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雑誌目次

雑誌文献

病院57巻6号

1998年06月発行

雑誌目次

特集 医療の標準化を考える

〔てい談〕医療の標準化とは何か

著者: 上林茂暢 ,   福井次矢 ,   広井良典

ページ範囲:P.498 - P.507

医療標準化の背景
 広井 本日は「医療の標準化」について考えていただくのですが,医療の標準化を考える場合に,医療の質という観点と経済あるいは効率性という二つの観点がありそうです.
 前者は,まさに医療の質自体が問われている時代であるからです.それは単に医療提供者にとっての問題のみならず,医療の受け手である国民の側からも関心が高まっていると思います.現在の日本の医療は非常にばらつきが大きいし,標準化がなされておらず,きちんとした評価がないままに行われているのではないかといった課題です.

医療の質と標準化をめぐって—その背景と根拠

著者: 久繁哲徳

ページ範囲:P.508 - P.513

医療費抑制から医療の質の改善へ
 医療費高騰を主要な契機として,先進諸国の保健医療システムは大きな転換点を迎え,「保健医療改革」(healthcare reform)が,それぞれの国で進められている1,2).わが国も例外ではなく,医療保険制度の構造改革が検討されている.
 こうした保健医療改革は,国全体の財政的対策などのマクロ管理が底をついた後,ミクロ管理へと政策転換が行われ始めた.その中心となるのが,競争原理を導入する「構造改革」(structural reform)であり,医療提供者,医療費支払者,消費者に効率的な保健医療選択の動機付けを行うところに焦点がある3)

医療の情報化と医療の標準化

著者: 里村洋一

ページ範囲:P.514 - P.518

医療の質を高めるために
 医療の標準化は健康保険や公費負担医療の限られた経費のもとで,いかに医療の質を確保するかという命題への,解答の一つである.自由経済のもとでは,経費とその成果の評価は個人の判断に委ねられるから,原則的には標準とするものを必要としないはずである.しかしながら,生命や苦痛が極めて計量しがたいものであるがために,社会として医療を完全に自由経済に任せるのは危険であると考えられてきた.
 この半世紀の先進自由主義国における医療が,国によって差はあるものの,一般的にかなり厳しい価格統制のもとに置かれており,社会主義国と大差のない制度を維持しているのはこのためである.

医療機能評価と医療の標準化

著者: 中野夕香里

ページ範囲:P.519 - P.522

 1995年夏に第三者評価組織として設立された財団法人日本医療機能評価機構では,設立より約1年半の運用調査(Feasibility Study)を行い,病院機能評価の方法論と評価を事業として成り立たせるための条件や組織のあり方などについて検討を行ってきた.そして,運用調査の結果を踏まえた本事業が1997年度より開始され,既に2年目を迎えている.
 機能評価では,病院の役割に応じた「あるべき状態」をあらかじめ設定し,それに対する個々の病院の状況を評価する.「あるべき状態」に至っていない場合に,そこへ向かっての改善活動を支援するシステムである点においては,医療機能評価事業もある種の「標準化」活動であるといえよう.

TQMと医療の標準化—「先端の技術」から「確実な医療」へ

著者: 上原鳴夫

ページ範囲:P.523 - P.527

病院標準化—体制評価からTQMへ
 今世紀の初めにマサチューセッツ総合病院の外科医コッドマン(Cod-man)が「病院にとって効率とは何か」と問いかけてから90年近い年月が経った.コッドマンが「病院の産物」や「病院の標準化」という考えを着想したとき,彼は当時の産業界から多くを学んだといわれている.
 コッドマンは,医療には失敗(error)がつきものであり,失敗の原因には,医師の診断の間違いや,技術の不足,機材などの医療体制の不備,患者の判断の間違い,医学の限界,不測の事態など様々な要因があり,失敗事例を分類し分析することを通じて医療の質の向上を図ることを提唱するとともに,医療の質を確保するためには病院の標準化を進めなければならないと訴えた.彼はまた,診療記録を充実させることや患者がよい医療を選べるよう病院が情報を提供すること(informed buy)が重要であることも既にこのときに指摘している.

レセプト情報と医療の標準化

著者: 滝口進

ページ範囲:P.528 - P.533

 われわれは,1989年以来,健康保険組合のコンサルタントとして,専門的な立場から様々な問題に対処してきているが,殊に診療報酬請求明細書(以下,レセプト)の内容に関する意見を求められることが多く,現在ではこのレセプトの点検・審査がわれわれの主要な業務の一つとなりつつある.
 そもそも健康保険組合は,保険者としてこのレセプトの点検審査を法律によって義務づけられている.健康保険法第43条の91)では「保険者ハ—中略—之ヲ審査シタル上支払フモノトス」とあり,さらに「前項ノ規定ニ依ル審査及支払ニ関スル事務ヲ社会保険診療支払基金ニ委託スルコトヲ得,」となっている.これを受けて昭和23年8月5日の保発第29号で,厚生省社会局保険局長から各健康保険組合理事長あての通牒で,審査支払は支払基金とすること,支払基金との契約は健康保険組合連合会が行い,個々の組合は不要であることを指示している.これに基づいて現在は,レセプトの審査に関する権限は事実上支払基金にあり,請求側・支払側および学識者の三者で構成された審査委員会で毎月審査が行われている.

グラフ

リエンジニアリングの展開と患者本位の診療体制づくり—特定医療法人財団菫仙会恵寿総合病院

ページ範囲:P.489 - P.494

 かつて北前船の寄港地として賑わっていた七尾港は海の交易により情報の受発信基地として栄えたが,いま,地域の活性化のために様々なイベントがもたれている.
 このような街の医療を担う医療機関として,医業経営の新しいあり方を能登半島から発信しているのが恵寿総合病院である.

第39回日本人間ドック学会会長を務める 足利赤十字病院 奈良昌治院長

著者: 後藤文男 ,   八木保

ページ範囲:P.496 - P.496

 足利赤十字病院院長奈良昌治博士は学校秀才型でない秀才である.彼の行動のすべては既成の概念にとらわれない創造的発想に基づいている.その資質は研究者として遺憾なく発揮され,米国留学中に自動的色素注入器を発明し,慶應神経内科時代には,定量的な筋力計の作製や言語能力を定量的に評価できる斬新なシステムを完成するなど,その研究は他の追随を許さない独創性にあふれている.執筆者としてもベストセラー作家としての名声をほしいままにしている.極めて大きい活字を使った類のないユニークな本『ドクターナラの成人病診察室』シリーズはその代表作である.
 彼の優れた資質の第2として抜群の行動力が挙げられよう.日本全国を疾風のごとく走り回って世界有数の人材を集め,名実ともに超一流の近代的病院を作り上げた功績はこの資質による.彼の行動力の凄さは,留学中に三世の美しい女性に一目惚れして,その女性を養父母の家から家出同然に連れ出してしまったエピソードに凝縮される.その女性こそ朝子夫人である.

主張

病院の外来は罪悪か

著者:

ページ範囲:P.497 - P.497

 介護保険法案が国会審議を通過し,介護保険の給付が2000年の4月から行われることに決まった.それに伴って医療法の改正が関連法案として議論され,かかりつけ医,地域医療支援病院などのあり方がその後検討されている.また一方,定例的ではあるが診療報酬改定が行われ,世の中全体の景気の低迷と国家財政の逼迫とを理由に社会保障費,かつ国民医療費に対し制度として強力にその抑制が行われる方向になっている.この一連の経過のなかで特に目につく現象として医療の効率性,効果性を主たる課題とし,病院外来の受診抑制が極めて強い制度による拘束のもとに行われようとしている.医療提供体制のあり方上も,さらに診療報酬上も病院が外来診療を行うこと自体が社会的罪悪のように取り扱われていることに大きな疑問を感じざるを得ない.利用者の流れを無視し,経済的観点からのみで,制度により強圧的な変更を強いている.
 地域医療支援病院の紹介率が80%を超えるということは,患者の意思を無視して多くの初診はまず診療所に行けということか,あるいは,受診を控えるということとしてしか理解できず,これはまさに経営の行き詰まっている医師会病院の救済策としか考えられない.診療報酬上は200床以上の病院については外総診と老人再診患者に対する外来管理加算が算定できなくなったというような改正が盛り込まれており,極めて悪意のある対策である.

特別企画 対談

ローコストでアメニティの高い病院を—東京・柳原病院の新病院建築

著者: 鈴木篤 ,   庄司正

ページ範囲:P.534 - P.541

21世紀の都市型地域医療を追求
 鈴木 私たちは1970年代に東京都の東部地域,足立区にある柳原病院からスタートし,一貫して都市の地域医療はどうあるべきかを問いかけ,いろいろな試みも展開してまいりました.
 現在,特定医療法人健和会は東京都の東部から埼玉県の三郷市にかけて,柳原病院(85床)とみさと健和病院の2病院(265床),11診療所(医科7,歯科2),9か所の訪問看護ステーション,そして1か所の老人保健施設「千寿の郷」(52床)と在宅介護支援センターを持っています.

連載 医療事故・医事紛争防止とリスクマネージメント・3

医療事故/紛争事例から学ぶ(1)

著者: 川村治子

ページ範囲:P.542 - P.544

 確実な知識と技術,および確認があれば医療ミスなど起こり得ない.しかし,人間対人間の業務でおよそ確実などということは望めない.何千分,何万分かの一の確率で必ずエラーは起こる.しかし,もし起こることを想定して,防止のための工夫を一つ,二つ張り巡らしていれば,その発生確率はぐっと低くなる.また,たとえ起こったとしても重大な結果だけは免れる.
 胸をなで下ろすようなニアミスを時に経験する.それらの事例を検討すると何らかの幸運な状況が介在して事故には至っていない.つまり,事故防止はこの「幸運」をいかに普遍化するかにかかっている.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第44回

スーパーホスピタル

著者: 河口豊

ページ範囲:P.555 - P.560

 医療情報分野で「スーパーホスピタル」という概念が広まりつつある.コンピュータネットワーク上の病院ということであるが,コンピュータネットワークの急激な進歩,普及を考えると比較的近い将来に実現されると考える.既に先進的動きが本格化しつつあるが,そのときに病院建築に与える影響は小さくないと思われるので,スーパーホスピタル(以下,SHと略す)の意味と建築について考えてみたい.

病院管理フォーラム 診療情報管理はいま・10

キャリア形成に向けた新たなプログラム・1

著者: 鳥羽克子

ページ範囲:P.546 - P.547

 当院では今年度から職員がそれぞれ自己の能力開発・育成に積極的に取り組むための新たなシステムとして,面接を主体とした職能資格制度を導入することになった.これは,医療産業の構造的・環境的変化が急速に進む中で,それに対応するためにできるだけ働く側も各人の能力を伸ばし,キャリアアップを図れるような体系作りと,効果的な作業システムの導入,各自の知識をより深めていく学習システムが院内で強く求められるようになってきたことも一因となっている.
 従来の年功序列による職階制度を排し,能力主義人事への転換を図ることで,適正な人材活用・各職場,ひいては病院全体の活性化につなげていこうとするものである.これは病院が期待する職能像を個人が自覚すると同時に,期待する側も個人を正しく評価し育成して,各人の持つ能力を最大限に職場内に活かしていこうとする考えに基づく.

リエンジニアリング—PFFCの展開・6

循環器病棟へのPFFCの導入

著者: 大濱京子

ページ範囲:P.548 - P.549

 外来の会計,薬局に引き続き,1996年4月より循環器病棟(ベッド数A病棟39床,B病棟35床,看護婦26名)をモデル病棟とし,病棟PFFCに取り組んだ.

癒しの環境

ヒーリング・アート

著者: 山野雅之

ページ範囲:P.550 - P.551

 最近,癒しという言葉がごく一般的に使われるようになってきました.そして医療の現場でも,新しく建てられた病院では,患者の精神的ケアを考慮して環境づくりを心掛けた建築も徐々に増えてきています.国内の病院でも,患者の心の癒しの環境づくりを実践していこうとする試みが,少しずつ芽生えてきているといえるでしょう.しかし,まだ数多くの病院では,治療本意で無機質な環境のまま,それを改善することなく患者を迎え入れているのが現状ではないでしょうか.このような病院において,そういった現状を少しでも改善し,癒しの環境づくりに積極的に取り組んでいこうとした場合,その重要な要素の一つとして,ヒーリング・アート(healing art)が挙げられると思います.ヒーリング・アートとは,「患者自身の『治りたい』,『よくなりたい』という気持ちを引き立たせる効果のある芸術」(イミダス1996,集英社刊より)という意味ですが,その中でも,今回特に,絵画による癒しについて,どういった物を飾るのかという点から考えてみたいと思います.

MQIの実践—練馬総合病院・4

事務局の立場から・推進委員のQCストーリー

著者: 菊井達也 ,   古市英俊

ページ範囲:P.552 - P.554

事務局の立場から
医療の質向上活動導入の経緯
 厳しさを増す医療情勢の中,患者さんの満足,すなわち医療の質を担保しながら効率的な運営をすることが病院生き残りの鍵となる.
 そんな危機感を漠然と持って,1996年2月,伊香保における管理職有志懇談会に参加した.自由討議の中で病院機能評価の話題から,自ら進んで医療の質向上の具体的な活動を行うべきであるとの提案が出された.活動を,全職員に浸透させ遂行するには,管理職が率先して推進しなければならない.

民間精神病院はいま—21世紀への展開・5

秩父中央病院—老人性痴呆疾患に備えた体制づくり

著者: 五十嵐良雄

ページ範囲:P.561 - P.564

当院の沿革
 当院は埼玉県の西北部に位置し,群馬県・山梨県・長野県に接する秩父地域にある.キャッチメントエリアは面積では埼玉県の4分の1を占める広大な地域であるが,そのほとんどは山地で占められ,人口は12万人程度である.1957年にこの地域ではじめての精神科医療機関として開設され,現在でも唯一の精神科医療機関である.病院の病床は開院当時の30床から1964年には113床,1991年には176床と増床を行った.1996年12月には管理棟および外来を全面的に新築するとともに,療養環境の改善を目指して全病床を1人当たり8m2以上,1人当たり病棟面積18m2以上とするための増築工事が完成した(表1).

病院の広報

ほうあう医療法人抱生会丸の内病院院内広報紙/医療法人社団高野会高野病院ホームページ

著者: 橋場義俊

ページ範囲:P.565 - P.565

 本紙は1986年の創刊で,今年新年号で91号をむかえた.
 病院職員の親睦団体として「抱友会」があり,その組織のなかの一委員会として「新聞委員会」がある.編集委員の任期は2年で,各職場から選出された9名で構成され,委員長,副委員長を置いている.任期の2年は短くも感じられるが,職員全員が各委員会に参加すること,さらにそうすることで,この病院の伝統を引き継ぐことを目標としているので,各自がその責任を果たしている.そして,各職員は新しい発想や挑戦を忘れず,病院の発展に寄与していくことを目標にしている.

早期退院計画・7

在院日数短縮への取り組み

著者: 柏木明

ページ範囲:P.566 - P.569

緒言
 熊本地域医療センターは医師会病院,検査センター,ヘルスケアセンター,在宅ケアセンターの4部門を総合した呼称である.医師会会員の地域における医療活動の拠点として,会員がセンター債・病院債を購入して作り上げたものである.
 未藤栄前熊本市医師会会長は,共同利用施設の必要性を痛感され,建設を立案された.そして,既存の市医師会所有地に,看護学校,検査センター,医師会事務局を有する会館が完成したのは,1971年である.

レポート

緩和ケア病棟の開設を経験して

著者: 山田祐司

ページ範囲:P.570 - P.574

 私どもの病院は1997年10月に緩和ケア病棟を開設しました.同12月に緩和ケア病棟としての認可を受け,全国で36番目の認可緩和ケア病棟となりました.
 筆者は,その病院の院長として,開設準備から開設までを経験しました.今後も,緩和ケア病棟の開設を準備している病院は多く,緩和ケア病棟は確実に増えると思われます.また,緩和ケアを受けたいという患者さんが,近くにある緩和ケア病棟を利用できるようにするためには,緩和ケア病棟がより身近になくてはならず,緩和ケア病棟の数はもっと増えなくてはならないと考えます.

医学ごよみ

6月—June 水無月

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.575 - P.575

 今月は2日だけ選んで,その日に関する歴史的なことを述べる.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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