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雑誌目次

雑誌文献

病院58巻7号

1999年07月発行

雑誌目次

特集 医療計画の新しい方向と病院

医療計画の検証と今後の医療提供体制

著者: 池上直己

ページ範囲:P.626 - P.634

日本における医療計画の基本的問題
 医療施設を整備する方法として,各医療機関の裁量に任せて行う方法と,政府が計画的に行う方法とがある.前者に従つて医師は診療所を開設し,それを病院に発展し,さらに拡大させてきた.一方,後者に従って公的病院が整備されてきた.日本は明治以来この二つの方法を併用してきたが,いずれの方法に比重を置くかをめぐって医療提供者と政府は対立してきた.一つの方法に収束できなかった理由は,民間だけで整備しようとしても,診療報酬の構造上,高度医療などは不採算となるので障壁が高く,一方,公的中心に整備しようとしても財源が足りなかったことにある1)
 1985年の医療法の第1次改正で医療計画の策定が義務づけられたことによって,これら二つの方法を調整し,社会的な合意のもとに官民が協力する社会計画としての枠組みだけは用意された2).しかし,医療計画導入の主な目的は医療費の抑制に置かれ,「医療計画」は実質的には「病床規制」にとどまつてきた.すなわち,「ベッドが作られればベッドは埋められる」という関係があるので3),ベッドの総量を抑制することで医療費の抑制が図られてきた.こうした経緯で,医療計画への記載が義務づけられた事項は,1997年に第3次医療法改正が行われるまでは「必要病床数」の提示と,「医療圏」の設定だけであった.

一般病床の機能分化

著者: 奥村二郎

ページ範囲:P.635 - P.641

 街では,高齢者が目立ち,子どもが少なくなったことを容易に実感できるようになっているが,家庭や施設の中では,急速な高齢化の進展とともに介護や医療を必要とする高齢者が増加している.今後の超高齢化社会における介護問題については,介護保険制度の準備が進んでいる.一方,医療提供体制の見直しについては,1985年から3次にわたる医療法改正により,特定機能病院,地域医療支援病院,療養型病床群,医療計画などが制度化され,急速な高齢化,疾病構造の変化,医療の質の向上などに対応している.現在,医療審議会においては,一般病床の急性期病床と慢性期病床との区分など医療制度改革についての審議が進んでいる.
 ここでは,これまでの医療施設(病院)や一般病床(精神病床,感染症病床,結核病床を除いたその他の病床)を中心に制度改正の経緯や現状における課題,今後への議論などについて概説する.

精神病床の機能分化

著者: 山内慶太

ページ範囲:P.642 - P.645

 今後の精神医療のあり方について,1998年厚生省には「精神保健福祉法に関する専門委員会」や,「精神病床の在り方に関する検討部会」などが設けられ,検討が進められた.今後,これらの報告を踏まえて,様々な角度から活発な議論がなされることが期待される.そこで本稿では,まず精神病床の現状を概観し,さらに検討部会の報告の概要などを踏まえて,検討すべき課題を論じたい.

療養型病床群への転換とその対応—北海道の場合

著者: 樽見英樹

ページ範囲:P.646 - P.647

 2000年4月からの介護保険制度の施行を背景として,北海道においても療養型病床群の整備が進んでいる.元来,北海道は高齢者の入院受療率の高い地域であり,介護保険制度やその下での療養型病床群の扱いに関する医療関係者の関心も極めて高い.そのような中で,北海道としては1998年8月に要介護者に関する療養型病床群の整備目標などを定めたところであり,1999年度中に介護保険適用となる施設の指定を行うこととなる.本稿においては,まず北海道における療養型病床群の整備目標とその考え方について述べ,続いて現在までの整備状況と今後の展望について概観することとしたい.

療養型病床群への転換とその対応—石川県の場合—病床過剰地域での転換

著者: 藤井充

ページ範囲:P.648 - P.649

 石川県は人口約118万人で,金沢大学医学部と金沢医科大学の二つの医師養成機関があり,全国的にみて人口当たりの医師数とともに病院病床が多い県の一つとして知られている.1997年の医療計画見直しの時点で既に能登北部,能登中部,石川中央,南加賀の四つの2次医療圏(図1)のうち表のように能登北部を除く三つの医療圏が病床過剰地域となっている.
 現在,石川県においては急速に病院病床の療養型病床群への転換が進んでおり,本稿ではその動向をみていきたい.

療養型病床群への転換とその対応—福岡県の場合

著者: 財津裕一

ページ範囲:P.650 - P.652

第3次改正医療法施行前後の状況
 第3次医療法改正で,介護にかかわる療養型病床群(以下療養型)の整備目標を定めることとなり,併せて診療所の療養型が認められた.診療所療養型は病床非過剰地域,あるいは病床過剰であっても療養型が少ない地域には,介護保険開始時までに必要数を確保するうえで好都合であるが,福岡県のように,全医療圏で病床過剰で,一部を除き療養型への転換も進んでいた地域(表1)にとっては,悩ましいものであった.
 十分な時間をかけて整備目標や算定数(病床過剰地域における診療所療養型の特例枠)を決定したいが,その間に病院の転換が進むと算定数が減りかねないという状況で検討を進めていった.

【座談会】これからの医療計画と地域医療

著者: 天本宏 ,   野村幸史 ,   粟根康行 ,   大道久

ページ範囲:P.653 - P.660

 大道(司会)本日は,今進行中の医療改革などの流れの中で今後の地域医療のあり方,あるいはそこにおける医療計画の具体的な位置づけ,役割などについてお話をいただきたいと思います.
 次の医療法の改正に向けた方向もかなり明確になり,いわゆる急性期と慢性期の病床の機能を区分することと,その区分されたそれぞれの病床について医療計画の中で対応していくという流れがはっきりしてきました.今後の地域における医療のあり方,とりわけ病床数の量的な整備が具体的に問われています.

グラフ

健康づくりのセンターオブセンターとして期待される—あいち健康プラザ

ページ範囲:P.617 - P.622

 愛知県では平成元年に,「人生80年を心身ともに健康で」というニーズに応える「あいち健康の森基本計画」が策定された.この計画に基づいて「あいち健康の森」が整備され,その中核施設として「あいち健康の森健康科学総合センター,愛称:あいち健康プラザ」が1998年6月14日に全館オープンした.
 あいち健康プラザは名古屋市の南東,JR東海道線で名古屋から約30分の大府市と知多郡東浦町にまたがる約100ヘクタールを占めている「あいち健康の森」の中にある.

HOSPITAL INDEX

災害拠点病院(地域災害医療センター)一覧・4

ページ範囲:P.624 - P.624

〈災害拠点病院指定要件〉
 1.災害拠点病院として,下記の運営が可能なものであること.
 1)災害拠点病院においては,24時間緊急対応し,災害発生時に被災地内の傷病等の受入れ及び搬出を行うことが可能な体制を有すること.

主張

「コミュニティ」の意味

著者:

ページ範囲:P.625 - P.625

 これからの医療,社会保障や,広く日本社会のあり方を考えるうえで,「コミュニティ」という言葉が,新しい重要性をもつて浮かび上がつているように思われる.
 ここで「コミュニティ」とは,人々がそれに対して一定の帰属意識を持ち,またなんらかの支え合い,ないし相互扶助の意識が働くような集団のことをいう.このように考えてみると,戦後の日本において,そうした「コミュニティ」として機能したものが主として二つあったと思われる.すなわち「カイシャ」と「核家族」である.

特別寄稿

EBMと診療ガイドライン

著者: 髙原亮治

ページ範囲:P.661 - P.669

 近年,EBM (Evidence basedMedicine,根拠に基づいた医療)という概念が急速に普及している.EBMやその周辺の事情については,筆者も紹介しているし1),標準的な教科書の邦訳も出版されている2〜4)
 急速に普及したものの常として,EBMも例外ではなく,誤解と反発を引き起こしている.第1は,EBMは臨床上の経験を軽んじ特殊な統計学に依拠している,というものである.これに対しては,EBMの教科書自体を一読して誤解を解いていただく以外にない.また,EBMは,一般の患者,消費者の医療批判から,伝統的な医学の権威を臨床疫学という新奇な方法で守るものであるという議論に至っては,EBMの発展してきた歴史的過程や科学思想史的な位置に対して医学の専門家としてあまりにも理解がないというべきであろう.確かに,EBMが近年わが国やG7といわれるサミット諸国やWHOで「公認」の医学思想として認められつつあるのは事実である5)が,これは,その普遍的性格によるものであって,既成の権威を保守するための陰謀ではない.むしろ,EBMの思想は患者,市民に対し,医学専門誌上において,専門家と対等に議論を行うという雰囲気を形成しており,明らかに理知的な消費者運動の側に立っている.

病院ボランティアの提案—東札幌病院・1

共に過ごす・1

著者: 斉藤悦子 ,   石垣靖子

ページ範囲:P.670 - P.670

 今回からは東札幌病院のボランティアが独自に考え工夫した様々な活動について紹介する.まず最初は「患者と共に在って,共に行為する」活動「共に過ごす」である.

病院管理フォーラム Hospital Administratorへの道・7

Hospital administratorとしての実践

著者: 望月眞一

ページ範囲:P.671 - P.673

 現在,二つの病院と老人保健施設の事務長を兼務(熊本整形外科病院7年,熊本リハビリテーション病院6年,老人保健施設半年)している.それ以前に3病院と3企業を経ているので,27年の職歴の中で合計9事業所とは1事業所平均3年ということで,いかにも落ち着きがない職歴ではある.しかし,一つひとつの職歴と経験のすべてが筆者そのものであり,多くの方々とのつながりは,今日筆者の財産であり,重要な経営資源の一つである.
 今日まで,それぞれの職場の経営理念の具現化に向けて,どうしたら自分の役割を果たせるか.その時点時点で何が求められ,何が優先されるべきことか,絶えず考えるようにしてきた.ここに,筆者が前述の経験から日ごろ考えていることを述べて皆様の批評を仰ぎたい.

看護管理・16

カンファレンスの持ち方—1.チーム医療

著者: 中原久江

ページ範囲:P.674 - P.675

 1960年代後半,アメリカからチームナーシングが持ち込まれた.この考え方の普及とともに,チームカンファレンスの必要性が強調されてきた.当時,日本の看護界は,古い体質を脱皮し新しい看護を求めてエネルギッシュに模索をしていたから,このチームカンファレンスはどんどん普及をしていった.
 それまで,看護婦室の片隅で開いていた「患者の問題に関する話合い」は,れっきとした「カンファレンス」という名称に変わっていつた.

Principle 病院経営・7

レントゲングラフ法(1)

著者: 谷田一久

ページ範囲:P.676 - P.677

 筆者がかねてから提唱している病院経営診断手法に「レントゲングラフ法」という分析手法がある.この手法は病院機能の現状を分析するだけではなく,経営戦略策定に役立つ手法である.

連載 アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第57回

岸和田市民病院

著者: 暦利徹

ページ範囲:P.678 - P.683

 岸和田市は大阪府南部,泉州地域のほぼ中央にあり,大阪都心から25km圏に位置する人口約20万の城下町である.この地域の医療圏人口は83万人であるが,病床数が多い割には高機能病院が少なく,患者の圏外流出が続いていた.当院は「良い医療を地元で」を合言葉に,他の医療圏へ流出している患者に地元で医療を受けてもらえる急性高度医療総合病院として計画している.
 旧病院は昭和36年に建設され,いく度もの増改築で需要に対処してきたが,昭和61年に「全面改築の必要性」が市長に報告された.その後平成元年に基本構想が完成,全面移転による改築が決定している.

院内感染対策・1【新連載】

聖路加国際病院における院内感染管理システム—病院管理者の立場から

著者: 松井征男

ページ範囲:P.688 - P.691

 院内感染防止には,流水による手洗いが最も有効な手段であるのみならず,最も簡単で経済的な手段である.これに加えて抗菌薬の適正使用が極めて重要である.この認識のもとに,当院では職員の教育をはじめとする院内感染防止対策をとってきている.まず本稿の理解のために,院内感染防止に関連する事項を中心に当院の概略を簡単に述べたい.
 当院は1902年に創立され,1992年(平成4年)に520床の全室個室の新病院となつた.各病棟(通常35病室)は基本的に三角形で,その各頂点に当たる3か所には流水による通常の手洗い用のシンクがあり,液体石鹸,速乾式の手洗い用消毒液,使い捨てのペーパータールが配備されている(図1).各病室は洗面所,トイレ,シャワーを備え,この洗面所にもペーパータオルと液体石鹸を配備し,患者の状況に応じて速乾性消毒液も配備している(写真2).院内感染対策として各病棟にいわゆる陰圧室(室内の空気が室外に漏れ出ない程度の陰圧で,肌で感ずるほどの陰圧はない)を3室ずつ設けている.

早期退院計画・13

平均在院日数短縮の問題と対策

著者: 末永豊邦

ページ範囲:P.684 - P.687

 当院は鹿児島市の中心部周辺に位置し,病床数338床,医師65名(常勤41,非常勤24),看護婦244名を有する総職員数519名の中規模病院である.診療科は内科系が一般内科,循環器内科,呼吸器内科,消化器内科,腎内科,肝臓内科,放射線科で,外科系が外科,整形外科,脳神経外科,心臓血管外科,麻酔科(ペインクリニック)の12科である.看護体制は平成10年7月より新看護2対1(A)となっている.近くには国立病院(300床),財団法人の総合病院(450床),医療法人が2院(200床,168床)などの中規模病院が密集している病院群の中にあり,鹿児島県内で最も生存競争の厳しい環境にある.
 今日まで地域医療に貢献すべく努力してきており,その結果外来患者数が増加し,最近では1日400名近くが外来を受診している(図1).病床稼働率もこの数年間85〜86%であり,経営収支は安定している(図2).

短期連載 病院マネージメントからみた平均在院日数短縮法・5(最終回)

平均在院日数を超えて

著者: 加藤尚子 ,   長谷川敏彦

ページ範囲:P.692 - P.695

 本連載では,「平均在院日数を短縮する」というテーマに沿って,一般病院の平均在院日数について様々な角度から論じてきた.まず日本の病院の平均在院日数は欧米諸国に比較して数倍の長さであり,病院機能の未分化性が長期化の要因になっていることを指摘した.少子高齢化社会へ向けての機能分化の潮流の中で,在院日数の短縮が必然的に求められる状況を説明した.次に,短縮のための取り組み方法をパターン化して体系的に提示した.また,実際の経営戦略決定の支援のための数値モデルを提示し,統計データによる裏付けを試みた.そして前回,在院日数が短くなると労働力の集約性も高まるので,当然看護婦数も増えるだろうと推測されるが,日本の場合,諸般の事情が入り組んでいて,この仮説は現在のところ検証できないことを指摘した.
 最終回の今回は,具体的な事例を紹介しながら,これまでの議論を振り返ってまとめてみたい.

特別企画 『介護保険時代』における地域リハビリテーション・3

介護保険とケアマネジメント

著者: 竹内孝仁 ,   平光八郎

ページ範囲:P.696 - P.702

 平光八郎(司会) 私は今,福祉事務所に勤めており,福祉の人間が全国に名だたる竹内先生の講演の司会をするということで,大変光栄に存じます.20年前から竹内先生の教えを受けながら,浜村(明徳)先生たちと一緒に活動してきました.
 今日,竹内先生のご紹介にあたり,書棚の奥から雑誌の別刷を探してきました.「医学のあゆみ」の昭和53年5月13日号(第106巻第7号)で,表題が「リハビリテーション医学—人間科学としての特質と展望」とあり,2号にわたり連載されました.われわれは今,リハビリテーション医学は「生活の医学」だといっておりますが,治療医学,予防医学に次ぐ第三の医学といわれていたリハビリテーション医学を,竹内先生はこの論文で初めて,「生活の医学」として「生活」を前面に出されました.

医学ごよみ

7月—July 文月

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.703 - P.703

 今月も医学上に著名な人物の誕生日や命日,イベントを三つ選んで,述べることにする.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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