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雑誌目次

雑誌文献

病院59巻8号

2000年08月発行

雑誌目次

特集 病院経営戦略と企画部門の役割

【対談】1世紀の民間病院の経営戦略

著者: 猪口雄二 ,   井手道雄

ページ範囲:P.654 - P.661

 ——本誌では80年代の半ばに「病院経営戦略」に関するシリーズを連載しましたが,当時は「病院の経営戦略?!」という多くの反応でした.その後,80年代末になり病院の経営戦略について議論されるようになってきました.先生方の病院はこれまで経営戦略的なことを踏まえて病院経営をやってこられていますので,それぞれの病院においての経営戦略的な考え方をお話しいただきたいと思います.それでは,最初にそれぞれの病院の概要をご紹介いただきたいと思います.猪口先生からお話しいただけますでしょうか.
 猪口 私どもの病院は,東京の下町にある市中病院で,私は昭和62年(1987)に理事長,院長に就任しました.

病院の経営戦略策定のノウハウ

著者: 牧健太郎

ページ範囲:P.662 - P.664

 わが国の病院は,医療政策の庇護の下,受け身の姿勢でも従来は経営が成り立ってきたという一面がある.しかしながら,近年の医療機器の高額化や診療報酬制度改定,さらには医業への自由競争原理導入の方向性などの影響により,病院淘汰の時代がわが国にも訪れようとしている.病院が,地域社会などに対して良質な医療福祉サービスを提供するという本来の役割を今後とも果たしていくためには,継続的事業体としての経営基盤を自ら確立しなければならない.このような生き残り競争に勝ち抜くためには,経営者としての資質を持った病院トップと,明確なビジョンに裏付けられた経営戦略が不可欠だろう.
 ここでいう戦略という用語は,戦術という用語とは意味合いが異なる.病院経営を取り巻く環境は刻々と変化していくが,そのような変化に対して逐一行動を起こしていたのでは,病院経営が混乱するだけであろう.経営者は,周囲で発生した環境の変化を恒久的変化と一時的変化とに識別し,それぞれに対して適切な対応をとる必要がある.恒久的変化に対する手段が戦略であり,また,一時的変化に対する手段が戦術である.すなわち,変化する環境に適応していくためには,短期的動向にとらわれることなく,長期的動向に対応するために貫徹させるものを持たなければならないのである.このような意味で貫徹されるものが戦略であり,短期的動向への対応手段である戦術とははっきりと区別される概念である.

経営戦略策定の要

著者: 西村昭男

ページ範囲:P.665 - P.667

 医療は医業と置き換えてよい概念であれば,まさにサービス業の一つとして,古くから総務庁の職業分類に記載されているものである.1995年の厚生白書に,「医療はサービス業」と記載されたことがニュースになったこと自体,わが国において長い間,いかに異常な枠組みに医療が置かれていたかを裏書きしたようなものである.
 病院など医療機関といえども,資本と労働を投入して医療サービス事業を継続的に行う組織体であることに他ならない.そして,そのような経営体として基本理念や方針に基づいた戦略の策定なしには維持も発展もできない.

国立病院の経営戦略

著者: 武藤正樹

ページ範囲:P.668 - P.671

 今,国立病院が大きく変わろうとしている.これまで巨額の一般財源からの繰り入れや,非効率な経営,再編成計画の遅れなどが指摘されてきた国立病院では,この数年で経営改善や再編成計画が急ピッチで進められている.さらに平成16年には国立病院の独立行政法人(エージェンシー)化が控えている.これにより全国一法人の下に,最終的には150あまりの国立病院・療養所が日本最大のグループホスピタルに生まれ変わろうとしている.また,この法人を所轄することになる厚生省やその地方部局である地方医務局も,来年1月には一足先に省庁再編により大きく組織を変えようとしている.そして保健医療の抜本的制度改革も今まさに進行中である.
 こうした保健医療界の戦後最大級の変革の時期に,国立病院グループがどのような変革の経営戦略をもって立ち向かっているのかを本稿では振り返ってみたい.

病院の経営戦略における企画部門の役割—社会に対するインターフエイスとして

著者: 岡山直樹

ページ範囲:P.672 - P.673

 一口に企画部門といっても,広報やマーケティングから新規事業企画に至るまで非常に幅が広く,おのおのの病院の規模や機能によっても期待される業務に差異がある.そこで,まず当院の概要を紹介したうえで,企画部門の取り組みについて話を進めていきたい(表).
 当院は,本年5月までは病床数(219床)に対し1日平均の外来患者数が750名前後と,外来患者比率が高いことに特徴があるが,今春の診療報酬改定では200床を超える病院の外来については厳しい査定がされており,当院にとっては逆風となってしまった.

病院の経営戦略における企画部門の役割—北里大学病院の企画部門

著者: 柿田章

ページ範囲:P.674 - P.675

 21世紀を間近に控え,わが国の医療は大きく変わろうとしている.この要因には今日の経済事情もあるが,より大きな問題はやがて到来するわが国の少子高齢化社会への対策であろう.わが国の医療は社会保障体系として国民皆保険が定着した国であるが,これらの人口動態の変化があまりに速いため,その体制の方向転換には大変な困難が伴っているものと理解している.
 これらの社会的背景の中にあって,現場の病院は大変な変革と将来への企画を速やかに行うことが求められている.いかに早く計画を立案し,実行に移すことができるかが今後の戦略として最も重要な点である.これらの企画立案には病院の存在意義と特徴を確実に認識し,将来の社会のニーズを的確に判断した状況で計画されることが肝要である.

病院の経営戦略における企画部門の役割—地域における理想的なヘルスケアを目指して

著者: 今堀秀二

ページ範囲:P.676 - P.678

勝木グループとリハビリテーション加賀八幡温泉病院の関係
 医療法人社団勝木会リハビリテーション加賀八幡温泉病院(以下「当院」)は,医療・健康増進・在宅ケアを地域で総合的,かつ一体的に進める勝木グループの基幹施設である.図1にグループ構成を,図2に事業の概念図を,また,図3にグループ組織図を示す.グループの事業は,石川県下第2の都市,小松市および近郊の郡市合わせて22万人の人口圏を想定している.当院は,一般病院(208床)でグループの医療の中心であり,年間延べ約30万人の利用がある.
 昭和61年,それまで個別に運営管理し,横の連携も必ずしも十分ではなかったが,当院,整形外科芦城病院および健康増進の専門機関である財団法人北陸体力科学研究所をグループ化し,サービス本部(当時は管理本部と称した)を設けた(機能などは後述).グループ化により,地域住民が求める医療・健康増進・在宅ケアのそれぞれのサービスを総合的に提供していく土台ができた.同時に全事業所の効率よい運営をサポートするサービス本部体制により,マネジメントの人員も少数精鋭スリム化が可能となった.さらに,業務連携も格段に進み,職員の連帯意識も深まった.

病院の経営戦略における企画部門の役割—夢とリスクを職員全員で共有

著者: 幸野充夫 ,   柴田裕介

ページ範囲:P.679 - P.681

南小倉病院の紹介
 当法人は,南小倉病院(198床:医療保険対応療養病床124床,介護保険対応療養病床74床),介護老人保健施設伸寿苑(150床)の二つの入院・入所施設を持っている.病院部分は,全面新築中で平成13年2月に完成予定である.
 当法人は,従来から高齢者や在宅医療に力点をおき,老人保健施設やデイケアに早くから取り組み,また一般病棟での痴呆性疾患のケア,合併症の多い透析患者の治療などを試みてきた.現在,総合的リハビリテーション(透析患者など内部障害・痴呆など精神障害・脳卒中など外部障害を対象,回復期リハビリテーションから在宅ケアまで)とケア体制の整備に全力を上げている.共和会の組織は図1に示すとおりで,職員数は約300名であり,指示・連絡事項,各部署の動きなど比較的全部署に伝わりやすい規模といえる.

病院の経営戦略における企画部門の役割—タスクフォースとしての事務部門の充実

著者: 野村秀洋

ページ範囲:P.682 - P.684

 4月1日からスタートした介護保険制度の始まりが医療ビッグバンの始まりであり,医療における自由競争の始まりでもある.どちらにしても介護保険制度の実施が医療に大きな変革をもたらすことは間違いないと思う.医療と介護の切り離し,医療保険に先駆けて老人の定率1割自己負担,民間大手の事業所の参入による市場競争の導入などが大きな要因となる.
 さらに厚生省は,実施の予定であった平成12年度医療保険制度の抜本改革が日本医師会の反対で先送りされて思うように進まないために,本年度の診療報酬改定の中に入院基本料の創設をはじめ,様々な工夫を盛り込んで診療報酬体系の見直しを着実に進めている.この見直しの医療提供体制に及ぼす影響は極めて大きく,病床数にかかわらず病院にとっては大変革の厳しい時代を迎えている.その中において今や医療経営は保健や福祉を取り込んだ大きな流れの中にあり,中長期的方向性を見据えた経営戦略の策定が不可欠となっている.

病院の経営戦略における企画部門の役割—戦略的思考と問題解決能力の必要性と実践

著者: 中村彰吾 ,   渡辺明良 ,   市川雅人

ページ範囲:P.685 - P.687

企画部門の役割
 三角経営という考え方がある.これは,フランスの神話学者ジョルジュ・デュメジルが提唱した各地域の神話の分類方法「三機能説」を経営に置き換えたものである.経営には三つの機能があって,それぞれがその役割を果たすことによって良質な経営を執行できるシステムとなる,という考え方である.
 その機能とは,主権者(=リーダー),戦闘・戦力,調和,の三機能である.リーダーは,将来のビジョンを打ち出して集団を率い,戦力はリーダーに従って実際の戦闘を受け持つ.調和はリーダーと戦闘・戦力の間に立って集団をまとめる実務的な役割を果たす.頂点に立つリーダーを,三角形の底辺に位置する戦闘・戦力と調和の2者が支える(図).聖路加国際病院の企画室が担う機能を,あえてこの考え方に当てはめるならば,主に「調和」をサポートする部分になると考えられる.

介護ビジネスの経営戦略

著者: 吉田英二

ページ範囲:P.688 - P.689

経営戦略策定機構のポジション
 およそ企業が新規事業の本格参入を決断するには,企業トップに「二つの確信」がなければならないと思います.一つは,事業環境の将来展望に確信を抱くことであり,もう一つは,自社の保有する経営資源の適応能力が,既に競争優位にあること,または競争優位の資源形成に自信があるということです.
 事業展開のグランドデザインとなる経営戦略は,このような二つの確信が形成される過程において重要な拠りどころとなるものですから,その基本的な構成もこの二つの確信形成に対応したものとなっていなければならないと思います.

グラフ

「健康と福祉の里」づくりを目指して—藤沢町福祉医療センター(国保藤沢町民病院・保健センター・在宅介護支援センター・特別養護老人ホーム「光栄荘」・デイサービスセンター・老健ふじさわ)

ページ範囲:P.641 - P.646

 JR東北新幹線の一関駅から車で40分,岩手県の宮城県との県境に近い中山間地に藤沢町はある.北上川の流域にあり,豊富な燃料と水を生かした製鉄や,水運の要衝として栄え,また一方で江戸時代には東北地方で最大規模のキリシタン弾圧が行われるなど,様々な歴史のドラマが繰り広げられてきた地域で,高齢化が本格化する21世紀を目前に,地域医療の歴史に新たな1ページを加えるような取り組みが行われている.

HOSPITAL INDEX

エイズ拠点病院・3

ページ範囲:P.648 - P.648

 

特別寄稿

救急医療における質の評価

著者: 有賀徹 ,   井上徹英 ,   上嶋権兵衛 ,   坂本哲也 ,   益子邦洋 ,   山本修三 ,   梅里良正 ,   鈴木荘太郎 ,   伊藤弘人 ,   前田幸宏

ページ範囲:P.690 - P.696

 米国では,1910年代から外科医療の質を予後によって,すなわち最終的な結果によって評価しようという主張があり,その後評価対象は構造といういわばハード面への間接的な評価へと変遷したが,1919年に米国外科学会が採択したMinimum Standardsによる病院の認定は,1950年には全米の半数以上の病院に達した.そのような米国外科学会の活動を基に,米国内科学会,米国病院会,米国医師会などの協力により,1951年に病院認定合同委員会(Joint Commission on Accredita-tion of Hospitals;JCAH)が設立された.それは1987年にJoint Com-mission on Accreditation of Health-care Organizations (JCAHO)として今日に至っている1)
 一方,わが国での医療の質を評価しようとする方法として,昭和62年(1987)に厚生省と日本医師会とにより「病院機能評価マニュアル」が刊行された.そして,同年に客観的な第三者評価の必要性から,東京都私立病院会青年部会によるJCAHO研究会が組織された.そして,それは「自由競争社会にあって,医療は特別なものでなく,社会の中でどう評価されるか」が重要であるという認識により,会員病院の見学会を通じて平成2年(1990)に「病院医療の質に関する研究会」の設立へと発展した.

グローバル化は日本の保健医療をどう変えるか・2

著者: 宮城島一明 ,   中原俊隆

ページ範囲:P.697 - P.700

(59巻7号より続く)
保健医療サービスの特色
 狭義の保健医療サービスとは健康診断・健康相談や診療のことを指すが,広義の保健医療サービスには,医師・看護婦などの医療関係者の教育や研修,医療保険の販売,病院経営コンサルタント業務なども含まれると解される(図1).
 広義の保健医療サービスは,サービス業の多くの分野に共通する要素を含んでいるが,一方の狭義の保健医療サービスには,保健医療領域ならではの特徴がある(表6).

実践から病院情報システムの功罪とそのあり方を考える

6.データ利用は二つの顔を持つ(その3)

著者: 田原孝 ,   日月裕

ページ範囲:P.701 - P.705

(第59巻7号より続く)
看護応す行為の3層構造と対応する状態看護量の計量
 患者・家族の状態安定に伴う傾向検定の結果と表4(前号を参照)をもとにすると,状態看護量には二つのタイプがあることに気付く.一つは状態の安定とともに単調に減少するタイプであり,もう一つは状態の安定,不安定にかかわらず常に一定の量を示すタイプである.
 前者は「安全・生命維持(R)」,「適応・コミュニケーション(C)」の領域で提供する状態看護量であり,後者は「日常生活行動(ADL)」の領域で提供する状態看護量である.

レポート

自治体立病院の外部監査・2—監査結果に対する改善策の検討ぶ病院経営管理手法

著者: 岡村俊克

ページ範囲:P.706 - P.710

 前回(59巻7号,606頁参照)において,東京都,神奈川県,千葉県の病院に対する外部監査の結果について紹介し,特に東京都に関しては,以下のような主要な項目について,詳しく監査結果を検討した.
 1)医薬品受払い管理の適正化 払出しと請求データの照合が実施されておらず,ある病院では,1年間に山千万円を超える差が生じていた.2)カルテの記載の適正化 カルテなど(計77例)の記載について査閲したところ,37例について記載上の不備が発見された.3)一般会計からの補助金算定方 法の適正化

病院ボランティアの提案—東札幌病院・14

患者の生活空間を快適に・3—癌治療後の生活の不自由さを支える

著者: 斉藤悦子 ,   石垣靖子

ページ範囲:P.711 - P.711

 パウチを優しく覆って
 大腸癌患者の増加とともに,最近は人工肛門(ストーマ)による排泄を余儀なくされている人は珍しくなくなった.しかし,ほとんどの患者はストーマを受け入れるまでに様々な心身の困難に遭遇している.
 平成9年初夏,まだ40歳代の女性患者Aさんは,他院で大腸癌の手術を受けストーマを造った状態で転院された.若さもあってAさんはストーマをまだ受け入れられず,手入れもぎこちない状況だった.ナースたちはAさんをサポートするためにいろいろな工夫をした.例えばパウチにたまる排泄物が気にならないようにとガーゼで覆う工夫をしたが,動くたびに落ちてしまう.Aさんはそんなナースの期待に応えようと行動を制限するようになってしまった.

病院管理フォーラム Hospital Administratorへの道 part 2・8

目的集団としての組織マネジメントについて

著者: 望月眞一

ページ範囲:P.712 - P.713

 病院組織は,医療専門職の機能集団であると同時に,目的に向かう目的集団である.目的集団がその機能を発揮し,より合理的な成果を得るためには,病院組織の特性に応じた組織マネジメントが不可欠である.明確な目標設定とそれに対する組織のあり方や運営のいかんが,目的集団としての機能を決め,組織の成果を左右する.
 今回,当院における業績の推移と取り組みの実際を紹介しながら,病院の成果の違いについて組織マネジメントという視点から考えてみたい.

看護管理・29

看護の質を高める—看護理論を土台にして(1)

著者: 根本多喜子

ページ範囲:P.714 - P.715

 2000年を迎えたと思ったのも束の間,あと数か月で21世紀を迎えるところまできてしまった.医療・看護を取り巻く情勢は相変わらず厳しく,その中で,患者に選ばれ,信頼される病院として生き残っていくために,どの病院も必死の努力を続けている.利用者に信頼される第一の条件はその質であろう.病院職員の半数以上を占める看護部門の管理者としては看護の質をどのように高め,維持していくかが日々の課題である.
 当院では,10年ほど前からシスター・カリスタ・ロイの適応看護理論を導入し,理論を土台にして患者さんのニーズをアセスメントするということに取り組んできた.看護は人間を対象とし,しかも,心身共に病む人を対象とすることが多く,患者やその家族と医療従事者の織りなす人間関係には複雑なものがある.そこで,人間を理解するということが非常に大切なこととなる.その人間理解という観点からも統合的に人間をとらえようとしているロイ理論は示唆を与えてくれるものが多いと考えた.さらに,この理論は当院の理念である全人的医療の実践に活用でき,ひいては看護の質を高めることになると考えた.この理論導入に至る経緯と導入によって得られた成果について述べたい.

Principle 病院経営・20

病診連携の枠組み(1)

著者: 谷田一久

ページ範囲:P.716 - P.717

 最近,地方都市の中核的な病院の経営陣と懇談する機会が幾度とあった.今回の医療法改正の目玉である急性期病院加算や急性期特定病院加算をどのように考えればよいか,自分の病院はそれら加算を積極的にとりにいくことがよい選択かどうかといった内容が話題の中心となった.
 紹介率,在院日数,入院外来患者数比率の3点セットを一度に満たすことが現実的であるとは思えないところに彼ら病院経営陣の苦悩が存在するようである.在院日数については,近年の在院日数短縮化の流れに乗って,急性期医療を指向する病院であればだいたいの病院が20日前後の平均在院日数を達成しているようである.問題は紹介率と入院外来患者数比率である.

連載 事例による医療監視・指導・8

苦情への対応(2)

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.718 - P.719

 前号ではA病院への苦情を例に,インフォームドコンセントや病院側の対応の問題点について解説いたしました.今月も引き続き,病院への苦情について検討してみましょう.苦情の中でも,医療ミスではないかといった内容の苦情兼相談といったものも,多いものの一つです.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第70回

高知県立幡多けんみん病院

著者: 藤記真

ページ範囲:P.724 - P.729

 日本最後の清流として名高い四万十川.その河口,中村市から西側に隣接する宿毛市までは,国道56号線に沿って車で約40分の道のりである.西南・宿毛の二つの県立病院を統合した幡多けんみん病院は,両市のほぼ中間の丘陵地を切り開いた高台に建設された.この地域は,高知市を中心とした土佐に対して幡多と呼ばれ,付近にはまだまだ豊富な自然が残っている.年間の降雨量の多さとともに,ひとたび雨が降った時の激しさと,晴れた時の日差しの強さという,極めてめりはりがある気候が,高知の特徴といえる.同院は,幡多地域の基幹病院としての役割を担うことを第一としながら,その厳しい気候風土の中にあって,療養環境の向上や省エネルギーのために,恵まれた自然を豊かに使うことを目指した病院である.

医療の政策評価・7

「エンパワーメント」の評価方法と考え方

著者: 田村誠

ページ範囲:P.730 - P.734

 前回までで「効果」,「効率」,「公平」の三つの分析視角からの評価について,その考え方や方法について論じてきた.今回は,「住民・患者の健康状態」,「医療サービスの質と量」に続く三つ目の評価対象である「エンパワーメント(empowerment)」について,概念整理を行ったうえで,政策評価に用いる場合の測定の実際などについて論じたい(なお,評価対象や分析視角など,政策評価を理論的に整理した枠組みは,連載第2回目の『病院』59巻3号を参照のこと).

癒しの環境

医療現場のアート—その基本を考える

著者: 杉村荘吉

ページ範囲:P.720 - P.720

 美術館やギャラリーに属する巨匠たちの彫刻作品が,様々な人々が行き交う街角に進出して,一般市民に質の高いアートを鑑賞する場を与えるパブリックアート事業が世界中で始まって40年.街角とアートとの関係は,公共空間におけるアートの意味性と役割についての正解を求めて迷路をさまよう歴史でした.
 日本を含む各国が行ってきたパブリックアート事業の目的は,①一般市民の身近なところで芸術鑑賞の機会を与える,②地域の文化芸術の振興を図る,③街角景観の向上を図るなどに集約されます.一方「アート」は,もともと「私的」な技術に属する特性を持つことに加えて,この100年来アートの活動が,「個人の自由」意識と強く結びついて,私的意図で制作したアートを私的趣向で鑑賞するという構図で行われてきた結果,一般社会から遊離した別世界の活動となってしまったといえそうです.

医療従事者のための医療倫理学入門

8.インフォームドコンセント—情報開示の基準を中心に

著者: 浅井篤 ,   大西基喜 ,   永田志津子 ,   新保卓郎 ,   福井次矢

ページ範囲:P.721 - P.723

〔ケース〕
 47歳,女性.Wさんは幼少期の外傷のため右眼を失明していた.左眼は全く正常であった.担当眼科医は「手術によって右眼の視力の回復および美容上の改善が期待される」として,右眼の手術を勧めた.Wさんは「右眼に対する手術がもう一方の眼に影響することがあり得るか」について直接的には質問しなかったが,手術によって引き起こされる可能性のある合併症について多くの質問をした.また,正常な左眼への不慮の害も懸念していた.
 不幸にも右眼に対する手術は失敗した.さらに交感性眼炎(重症破壊性炎症で他眼の損傷または疾患に続発して起こる虹彩毛様体炎の一型)が合併し,両眼の視力を完全に失ってしまった.文献的には交感性眼炎か発生するリスクは14,000分の1であった1)

データファイル

病院機能評価認定証発行病院

ページ範囲:P.735 - P.735

 2000年7月24日,新たに下記の2病院に「認定証」を発行した.これにより認定証が発行された病院は350病院となった(その内訳は一般A 102病院,一般B 179病院,精神A 19病院,精神B 2病院,長期 17病院,複合A 17病院,複合B 14病院).

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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