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雑誌目次

雑誌文献

病院59巻1号

2000年01月発行

雑誌目次

特集 病院・医療・社会—21世紀を展望する

21世紀の科学・技術と医療

著者: 村上陽一郎

ページ範囲:P.14 - P.16

20世紀の科学・技術
 科学と技術は20世紀後半から次第に歩み寄り始めた.この事実は,明治以来科学研究を「富国強兵・殖産興業」という国家目標に奉仕するものとして位置付けた日本社会のなかでは,あまり切実な理解を生み出さない惧れがあるが,近代科学および近代産業技術の出発点である欧米では,現在においてさえ,問題とされるほど,大きな変化があったと見てよいだろう.
 確かに19世紀産業革命の進行とともに,時を同じくして近代科学はようやく西欧社会のなかで制度化が完成する.化学のように,科学研究の制度化が,そのまま化学薬品工業の立ち上がりに結びついた,という目覚ましい実例があるにも関わらず,また初めて19世紀の西欧社会に登場した「科学者」たちが,自分たちの携わる「科学」という新しい知的な活動の宣伝のために,時に社会に向かって,科学の持つ「有用性」を喧伝することがあったとしても,科学は基本的には,社会のなかで,隔絶された制度であることを自ら好んだ,ということができるだろう.

21世紀の病院像

著者: 堺常雄

ページ範囲:P.17 - P.20

 医療における20世紀後半の進歩は目覚ましく日進月歩の感があり,21世紀という100年を展望することは不可能なことである.そこで,ここでは病院の視点から今までの医療を振り返り,その中から今後も変わらないだろうと思われる普遍性を見いだし,21世紀の近未来病院像について述べてみたい.

21世紀の病院と医療—ビジョンと改革の方向

病院におけるEBMの実践

著者: 森本剛 ,   福井次矢

ページ範囲:P.21 - P.24

EBMとは
 世界全体を見回すと,過去約半世紀の間に信頼性の高い根拠(エビデンス)をもたらすランダム化比較対照試験(randomized controlled trial;RCT)が数多く行われてきた.同時にコンピュータ技術の発展に伴い,多くの医師にとってコンピュータが大変身近なものになり,欧米先進国が集積してきた膨大な医学情報データベースへのアクセスが容易になってきた.そのような時代的変遷を背景にEBM (evidence -based medicine)が広まってきた.
 EBMとは入手可能な範囲で最も信頼できる根拠(質の高いエビデンス)を把握したうえで,患者に特有の臨床状況や意向に配慮した医療を行うための一連の行動指針である.EBMの手順を図示すると図1のようになる1)

消費者のニーズと病院の対応

著者: 清水とよ子

ページ範囲:P.25 - P.28

 世の中すべてが不透明なまま,新たな世紀を迎えようとしている.
 医療も全く混沌としている.医療改革は何度も唱えられながら,患者側が希望を託せる21世紀像は見えてこない.日本の医療に未来はあるのだろうか.

臨床医学研究の展望

著者: 矢崎義雄

ページ範囲:P.29 - P.33

 医学・医療は20世紀に入り,ようやく科学的なアプローチが導入され,飛躍的な進歩を遂げた.それはX線撮影を中心としたX線の医療への応用にはじまり,抗生物質の開発,ホルモン,ビタミンの発見,免疫の仕組みの解明による生体防御の理解,そしてワトソン,クリックのDNA二重らせんモデルの提唱による爆発的な分子生物学,遺伝子学に関する知見の集積といった生命科学としての医学の進歩により,医療は大きな変革を遂げたといえる.
 一方,このような医療の進歩に伴って,疾病構造も大きく変化し,人類の脅威であった感染症を中心とした急性疾患の多くが制御されるようになり,人類もその恩恵を十分に浴するところとなった.しかし,疾病は現在の医療では克服が困難な慢性疾患などが,高齢化社会と相まって大きな課題になっている.そして,染色体における遺伝子の構造と機能が解明されるようになると,医療はさらに大きく変貌するものと予測される.

医療保険と医療経済—医療・介護がリーディング産業になるための条件

著者: 松山幸弘

ページ範囲:P.34 - P.37

医療・介護は高齢社会最大の政治問題
 本稿を執筆している1999年11月になっても,2000年に予定されている年金改革,医療改革,介護保険導入のコンセンサス作りが迷走を続けている.臨時国会で一応の合意が成立したとしても,社会保障制度全体に対する国民の信頼を取り戻すためには多くの課題が残されるように思われる.
 改革に対するコンセンサスが得られない最大の原因は,バブル崩壊以降10年以上続いている経済の低迷にある.低成長,高失業率の下では各制度の追加財源確保が難しく,負担増を伴う改革は受け入れられないからである.これは,経済が順調で財政黒字の成果を医療給付拡大に当てることを検討している米国と好対照である.

倫理問題への対応

著者: 清水哲郎

ページ範囲:P.38 - P.40

 21世紀の病院と医療をめぐって倫理問題についての展望と医療者のあるべき対応を示せということであるが,筆者にはそれに対応する力はない.筆者にできることはせいぜい21世紀の入り口に立って,現在の状況を見て,これからどちらの方向に進むべきかについて私見を述べるくらいである.
 確かに医療技術は,各分野にわたって今後さらに筆者の現在の想像力をはるかに超えた進展をみせるであろう—遺伝子技術,クローン技術,生殖補助医療,出生前診断,臓器移植ないし人工臓器等々.ここでは遺伝子技術について,それが現実の医療に,したがって一般の生活者に及ぼす影響についていくつか拾い上げてみたうえで,結局問題の基本は臨床倫理的場面のものとなることを示す.

グラフ

全国初の特別医療法人が21世紀に向けて始動—特定医療法人/特別医療法人即仁会北広島病院

ページ範囲:P.1 - P.6

 北広島病院(北海道北広島市)は1995年に開設20周年を迎えた.竹内實理事長はその記念誌で,自院の進むべき方向を次のように宣言した.すなわち,
 第1は地域の医療ニーズに合致していなければならない.診療圏内の診療所や他の病院との連携が必要である.

HOSPITAL INDEX

感染症指定医療機関・1

ページ範囲:P.8 - P.8

〔感染症指定医療機関について〕
厚生大臣または都道府県知事は,新感染症,1類感染症および2類感染症の患者の医療を担当する感染症指定医療機関(一定の基準に合致する感染症指定病床を有する医療機関)を指定する.
○特定感染症指定医療機関
・厚生大臣が指定
・全国に2〜4か所
・新感染症の所見がある者または1類感染症もしくは2類感染症の患者の入院医療を担当できる基準に合致する病床を有する医療機関

特別寄稿 実践から病院情報システムの功罪とそのあり方を考える

1.山で潮干狩りはできない

著者: 田原孝 ,   日月裕

ページ範囲:P.41 - P.44

 情報システムとして最も成功している例の一つは,パチンコ業界のシステムである.この成功の最大の要因は,パチンコ業界では必要なデータや情報はなんであるか,それをどのように分析すべきか,その結果をどのように利用したらよいのかを,コンピュータシステム導入以前から知っていたことである.そのため,コンピュータ導入時に行ったことは,それらの手作業によるデータ解析の手順をコンピュータに搭載させただけである.
 ひるがえって考えると,医療・福祉機関の情報システムは,必要なデータや情報は何か,そのデータや情報をどのように利用するのかという視点が欠落したまま,あるいは曖昧なままで,「コンピュータで何かをやってみよう」,「何ができるのだろうか」というコンピュータ側の視点で作られてきた.そのため,データは整合性に欠け,本当に必要なデータが欠如していたり,うまく利用されていない.

病院管理フォーラム Hospital Administratorへの道 part 2・1

原点から考え直す

著者: 二川安弘

ページ範囲:P.46 - P.48

 形成外科メモリアル病院に着任してから1年が経過し,この1年を振り返ってみようと考えていたところ本稿を執筆する機会に恵まれた.そこで今回はこの1年を総括する意味も込めて,自らの仕事を原点から考え直してみようと思う.
 形成外科メモリアル病院は,形成外科単科としては日本最大の病床を有し,昭和55年の開院以来,北海道の形成外科の中核的な役割を担ってきた.しかしながら,道内の中核都市の医療機関に形成外科が開設されてくるにしたがって,診療圏は徐々に縮小し,北海道全域から札幌市一円を診療圏とするに至っている.この診療圏の縮小は当院の経営環境に大きな影響を及ぼしていた.

看護管理・22

看護業務の採算性を考える(1)

著者: 桃井妙子

ページ範囲:P.49 - P.51

診療報酬制度における看護業務の位置づけ
 最近,厚生省や政府与党は医療提供体制の抜本改革についていろいろな案を検討している.世界一のスピードで人口の高齢化が進み,国民医療費が膨大する一方で,バブル崩壊後経済の低迷は長引いている.これを乗り切るために,従来は医療に含まれていた介護の部分を分離する一方,病院を特定機能病院,地域医療支援病院,一般病院,療養型病床群などに新しく分類して,それぞれに別々の診療報酬制度を追加・変更した.しかしこれでも財源が不足するとして,現在様々な審議の場で,急性期医療と慢性期医療や医療費包括支払制度その他が議論されている.
 欧米に比べて一般人口と対比した病床数が抜きん出て多く,入院患者の平均在院日数も先進諸国に較べて非常に長い日本において,平均在院日数を一つの尺度として急性期病床と慢性期病床に分けて医療費削減を考えることが厚生省と与党のねらいである.病院ごとに分けるか病棟ごととするかは未定のようであるが,とにかく急性期の初めのいく日かは出来高払いとして後は包括払い,慢性期は包括払い,というのが今のところ大方の考えとみられている.この議論の前提の一つとして,看護体制が濃いほど平均在院日数が少ないというデータがある.

経営管理—職員活性化の歩み・4

看護部がかわったわけ

著者: 日根野谷勢津子

ページ範囲:P.52 - P.53

 自治省から「廃止勧告」を受けた1991年当時,当院には暗くて重苦しい空気が充満し,職員には「どうにもならない」という諦めと「なんとかしなければ」という危機感とが交錯していた.しかし,再建に向けての明確な運営方針が示されることもなく,職員の問題意識は次第に薄れ,諦めは増大した.その結果,病院組織そのものの活気が失せ,身動きがとれなくなっていた.
 しかし,同年9月に院長が交代し院内の改革が始まった.新院長の「坂出市民の病院を潰してはならない」という熱意,破天荒な発想,そして零細企業のオヤジさんのような経営手腕に刺激され,職員の意識は覚醒し,病院全体が動きだしたのである.

リスクマネジメントの実践・6

八尾病院のリスクマネジメントの取り組み—医療の質調整委員会の設置

著者: 森功

ページ範囲:P.54 - P.56

 昭和63年11月医真会八尾病院がスタートした.大阪府の東南,中河内地域の中心である八尾市の南端で柏原,藤井寺市に接しており,実質診療対象人口は約50万人という地域である.昭和60年施行の地域医療整備計画による大阪府での最後の認可病院となった.
 当院は21世紀の医療需要に耐え得るように,当初より地域中核型の総合病院として運営してきた.すなわち美容外科,精神科を除いて口腔外科・歯科を含めた総合病院として診療科を整備してきた.さらに平成7年には民間病院として第1号の開放型病院の認可を得,病院と診療所の協力関係の下,開かれた医療を可能とした.現在は116名の登録医に共同診療を保証している.また本年3月には臨床研修指定病院の指定を得,教育型病院として研修を開始している.

病院ボランティアの提案—東札幌病院・7

視覚からの癒し・1—語りかける元気な絵

著者: 斉藤悦子 ,   石垣靖子

ページ範囲:P.57 - P.57

 当院の廊下の壁には,患者や家族が描いた絵画や書,時には時間をかけて完成させたジグソーパズルなどがかけられている.しかし,時間の経過とともにそれらの作品に込められた思い出や意味も薄らいでいく状況もあった.単なる作品の羅列は,それらがどんなに優れた芸術的な意味を持っていても,人々の心にとどまり,癒しの効果を発揮することは難しい.

Principle 病院経営・13

いま病院に望まれる運営システム(2)

著者: 谷田一久

ページ範囲:P.58 - P.59

 前回の続きである.なお,図については前回(第58巻12号)のものをご参照いただきたい.

連載 事例による医療監視・指導・1【新連載】

医療監視の目的と医療法の考え方

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.60 - P.61

 筆者の勤務する東京都衛生局医務指導課では,医療法に基づき,東京都内の病院について開設の許可や定期的な立ち入り検査などを行っています.「医療監視」というと厳めしいイメージがあり,医療監視員が調査にくるというだけで,緊張される病医院の先生方も多いようですが,私どもは決してあら捜しをしに伺うわけではありません.日頃,先生方が感じておられる誤解(?)を払拭するために,医療監視の実際について何回かに分けて,ご紹介申しあげようと思います.
 今回は第1回目ですので,まず医療監視の目的について,医療法の考え方と,医療監視に先立つ病院の新規開設や病床の増床の際の注意点などについて,最近経験した実例も交えてご紹介いたします.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第63回

【座談会】20世紀の病院建築

著者: 栗原嘉一郎 ,   船越徹 ,   高橋公雄 ,   長澤泰

ページ範囲:P.66 - P.72

 長澤(司会) 本日は,この20世紀の病院建築でどんなことが起きたのか,またそれがよかったのかどうかを中心に,将来に対する展望を含め,お話をいただきたいと思います.
 まず筑波大学の名誉教授で,日本医療福祉建築協会会長の栗原先生から口火を切っていただけますか.

医療従事者のための医療倫理学入門

1.医療倫理学総論

著者: 浅井篤 ,   大西基喜 ,   永田志津子 ,   新保卓郎 ,   福井次矢

ページ範囲:P.62 - P.64

〔ケース〕
 進行(第4期)肺癌のためにほとんど寝たきりになっている70代の女性が,細菌性肺炎を併発した.長期にわたる抗生物質併用療法にもかかわらず難治性である.しかし,意識は清明で全身状態はよい.痛みは十分にコントロールされており,経鼻カニューレによる酸素補給で会話も不自由なくできる.体重は減少してきているが,食事摂取は可能である.肺炎が悪化して呼吸不全に陥り心肺停止が起きた場合,担当医は心肺蘇生術(CPR)を施行すべきか否かを判断しなくてはならない.CPR施行の是非はどのように決めるべきであろうか.

癒しの環境

心を傷つけないために

著者: 青木節子

ページ範囲:P.65 - P.65

 病気を治してもらうためにいった病院で,職員の心ない言葉や態度に傷ついたことのある人は少なくないはずだ.たいていは励まされ優しくされ,その献身的な態度に感謝するが,生涯忘れられないほど不愉快な思いをすることもある.言った当人は覚えていないだろうが,患者であった人は病気のことと一緒に暗い気持で思い出すだろう.
 患者接遇は,病院の経営や患者獲得に大きく影響すると思われる.その接遇教育にかかわって15年になるが,研修を受ける職員の傾向がだんだん変わってきている.患者さんにとってよくないほうへ変わっているような気がする.医療に携わる人たちだけではなく一般企業の新入社員にもいえることだが,心の内が見えない人が多くなった.考えていることを表現するのが上手ではなく,語彙も少ない.顔の表情が乏しい.知らない人には特に心を閉ざしているようだ.たぶんここ何年かのうちに急速に普及したコミュニケーションのあり方がもたらしたものだろう.携帯電話も,パソコンも病院にとって大変便利な物ではあるが,実践の患者接遇にはあまりありがたいとはいえない.

民間精神病院はいま—21世紀への展開・21

高田西城病院・川室記念病院—常に住民とともにある精神科治療病院を目指して

著者: 川室優

ページ範囲:P.74 - P.80

 昨年5月に精神保健福祉法の5年後の見直し改正が成立し,精神病者・障害者の人権擁護についてより強固に明文化された.これにより精神科病院の治療機能は,今まで以上に地域に密着した治療・ケアを確立しなければならなくなった.
 筆者の曾祖父は越後高田(現上越市)の地で住民のために西洋医学による治療を提供したいと志し,横浜で米国のヘボン,セメンスの両医師に学んだ.その全人的医療の理念は(医)高田西城会高田西城病院(旧高田脳病院,図1)創設時の指導者であった呉秀三氏からいただいた「仁壽」の言葉(図2)とともに,病める人に対する治療者・援助者の取り組みにおける大切な概念として,今日まで受け継がれている.今,ここで21世紀に向かって精神科医療は何を目指し,展開されていくのかを考えてみるとき,全人的なアプローチの重要性は,いっそう深遠な意味を含んでとらえなおされるべき重要なテーマであると思われる.

資料

病院経営と自己診断・2

著者: 米田啓二

ページ範囲:P.81 - P.86

(第58巻12号より続く)
病院経営診断の手法(承前)
 2.第1段階—基礎問題の把握
 4)職員数と給与—職員数,給与は適正か(表5〜7)
 総額人件費の削減は,企業にとっても医療分野にとっても至上命題となってきた.総額人件費削減のためには職員数と給与単価をどのようにして抑制していくかにかかっている.労働者派遣法の改正は,最近若者を中心に正社員にこだわらない風潮が顕在化し,企業サイドの「必要なときに必要な人材を」というねらいに呼応したものといわれているが,その活用についても検討する必要がある.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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