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雑誌目次

雑誌文献

病院58巻11号

1999年11月発行

雑誌目次

特集 病院における賃金と年金

これからの病院経営における賃金体系の見直し

著者: 楠田丘

ページ範囲:P.1010 - P.1014

病院の賃金体系をめぐる今日的課題
 1.日本型人事・賃金システムの戦後の経過
 世界の賃金には二つの種類がある.日本モデルと欧米モデルである.日本モデルは人の価値(能力)に視点を置くいわばヒューマンな成長主義賃金であるが,欧米の賃金は生み出された成果で決める賃金である.つまり前者が能力主義であり,後者が成果主義である.わが国では伝統的に人間の成長の側に視点を置いた能力主義人事,賃金が基調をなしてきた.
 ところで,このような日本モデルは,戦後の最初の15年間は生活主義,そして続く15年間は年功主義をとってきた.生活主義とは年齢別生計費で決める賃金であり,年功主義とは,学歴や性別,勤続を能力の代理指標として,これらに準拠して決める賃金システムである.ところが昭和50年前後にいわゆる高度成長が終わり,ME革命が登場する中で,この年功主義は適応性を失って崩壊し,能力主義に転換をした.そして今日に至っている.

国公立病院と民間病院の医療職賃金を比較する

著者: 白髪昌世

ページ範囲:P.1015 - P.1019

 賃金は,労働力の受給バランスによって変化するものであり,地域,開設主体によっても異なる.
 本テーマのために利用できる賃金の金額に関する調査統計資料で,一般に入手・利用できるよう公開されているものは非常に限られている.たとえ,経営主体の異なる病院の賃金に関するデータが入手できたとしても,その比較は断片的でローカルなものとなろう.

医師の人事考課と給与の私案

著者: 天願勇

ページ範囲:P.1020 - P.1023

 2000年4月から介護保険が導入されると,現在ある大多数の病院は,その取り巻く環境の激変により,これまでの医療についての認識や病院の組織機構および経営のあり方に関して,抜本的な改革を迫られるであろう.
 矢野経済研究所のレポートは,1997年に9,347あった病院が2010年には6,700〜4,600に減少すると予測している.その代わり,療養型病床を有する病院は,1997年に717だったのが,2010年には3,000〜3,700に増加すると予測している.ちなみに今後は,これまでのようなケアミックス型の病院は減り,完全型の療養型病床(慢性期病床)が増加するとしている.暫定的な転換型病床は完全型にするか,姿を消すかのどちらかになろう.

病院における職能資格制度—その考え方と導入の実際

著者: 飯田修平

ページ範囲:P.1024 - P.1029

社会情勢の変化
 社会の変革という大きな流れの一部として,医療改革が急速に推進されている.
 制度とは仕組みのことであり,制度改革とは仕組みを抜本的に変えることである.政府だけの問題ではなく,すべての組織に当てはまることである.

公的年金制度の課題と1999年改革の評価

著者: 駒村康平

ページ範囲:P.1030 - P.1036

 現在,公的年金は家計や日本経済,財政に大きな影響力を持ちつつある.少子・高齢化社会の進展は,年金のみならず世代間扶養で成立している医療・介護も含めた社会保障制度を脆弱なものにする.このため,年金,医療,介護,福祉のそれぞれの分野における改革が急ピッチで進んでいる.本稿は,公的年金の現状と課題について,1999年年金改革案を踏まえて論じる.

病院厚生年金基金の現況と今後

著者: 竹内實

ページ範囲:P.1037 - P.1040

 わが国の年金制度は図1に示すとおり全国民共通の基礎年金を基本に展開している.しかし,少子高齢社会の到来とともに今後増え続ける受給者と現役世代の納入する保険料負担とのギャップが拡大し,制度の見直しを迫られている.そのため,来年4月からの年金制度改革が現在検討されているところである.しかし予想を超える寿命の延長や少子化の進行が加速すると,さらなる給付の見直しを避けることができずに,負担と給付のアンバランスが起きる可能性も否定できない.最も懸念されていることは,年金制度における世代間の不公平感を国民が持つことであり,長期展望とその対策が求められるところである.
 わが国の年金制度と病院の関連については,『病院』第56巻2号「年金制度と病院」を参照されたい.このような制度の中にあって,国の年金を一部代行した報酬比例部分についての年金給付を行う制度の一つとして,昭和41年に創設されたのが厚生年金基金である.現在全国に約1,900の基金に約1,200万人が加入している.厚生年金基金は国の報酬比例部分を代行するばかりでなく,各々の基金が加算掛け金を徴収し,退職金などの保全を図ることを目的に設立されてきているのが実態である.

グラフ

—医療法人社団協栄会 大久保病院—ISO 9001取得により信頼される医療サービスの提供を目指す

ページ範囲:P.1001 - P.1006

 医療法人社団協栄会大久保病院は1982年に院長・理事長の大久保照義氏によって83床の病院として開設.開院当初より24時間365日体制の救急医療の提供に取り組むなど,水戸市西部地区の医療の中核を担ってきた.

HOSPITAL INDEX

救命救急センター設置状況・3

ページ範囲:P.1008 - P.1008

主張

医療における選択

著者:

ページ範囲:P.1009 - P.1009

 医療法第69条は,法規制により医療に関する広告を制限している.しかし,まず広告という言葉をもってどのような定義がなされているかが不明であり,さらに,この制限は適正な医療を受けることができることを確保するためであるが,医療に関する専門的,科学的知見に基づいて広告の内容は決定され,かつ広告の方法も法規によって定められることが利用者にとって非常にわかりづらくなっているのではないか.
 戦後の混乱期に,国民に生活の安心を保障するために整備された医療は,「貧困からの救済」という基本理念のもとに,公平という概念に基づいて量的整備が行われてきた.その間,いわゆる「お上」による配給的性格—これは医療保険制度ならびに医療提供体制両者ともいえるが—を有した時代には法制度による各種規制が必要であったことも事実である.21世紀を目前にした今日,国民の社会生活は大変豊かになり,個人の選択が重要視され,また,国際的水準を確保することも求められるようになった.そのような社会では,医療提供にかかわる質の向上のための「ドライヴィング・フォース」として法制度と経済誘導のみでは極めて不適切になった.そこで,それらにかかわることとして,規制緩和と情報の開示が対をなすことであると検討されつつある.

データファイル

病院機能評価認定証発行病院・1

ページ範囲:P.1029 - P.1029

 財団法人日本医療機能評価機構は1999年9月20日,下記の3病院に新たに「認定証」を発行した.これにより認定証が発行された病院は255病院となった(その内訳は一般A81病院,一般B 136病院,精神A 9病院,精神B2病院,長期10病院,複合A 10病院,複合B 7病院).

病院機能評価認定証発行病院・2

ページ範囲:P.1036 - P.1036

〈1029頁より続く〉
●平成11年6月21日発行,8病院
 [一般病院種別A (4病院)] 松山笠置記念心臓血管病院(愛媛県)/医療法人三省会堀江病院(群馬県)/社団法人衛生文化協会城西病院(東京都)/医療法人財団博愛会博愛会病院(福岡県)
 [一般病院種別B (3病院)] 信州大学医学部附属病院(長野県)/財団法人慈山会医学研究所付属坪井病院(福島県)/社団法人全国社会保険協会連合会社会保険中京病院(愛知県) [病院複合A:一般・長期療養(1病院)] 医療法人仁悠会吉川病院(大阪府)

レポート

医療法人慶友会におけるISO 9001の導入

著者: 吉田威 ,   平田一廣 ,   川原弘成 ,   加賀嵩義

ページ範囲:P.1041 - P.1045

ISO審査登録の動機,目的と意義
 1.動機—慶友会の実態と社会的  背景
 医療法人慶友会は1981年12月に31床,職員30名の個人病院として出発してからわずか16年で,病院本体は263床,老人保健施設86床,訪問看護ステーション3施設,肝臓病センター,健康相談センター,在宅医療福祉センター,そして関連の社会福祉法人の特別養護老人ホーム,北海道医療株式会社,その他とハード面の整備を急速に行った.また,職員数は社会福祉法人を加えると400名を超える状態になった.このような急激な成長に伴い,ソフト面の内部充実が必要となった.
 日本の医療は,国民全員に平等な医療を提供するという敗戦後からの目標が,国民皆保険制度や,病院ならびに診療所の量的拡大で達成され,次に経済成長の鈍化,急激な少子・高齢化の対策として医療費抑制と高齢者ケアが中心課題になっている.これらの時代背景の中で,医療機関として考えなければならないのは,「医療の質の向上」と「経営の健全化」である.これらを実現するためには,慶友会としても組織体制の強化が必要になった.

病院コストの地域格差—現行診療報酬で対応可能か

著者: 太田圭洋

ページ範囲:P.1046 - P.1051

 病院経営が「冬の時代」に入ったといわれて久しい.多くの医療機関は1980年代に始まった医療費抑制政策の中,生き残りをかけて必死に経営努力をしている.しかしながら平成9年9月に中央社会保険医療協議会(中医協)が行った医療経済実態調査では,回答のあった1,069の一般病院の医業収入は全体で月額436万円(医業収入の2.7%)の赤字であり,相変わらず「冬の時代」が続いていることが再確認された.また平成8年に厚生省健康政策局の行った民間医療法人病院の決算分析でも,1,077の一般病院のうち実に23%に当たる246病院が赤字であるとの結果が出された.
 この厳しい経営環境の中で,最近特に都市部の病院経営者から,医療経営環境の地域格差が都市部の病院経営をいっそう厳しいものにしているという指摘をよく耳にする.以前から地域格差・官民格差が大きな不満の種であったわけだが,近年地域格差問題が大きな関心事となってきているのは,次回の診療報酬改定で包括支払い方式がより広く採用された際,医療提供コストの地域差が考慮されない現状が続けば,都市部と地方の病院経営環境の差がいっそう拡大すると危惧しているからである.また,平成12年度に開始される介護保険制度に地域格差が導入されることも一つの要因であろう.

病院ボランティアの提案—東札幌病院・5

共に過ごす・5—ボランティアと補完療法

著者: 斉藤悦子 ,   石垣靖子

ページ範囲:P.1052 - P.1052

 平成9年の秋,5年にわたって気功を学んでいたMさんが,ボランティアのメンバーとして参加してから新しいプログラムが始まった.「気功(リラクゼーション)」と「リラックスタイム」である.

病院管理フォーラム Hospital Administratorへの道・11

変革の中での事務長の役割

著者: 山下照明

ページ範囲:P.1053 - P.1055

医療法人つかさ会との出会い
 昨年5月,医療法人つかさ会の事務長として就任した.
 これまで二つの医療法人で,合計20数年間の病院勤務経験があるものの,当院の状況については全くわからない中での赴任であった.この1年間で本来の事務長の役割は何か?事務部門の事務管理ではなく,hospital administratorであるなど,実践の中で経験をとおして実感できた1年間であった.

看護管理・20

中規模病院における院内看護研究の経過と現状(2)

著者: 小﨑征子

ページ範囲:P.1056 - P.1057

 前回は,昭和63年までの臨床の場で患者さんに貢献したいという思いで,手探りで行ってきた院内看護研究について述べた.
 当院は,平成4年6月に隣接地に新病院をオープンさせ移転した.病棟が一つ増えて10看護単位になり,そのことをきっかけに,看護部組織を強化しようと検討していた時期であり,看護研究にももう一工夫してみようと考えた.今回は,平成3年からの取り組みについて触れたい.

経営管理—職員活性化の歩み・2

コンピュータネットワークの導入は組織風土を変えたか?

著者: 砂川正彦

ページ範囲:P.1058 - P.1059

 不良債務を抱え,自治省から「閉院」という「最悪」の勧告を突きつけられた坂出市立病院に,徐々にではあるが経営改善の兆しが見えはじめた1995年,突然降って湧いたのがオーダリングシステム導入の計画であった.それは院長の「頑張れ,頑張れで走ってきたが,ここでさらに頑張れというだけでは,職員の継続した努力を引き出すことはできない.目的意識を引き出すしかけが必要である」という考えで,実行に移された.その「性急さ」は下記の経過が物語っている.

リスクマネジメントの実践・4

武蔵野赤十字病院の看護部門におけるリスクマネジメント(1)

著者: 増子ひさ江

ページ範囲:P.1060 - P.1061

 看護部長としての筆者の一日は夜勤婦長から夜間の報告を受けることから始まる.報告の中で最も気になることは,誤薬や患者の転倒・転落などの事故報告である.
 当院は3次救命救急ベッド30床をもち,平均在院日数は15日,病床利用率が97%で,医療密度の高い病院である.一方,看護職員の年間離職率は20%を越え,卒後3年未満が全体の40%を占め,事故発生の条件が高い状況といわざるを得ない.

Principle 病院経営・11

効率性と合理性

著者: 谷田一久

ページ範囲:P.1062 - P.1063

 病院経営の効率化が強く叫ばれるようになって久しい.それは恐らく,国家財政の危機に端を発する医療費抑制策や,不況に見舞われている一般産業界で行われている徹底した効率性の追求事例の増大といった社会的背景に影響されたものであろう.しかし,それにしても度を越した効率性の追求には首を傾げたくなる.
 ある勉強会でのことである.筆者は講師として招かれ,情報開示の意義について触れるところとなった.事例として坂出市立病院(香川県)が全病院的に取り組んでいる「わたしのカルテ」を取り上げることとした.公立病院が積極的にカルテ開示を行っている珍しい事例である.

連載 アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第61回

病室面積の考察

著者: 長澤泰

ページ範囲:P.1064 - P.1068

 医療法改正を目前にして,急性期・慢性期医療の区別,入院日数に対する配慮など病院の入院医療が見直されている.建築環境の面でも入院環境,特に病室の療養環境は入院医療の質に大きな影響を与える.日本の病院は,欧米に比べて診療部門や医療機器の面では遜色なくなった感があるが,病棟部門,特にその面積や看護単位の規模においていまだに見劣りがする.また,病室面積については医療,看護,患者生活など様々な視点から考える必要があるが,本稿では,このような背景のもとに,主に一般急性疾患の患者を対象とした病室の面積について,既存の研究資料を参考に,現在の諸法令との関連や今後の病室環境基準のあり方を考察する(注1).

院内感染対策・5

東京大学医学部附属病院分院の院内感染対策—1.薬剤師の役割

著者: 木津純子 ,   山本健二

ページ範囲:P.1075 - P.1078

 院内感染防止は,医療従事者一人ひとりが院内感染に対する意識を向上させることが最も重要である.薬剤師も医療チームの一員として防止対策を推進する役目を担っているが,その働きの一つに抗生物質の適正使用推進がある.東京大学医学部附属病院分院薬剤部では検査部と協力して抗生物質の使用量とMRSA分離患者数の調査を行い,感染防止の一翼を担ってきた.
 本稿では東京大学医学部附属病院分院の院内感染対策の連載第1回として,当院の感染対策委員会について紹介するとともに,当院における抗生物質の使用量とMRSA分離患者数の変遷について述べる.

民間精神病院はいま—21世紀への展開・19

瀬野川病院—当院の現状から精神病院の将来像をさぐる

著者: 津久江一郎

ページ範囲:P.1069 - P.1073

 医療保険福祉審議会の制度企画部会からの要請を受けて,診療報酬見直し作業委員会が発足したのは平成10年9月であった.
 これは与党医療保険制度改革協議会によって出された「21世紀の国民医療〜良質な医療と皆保険制度確保への指針〜」を基本とし,現在の診療報酬体系が有している問題点を明確にし,具体的な形で提示するための委員会であった.

癒しの環境

病院とボランティア

著者: 邉見公雄

ページ範囲:P.1074 - P.1074

 病院にとっての「ボランティア活動」とは何であろうか? 筆者は少なくとも大きく三つの意義があると考えている.
 まず第1は,組織内の人間と利用者(患者様を中心とした顧客)との間の潤滑油になってくれるということである.院内外の美化や音楽の演奏,絵画・写真の展示,本の読み聞かせ,将棋の相手,買物代行など職員の手の回らないところを補っていただいている.乏しい予算で人件費や設備投資,薬剤・診療材料費を賄っている公立病院では特にその観が強い.日本の医療の貧弱さを物語っているようで恥ずかしい限りであるが,患者様の癒しの環境を高めるのに大きな役割を果たしてくれているのは間違いない.

医学ごよみ

11月—November 霜月

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.1079 - P.1079

 今月も有名な医学者の誕生日やイベントなどを紹介したい.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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