語弘

ページ範囲:P.549 - P.553

はじめに
 平均在院日数の短縮は,すなわち新入院患者数の増加であり,病床回転率の向上である.これは病院のアクテビティを高め1床当たりの手術件数や検査件数を増加させる.高機能病院では特に在院日数の短縮は必要なことで,これは優秀な医療スタッフや高度医療機器をできるだけ多くの患者に利用してもらうことになる.単純に比較すると,平均在院日数1週間の病院と1か月の病院とでは1床当たりの手術件数,検査件数は4:1となるといわれる.
 こうしたことからみると,在院日数の短縮は1人1日当たりの入院収入を増すことになり,病院経営上極めて重要なこととなる.

病院管理フォーラム 広がる病院患者用図書館・3

病院患者図書館の効果と問題点

著者: 菊池佑

ページ範囲:P.554 - P.555

 前号では病院患者図書館の運営方法やサービスについて紹介したが,本号では医療機関が実際にこのサービス導入に当たりその効果と問題点などについて述べることにする.

診療情報管理はいま

大阪府立病院における診療録(情報)管理の状況

著者: 大津淑子

ページ範囲:P.556 - P.558

はじめに
 毎日の新聞紙上に,あるいは放送で,インターネットという単語を見たり,聞いたりしない日はないくらいに現在は情報がキーワードの社会である.診療録管理や診療情報管理に対する基本的な考えは,田原孝先生の言葉1)を借りれば「医療の基本は情報であり,それは診療録に集約される.診療録は実践している医療の内容,質,職員の意識を直接反映する鏡であるとともに,学術性の確保,医療評価,医療経営の戦略策定,医療資源の有効活用などに関する基本データを含む“医療の情報資源”である.したがって,診療録管理を柱とする診療情報の活用こそ医療の基盤整備であり,医療の質の改善に直接つながる」というものである.
 第二次世界大戦争後間もなく(1951年)日本占領軍(GHQ)の指導のもとに,国立東京第一病院で実践された近代的診療録管理は,物としての管理(ライブラリーとしての価値)から46年経って以上のように診療情報管理に変身しようとしているのである.そこで現在の診療録管理の現状を,特別に進んでもいない,むしろいろいろな問題を抱えながら活動している当院を通じて紹介していきたい.

米国からのレポート

医療の質の向上/ヘルスケア・リスク・マネージメント—薬剤による医療事故とその予防・1

著者: 中島和江

ページ範囲:P.559 - P.563

 1995年,癌治療施設として世界的に有名なボストンのダナファーバー癌研究所で,乳癌の治療中であった39歳と52歳の2人の女性患者が,抗癌剤(サイクロフォスファミド)の過量投与ののちに,1人が死亡し,もう1人は不可逆的な心筋障害を被った.シカゴ大学病院では,睾丸腫瘍の治療中であった41歳の男性が,抗癌剤(シスプラチン)の過量投与ののちに死亡した.ボストンのチルドレン病院では,てんかんの治療を受けていた5歳の少年が抗けいれん薬の代わりに誤って抗癌剤を投与されたが,幸いにして大事には至らなかった1).これらの医療事故は,米国のマスコミによって大々的に取り上げられ,関係した病院や医師らは多くの非難を浴びた.確かにこれらはとんでもないエラーであるが,これらのエラーは皆,できの悪い医師たちが起こしたのであろうか.医師のおかしたたった一つのエラーが,このような医療事故につながったのであろうか.
 スリーマイル島原子力発電所やスペースシャトル「チャレンジャー」の事故調査は,次のような点を明らかにした.

保健・医療・福祉政策ウォッチング

O157が投げかける情報公開の課題

著者: 病院問題研究会

ページ範囲:P.564 - P.565

 O157による食中毒の流行が懸念されている.今年も全国各地からの報告が増加している.3月23日には横浜市で6歳の保育園児がO157で死亡し,4月4日には愛知県でカイワレ大根からO157が検出された.
 昨年,厚生省は堺市における学童集団下痢症の原因食材は特定の生産施設から特定の日に出荷されたカイワレ大根が最も可能性が高いと公表した.不完全な情報でも,一般国民に公開するという姿勢は薬害エイズ問題を教訓にしたものであるが,厚生省は情報公開の方法に慣れていなかったため,マスコミはすべてのカイワレ大根にO157が付着しているのではないかと思ってしまった.厚生省はどの情報をどの程度公開してよいかわからないため不確定な情報まで公表するようになってしまった.

医学ごよみ

6月—Jun 水無月

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.575 - P.575

□2日 最初の卵巣嚢腫摘出術
 この日は米国南部ヴァージニア州生まれのマックドゥエル(Ephraim McDowell, 1771〜1831)が,1809年に世界最初に行った卵巣摘出術のことを,20年後に彼の教えた医学生宛の手紙に書いた日付である.
 マックドゥエルは米国ヴァージニア州の医師ハンフリー(Alexander Humphrey)に医学教育を受け,1793年から1794年にかけて英国に留学して,エジンバラ大学で医学を学んだ.さらに同時に医学を個人に教授することで英国では著名であったベル(John Bell)の下で,解剖学と外科学を学び,1795年に帰国した.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?