icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院59巻10号

2000年10月発行

雑誌目次

特集 改革期の療養型病床群

療養型病床群と介護療養型医療施設の現況と今後

著者: 眞鍋馨

ページ範囲:P.838 - P.842

介護保険制度実施
 平成12年4月から介護保険制度が実施された.介護保険法では第1条において「(略)加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり,入浴,排せつ,食事等の介護,機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について,これらの者が,その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう,必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため(略)」とされており,これまで,主に措置費などにより評価されていた福祉サービスと,診療報酬により主に評価されていた医療サービスとを統合的に給付する旨の記載がなされている.
 そのサービスメニューは大きく,居宅サービス,施設サービスに大別され,次のようなものがある.

医療保険下における療養型病床群の位置付けと役割

著者: 天本宏

ページ範囲:P.843 - P.845

従来の医療目的,目標の転換を
 社会サービスの発展を考えるには常に社会サービスの基本目標の確認をおろそかにすべきではない.高齢社会において自助努力,医療努力にもかかわらず治癒困難,障害が発生するのは,例外的事例ではなくこれらの努力にも限界があることを社会的に確認する時期にきた.そしてこの限界の認識とともに医療の目標の確認,再構築の必要性が生じてきたことも認識すべきである.
 医療保険下における療養型病床群の位置付けと役割を論じるには介護保険適用の療養型病床群のこと,一般病院のこと,そして社会サービス全体像においてのそれぞれの施設・病院の目的・目標を明確にしていかないと機能の分担はできない.本稿においては高齢者医療・ケアの視点でこれからの医療・ケアの目的・目標転換の必要性について論じ,そしてその転換に応じた病床区分について私論を述べてみたい.

療養型病床群の機能分担とリハビリテーション医療

著者: 川合弘毅

ページ範囲:P.846 - P.848

 平成12年4月より介護保険が本格実施された.現時点では保険者・介護サービス利用者・介護サービス提供者の3者に戸惑いと意識の齟齬がありギクシャクとしているが,1〜2年も経過すれば,それなりに安定したものに成長するだろう.これを育成する責務はサービス提供者であるわれわれの双肩に重くのし掛かっている.
 時の経過が介護保険を育て上げ,至らぬ部分は3年後の見直しで改善すればよいことである.しかし,医療の現場から見ると,第4次医療法改正の主目的である一般病床と療養病床の仕分けと療養型病床群の関係が何となく擦りガラス越しに覗いているような感じで,もう一つ明瞭に見えてこない.また,福祉的側面が強調されすぎた感の強いリハビリテーションが,初めてといえばいい過ぎになるが,密度の高い医学的管理を持って急性期の直後に提供されるリハビリテーション医療サービスとして位置付けられることになった.

医療保険適用の療養型病床群と介護療養型医療施設の運用

著者: 原寛

ページ範囲:P.849 - P.852

原土井病院の概要
 原土井病院は福岡市東区にある556床のケアミックス型の病院である.また,当院は昭和42年に開設され,看護学校などを併設しながら,平成2年に入院医療管理料を一部の病棟に導入した.さらに,平成6年に一部の病棟を療養型病床完全型に転換し,平成8年に全療養病床を完全型に転換した.現在は一般病棟140床,療養型病棟完全型416床となっている.その内訳は,介護保険対応176床(3病棟),医療保険対応240床(4病棟)である.介護保険適用の療養型病棟の一つは歩行できる重度痴呆患者用の専門病棟としている.
 介護保険導入に対しては以前より対策を練ってきたが,当初はすべての療養型病床が介護保険適用になるとの通説があったため,そのつもりで対応策を考えていた.しかし,その後,療養型病床は各病院が医療保険と介護保険のどちらも選択できることを聞き,その2種類の比率をどの程度にするかを模索してきた.以下,医療保険対応療養病棟と介護保険対応療養病棟の比率の決定過程,および2000年3月末に行った対策,現在の対応などについて列記していきたい.

介護療養型医療施設の役割と展望

著者: 𠮷岡充

ページ範囲:P.853 - P.857

老人病院の進化とその結果
 介護療養型医療施設は,ここ20年間においてわが国の老人病院が進化した一つの形で,介護保険バージョンでもある.この進化の過程に少し触れる.
 疾病構造の変化,高齢化に伴い出現してきた老人病院.かつてそこで行われていた薬づけ,点滴づけ,検査づけ,縛りづけの貧しい医療は,安かろう悪かろうという制度と,老人医療のあるべき姿をまだ知らなかったわれわれ医療従事者の無知から生まれたものだった.

療養型病床群の運用の実際—聖マリア病院における療養型病床の運用

著者: 井手道雄

ページ範囲:P.858 - P.860

 聖マリア病院は福岡県南部に位置し,一般病床1,288床,精神科病床100床の急性期医療を主体とする地域の中核病院であるが,人口構造の急激な変化をはじめとした病院を取り巻く激しい環境の変化に対応するためにリエンジニアリング(patient and family focused hospital:PFFH)を遂行中である.特に患者を中心に据えた地域における保健,医療(急性期,長期),在宅医療介護の継続性に最も重点をおいている.今回は療養型病床群の現在までの運営経過と問題点について述べる.

療養型病床群の運用の実際—「医し」より「癒し」へ

著者: 大久保照義

ページ範囲:P.861 - P.863

大久保病院の基本方針
 医療経営の困難があちこちでいわれていますが,筆者はシンプルに「必要なこと,求められていることを十分に提供する」ことこそ大切なのだと考えています.あまりにも当たり前のことですが,えてして忘れがちなことでもあります.「必要なこと,求められていること」を充実させる,具体的な取り組みとして,ハード面では施設の充実,ソフト面においてはISO9001の認証取得をはじめとするサービス提供体制の整備などを行ってきました.
 当院は,地方の一民間病院ですが,その施設のグレードは地域で1番だと自負しております.竣工時にはむだなコストをかけているという人もいましたが,筆者は患者様が本当に求めているものを提供することが大切なのだと考えております.

療養型病床群の運用の実際—信愛病院における療養型病床群

著者: 桑名斉

ページ範囲:P.864 - P.865

療養型病床群導入の経緯
 当院は,平成5年当時,一般病床215床の内の102床を療養型に転換した.この経緯については本誌53巻2号186〜187頁に掲載されているので省略するが,要は地域のニーズや医療環境と自院の機能から,慢性期医療を志向したにほかならない.その後,一部増改築の機会にあわせて療養型病床群を増やし136床とした.その理由は,高齢者の慢性期医療を行う中で増加する痴呆性疾患患者を看過できず,痴呆専用の療養型病床群を追加したからである.

療養型病床群の運用の実際—求められている医療を考えて

著者: 村井淳志

ページ範囲:P.866 - P.867

 社会も医療も時代とともに変わる.その時代,その社会の医療ニーズがあり,それに適合した制度や施設を作らなければならない.そうしなければ利用者にとって不幸であり,社会資源の浪費にもなる.これまで高齢者医療に対してゴールドプラン,次いで介護保険制度と対策が打ち出されてきたが,高齢者のニーズの解決にはほど遠い.筆者が第一線の「老人病院」の運営に携わるようになって9年がたつ.この経験から高齢者のニーズを考察し,運用の方針を立てた.

療養型病床群の運用の実際—リハビリテーション機能の充実を図る

著者: 川上千之

ページ範囲:P.868 - P.870

三友堂リハビリセンター開院まで
 三友堂リハビリセンター(以下当院)の母体である財団法人三友堂病院は明治19年以来,当地方の中核的病院として長年活動してきた.当地方(2次医療圏)は置賜(おきたま)地方と呼ばれ山形県の南部に位置し,その人口は約22万人で,65歳以上の老年人口比率は23.1%と高齢化の進んだ農村地帯である(平成11年現在).
 当地方のみならず山形県は脳卒中による死亡率の高いところであるため,三友堂病院では近年脳卒中などの急性期疾患に対する治療を強化してきた.その結果,急性期治療を終了した段階の多くの患者が同じ病棟に入院を続け,リハビリテーション(以下,リハ)などの医療を受けなければならず,どちらの患者に対しても十分な医療を提供でき難くなり,急性期患者を対象にする病院と,慢性期患者を対象にする病院との分離,特化が必要となってきた.

グラフ

診療所をベースに医療・福祉活動を展開—医療法人聖仁会藤井医院,介護老人保健施設東尋坊・ひまわりの丘/社会福祉法人双和会

ページ範囲:P.825 - P.830

 1997年の松の内明け,ロシアタンカー・ナホトカ号が遭難,その船首が福井県の三国町安島に漂着した.全国からのボランティアが押し寄せる重油の排除作業を行った.藤井医院は三国町の九頭竜川河口にある.
 1993年10月,藤井さんは亡父の跡を継ぎ藤井医院の院長となった.大学病院で6年,地元の町立病院で8年,外科医として先進医療こそすべての14年後の転身であった.

HOSPITAL INDEX

エイズ拠点病院・5

ページ範囲:P.832 - P.832

 

追悼

川北祐幸先生の死を悼む

著者: 三宅史郎

ページ範囲:P.871 - P.871

川北先生
 天は無情にも,あなたをこの世から奪い去った.こんな不条理なことがあって良いのだろうか.本当に悲しい.

特別寄稿

医療施設複合化の経営的・財務的効果の研究—南カリフォルニアの二つの「複合体」の現地調査を中心に・1

著者: 足立浩

ページ範囲:P.872 - P.879

はじめに—本研究の課題とアプローチについて
 日本福祉大学福祉社会開発研究所(野村秀和所長)では,同大学社会福祉学部の二木立教授が独自に進めてきた「保健・医療・福祉複合体」の研究を,経営分析などを含むより多面的な角度から展開するため,1998年度に二木を代表とする「保健・医療・福祉複合体の総合的研究」プロジェクト研究会を発足させ,複合体の日米比較を含む調査・研究を進めてきた.
 本研究において筆者は,会計学(原価計算・管理会計)および経営分析などの専攻・関連領域に照らし,主として米国の保健・医療・福祉複合体における複合化(基本的にはいわゆる「垂直的統合」)による経営的・財務的効果の確認・検証という課題を手がけることとした.それに際しては,まず第1に,複合化=事業統合の経営的・財務的効果などに関する,主として研究者サイドからの一般的な理論的説明をいくつか確認した.第2に,複合的事業体の経営者・管理者など現場関係者(特に複合化の経営的・財務的効果を実際的に確認しうる立場にある関係者)による説明に照らして,その再確認を図った.第3に,入手可能な財務的資料に基づく経営・財務分析を通じて複合化の経営的・財務的効果の数値的検証(その可否を含め)を試みることを,基本的なアプローチとした.

患者家族滞在施設設立の経緯と課題・1

著者: 松谷美和子

ページ範囲:P.880 - P.886

 近年の医療技術ならびに治療学の進歩に伴って,専門的な高度の医療を受ける患者が増加している.こうした医療は都市部の病院で提供されることが多く,専門的な医療を受けるために遠方から来院する患者が数多く存在する.家庭を離れ長期にわたって繰り返し治療を続けなければならない患者とその家族にかかる負担はかなりのものと考えられる1〜3)
 特に小児がんなどの治療のために,入院または通院しなければならない子どもを持つ家族の多くは,子育て時期の比較的若い家族である.それだけに,自宅から遠く離れた病院での治療は,親に様々な負担を強いる.入院中の患児に付き添うために,親は白宅を離れ,病院に近いホテルなどの宿泊所を利用しなければならない.一方,病院は,患児の生活の質(QOL)の向上ならびに医療提供の効率化を考えて,できるだけ外泊を多くし,また可能な限り通院治療に切り替えるようになってきており,通院の困難な遠方からの受診者にとって,親子が安心して滞在できる病院近接のわが家のような施設の存在が不可欠となっている.

レポート

医療経済実態調査の経営管理への利用—平成11年9月医療経済実態調査結果に基づいて

著者: 針谷達志

ページ範囲:P.887 - P.891

 平成12年6月,中央社会保険医療協議会(以下,中医協とする)は平成11年6月に実施した医療経済実態調査の結果を発表した.
 中医協は,この調査の目的を「調査の概要」において「病院,一般診療所,歯科診療所,保険薬局における医療経営等の実態を明らかにし,社会保険診療に関する基礎資料を整備する…」こととしている.

病院管理フォーラム 看護管理・31

患者の安全を守る

著者: 桃井妙子

ページ範囲:P.892 - P.893

医療過誤の現状
 最近マスコミは病院の医療過誤事件を大きく報道している.その多くは信じられないようなミスの重なりによるものであり,患者の安全性を確保するという単純な目標を達成するために複雑な安全システムを構築しなければならないという教訓を含んでいる.
 医療過誤は独り日本だけの問題ではない.昨年11月29日に米国のInstitute of Medicine (IOM)が発表した「To err is human」によれば,米国の医療過誤も相当なものである.報告によれば,米国では病院の医療過誤が原因で毎年44,000人(別の統計によれば98,000人)が死亡しており,これは交通事故(4万3千人強),乳癌(4万2千人強),エイズ(1万6千人強)による死亡のいずれよりも多い.また,病院の内外での与薬過誤による死亡は年間7,000人で,労災死亡を上回るという.

Hospital Administratorへの道 part2・10

病院経営に携わって(2)

著者: 相田俊夫

ページ範囲:P.894 - P.896

 病院事業の質
 前号では,ホスピタルアドミニストレーター(以下HA)の職務責任として経営計画,人的資源,組織・風土,財務体質,効率,ハード,ステークホルダー,危機管理,倫理の9項目を列挙したが,本号においてはそれらのいくつかについて述べてみたい.
 HAが深くかかわるのは,医療行為そのものではなく病院事業である.すなわち,病院事業の質をいかに高めるかが最大の職務責任といえる.筆者は,病院質業の質は提供する医療の質と経営の質の2要素から構成されると考える.医療の質は,日本医療機能評価機構の解説書によれば医療技術,患者対応,アメニティから成り.HAは当然これらに対して,人的資源やハード整備,さらには患者対応システムや教育体制,日常事務部門業務などを通じ深くかかわっていかなければならない.しかしHAの最大の任務は,病院事業の質を構成するもう一つの要素である経営の質に対してである.優れた医療を提供できる病院に優れた経営の質が加わったとき,病院は事業として成功し,将来にわたって優れた医療を提供し続けることができる.

病院ボランティアの提案—東札幌病院・16

病院の四季・2—秋を飾る

著者: 斉藤悦子 ,   石垣靖子

ページ範囲:P.897 - P.897

 十五夜のお月見飾り
 中秋の名月を観賞する十五夜は,宗教的な意味も込めて私たちの生活の中に位置付けられている.十五夜のその日は朝から空模様を気にしながらボランティアたちは各病棟のデイルームを行き来し,夕方からの飾りの準備に余念がない.この行事は,東札幌病院の開院以来続いている季節の行事の一つである.
 いつも見慣れたデイルームのテーブルを紫のクロスで覆い,ススキとともに秋の花々が活けられ,お供え物が名月の現れるのをじっと待つ.デイルームはすっかり秋のムードに包まれる.そして夕食後,三々五々と集まってくる患者さんたちとボランティアや職員たちとのお月見の集いが始まる.季節の行事はいつもそうだが,私たちの日常生活の中での一つの節目になることが多い.「もうこんな季節なのね.しばらくぶりで十五夜飾りをみました」,「子どもの頃はお供え物をそっと持ってきて親に叱られた」,「中秋の名月は思わず手を合わせたくなるものだね」などと会話がはずむ.

Principle 病院経営・22

病診連携の枠組み(3)

著者: 谷田一久

ページ範囲:P.898 - P.899

 医師の勤務状況と競争の激化
 下の図は,医師の年齢階級別にみた医療施設の種別医師数(平成10年12月31日現在)を示したものである.この図からは,病院に所属する医師は比較的若い年齢層であり,診療所に所属する医師は比較的高齢の医師である,ということがいえる.この図はあくまで現状を示しているものであり,将来的には全体的に右にシフトすることであろうから,10年後を考えると,現在の30〜39歳の層は40〜49歳にシフトするし,40〜49歳は50〜59歳へとシフトするわけである.
 その際,例えば50〜59歳へとシフトした約6万人の医師はいかなる施設に所属することになるのであろうか.現状において50〜59歳の医師,約3万人は病院と診療所に半々で所属している.しかし,10年後も同様の比率であるとは考えづらい.医師たちの就職先である病院は,医療構造改革のなかで,病床数を削減したり,急性期病院から療養病院へと移行したりしている.また,病院数も減っている.つまり,現在の流れは,医師の増加を吸収するだけの許容量を拡大しているどころか,むしろ,許容量を縮小する方向に動いているのである.医師の所属先としての病院が,医師の増加を吸収しきれないとなると,当然のことながら,医師は開業という道を選択することになるだろう.

連載 事例による医療監視・指導・10

医療事故をめぐる指導

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.900 - P.901

 最近,基本的な手順のミスによる医療事故が相次いでいます.これらのミスは個人の責任問題だけではなく,管理体制の問題でもあります.医療監視においても,適切な医療を確保するために,定例の立ち入り検査の際に事故防止体制をチェックするとともに,必要に応じて,緊急の立ち入り検査をしています.最近,薬剤の誤投薬が目立っています.今月は,私どもに報告があった医療事故で,立ち入り検査を行ったものの中で,薬剤部が関係するものを中心にご紹介します.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第72回

熊本県立こころの医療センター

著者: 高良英臣

ページ範囲:P.906 - P.911

敷地の自然環境
 熊本市の南部を流れる緑川流域に田園地帯が広がっている.熊本市を遠望できる雁回山の麓に位置する敷地からは北に金峰山,西に雲仙普賢岳を望むことができ,自然環境に恵まれたところにある.旧病院に隣接するグラウンドと菜園部分を敷地とし,新病院竣工後は旧病院を解体し,グラウンド,菜園などの整備が行われた。
 同センターは昭和50年に現在地に熊本県立富合病院として開院して以来,熊本県内における「精神科医療の中核病院」として医療を展開し今日に至っている.老朽化した施設の全面改築を機に,なおいっそうの医療とアメニティの発展を目指して新病院の計画が進められた.

使ってみてひと言

著者: 花輪昭太郎

ページ範囲:P.909 - P.909

 早いもので全面改築して3年がたった.新病院は好評で,案じられたように(?)患者さんは増え続けている.平成11年度の平均在院日数は110.7日に短縮,同年度末の5年以上の在院者は12.1%に減少などからもわかるように,大変忙しい毎日である.
 前病院は,昭和50年の建築であり,比較的早い建て替えであるが,年数に比して老朽化や機能性の拙さが目立ち,重症者の多いこともあって,入院収容傾向の強い精神科病院であった.医療面では,心ある職員の協力を得て活性化が進んだが,現状の構造では発展が望めないことなどから各界の賛同を得て新築が決まった.したがって,新病院は前病院のイメージを払拭する「地域に溶け込んだイメージ,治療空間の広さ,プライバシーへの配慮,清潔で落ち着きの中に思いやりと心遣いに満ちた医療環境」,すなわち,「精神科らしい病院(河口 豊)」を目標とした.

医療従事者のための医療倫理学入門

10.看護の倫理

著者: 大西香代子 ,   大西基喜 ,   浅井篤 ,   永田志津子 ,   新保卓郎 ,   福井次矢

ページ範囲:P.902 - P.904

〔ケース〕
 卒後2年目の看護者Sさんは,主任と一緒のある準夜,夕食の前に,糖尿病のMさんの血糖値を測定した,Mさんには,朝夕の血糖値測定とインスリン注射の指示が出されていた.ところが,その日,Mさんの血糖は84mg/dlであった.昼前から嘔気があって,昼食は3割しか食べていない,まだあまり食欲はないが夕食は食べてみる,という.Sさんはインスリンをうっていいか迷い,主任に相談,主任はすぐに当直医に電話をかけて,指示を仰いだ.すると当直医は,「主治医が指示を出しているのだから,そのとおりにすればいい.血糖値に応じた量のインスリンを指示しなかったのは主治医なんだから.」といった.主任はSさんに,指示どおりヒューマリンNをうつように命じた.Sさんは,注射器を取り上げながら,これでいいのだろうかとまだ迷っていた.

癒しの環境

情報が癒し

著者: 髙栁和江

ページ範囲:P.905 - P.905

 「手術をするよ」といわれ,目覚めたら乳房がない.便が脇腹から出ている.これが心理的なトラウマでなくてなんだろう.米国の乳癌患者の会では患者の権利として,病名を知ることだけでなく,はじめに局所麻酔で生検を受けること,病理組織の結果を知り,その結果を患者が持ち歩くことも求めている.生検後に手術を受けることができること,可能ならその後に再建手術を受けることができること,また患者が身体的,感情的にトラウマを負ったと医師と医療提供者が認識することも乳癌患者の権利としてあげている.こうした権利があるのだと知ることは患者にとって大いなる癒しになる.
 子どもには,チャイルドライフスペシャリストという専門家が医療情報を説明するのは米国の制度だ.人形を患者に見立て,患児を先生にして,お医者さんごっこをする.人形には足を切断したものや,胸部や腹部を開けられ,臓器が見えるようにしたものがある.人工肛門や膀胱カテーテルを人れたものが準備されている.この中で,患児を先生役にして人形の患者に手術の説明をさせ,ひいては患児自身を納得させるのである.その患者にわかる方法で情報の伝達をするというのが患者の権利であり,これこそ癒しの環境の理念なのである.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?