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雑誌目次

雑誌文献

病院58巻1号

1999年01月発行

雑誌目次

特集 医療保障のグランドデザイン

[てい談]医療保障から健康保障の世紀へ—21世紀の医療保障のグランドデザインを考える

著者: 武見敬三 ,   西村周三 ,   河北博文

ページ範囲:P.18 - P.25

 河北(司会) 今日は新春てい談ということで,日本の社会をいかに明るくするかという視点から(笑)お話し合いをいただきたいと思います.
 本日のお二人と私は,たまたま1970年代の後半に米国のボストンでご一緒させていただいた縁を持ちます.その後それぞれの分野でご意見をお持ちと思いますが,まず武見さんから口火を切っていただきましょうか.

日本医療供給体制の課題と展望—未来と現在をつなぐ病院経営戦略

著者: 長谷川敏彦

ページ範囲:P.26 - P.35

 今日,日本の医療供給体制や社会全体が大きな転換期にあり,病院の経営者にとっては日々の病院経営が大変苦しいばかりでなく,長期的な展望,身近な環境を分析し,方針を決める必要に迫られている.
 そこで本論文では「未来を解く四つの鍵」と「現在を識る四つの論」について述べ,病床規模別の経営方針上の課題を「三つの病院類型」に分けて検討したい.

産業としての医療の可能性—健全に発展していくにはどうしたらよいか

著者: 會田雅人

ページ範囲:P.36 - P.39

 編集部から「産業としての医療の可能性」というテーマで依頼されたので,どこまで希望に沿えるかはわからないが,最近われわれが勉強した範囲での考え方を述べたい.なお,本稿は個人的な見解も含まれており,必ずしも組織としての見解ではないことをあらかじめお断りしたい.
 1995年度の厚生白書において,医療は「産業としては第三次産業の中のサービス業」と解説されている.そこで,課題は何かと考えると,「産業としての可能性」というよりも,「医療というサービス業が今後健全に発展していくにはどうしたらいいか」ということではないかと考える.

国家戦略としての医療技術開発—新しい時代の医療システム

著者: 水野博之

ページ範囲:P.40 - P.43

 筆者は医療については全くの素人である.厚生白書などを読んでみると,医療は国民生活にかかわる根本的な問題として多くの専門家による議論が行われていて,いまさら素人の筆者が論ずる余地もないようにも感じられるが,よく考えてみれば医療を受ける患者は医療については全くの素人なのであって,これは国民個々にかかわるもっとも重要なテーマである.あえて素人から見た医療のあり方というのも必要であろうと考える.以下そういった立場で,日本の医療を論じてみる.多少の誤解はあるかもしれないけれども,意とすることを汲んでいただけば幸いである.

グローバライゼーションと社会保障の統合—地球化時代の福祉国家とは

著者: 広井良典

ページ範囲:P.44 - P.46

 現在そして今後における福祉国家の意味を考えるとき,忘れてはならないのは,福祉国家が前提とする「国家」そのものの意味が,様々な局面において大きく揺らいでいる,という点である.
 もともと,われわれが通常イメージする「国家」というものは,それ自体歴史的には比較的「最近」の産物に過ぎない.つまり,「歴史家が広く認めているように,国民国家あるいは近代主権国家とは,16世紀頃からの西ヨーロッパに固有な歴史的現象であって,nation, sovereign state(主権国家),territorial state (領土国家)の三つが一致している特殊な状態をさす」(村上泰亮『反古典の政治経済学(上)』).また,より身近なところでは,司馬遼太郎氏の次のような言葉がこの文脈に当てはまる.「日本人というのは明治以前には“国民”であったことはなく,国家という観念をほとんどもつことなくすごしてきた.かれらは,村落か藩かせいぜい分国の住民であったが,維新によってはじめてヨーロッパの概念における“国家”というひどくモダンなものをもったのである」(『坂の上の雲』(二)).

グラフ

動きだした街の中の外来専門クリニック—医療法人財団石心会川崎幸クリニック

ページ範囲:P.9 - P.14

外来診療専門のクリニック誕生
 医療制度の改革の動きの中,医療法人財団石心会川崎幸病院の外来部門が独立し,川崎幸クリニックとして開院した.
 「たまたま川崎幸病院のベッドの確保と外来診療サービスの向上という切実な要請があったが,今後の医療の大きな方向を考えて,新たな展開を目指したい」と石心会理事長の石井暎喜氏はいう.

HOSPITAL INDEX

全国緩和ケア病棟・ホスピス病棟設置施設・1

ページ範囲:P.16 - P.16

主張

定常型社会のビジョン

著者:

ページ範囲:P.17 - P.17

 日本経済や日本社会のゆくえについて,悲観的な,あるいは閉塞的な雰囲気が強まっている.この根本的な原因は何か? 最も本質的には,日本が今後迎えていく高齢社会ないし成熟社会についての積極的な展望あるいはビジョンが見えない,ということに尽きると思われる.
 経済成長の究極的な駆動因は「需要」であって「供給」ではない.概ね第二次大戦までの状況は,生産水準が進展するごとに「供給過剰(もの余り)」の状況が生じ,それが恐慌や戦争という破局を引き起こして均衡するという循環が繰り返される,というものだった.これに対し,ケインズ以降の時代は,政府の政策その他を通じて,「需要の創出」が不断のものとして行われるようになり,これが戦後の世界において文字どおり世界史上未曾有の「やむなき成長」を数十年にわたって可能にしたのである.そうした不断の「需要創出」の原動力となったのは,実質的に,①(政府による)所得再分配政策,②(公共財としての)社会資本の整備,③技術革新,④広告やモードを通じた消費刺激,であった.①や②(および③における基礎研究)に示されているように,これらの多くは政府によってなされたから,こうした需要創出政策は「福祉国家」の理念ともリンクするものであった(いわゆる「ケインズ主義的福祉国家」).

特別寄稿

感染症新法と医療提供体制のあり方

著者: 滝澤秀次郎

ページ範囲:P.55 - P.59

 新しい時代の感染症対策を担う「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下,感染症新法)が,平成10年9月25日に成立し,同10月2日に公布された.本法の施行は平成11年4月1日からであるが,法第9条に基づいて国が策定する基本指針,第10条に基づいて都道府県が策定する予防計画,感染症発生動向調査体制の整備,感染症指定医療機関制度の導入など,施行までに取り組んでいかなければならない課題は多い.
 本稿では,感染症新法制定の経緯と法律のポイントを概説した上で,感染症新法に基づく良質かつ適切な医療の提供の方向性,感染症指定医療機関や第一線の医療機関に期待することについて述べることとしたい.

老人病院の変遷—1.特例許可老人病院から療養型病床群へ

著者: 吉岡充

ページ範囲:P.60 - P.63

 わが国の老人医療は変わったか.良くなってきたか.
 人手を多くして,ケアを行うというナーシングホームに医療とリハビリテーション(以下,リハビリ)がついた介護力強化病院というシステムが定着してきた.質の高い生活を送れるようにと,療養型というハード,建物の基準もでき,これからはケアの質をどうやって高めていくかが大きな課題である.介護保険の下で,私たちは市民と一緒にこの問題に挑戦していくわけだ.

マネージドケアと米国医療の変容

4.マネージドケアと米国医療の変容(その1)

著者: 田村誠

ページ範囲:P.47 - P.54

 今回は,いよいよ本連載の主題である,マネージドケアの興隆により米国医療が実際にどのように変容してきているか,そして,その変容はどのように評価できるか,について論じる.その変貌ぶりは,大きく以下の四つの流れに整理できる(注1).
 1)専門職優位から,マネジリアリズム(経営管理主義)のシステムヘ 2)個々の患者重視から,集団全体の健康重視へ 3)権力の「階層システム」から「分散システム」ヘ 4)医療の企業化(corporatiza—tion)のさらなる進展

病院管理フォーラム Hospital Administratorへの道・1

これからのhospital administratorを目指す人のために

著者: 林茂

ページ範囲:P.64 - P.65

連載に当たって
 社団法人日本病院会が1978年に始めた事務長養成の通信教育はこれまでに244名の修了者を出している.その同窓生を中心にして日本病院会の中に「病院管理者協議会」を組織した.入会自由な会で,年間数回の研修会開催と機関誌の発行を主な活動としている.この連載では,その会員が自院の経営管理のあり方と自分の役割などについて紹介する.

看護管理・10

人事・労務管理(1)—基本的な考え方と非営利組織について

著者: 竹谷美穂

ページ範囲:P.66 - P.67

 人事・労務管理は,数多くの人々が常時集まって一定の仕事をする場合に,それらの人々が一定の目標に向かってよりよく協力的・効率的に労働できるようにする活動である.
 人事・労務管理が人事課や事務部門の仕事であると認識しているのは誤りである.これはラインアンドスタッフ組織上の管理者が責任を持たなければならない業務であり,その考え方で管理の役割をとらえなければ,リーダーシップを発揮しているといえないことになる.

院内トータルシステムにおける物品管理・2

診療材料の管理について—その1・失敗事例

著者: 神野正博

ページ範囲:P.68 - P.69

 前回にも述べたように,院内の物品管理においては「イケイケ」でも「ケチケチ」でも職員のやる気が削がれてしまうし,また医療の質を落とすことにもなりかねない.したがって,「質とやる気を落とさない」管理体制や業務の見直しが基本であることを,改めて強調しておきたい.
 今回,当院が当然の帰結として院外SPD (supply processing distribu-tion)導入に至った経緯を,経験した失敗事例とともに明らかにしたい.

Principle 病院経営・1

経営環境は厳しいか

著者: 谷田一久

ページ範囲:P.70 - P.71

連載を始めるに当たって,読者諸兄にお断りしておく.これから述べるであろう事柄の多くは,筆者が病院職員(主として医療クラーク)であった頃の経験と,病院経営のコンサルタント(主として自治体立病院)であった頃の知識をミックスし整理したものである.したがって,論理展開をするうえでのバックグラウンドは必ずしも十分に大きいとはいえない.また,かけ出しの大学教員であるので,権威も何もない.それでよければどうぞよろしく!

癒しの環境

「ぬいぐるみ」と癒し

著者: 岩井美詠子

ページ範囲:P.72 - P.72

ピエールの訪問
 12年前の冬,米国コロラド州に移ったばかりの筆者は,ひどい胃けいれんに悩まされた.毎夜訪れる激しい痛みに,日本から持参した医師処方の胃薬も効かず,痛みのひどくなる夜におびえる毎日だった.ある晩,いつものように痛みで七転八倒していた筆者の耳に「ポムポム」という,何か柔らかいものが筆者の部屋のドアを叩く音が聞こえてきた.やっとの思いでドアを開けると,そこには「だっこして」とばかりに両手を広げた,一抱えはある大きなパンダのぬいぐるみが置いてあった.その手首には,「僕はピエール.あなたの痛みを取るためにやってきました.僕を強く抱きしめて下さい」と書かれたカードが付けられていた.このパンダを抱いていると,お腹が暖められたのか,間もなく痛みも落ち着いた.この奇妙な「ピエールの訪問」は毎晩続き,いつの間にか私の胃痛も治ってしまった(図1).

連載 アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第51回

2000年からのヘルスデザイン

著者: マンジョージ J ,   スキャッグスロナルド L ,   スプレーグジョセブ G ,   長澤泰

ページ範囲:P.73 - P.77

 本稿は1998年6月から8月まで,東京大学に外国人特別招へい教授として招かれたテキサスA&M大学のジョージ・J・マン(George J.Mann)教授の講演原稿をもとに筆者の了解をとり,約半分の分量に訳者の責任でまとめた.競争原理に基づいた米国のヘルスケア産業の現状が明確に示されている.国民皆保険を基盤とした日本の医療保険制度が,公的介護保険の導入に伴って変革の可能性を示す時期を迎える今日,米国の自由競争の姿は参考になろう.

早期退院計画・10

平均在院日数短縮の対策

著者: 赤尾元一

ページ範囲:P.78 - P.81

 現在,病院では平均在院日数の短縮が病院運営の一つのキーワードとなっています.これも,わが国の病院の平均在院日数が,欧米諸国に比べて著しく長いという指摘があります.確かに1992年の報告でも,日本が36.2日に対して,アメリカが8.8日,ドイツが15.8日,フランスが11.7日,イギリスが12.3日と大差があります.また,医療費削減策をとる厚生省にしても,長期入院は,医療費の非効率化を生んでいるということで,全国的に1980年代に増えた余剰の病床数を規制することと並行して,在院日数の短縮化が進められています.
 そこで,疾病の治癒にはそのような大差はないはずであり,わが国の適正な在院日数という考えもあるでしょうし,当院の対策を述べて,今後の課題としたいと思います.

民間精神病院はいま—21世紀への展開・12

今村病院—開かれた医療福祉を目指して

著者: 稲庭千弥子

ページ範囲:P.82 - P.86

今村病院の歩み始め
 1960年(昭和35年),秋田市金足追分に今村久悦が内科の診療所を開設した.今村久悦は男鹿・若美地区の保健所長をしていたことで,結核医療に研鑚し,当初は結核を対象とした開業医であった.当時すでに薬物療法の進歩の中で,結核患者の受診や入院はほとんどなく,急拠精神科を研修し直すことで,1966年3月同住所において追分病院を開設(50床),精神医療の波に乗りながら1967年には100床に増床,地区の精神病院反対運動に追い出される形で,1980年8月秋田市下新城中野に今村病院を開設(243床に増床).この時点では診療科目は内科,神経科,精神科の3科で,今村久悦1人の個人病院であった.
 今回の資料づくりにあたって1989年(平成元年)以前のデータがほとんどないのは恥ずかしい話であるが,以下の事情のためである.

Report

イギリスの病院患者図書館—医療サービスに必須の機関

著者: 菊池佑

ページ範囲:P.87 - P.89

 イギリスは1980年代に入り国の経済力の低下を建て直すために,サッチャー政権が行政,金融,教育,医療など数々の改革を断行した.医療改革後のイギリスの病院内での患者図書館サービスの変化と,患者や家族や市民への医療情報提供サービスの最新情報を報告する.

データファイル

高齢者医療制度の創設に向けて/高齢者に関する保健医療制度のあり方について(案)

著者: 日本医師会

ページ範囲:P.91 - P.94

はじめに
(略)
 1991年12月に国連総会は「高齢者のための国連原則」を決議しているが,その中でのKey Wordsは,独立,参加,介護・医療,自己実現,尊厳である.介護・医療に関しては,表1に示すように,それぞれに高齢者の立場や役割を強調して提言されている.
 これらの原則を踏まえて,高齢者医療,高齢者医療制度を考察することが求められる.

医学ごよみ

1月—January 睦月

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.95 - P.95

□5日 神経電気生理学の開拓者
 1944年の生理学医学ノーベル賞は「神経線維の高度な機能分化に関する発見」に対し,米国のエアランガー(Joseph Erlanger,1874〜1965)に授与された.この日は彼が米国のカリフォルニアのサンフランシスコに誕生した日である.
 彼の父はドイツ移民であり,サンフランシスコで商業を営んでいた.ジョセフは7人兄弟姉妹で,小さいときから動物や植物に興味を抱き,動物を解剖することが非常に好きであった.そのために,兄弟仲間から「医者」を意味する“Doc”という愛称をもらっていた.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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