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雑誌目次

雑誌文献

病院59巻2号

2000年02月発行

雑誌目次

特集 病院の危機管理

【座談会】病院の危機管理

著者: 児玉安司 ,   武田岩夫 ,   三宅祥三 ,   大道久

ページ範囲:P.102 - P.109

 大道(司会) 昨年の初めに横浜市立大学附属病院(以下,市大病院)で,手術をする患者さんを取り違えるという大変な事故が起こりました.この事故は広く報道され,医療界はもとより医療を受ける立場の国民にも大きなインパクトを与えました.また,これに伴い病院における安全性の問題や危機管理,リスクマネジメントというもののあり方が改めて強く問われ,様々な議論が展開されました.
 そもそも病院という組織は複雑なうえ,様々な危険,危機が起こり得る状況下で医療が提供されているわけですから,病院においての危機管理は極めて重要な課題といえるでしょう.そこで本日は3人の先生方に,それぞれのお立場から病院の危機管理のあり方,危機を防止する具体的な方策,それを進めるうえでの考え方,あるいは危機管理の中での法的な利害調整,ないしは法律による判断,つまり裁判という場での問題の解決をせざるを得ない場面で病院としてどう対応したらよいかについてお話いただきたいと思います.

看護における安全確保の現状と医療事故防止ガイドライン

著者: 嶋森好子

ページ範囲:P.110 - P.114

 1900年代最後の99年は,新幹線トンネルのセメント落下事故や,東海村の臨界事故など,安全だと考えていた組織や施設での事故が多発した.医療の現場でも,大学病院や公的病院で重大な医療事故が発生し,医療関係者に衝撃を与えると同時に,医療の受け手である国民にも大きな不安を抱かせることになった.
 これらの事故は,時間の経過とともにことの重大さが明らかになり,組織的な事故防止への取り組みが重要であることを示した点でも共通している.

医療訴訟と病院のリスクマネジメント

著者: 岡崎悦夫

ページ範囲:P.115 - P.120

 昨今の医療事故や訴訟で驚くのは,病院長でさえ現場の責任者として医療事故にどう対処するか,法的・社会的な責務をよく理解していないことである.こんな状態では貴重な事故の経験や教訓が生かされず,職員への徹底もおろそかになる.「失敗は宝の山」といわれる.しかし,医療事故に関しては,医師としての知識や,当然なすべき注意が足りなくて起こした恥ずかしい事故だという思いが先立ち,互いに触れ合うことを避け,宝の山に近づけないのが実情であろう.訴訟はすべて弁護士に任せ,一部の関係者だけでこっそり処理する病院が多いが,これだけで終わらせてはもったいない.事故やニアミスのデータを集め事故防止に生かし,訴訟によって得られた結論からもっと教訓を引き出し活用したい.紛争や訴訟に対応する過程で,医学的な根拠について,第三者である裁判官にもっと堂々と主張する姿勢が医療側にほしい.

医療施設の機器・設備のリスク管理

著者: 渡辺敏

ページ範囲:P.121 - P.125

 リスク管理を検討する場合,次の二つの視点を考慮に入れる必要がある1)
 1)地震,風水害,火災などの不測の緊急事態が生じた際に,いかにしたら迅速かつ的確に,しかも組織的に対応することができるかという,いわゆる危機管理(クライシスマネジメント)といわれているものである.

災害・大事故と病院のリスクマネジメント

著者: 石原哲

ページ範囲:P.126 - P.131

リスクについて考える
 災害拠点病院の指定がなくとも,病院は災害・大事故発生時には地域災害医療の拠点となる宿命を負わされている.個々の病院における「災害・大事故に対応し得るリスクマネジメント」を考える時,地域の災害医療体制のあり方をどうするかというテーマと切っても切り離せないことに気付く.
 災害発生に伴って病院のポジショニングは劇的に変わる.地域における医療ニーズが最高潮に達する一方で,車は使えず,被災者の移動可能範囲は極端に狭められる.病院が医療継続しているかどうかは地域住民にとって文字どおり命の懸かった大問題である.

危機管理から安全管理へ

著者: 寺崎仁

ページ範囲:P.132 - P.136

 昨年1月の横浜市立大学医学部附属病院での患者取り違え事件を契機として,わが国でも医療事故防止のための具体的な方策が真剣に議論されるようになってきた.しかし,その後も医療事故の報道は減るどころか,かえって多くなる傾向にあり,ごく最近も国立循環器病センターでの小児の心臓手術における医療ミスによる死亡が伝えられた.新聞を開けば必ずどこかに医療事故に関する記事があるといっても過言ではないほどに,医療に関する多くの事故や事件が報道されているが,これは医療ミスが増加したためというよりは,国民一般の医療の安全についての関心の高まりを示したものであろう.
 一連の医療事故報道を機に,改めて「医療の安全」を論じてみようと思うが,最近これらのことがらに関する報告書や書籍が数多く出版されている.特に,患者の取り違え事件後には,医師会や看護協会などの多くの医療関係団体から,各種の報告書や参考資料が出版されており1,2),それらは具体的かつ実践的な内容のものが多く,医療の現場では非常に参考になる資料である.

グラフ

東京都区部西北地域の医療需要に応える—東京都立豊島病院

ページ範囲:P.89 - P.94

 池袋より北西にのびる東武東上線に乗り3駅め,大山駅より歩いて10分ほどのところに東京都立豊島病院はある.
 同院は,昭和7年の開院以来,東京都区部西北地域の中核病院として一般医療機関では対応困難な高度・専門医療の提供に取り組んできた.しかし近年,建物の老朽化が進み,保健医療を取り巻く環境の変化への対応が困難になり,診療機能,設備などの根本的な見直しが必要となってきた.そこで,新たな医療需要に対応するため,平成7年3月末より診療を休止し,翌年8月に全面改築に着手.平成11年3月に新病院が竣工し,同年7月30日より全病床(458床)の約6割の267床がオープン,診療業務を再開した.

HOSPITAL INDEX

感染症指定医療機関・2

ページ範囲:P.96 - P.96

特別寄稿 実践から病院情報システムの功罪とそのあり方を考える

2.山で潮干狩りをしないためには

著者: 田原孝 ,   日月裕

ページ範囲:P.137 - P.143

 情報システムを開発しようとすると,どの病院でも同じような問題が起こる.代表的なものとしては,「情報システムの目的」,「誰が入力するか」,「オーダの範囲(システムの規模)」などである.今回はこれらの問題について,実際の開発の経験をとおして問題の本質や解決策を述べてみたい.
 情報システム,特にオーダリングシステムの開発や運用は各部門間の協調によって成り立つ.システム開発は,病院にとってはコンピュータのソフトを作るというより,各部署間の運用の明示化,もしくは明示的なマニュアル化を図っていくことである.オーダリングシステムが導入されていなくても各部署間の運用の連携は必要である.コンピュータを介せず人同士でコミュニケーションを行う場合は,人の持っている大きな融通性により,必ずしもマニュアル化しなくても運用が成り立つ.しかし,コンピュータを介する場合は,融通がききにくいため,明示的なマニュアル化を行わないと運用に支障を来すことが多い.

病院管理フォーラム Hospital Administratorへの道 part 2・2

将来設計

著者: 川本豊廣

ページ範囲:P.144 - P.145

 病院の長期的な展望や計画策定に関し,理事会議論の参考となる資料の作成や収集は事務管理者にとって重要な業務の一つである.
 特定医療法人水和会での現状の確認・行政の動向検証から自院の方向の決定などについて,事務管理者としてのかかわりから考えてみたいと思う.

看護管理・23

看護業務の採算性を考える(2)

著者: 桃井妙子

ページ範囲:P.146 - P.147

 2.5:1看護でも黒字にならない
 前回,当院の病棟看護部門が収支上赤字になることを指摘した.さらに2.5:1看護になっても同様であることを述べた.しかし,誌面の都合上,後者についてはデータを付していないので,今回はまずこの点を分析する.
 当院の病棟における平成10年度の助産婦,看護婦(士),准看護婦(士),看護助手の平均年齢と平均給与は表1のとおりである.なお,表1には比較のため平成10年7月の私的病院の看護婦などの平均年齢と給与を加えた.これでみると当院の看護要員の平均年齢は高く,平均給与(所定内給与)も高い.

経営管理—職員活性化の歩み・5

災いを転じて福となった!

著者: 堂尾律子

ページ範囲:P.148 - P.149

 1999年3月,職員の送別会での席上,「約25億円の累積不良債務はすべて解消した」と院長より報告があった.20年以上にわたって坂出市立病院に勤務してきた筆者にとって,背負い続けてきた巨額の赤字という重い十字架から解放された瞬間であった.
 本稿では,中央材料室・手術室が行った病院再生に向けての取り組みについて述べる.

リスクマネジメントの実践・7

八尾病院のリスクマネジメントの取り組み(2)—院内のシステムづくりとインフラの整備・1

著者: 森功

ページ範囲:P.150 - P.151

 50年あまりにわたって品質保証と危機管理をないがしろにしてきたわが国の医療界においては,各所で多種のエラーを起こしてきた.問題はその実態を掌握することなく,顕在化した過誤・事故の解決法を通常の裁判に委ねることで事足れりとしてきた組織的怠慢にある.
 八尾総合病院も例外ではなく,すべての領域において,日常的に事故未遂,あるいは事故が発生しているものと予測し得た.前回も述べたように昭和63年11月のオープン後,当初の4年間は病院診療の基盤づくりに精力を費やした期間であった.この間も各部署で個別に工夫してはいたが,エラーは逐次見受けられた.

Principle 病院経営・14

部門別原価計算の必要性(1)

著者: 谷田一久

ページ範囲:P.152 - P.153

部門別損益計算がなぜ必要か?
 部門別損益計算への関心がこのところ強くなってきたように感じる.経営が思わしくなくなってきて,その原因を把握し,改善を図ろうということだと筆者は理解している.
 採算ということを重視した場合,経営全体にとって貢献しているのはどこで,重荷となっているのはどこか.よい部分と悪い部分をはっきりさせようというのであろう.医学的手法と同様に,病因をつきとめ,選択的に治療しようというわけである.脅したりすかしたり,褒めたり叱ったりといった内科的な治療法もあれば,縮小や廃止,あるいは移植といった外科的な治療法もある.いずれの手法をとるにしても,その対象が特定されていなければ話にならない.そこで患部を特定するための手法として部門別損益計算が関心を集めているのである.

連載 事例による医療監視・指導・2

病院への立ち入り検査の実際

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.154 - P.155

 前回は医療法に基づく医療監視の考え方と,病院の開設・病床の増床の申請に先立つ手続きについて触れましたが,少しは参考になりましたでしょうか.
 さて今回は医療法に基づく病院への立ち入り検査の実際について解説します.この立ち入り検査には定例的に行われるものと,緊急に行われるものがあります.緊急の立ち入り検査は,重大な法令違反や管理体制の不備などが疑われたときなどに行われます.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第64回

太田綜合病院附属老人保健施設「桔梗」

著者: 渡部和生

ページ範囲:P.162 - P.165

 (財)太田綜合病院(1,788床)は,郡山市内で複数の病院を運営し,救命救急センター,老人性痴呆疾患センターの指定を受け,臨床研修指定病院として市の医療の中核を担っている.
 敷地は郡山市の中心部から約10km離れた熱海町にあり,最寄駅は磐梯熱海駅である.計画敷地の西側には,太田福祉記念会附属の特別養護老人ホームあたみホーム,玉川ホームが隣接しており,福祉・療養ゾーンとして位置づけられている.

医療の政策評価・1【新連載】

政策評価の動向と概念整理

著者: 田村誠

ページ範囲:P.166 - P.171

わが国での政策評価の息吹き
 昨今わが国で,政策評価の気運が高まってきている.
 三重県の事務事業評価システム1)をはじめ,北海道の「時のアセスメント」,宮城県の行政評価システム,静岡県の業務棚卸評価方式等々2,3),各自治体の取り組みには目を見張るものがある(注1).

院内感染対策・7

東京大学医学部附属病院分院の院内感染対策—3.院内感染対策における検査室の役割

著者: 鈴木悦子 ,   布施文男 ,   山本健二

ページ範囲:P.172 - P.177

 院内感染(hospital acquired infection)とは,「病院における入院患者が原疾患とは別に,新たに罹患した感染症,または医療従事者が病院において罹患した感染症」と定義され1),患者側の感染と医療従事者側の業務感染を含む.
 業務感染によって主に注意すべき点は血液を介したウイルス感染で,特にHCV・HBVなどによる感染率は高く,注射針の誤刺が最も多い.また,近年は結核菌による院内集団感染例も報告されている.患者側の感染では細菌感染が問題とされ,現在では多剤耐性菌も増加しており,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や多剤耐性緑膿菌,バンコマイシン耐性腸球菌(VRE),基質特異性拡張型β—ラクタマーゼ(ESBLs)産生菌などの日和見感染菌が問題となっている.

医療従事者のための医療倫理学入門

2.文化と医療倫理—真実告知の事例を中心に

著者: 浅井篤 ,   大西基喜 ,   永田志津子 ,   新保卓郎 ,   福井次矢

ページ範囲:P.156 - P.158

〔ケース〕
 他の医療機関で進行性肺癌と診断された70代の女性患者が入院した.前医では病名や予後については説明がされておらず,患者本人に進行癌の診 断告知をすべきか否かが病棟カンファレンスで議論になった.1人の医師は「日本では患者本人に対する病名告知は一般的でない.したがって,家族と話し合って治療方針を決めていけばよい」と発言した.一方,米国に留学経験のある別の医師は「日本でもアメリカなみに告知を行うべきだ」と主張した.担当医は患者本人に癌の告知を行うべきだろうか.何を根拠に判断すべきだろうか.

病院ボランティアの提案—東札幌病院・8

視覚からの癒し・2—ライフレビューを支援する個展

著者: 斉藤悦子 ,   石垣靖子

ページ範囲:P.160 - P.160

 当院の4階には「コスモス」と名付けられた多目的ホールがあり,職員の研修や会議,コンサート,映画会などの様々なイベントの会場として利用されている.昨年11月からこのホールを会場に新しいプログラムが始まった.それは患者のライフレビューを兼ねた絵画などの個展である.
 そのきっかけは85歳のTさんの病室に飾ってあったみごとな風景画から始まった.その絵は彼女が80歳の時の作品とわかったボランティアは,絵をとおしてTさんと話が弾み,絵画談義に花を咲かせた.65歳から油絵を描き始め80歳の時には個展も開催したこと,自分にしか描けない絵を楽しく描きたいと生き生きと話すTさんに,ボランティアは彼女の作品展を提案した.

癒しの環境

開けてみたくなるドア

著者: 中村卓治

ページ範囲:P.161 - P.161

開けっ放しのドア
 ドアといえば,ドラえもんの「どこでもドア」を開ければ好きなところへ行ける.また,「不思議の国のアリス」では,白うさぎを追って穴へ落ちたアリスは,魅力的な小さなドアに入ってみたくて,不思議なくすりを飲んで,大きくなったり小さくなったりする.
 テレビドラマにもよく出てくる「バシーン」と音を立てて閉まる「手術室のドア」.

民間精神病院はいま—21世紀への展開・22

財団法人花園病院—新たな治療共同社会を目指して

著者: 山角駿

ページ範囲:P.178 - P.182

 財団法人花園病院は,「どのような障害者も自由で,幸福な,活き活きとした生活を送ることができる社会」を創る基点となる病院を目指し,施設と体制の整備を進めてきた.その結果,平成10年5月,精神科医療総合サービスセンター「リヴィーズ」を落成し,入院部門の機能分化を行うとともに,21世紀に向かって精神科の専門性を生かした地域医療を積極的に展開している.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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