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雑誌目次

雑誌文献

病院58巻10号

1999年10月発行

雑誌目次

特集 診療情報管理—開示に値する診療記録

開示に値する医療記録とは

著者: 石川澄

ページ範囲:P.914 - P.919

 医療を,健康の保持と危機管理に対する社会サービスと位置づければ,その受益者(以下,クライエント)にとっては,過程と結果が示されることは当然の権利といえる.
 問題は,カルテに代表される医療記録がそのまま提示されることによって,クライエントがそれを理解し得,治療法の選択および自らの療養に役立つか.さらにそのことが医療の質を向上させるフィードバック効果をもたらすかにありはしないか.

アメリカにおける診療情報の開示

著者: 樋口範雄

ページ範囲:P.920 - P.924

 アメリカ合衆国における診療情報の開示(患者自身に対する診療情報の開示)につき,本稿では以下の3点を略説する.第1に,ルールはどうなっているのか.第2に,プラクティスはどうか.そして第3に,アメリカにおける現行のルールや実務が生まれてきた経緯に言及し,わが国の問題に示唆するところを述べて結びとしたい.

カルテ開示の法的側面

著者: 児玉安司

ページ範囲:P.925 - P.929

問題の所在
 「カルテ開示」をめぐって様々な議論がなされているが,法的側面から見ると,そこでは非常に多様な,レベルの異なる問題が,時に混同されながら論じられているように思われる.
 1)現行法の解釈の問題(診療契約に基づく私人間の権利義務の問題と,情報公開条例・個人情報保護条例や将来の情報公開法に基づく公権力と私人間の権利義務の問題は法律的には全く次元の異なる問題である),2)新たな立法の是非(当然ながら内容の当否の問題も含む),3)臨床現場における医師の患者に対する情報提供の問題(どこまでが法的「義務」であるかという問題と,医療機関としてどのような情報提供を目指すかという問題も分けて考える必要がある).以上の三つの問題は,法律的な観点からみると全くレベルの異なる問題である.

医療記録としての電子カルテの作成と管理

著者: 堤幹宏

ページ範囲:P.930 - P.933

 金沢医科大学病院では,1996年1月よりオーダリングシステムとともに電子カルテシステムの開発を行ってきていたが1),1997年10月にはフルオーダのオンラインシステムが稼働し,同年12月には入院サマリーの電子カルテ化とともに,一部の診療科において電子カルテによる外来診療が開始された2).そして,1999年7月現在,一部の科を除きほぼすべての診療科で入院・外来を問わず電子カルテを用いて診療されるようになってきている(図1).
 本稿では,本学における電子カルテシステム(金沢医科大学電子カルテシステム)を紹介するとともに,電子カルテがカルテ開示に及ぼす影響などについて略述することとする.

【座談会】療記録開示に向けての現場の課題

著者: 櫻井健司 ,   武田裕 ,   山角駿 ,   開原成允

ページ範囲:P.934 - P.941

 開原(司会) 昨今,診療記録開示への流れは徐々に勢いを増し,法制化する,しないに関しては多少の意見の違いはあるものの,診療記録を開示すること自体に関しては,もはや議論の余地はないといっても過言ではないでしょう.
 一方,医療の現場においては,診療記録を開示することに対して,率直にいって多少戸惑いもあるのではないかと思います.本日は3人の先生をお招きし,診療記録開示へ向けての問題などを,現場に近い視点からお話をいただき,今後,医療界として取り組んでいくべき課題を考えていきたいと思います.

グラフ

西南但馬地域の医療福祉の向上に貢献—公立八鹿病院

ページ範囲:P.905 - P.910

公立八鹿病院は神経難病の一つであるALS (筋萎縮性側索硬化症)の診療および在宅ケアに積極的に取り組んでいる.ALS全国医療情報ネットワークの兵庫県代表に指定されている.
病院併設の訪問看護ステーションの他に朝来町にもステーションを設置.14名の看護婦および3名の理学療法士により訪問看護,訪問リハビリテーションが行われている.現在の対象者は約150名

HOSPITAL INDEX

救命救急センター設置状況・2

ページ範囲:P.912 - P.912

主張

迫られる診療記録の開示に向けた環境整備

著者:

ページ範囲:P.913 - P.913

 かねてから論議されてきた診療録の開示に関する当面の方向が示された.すなわち,医療従事者の自主的な取り組みの経過をみるとともに,診療記録の開示の円滑な普及・定着に向けて3年を目途に環境整備を推進し,開示を実施している場合にそれを広告可能とするというものである.診療録開示を法制化することについては,これらの取り組みや環境整備の状況をみながら,さらに検討するとしている.
 現在の病院における診療録の記載,および管理の現状を知る立場からは,法律に基づく開示の義務化は必ずしもよい結果を生まないと考えられてきたところであり,今回の対応はおおむね妥当であると評価したい.しかし,このことは診療録の開示が先送りされたことを意味するものではなく,むしろそれが急速に普及することを予感させる.特に,開示を実践している医療機関がそのことを広告できるとしたことは,医療の内容や医師・病院の姿勢に敏感となっている患者の受療行動に大きく影響し,医療機関側の開示に向けた対応を強く迫ることになると考えられるからである.

特別寄稿

安全の科学と医療における危機管理—過去の薬害の分析から

著者: 黒田勲

ページ範囲:P.942 - P.946

「薬害等再発防止システムに関する研究会」発足の経緯
 19世紀後半から20世紀にかけて,科学技術の急速な発展は人類に多大な恩恵をもたらした.特に医療技術面の進歩によって多くの疾病が克服され,経済状態の向上と生活環境の整備などもあいまって,高い健康状態を保ち,安全で豊かな生活を営めるようになった.
 しかし,すべての科学技術,特に新しい科学技術の開発は,多大な恩恵をもたらすとともに常に未知の危険性を潜在していることは科学技術の歴史の示すところである.

リハビリテーション看護の専門性からみた看護人員配置基準

著者: 野々村典子

ページ範囲:P.947 - P.950

 現行診療報酬の改定に向けて看護分野からの意見が散見されるが,本稿では具体的な議論の素材提供を目的にリハビリテーション(以下,リハ)専門病院の看護管理者の立場から問題点をまとめた.
 新体系に向けて,リハ医療の分野からの問題提起は,医療機関の機能区分,特に患者の病態に応じた評価を基準とした病床区分において,リハ専門病床群(仮称)を亜急性期医療として位置づけることである.亜急性期病床としてのリハ機能を明確にすることにより,入院基本料(入院環境,看護体制,医学管理体制など)と患者の病態による検査,投薬などが加わっての評価が可能となる.患者の病態を区分する尺度に「一定」の入院期間を基準とする考え方が診療報酬体系改定の根幹となっていることへの問題提起は行ってきた.

レポート

英国のNHSレビュー普及センターとコクランセンターの現状

著者: 廣瀬美智代 ,   津谷喜一郎

ページ範囲:P.951 - P.954

 UK (United Kingdom,グレートブリテン島および北アイルランド連合王国)では,国民保健サービス(National Health Service:NHS)がUK国民の医療費を負担し,医療施設および医療関係者の給与などを賄っている.近年,人口の高齢化に伴い医療需要は増加しているが,UKの福祉財政との関係から,医療とケアの線引きや限りある医療財政の中で,医療政策者の施策立案に当たって,国民を納得させる優先順位づけが求められるようになった.
 一方,Evidence-based Medicine(EBM)が1990年代になって,オックスフォードとカナダのマクマスター大学などで確立され,医師ら医療関係者の意思決定にエビデンスが求められるようになっている.コンピュータ技術の発展は,電子的文献検索や煩雑な試験結果の統合などを容易にさせ,通信インフラストラクチャの急速な整備によって,机にいながらにして探求テーマの答えが得られるようになった.

連載 医療事故・医事紛争防止とリスクマネージメント・11

リスクマネージメントの構築(3)

著者: 川村治子

ページ範囲:P.955 - P.958

 組織の成長・発展には必ずなんらかのリスクがつきまとう.その変化が急峻であればあるほど,内包するリスクもまた大きい.つまりゲイン(gain)とロス(loss)は光と影,あるいは車の両輪のようなもので,常に一対としてmanageされなければならない.リスクマネジメントはこのロスをコントロールする管理手法である.
 これを病院に当てはめると,ロスの最たるものは医療事故や医療訴訟である.ゲインは「患者数の増加」,「在院日数の短縮」,「新たな医療機器や技術の導入」,「新たな医療分野への進出」などがある.つまり,業務量や業務密度の増加がスタッフのこれまでの行動に変化を強い,それに伴うリスクが発生する.新機器,新技術,新分野は,当然新たなリスクを伴う.こうしたリスクを前もって評価し,対応策を講じておく必要がある.

院内感染対策・4

結核に対する院内感染の予防と対策

著者: 中島由槻 ,   森亨

ページ範囲:P.971 - P.978

 昨今,日本における結核罹患率微増傾向や,発展途上国を主とした世界的な結核の蔓延と患者の増加を背景にして,わが国においても再興感染症として結核に関心が持たれている.さらに1人の結核排菌患者の発生に伴い,必然的にその周囲の多くの人間が感染するという集団感染や,体力的ハンディキャップを負った人々が集まる病院,診療所での院内感染の多発に懸念が生じている.これらの結核の集団感染や院内感染が近年わが国において多発するようになったのは,社会生活の中心となる若年から中年世代の大部分の人が,結核に未感染となってきている1)ことに最大の理由がある.
 これまでわが国では,BCG接種が結核予防対策の一つの柱となっていた.そしてそれは小児の結核の発病予防を中心に,一定の役割を果たしてきた.しかしながらBCG接種は発病を予防するのみであり,しかもその有効性は接種後15年程度までといわれ,また再接種の効果については否定的な意見もある.さらにBCGの結核発病予防効果そのものも,接種しない場合の発病する確率を約1/2に減少させる程度とされている.したがって,結核の感染対策におけるBCG接種の効果には限界があり,大量の未感染者のいる現在のわが国においては,従来の発病予防という観点のみでなく,未感染者の感染防止にいっそう重点を置く必要があると思われる.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第60回 民間病院3題

古川星陵病院

著者: 名取政春

ページ範囲:P.979 - P.980

病院の概要
 古川星陵病院は,宮城県古川市の中心部に位置し,昭和52年に開院した佐々木病院(当時64床)を前身とする民間病院である.
 佐々木病院は古川市における地域医療の重要な一翼を担ってきたが,施設の老朽化などに伴い,平成7年には,100床の病院として全面的に改築され,名称も「古川星陵病院」となった.

舘出張 佐藤病院

著者: 小松正樹

ページ範囲:P.981 - P.983

 江戸時代には高崎藩の藩医を務め,250余年の伝統ある病院として知られる佐藤病院は,80床の認可病床を持つ産婦人科に特化した民間専門病院である.

埼玉成恵会病院

著者: 中田利夫

ページ範囲:P.983 - P.985

病院の概要
 埼玉成恵会病院は,整形外科を中心に昭和52年より現在地に移転し,3回の増築により病床も180床に増え,救急医療を中心に整形外科以外にも外科系から内科系まで幅広く行っている.外来患者数も1日400〜500人と増え続け,病室も多床室は6〜8床で,1人当たりの面積も4.5m2しかないなど,全体的に手狭になってきた.また,防災面なども旧法規の対応でもあり,建て替えはもはや避けられないものとなったため,病院のアメニティの向上なども加え計画を始めた.
 平成元年より協議をしていく中,計画案は数十案にも及んだ.特に民間病院が生き残るためにはどうしたらよいかが重点的に話し合われた.協議の間にも医療行政は大きく変わり,最終的には病棟を中心に建て替え,外来機能は既存の建物を改修することでまとまった.

病院管理フォーラム Hospital Administratorへの道・10

時代を見据えた病院経営

著者: 夷谷修治

ページ範囲:P.959 - P.961

医療法人社団順心会の概要
 医療法人社団順心会は,「すこやかな命を見守る深い奉仕の心である医療の原点に立脚し,患者中心の医療を実現すること」を目指して,昭和58年11月に設立された.その後,昭和63年3月大蔵大臣から特定医療法人の承認を受けている.
 一般病院3か所,老人保健施設3か所および訪問看護ステーション5か所を開設している他,高齢化社会に対応するため,社会福祉法人順心福祉会および社会福祉法人波賀の里福祉会を設立し,特別養護老人ホーム2か所,在宅介護支援センターを併設,ケアハウス2か所を開設している(図1).

看護管理・19

中規模病院における院内看護研究の経過と現状(1)

著者: 小﨑征子

ページ範囲:P.962 - P.963

 厚生中央病院が,院内看護研究を組織的に実施するようになったのは昭和55年からであり,それまで何年間か中断されていた中での再開であった.以来,毎年各部署で4月から研究として取り組んだものを,年末に2回に分けて発表会を行ってきている.今年でちょうど20年になる.
 ディアーは「すべての看護婦は研究することができるし,また研究しなければならない」と述べている1)が,この言葉に励まされ,そうだ,そうだと思いつつ,現実には研究指導を担っていく立場の筆者を含めた婦長層が,看護への情熱はあるものの,看護研究の指導については限界を感じ試行錯誤の状態であった.

経営管理—職員活性化の歩み・1

「かわらなきゃ」の三つの原則

著者: 塩谷泰一

ページ範囲:P.964 - P.965

 過去の坂出市立病院は経営破綻に陥っていた.図1に示されるように1979年から1991年まで13年連続で医業収支の赤字決算を計上していたのである.その結果,累積不良債務は約25億円にまで膨らみ,不良債務比率は全国自治体病院のなかでワースト1位であった.
 病院は,見事なまでに荒廃していた.

リスクマネジメントの実践・3

武蔵野赤十字病院におけるメディカルリスクマネジメント(3)

著者: 三宅祥三

ページ範囲:P.966 - P.967

リスクマネージメントの体系
 アメリカではリスクマネージメントは「経済的損失のリスクを把握,評価し,それに対処する科学」と定義されている.
 このリスク把握システム(riskidentification system)には三つの手法があるといわれている.

Principle 病院経営・10

レントゲングラフ法(4)

著者: 谷田一久

ページ範囲:P.968 - P.969

 レントゲングラフ(以下RGという)法のデータベースに参加する病院が徐々に増えている.まだまだ開発の途上にある分析手法なので断定的なことはいえないが,論理的にその活用法を示すことはできる.積極的医療行為と在院期間という二つの要素で入院機能を表現するという基本的な論理から,いわば思考実験的にその展開を考えるわけである.

病院ボランティアの提案—東札幌病院・4

共に過ごす・4—色とりどりのネットワーカとして

著者: 斉藤悦子 ,   石垣靖子

ページ範囲:P.970 - P.970

 医療の場では患者—医療者関係はともすれば直線的(目的指向的)になりやすい.毎日繰り返されるその無数の直線(縦糸)に,色とりどりの横糸を織り交ぜて患者の生活を支えているのがボランティアである.これはこの連載に先駆けてのレポート(第58巻6号)で述べた.今回はその横糸をどのようにボランティアたちが織りなしているかを紹介したい.

特別企画 『介護保険時代』における地域リハビリテーション・6(最終回)

介護保険を包括した21世紀の地域リハビリテーションの推進

著者: 松坂誠應

ページ範囲:P.986 - P.989

 2日間にわたり討論された地域リハビリテーションと介護保険にまつわる問題を,私なりに総括させていただきます.
 長崎県リハビリテーション協議会(以下,長崎リハ協議会)の活動開始当初の昭和58年には,老人保健法による機能訓練事業が開始されましたが,サービスの量と質の問題が問われました.医療,保健,福祉の連携が悪く,高齢者が放置されたままでいるという状況が多く見られ,ご家族も本人も地域社会のなかで孤立している状況がありました.

青年期から成人期へ—閉会の挨拶

著者: 藤田雅章

ページ範囲:P.990 - P.990

 昨日から,県内はもとより北は北海道,南は沖縄まで,医療・保健・福祉にかかわる多数の皆様の参加をいただき,盛会のうちに終えることができますことをスタッフを代表して心よりお礼申し上げます.
 本日の記念大会は昨年の8月に一度企画されましたが,諸般の事情により本日の開催となりました.当初のご出席をお願いした澤村誠志先生をはじめ,大田仁史先生,竹内孝仁先生など,日本中を駆け巡って仕事をされている先生方が,万難を排して駆けつけていただいたことに,スタッフ一同重ねてお礼を申し上げます.

医学ごよみ

10月—October 神無月

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.991 - P.991

□5日 フランス外科大御所
 この日は手掌の拘縮や骨折に,その名を冠する外科の大御所デュピュイトラン(Guillaume Dupuytren,1777〜1835)がフランスのPierre-Buffiereに生まれた日である.
 彼はパリ大学に学び,病理解剖学と外科学を専攻した後,1802年,パリのオテル・デュ(Hôtel Dieu)病院の外科医として就職した.故郷で弁護士をしていた彼の父は,息子を故郷に呼び戻そうと説諭したが,彼はパリ残留を強く望んだ.そして,フランス一流の外科医に成長していった.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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