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雑誌目次

雑誌文献

病院58巻8号

1999年08月発行

雑誌目次

特集 病院におけるマーケティング戦略

病院におけるマーケティングとは

著者: 森下正之

ページ範囲:P.722 - P.725

 本稿の執筆依頼を受けた時,少しは時代も変わってきたのかと感じた.というのも筆者が医療マーケティング部分を担当し,『病院経営と医療マーケティング』という本を渡辺孝雄氏(医療コンサルタント)と共著で1987年9月に出版していたからである.ほぼ同時期に医療分野で初めてフィリップ・コトラーが“Marketing for Health Care Orga-nizations”を米国で出版していた.本の中身,学問的価値は別としても,出版スピードの点で負けてはいないと内心得意でもあった.
 しかし,同書の出版後に講演依頼を受けたセミナーで,本書のマーケテングについて解説を行ったが,セミナーに参加された医師の方々から「日本の医療にマーケティング導入なんてとんでもない」や「米国生まれのビジネス手法は日本の医療には不適当」などと散々な評価を受けた.それでもセミナー後に酷評されていた先生方に何冊も当該書を購入していただいたことを,昨日のできごとのように鮮明に覚えている.

資源主導から需要主導の病院経営へ—根拠に基づく経営(evidence-based management)にもはやマーケティングは必須

著者: 長谷川敏彦

ページ範囲:P.726 - P.731

はじめに
 1.経営とは何か
 筆者の勤務する国立医療・病院管理研究所が提供する病院幹部,すなわち院長・事務長・看護部長への研修では「あなたにとって経営とは何か」と尋ねるのを楽しみにしている.事務部長の何人かはずばり「金儲けである」と答える人もあるが,「収支のバランスをとること」,あるいは「職員を食べさせること」と答える人が多い.

病院におけるマーケティングの実際

著者: 井手義雄

ページ範囲:P.732 - P.735

 「療養型病床群の経営は,いかに行えば採算がとれるであろうか?」,「老人保健施設を検討しているが,許可されるであろうか?」,「介護保険に対応したサービスは,何がよいであろうか?」.少子高齢社会に向けての医療制度・医療保険制度改革などの議論に対する病院経営者の迷いは深刻な様相を呈している.
 戦後の健康保険制度導入以来,社会保険診療報酬の改定により,なんら経営上の努力を払わずとも経営が可能な状況下で馴らされた病院経営が急激に揺れ動いている.

病院におけるマーケティングの手法

著者: 堀口裕正

ページ範囲:P.736 - P.739

 現在,医療供給体制は地域連携と病院の機能分化の時代であるといわれている.では,どのように地域と連携していくべきなのだろうか,自分の病院が供給する機能は何であるのか,マーケティングはそれを解く鍵を教えてくれるツールであると考えている.
 マーケティングとは何か.それは顧客の声を聞くことである.地域の連携システムの中で何を期待されているか,どのような機能を果たしているのかは,最終的に地域の患者さんに支持されることから始まるのである.

北米における病院のマーケティング活動の実際

著者: 髙橋淑郎

ページ範囲:P.740 - P.744

 本稿の目的は,北米の二つの病院のマーケティング活動を紹介し,「戦略的経営」の視点から分析することにある.なぜなら,筆者の専門領域はマーケティングではなく,病院経営,特に,非営利組織,戦略,成果測定,経営分析・改善といった領域であるので,カナダを中心として,北アメリカ大陸の病院における事例を「標的とする市場の決定」,「標的市場で成功するマーケティングミックス(サービス,価格,PR,質,量など)」および「競争戦略」の視点から検討するものである.

【てい談】医療のdemandをつかむ

著者: 鈴木隆夫 ,   竹林和彦 ,   井手義雄

ページ範囲:P.745 - P.753

 井手(司会) 21世紀が目前に迫り,少子高齢社会における医療保険制度など急激な改革を余儀なくされております.
 そんな中で,病院においても詳細な経営計画に基づいた運営が求められるようになりつつあります.医療のdemandを的確につかみ,病院経営に反映させていくことが,今後最大の課題となると思われます.

グラフ

地域の基幹病院として病診連携体制の確立に取り組む—市立甲府病院

ページ範囲:P.713 - P.718

 甲府盆地に位置し,戦国時代には武田氏が3代にわたり館を構え天下をうかがい,後には甲州街道最大の宿場町として繁栄した甲府市.その市街地の中心から南へ車で10分ほどのところに市立甲府病院はある.
 市立甲府病院は,昭和7年に元紺屋町の市立愛宕病舎の一部を転用して開院.昭和25年に市立甲府病院の名称で50床規模の病院として開設.増え続ける医療ニーズに対応する形で昭和39年には幸町に一般病床248床,結核病床38床として新築移転した.その後も地域の要請に応える形で増床,医療機器の整備を重ねてきたが,施設の老朽化,狭隘化が深刻となり平成7年より4kmほど離れた増坪町に新病院の建設を開始,本年5月に開院の運びとなった.

HOSPITAL INDEX

日本小児総合医療施設協議会会員施設

ページ範囲:P.720 - P.720

主張

介護保険による医療改革

著者:

ページ範囲:P.721 - P.721

 介護保険の施行に伴い,今まで医療保険から給付されていた老人保健施設,デイケアの全部,および老人病院(療養型),訪問看護・リハビリテーションの大部分が介護保険より給付される.また福祉の対象であった特別養護老人ホームの全部,およびホームヘルプ,デイサービスのほとんどが介護保険より給付される.
 確かに医師が外来・在宅で直接行う診療,および病院における入院医療は医療保険にそのまま残る.そして,福祉サービスについても40歳未満および40〜65歳未満の加齢性疾患以外で要介護になった場合は現状のままである.また財源的には介護保険は医療保険の7分目にすぎない.しかしながら,介護保険の施行は,介護機関ばかりでなく,医療界全体にも大きなインパクトを与えることになる.

レポート

痴呆性老人のケアマネジメントシステム—グループホームでの実践

著者: 川室優

ページ範囲:P.754 - P.756

 今日,痴呆性老人のグループホームは,平成9年度の国の新規事業の一つとして創設され,平成10年度には200か所の「痴呆対応型老人共同生活援助事業」が開始されている.しかしながら,公的介護保険の導入を機に痴呆性老人のケアマネジメントが必要であるにもかかわらず,痴呆性老人の十分なケアサービスについて,いまだ明確なシステムが確立していないのが実情である.国が平成12年度に導入する公的介護保険の適用のためのケアアセスメントやケァプランが,痴呆性老人にとって真に有用であるか否かは定かではない.
 本稿では,筆者が検討したグループホームの実践から,グループホームでのケアの効果とケアに影響を及ぼす問題点を明らかにし,痴呆性老人に対するケアマネジメントについて言及する.

急性期入院医療費定額支払い方式試行における問題点—特にMDC-5に関して

著者: 大内将弘 ,   山田俊三 ,   上田京子

ページ範囲:P.757 - P.759

 DRG (diagnosis related groups)本来の目的は病院の運営上のむだを省き生産性を高め,限りある医療資源を大切にし,むだな医療費を削減できないか,適正な医療費とはどの程度なのだろうか,などについて考えるために開発された手法である1)
 わが国では1996年2月,中央社会保険医療協議会(中医協)においてDRGに則った定額払い方式のことが初めて議論された.基本問題小委員会,試行調査検討委員会などが構成され,各疾患ごとの作業グループにより多方面から調査検討され,13の主要診断群中,全部で183の診断分類案が2年7か月後の1998年9月に正式に決定された.そして,2か月後の1998年11月に国立病院8施設,社会保険病院2施設の10病院において急性期入院医療費定額支払い方式の試行が実施されているのである2)

連載 医療事故・医事紛争防止とリスクマネージメント・10

リスクマネージメントの構築(2)

著者: 川村治子

ページ範囲:P.760 - P.763

 複数の施設の看護部門に協力してもらい「ヒヤリ・ハット」体験を収集している.分析してみると,実に約80%は施設を越えて看護部門全体に共通していることがわかった.一施設で取り組めば事故防止の道のりははるか遠いが,多数の施設がこうした個人の貴重な教訓を組織的に活かした成果を持ち寄り,事故防止マニュアル,卒後教育の教育材料として共有できればどんなに効率的かと思わずにはいられない.
 さて,前回から看護部門でリスクマネジメント(以下,RMと省略)を立ち上げ,病院全体へと拡大していくプロセスを紹介している.医師の指示を受けて医療サービスの最終的な提供者になる看護部門は,重大な医療ミスの当事者となる確率が院内で最も高い部門である.まず看護部門にRMをしっかり構築できれば,事故防止にかなり貢献できるはずである.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第58回

感染症に対応したこれからの病院

著者: 河口豊

ページ範囲:P.774 - P.780

 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に旧伝染病予防法はエイズ予防法や性病予防法とともに再編され,新法として1999年4月から施行された.われわれは「感染症病棟に関する建築・設備に関する研究会」を組織し,平成10年度厚生科学研究費を受け,法律に対応した施設基準作りの作業をしてきた.そこで,ここに感染症に対応した施設の考え方と,感染症指定医療機関の施設基準について紹介したい.なお,一部に筆者の個人的意見も加えてあることを最初にお断りしておく.

院内感染対策・2

感染症診療と院内感染管理における感染症科の役割

著者: 古川恵一

ページ範囲:P.781 - P.783

院内感染管理の目的
 私たちが院内感染管理を実行する目的として,次のようなことがあげられる.
 1)患者が院内感染に罹患しないようにできる限り防御することである.また医療従事者を各種感染から守ることもあげられる.そして,2)患者が院内感染を合併した場合は,できる限り早期に診断して,抗菌薬の適正使用により的確に治療することである.また,3)抗菌薬の適正使用により,薬剤耐性菌の出現をできる限り防止することである.

病院管理フォーラム リスクマネジメントの実践・1

武蔵野赤十字病院におけるメディカルリスクマネジメント(1)

著者: 三宅祥三

ページ範囲:P.764 - P.765

 一般に企業災害においては,災害を起こした企業は,あらゆる努力をして災害防止に努めるために,同じ企業では同じ災害の再発はほとんど起こらないといわれている.ところが,医療界にあっては同じ病院で同じような事故が繰り返し起こっているといわれ,「医療界には学習効果はないのでしょうか」という問い掛けさえされている.このような状態が続くと,チーム医療のなかで,医師としての信頼を失いかねない状況さえ起こりかねないと危惧される.このような状況を改善していくには,病院という組織体として医療事故防止,すなわちメディカルリスクマネジメントへの取り組みが必要になる.
 一方で,人間は誤りを犯しやすい動物である.この誤りを犯さないように組織的に防止して安全で質の高い医療を提供することは,医療機関としては最も重要な使命である.このような観点から私ども武蔵野赤十字病院の取り組みの実際を紹介させていただく.

Hospital Administratorへの道・8

小規模医療機関2年間の軌跡—付加価値の追求

著者: 佐々木浩二

ページ範囲:P.766 - P.767

診療所概要
 小山整形外科内科は,平成9年7月,19床の有床診療所として栃木県小山市に新規開設し,2年が経過した.スポーツ整形外科・救急医療(交通事故,労働災害),関節鏡・外傷学を専門分野とし,リハビリテーションは施設基準を取得している.
 開院当時,小山市では老人デイケア(Ⅱ)を実施する医療機関はなく,患者送迎は医師会の誤解を招いたこともあった.

看護管理・17

カンファレンスの持ち方—2.リハビリテーションカンファレンス

著者: 井上加野

ページ範囲:P.768 - P.769

 リハビリテーション創始者のラスク氏は「リハビリテーションにおいて障害者が何を失ったかが問題ではなく,能力として何が残されているかが出発点である」と述べている.
 当院のリハビリテーション(以下リハビリ)は急性期病院として機能している.したがって,救命後は早期に残存機能をいかに発揮させるかを主眼に,四肢の機能訓練だけではなく,その人がその人らしく生きるためのゴールに向かって,プログラムを展開している.整形外科病棟では約半数がリハビリ対象であり,リハビリ部門との連絡調整を日々行いながら週1回のカンファレンスを実施している.機能の回復状況については共有できているが,その人らしく生きるためのQOLの向上までつながるカンファレンスになっていない.以下に示す一事例をとおしてリハビリカンファレンスの問題を明確にし,対策を考えてみたい.

Principle 病院経営・8

レントゲングラフ法(2)

著者: 谷田一久

ページ範囲:P.770 - P.771

医療の提供状況を読む
 レントゲングラフ法(以下,RG)については,くどくどと説明を加えるよりも,具体的な事例をみてもらうほうが話は早い.図はとある公立病院の過去隔年3か年のRGである.点のばらつきが,年度によって大きく変化していることに気づくであろう.これすなわち,経営戦略の違いであり,結果として果たした病院機能の違いでもある.
 同じ病院でありながら,入院医療の提供状況に変化が認められるのである.最も古い年次のグラフ(図—A)は,右方向への点の展開があまり認められない.縦軸近辺に点は密集している.このことが意味するものは何か? このような状況は,積極的医療行為を濃厚に行うことが求められる患者が少ないことを意味する.つまり,高点数となるような医療行為があまり行われておらず,同様に薬価の高い薬も使われていないということを意味するものである.

病院ボランティアの提案—東札幌病院・2

共に過ごす・2

著者: 斉藤悦子 ,   石垣靖子

ページ範囲:P.772 - P.772

午後はお茶の時間でリラックス
 糖尿病患者の多い内科病棟で毎週1回「午後の喫茶室」と名付けた行事を実施しているが,今は生きた栄養指導の場として患者の楽しみの一つになっている.
 「今日,使用するお菓子のカロリーを調べてきます」と担当ボランティアが栄養課に行くことから喫茶室が始まる.病状が安定している患者の憩いの時間を考えたいというスタッフからの要望で始まった喫茶室は,茶菓をともにしながら人々の交流と学習の場となっている.

癒しの環境

入院しててもお父さん—病室での電話

著者: 山下道隆

ページ範囲:P.773 - P.773

 病室での電話の使用については3年半前の日経メディカル1995年10月号87ページに「携帯電話の電波障害」について論じられてから各病院でも検討され,新聞の投書欄でも賛否両論が活発に飛び交いました.私も,骨髄移植のため入院した際,白血球が減ってベッドアイソレータから出られない時など,携帯電話に助けられた経験から,A新聞投書欄に「病室での電話の使用は,病状や障害のため自由に公衆電話まで出かけられない患者さんたちにとって人権の回復を意味する」旨論じました.
 入院していると体調がよくて面会者を心待ちにしている時もありますし,看護婦さんの検温の巡回に応えるのさえおっくうな時もあります.体調のよい時相手を選んで交信したり,つらい時に家族に愚痴をぶつけたり,子どもたちの動静を確かめたり,携帯電話を用いたコミュニケーションが沈みがちな心を奮い立たせてくれました.

民間精神病院はいま—21世紀への展開・18

野添病院—21世紀の「地域に開かれた精神医療」をめざして

著者: 堀川公平

ページ範囲:P.784 - P.789

 当院は創立以来,本年の8月で35年を迎える.1994年8月,買収により理事長となって以来,「安定した経営基盤作り」と「地域に開かれた精神医療」の展開を目指し,今日まで努力してきた(表1,2).その結果は,この4年余で平均在院日数は当初の2,156日から161日となり,平均在院期間も12.5年から3.7年と劇的に減少した(図1).ここにきて,ようやく「病院」と呼ぶにふさわしい精神医療が提供できるようになったと思う.また,経営的には入退院が激増した分,リスクも増え,とても「安定」したとはいえぬが,医療費改正により,長期入院患者に依存した「収容所的経営」から,現在は外来(狭義)だけでなく部分入院部門(デイケア,デイ・ナイトケア,ナイトケア)や訪問看護を駆使した長期入院患者の退院促進と精神科急性期治療病棟(60床)による短期入院医療中心の,いうなれば本来の「医療的経営」へと体質を変えることができたように思う(図2).
 そこで,当院の展開する精神医療およびそれを支える治療システム,治療ソフト,ハードそして教育研修システムを述べ,特徴を明らかにしたい.

特別企画 『介護保険時代』における地域リハビリテーション・4

介護保険と医療

著者: 長谷川幹 ,   栗原正紀

ページ範囲:P.790 - P.795

 栗原(司会) 私は救急医療の現場にいる人間です.昨日から介護保険が論議されておりますが,参会の医師や看護婦のなかには,介護保険の問題を少し距離があると感じられている方々もおられるのではないかと思います.特に病院に勤務している外科医や内科医にとっては,なかなか通らない話題かもしれません.
 しかし,もう一つの大切なことは,この介護保険の底流には医療制度の抜本的改革という課題があるということです.その端的な例が在院日数の短縮化です.今,病院では管理工程の手法から生まれたクリティカルパスが大いに話題になっています.

データファイル

「抑制」についての考え方とその現状・1—「老人の専門医療を考える会」全国アンケート結果の分析より

著者: 中川翼 ,   大塚宣夫 ,   吉岡充 ,   平井基陽

ページ範囲:P.796 - P.798

 「点滴や経管栄養のチューブを抜かないように」,「車いすからずり落ちないように」など様々な理由で,認知能力や身体的に低下した高齢者をベッドや車いすに抑制する(縛る)という行為は,高齢者の医療施設や福祉施設で少なからず行われてきたのではないだろうか.厚生省は来年4月に施行される介護保険の対象施設で,こうした「抑制」や「拘束」を原則として禁止する省令を本年3月31日付で公表した.
 この度,1983年に設立された老人医療の質の向上を目指す任意の有志団体である「老人の専門医療を考える会」の会員病院61か所を対象として「抑制」についてのアンケート調査を実施し,この問題についての日本の長期療養高齢者病院の考え方と現状を明らかにしようと試みた.

医学ごよみ

8月—August 葉月

著者: 木村專太郎

ページ範囲:P.799 - P.799

 今月も医学史上で著名な人物3名を,誕生日と命日にちなんで紹介していく.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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