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雑誌目次

雑誌文献

病院60巻11号

2001年11月発行

雑誌目次

特集 社会保障改革と病院

21世紀の社会保障の方向—経済学的に見て常識的な医療制度改革について

著者: 小椋正立

ページ範囲:P.934 - P.938

 ここ10年あまり医療の経済分析を専門にしている筆者でも,最近の医療制度や政策の変化の激しさは目を見張るものがある.しかし,それでもこの1月ほどの間にマスコミなどに報道されたニュースにはただ驚くばかりである.これだけの不確実性の中で,筆者が21世紀の医療保障の方向性を議論することにどれくらい意味があるかどうか,書いていてはなはだ心もとない.新聞などの報道によると,厚生労働省は老人医療制度の適用年齢を75歳へ引き上げることや,老人の自己負担率を2割に引き上げること,健康保険本人の自己負担を3割に引き上げることなど,難病や特定疾患などの患者についても自己負担率を適用することなどを決めたという.これらのニュースは,関連した審議会の委員などを除けば,ほとんどのアカデミックな医療問題の研究者には寝耳に水だったのではないだろうか.他方,医療分野における規制緩和の要求に対して,厚生労働省が極めて消極的な回答をしたとの報道にはあまり驚いた研究者はいなかったのではないだろうか.
 わが国の経済は,バブル崩壊後の金融市場の混乱に端を発し,長期化する不況によって成長がほとんどストップしたままである.その中で不況が物価を下落させ,それがさらに金融不安を増大させるというデフレスパイラル現象さえ見られ始めている.こうした状況にあっても,これまで医療費だけは着実に増加してきており,不況によって保険料収入の伸びが止まってしまった医療保険の赤字を拡大させ,減税と不況により税収が止まってしまった国や地方の財政赤字を拡大させている.このように医療サービスだけが不況とは無関係に拡大し続けてきたのは,わが国の医療制度が市場メカニズムから切り離された資源配分メカニズムによって運営されているからである.しかもこのメカニズムには医療サービスの需要と供給とを均衡させる能力が備わっていないため,時とともに拡大する不均衡が表面化しないように規制は強化され,しかもかなり便宜的に変更されてきた.このようなメカニズムの不均衡は,医療制度と市場経済の接点である,保険収支や財政収支に一方的に反映され,わが国の財政や政府制度そのものの信任を揺るがしかねない規模に達している.

21世紀の社会保障政策の方向

著者: 広井良典

ページ範囲:P.939 - P.942

 高齢化の急速な進展と経済の低成長の中で,医療,福祉,年金などを含む社会保障改革をめぐる議論がいよいよ政治の中心的な課題となりつつある.けれども一方,現状を見ると,そうした改革の必要性は繰り返し論じられてきているものの,いわば議論が同じところにとどまって前進せず,結果としてこれからの社会保障についての全体ビジョンがほとんど見えない,という状況になってきている.
 では考え得る社会保障改革の全体ビジョンとはどのようなものであろうか.そしてその中で医療はどのように方向づけられ,またそれは病院とどうかかわるのか.本稿では,諸外国の社会保障改革の動向も視野に入れながら,これらのテーマについて考えてみたい.

高齢者医療制度改革と病院医療—医療改革の本質への回帰

著者: 青柳俊

ページ範囲:P.943 - P.946

 昨年(2000年)医療構造改革論議が本格化する中で,日本医師会をはじめ,経済団体連合会,健康保険組合連合会,日本労働組合総連合会などの関係者間では,「改革の根幹を成すのは老人保健制度の抜本改革,すなわち新たな高齢者医療制度の創設にある」という共通の認識があったといってよい.日本医師会の改革案が先鞭をつけ,各団体の提案がこれに続いた.もちろん,それぞれが主張する高齢者医療制度の内容には,理念,具体的構造において相違はあったが,小異を捨てて大同につこうという意識を各関係者が強く持っていた.
 しかし,昨年10月「社会保障構造の在り方について考える有識者会議」が報告書「21世紀に向けての社会保障」を発表したあたりから,改革のベクトルの方向に変化が生じ始めた.

高齢者医療制度改革と病院医療—求められる患者中心の医療・医療費の適正化と情報開示

著者: 鈴木久雄

ページ範囲:P.947 - P.951

 内閣府は,8月に日本と諸外国の高齢者の生活意識を比較した「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果」をとりまとめ,公表した.それによると,日本の高齢者は「ほぼ毎日から月1回くらい医療機関を利用」する人が60.2%と,他の4か国(アメリカ,ドイツ,スウェーデン,韓国)と比べ最も高いことがわかった.医療サービスに対する満足度は32.2%で,5か国中2番目に低い数値である.また,診療所より病院での受診割合が62.7%と,他国よりも大幅に高くなっている.
 こうした調査結果からも,わが国の国民皆保険制度のよさの反面,必ずしも患者の満足度は高くなく,病院での課題も含めた医療改革の必要性が浮かび上がってくる.

高齢者医療制度改革と病院医療—高齢者医療制度改革に対する経済界の考え方

著者: 高橋弘行

ページ範囲:P.952 - P.955

 高齢者医療制度改革の議論がいよいよ大詰めを迎えている.本来,制度の抜本的な改革は,財政負担を要するため,好況時に行われることが望ましい.現下の情勢は,改革の制約条件を厳しいものとしているが,少子・高齢化が本格化する中で,来年度に高齢者医療制度の改革が実現されなければ,わが国の医療保険制度の持続性は危ういものとなる.

【座談会】病院医療における受益者負担を巡って

著者: 福田浩三 ,   武弘道 ,   三上裕司 ,   大道久

ページ範囲:P.956 - P.963

 大道(司会)近年,医療における制度改革論議が大変盛んで,とりわけ小泉内閣になってから,財政主導の医療改革がはっきりしてきました.骨太の方針,聖域なき構造改革ということで,医療,あるいは社会保障を含む新しい改革の方向が示されています.そういう中で医療については,医療を受けるという直接的な便益がある患者さんに一定の負担をお願いしたらどうかという趣旨の議論があります.本日は,その幾つかの論点について,ご意見をいただきたいと思います.
 最初に,自己紹介を兼ねて簡略にご自身の病院の概要などをお話いただき,その上で本日のテーマの極めて重要なキーワードである混合診療について,是非を論じていただきたいと思います.まずは福田先生からお願いいたします.

社会福祉基礎構造改革と保健医療福祉のあり方

著者: 高橋紘士

ページ範囲:P.964 - P.968

課題となる長期ケアのあり方—ケアパラダイムの転換
 長命化の結果,寝たきり高齢者や痴呆性高齢者のような緩慢な身体機能および精神機能の低下を経験して終末期に向かう長期ケアの一般化は,従来のケアモデルの転換を迫っている.
 医療モデルから生活モデルによるケアモデルの転換が医療と福祉の境界の再設定の必要をもたらし,これとともに従来の社会福祉事業としての福祉からより一般化,普遍化した福祉へ,また現金給付を軸とした福祉施策からサービス施策へ,また施設ケア中心から在宅ケア中心へと転換が図られるようになってきた.このような転換を説明するモデルが図である.

グラフ

長野県初の地域医療支援病院として急性期医療を展開—特定医療法人慈泉会相澤病院

ページ範囲:P.921 - P.926

 松本市は,20万都市としては全国で最も高地に発達した都市であり,長野県中南信地方の中核都市として政治・文化・経済の中心としての役割を担ってきた.
 この地に慈泉会相澤病院の前身である相澤医院が開業したのが明治41年,松本市が誕生した翌年のことである.以来,実に1世紀近くにわたって地域住民の健康を支え続けてきた.この間に医療法人認可(昭和26年),相澤病院開設(昭和27年),特定医療法人認可(昭和42年),相澤中央病院開設(昭和43年)など,徐々に規模を拡大,昭和50年に相澤中央病院と相澤病院を統合し,ほぼ現在の体制となった.

HOSPITAL INDEX

臨床研修指定病院・1

ページ範囲:P.928 - P.928

特別寄稿

京都府の介護保険指定事業者の実態調査—私的医療機関・「複合体」の参入を中心として・1

著者: 二木立

ページ範囲:P.969 - P.974

 2000年の介護保険導入から,早くも1年半が経過した.開始後半年と1年の区切りの時期には,それの功罪を「点検」,「検証」する新聞報道や論文が多数発表された.当然のことながら,一般の関心はサービス利用(特に在宅サービス利用)の低さに集中した.サービス提供事業者の検討もなされたが,その多くはコムスンやニチイ学館など大手訪問介護事業者の「予想外の不振」の検討に焦点が当てられていた,筆者の知る限り,介護保険事業者の全体像を全国レベルで定量的に検討した報告はまだない.

民間病院における会計管理実務の現状—2.診療科別採算管理

著者: 荒井耕

ページ範囲:P.975 - P.978

(10月より続く)
 本号では,民間病院における会計管理実務のうち診療科別採算管理の現状についてその調査・分析結果を述べる.
 4.診療科別採算管理の現状(表3,注13)
 1)全体としての現状 民間病院全体では,64.9%の病院が診療科別採算管理(診療科別原価計算)を実施している.90年代半ばまでの日本の病院界における診療科別採算管理の実施状況についての病院経営関係の専門家の感覚からすると,この結果は実施率が高すぎるのではないかと受け止められるかもしれない.しかしここ数年急速に診療科別採算管理の実施がなされるようになってきていることは,多くの病院経営の研究者やコンサルタントが認めるところである.

ボランティア:住民に支えられて—諏訪中央病院・11

地域に定着したボランティアの輪—「沙羅の木会」のボランティア活動

著者: 田辺庚

ページ範囲:P.979 - P.979

 平成2年4月に老人保健施設「やすらぎの丘」が当院に併設されました.介護保険が実施されてからは介護老人保健施設となりましたが,年々入所,通所サービスの充実,向上を目指して着実に発展しながら今年で12年目を迎えました.同施設の歴史をともに担ってきたボランティアを今回は紹介いたします.
 看護職である初代副施設長は,開設当初から地域に開かれた施設とし,入所者に行き届いた介護を提供するためにボランティアの導入を考えていました.そこで,行政の保健婦のもとで保健活動の手助けを行うボランティアである保健補導員の会長に相談を持ち掛けました.保健補導員の側でも何か社会に役立ちたいと考えていたこともあり,ボランティア導入の話は順調に進みました.

病院管理フォーラム 看護管理=病院のDON・11

看護政策対応力

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.980 - P.981

⦿医療改革議論と病院看護
 多くの病院のDONは,国が進める医療政策や診療報酬改定あるいは医療保険制度の改革によって,病院や病院看護が振り回されているように感じているらしい.それは,これまでのDONの仕事がどちらかというと病院の内部マネジメントに集中し,医療政策の変更や行政の動向に対しては,どちらかというと受け身にならざるを得なかったということであろう.しかし,「聖域なき構造改革」が主張され,医療改革議論が本格化する過程で,DONが,政府の方針や行政の動向をどのようにとらえ,そして,病院内で何をどのように考えているのかは,重要なことである.
 つい最近の9月末に,厚生労働省は「医療保険制度の改革試案」を示し,患者の自己負担の増加,保険料の引き上げ,高齢者医療制度の改革,診療報酬・薬価基準の見直し,医療の規制緩和,効率化などについての具体案を明らかにした.不況下での国家財政の危機的状況が背景にあるものの,医療費の負担増には強い抵抗があり,連日のようにマスメディアがこの問題を取り上げている.

連載 事例による医療監視・指導・22

無診察治療の禁止

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.982 - P.983

 広い意味で「医療監視」といった場合には,医療法の関連のみならず,医師法をはじめとする医療関係各法に関することも入ります.今月は比較的お問い合わせや苦情をいただくことの多い「無診察治療」について考えてみたいと思います.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第84回 国立病院の新しい建築

国立長野病院/国立病院岡山医療センター

著者: 高橋明 ,   榎本繁

ページ範囲:P.990 - P.996

 国立病院・療養所の再編計画に基づき,長野県上田市にあった東信病院と上山田町にあった長野病院を統合し,がん・心疾患を中心とした新しい国立長野病院として完成オープンした.
 新病院は,21世紀に向けた政策医療の新たな飛躍を目指し,がん診療の中核施設として高度かつ集学的な医療,循環器病を対象とした高度救急医療,難病を対象とした専門医療や周産期医療などを展開している.

医療経営の総合的「質」の検討・11

医療サービスの質と効率の評価—医療効率の羅針盤 クリニカル・バリュー・コンパス

著者: 池田俊也

ページ範囲:P.984 - P.986

 本連載においてこれまで様々な専門的立場からの議論があったように,医療経営の質の評価には様々な切り口があり得る.医療の中身に詳細に立ち入って議論を行うことは本連載の主旨とは異なるが,医療機関が医療サービスを提供する場である以上,医療サービスそのものの質と効率の評価を無視することができないことに異論はないだろう.そこで本稿では,米国で1990年代より提案されている「clinical value compass (クリニカル・バリュー・コンパス:医療効率の羅針盤)」という考え方に基づき,管理部門が,医療サービスの質と効率に関して,どのような項目をどのようなレベルで把握しておく必要があるかについて検討したい.

医療従事者のための医療倫理学入門

22.遺伝子診断に関する倫理的問題—遺伝性神経難病の遺伝子カウンセリングを通じて

著者: 藤村聡 ,   浅井篤 ,   大西基喜 ,   福井次矢

ページ範囲:P.987 - P.989

〔ケース〕
 18歳の女性Aさんが脊髄小脳変性症の遺伝子検査を受けたいと来院した.Aさんの父は遺伝性脊髄小脳変性症(常染色体優性遺伝,おおむね20歳代以降に発症)と遺伝子診断で確定診断を受け現在寝たきりの状態であるという,Aさん自身には未発症であるが,この病気が常染色体優性遺伝であることを最近知った.父親の主治医からは「この病気は遺伝性の疾患であるが,必ずしも遺伝しない」と説明を受けているが,自分も保因者ではないかとの心配が募り,父親の入院している施設での遺伝子検査を希望した.いったんは遺伝子診断を行う予定になったが,遺伝カウンセリング制度が整ってないとの理由で,この施設では遺伝子検査はできないといわれた.Aさんは強く遺伝子検査を希望していたが,父親の主治医は未発症で保因者の可能性のある未婚女性に対する遺伝子診断の対応に苦慮し,遺伝カウンセリング体制のある某大学医学部附属病院へ紹介した.このようないったん発症すると治療法のない遺伝性疾患の事例に,われわれ医療従事者はどう対応するべきだろうか?

癒しの環境

病室と笑い

著者: 正木友梨

ページ範囲:P.997 - P.997

 「包み隠さず言いますけど,さっき見たのはがんです」,「先生,内視鏡で見ただけで,そこまでわかるのですか.それで悪性ですか良性ですか?」と言ってから「あっ,今がんやと言われたんやから,悪性や.あほなこと聞いたな」と,心の中でつぶやいたことから始まった入院生活.人とは随分違う経験をしたらしく,執筆の依頼が舞い込んできました.「がん」と言われても「ガーン」とこないし,病室を下見してから個室を予約するしたたかさ(?)でありました.今までの忙しい生活から離れて,ちょうど勉強していた音楽療法を受ける立場で体験できるとか,以前知人のために病室の癒しの環境作りをしたのを,今度は自分のためにできるとかで,だんだん入院するのが楽しみになっていきました.
 手術はうまくいき,回復もごく順調.起き上がれない間は,癒しになる音楽だけを選んで聴きながら,真っ白に見える飾り気のない壁にどんな飾りを作ろうかとか,廊下のドアの透明部をどんな風に目隠ししようかと思いを巡らせながら,寝っ放しによる腰痛と闘つていました.

戦略的病院経営の勧め・2

戦略分析

著者: 長谷川敏彦

ページ範囲:P.998 - P.1003

 戦略形成の三つの段階のうち第1段階が「戦略分析」である.病院のあるべき姿,理念を確立し,その関連において「外部環境」,すなわち病院外部の状況や「内部環境」,すなわち病院の実績などを分析評価する.

データファイル

都立病院の「患者権利章典」,他

ページ範囲:P.1004 - P.1006

 患者さんは,「患者中心の医療」の理念のもとに,人間としての尊厳を有しながら医療を受ける権利を持っています.また,医療は,患者さんと医療提供者とが互いの信頼関係に基づき,協働してつくり上げていくものであり,患者さんに主体的に参加していただくことが必要です.都民の生命と健康を守ることを使命とする都立病院は,このような考え方に基づき,ここに「患者権利章典」を制定します.
 都立病院は,この「患者権利章典」を守り,患者さんの医療に対する主体的な参加を支援していきます.

琉球弧から・11

IT(情報技術)とQOM(医療の質)〈その3〉質から価値へ

著者: 天願勇

ページ範囲:P.1007 - P.1007

□在宅死
 厚生労働省の人口動態調査によると,1999年に死亡した人のうち,自宅で亡くなったのは15%,病院などの施設では82%に上る.1951年には在宅死83%,施設死12%で,50年足らずの間に比率は逆転した.
 病院で死ぬというと身体中に挿管されて(スパゲティ症候群),病院や医師の管理下で,患者には自由やプライバシーはほとんどないのが現状である.患者・家族の病院に対するやり場のない不満と,病院に行けば安心するという病院信仰が裏腹になって,病院死が増えてきた.だからといって,在宅死を望む高齢者が減っているわけではない.本当は言いたくても「家で死にたい」と言えないのが実情で,家族がいない!家族に迷惑をかける!助けてくれる友人が近くにいないなどの理由から,在宅死は減少してきたのではないだろうか.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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