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特集 病院・医療・社会—21世紀を展望する
21世紀の科学・技術と医療
著者: 村上陽一郎1
所属機関: 1国際基督教大学教養学部人文科学科
ページ範囲:P.14 - P.16
文献購入ページに移動科学と技術は20世紀後半から次第に歩み寄り始めた.この事実は,明治以来科学研究を「富国強兵・殖産興業」という国家目標に奉仕するものとして位置付けた日本社会のなかでは,あまり切実な理解を生み出さない惧れがあるが,近代科学および近代産業技術の出発点である欧米では,現在においてさえ,問題とされるほど,大きな変化があったと見てよいだろう.
確かに19世紀産業革命の進行とともに,時を同じくして近代科学はようやく西欧社会のなかで制度化が完成する.化学のように,科学研究の制度化が,そのまま化学薬品工業の立ち上がりに結びついた,という目覚ましい実例があるにも関わらず,また初めて19世紀の西欧社会に登場した「科学者」たちが,自分たちの携わる「科学」という新しい知的な活動の宣伝のために,時に社会に向かって,科学の持つ「有用性」を喧伝することがあったとしても,科学は基本的には,社会のなかで,隔絶された制度であることを自ら好んだ,ということができるだろう.
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