文献詳細
文献概要
特集 社会保障改革と病院
21世紀の社会保障の方向—経済学的に見て常識的な医療制度改革について
著者: 小椋正立1
所属機関: 1法政大学経済学部経済学科
ページ範囲:P.934 - P.938
文献購入ページに移動わが国の経済は,バブル崩壊後の金融市場の混乱に端を発し,長期化する不況によって成長がほとんどストップしたままである.その中で不況が物価を下落させ,それがさらに金融不安を増大させるというデフレスパイラル現象さえ見られ始めている.こうした状況にあっても,これまで医療費だけは着実に増加してきており,不況によって保険料収入の伸びが止まってしまった医療保険の赤字を拡大させ,減税と不況により税収が止まってしまった国や地方の財政赤字を拡大させている.このように医療サービスだけが不況とは無関係に拡大し続けてきたのは,わが国の医療制度が市場メカニズムから切り離された資源配分メカニズムによって運営されているからである.しかもこのメカニズムには医療サービスの需要と供給とを均衡させる能力が備わっていないため,時とともに拡大する不均衡が表面化しないように規制は強化され,しかもかなり便宜的に変更されてきた.このようなメカニズムの不均衡は,医療制度と市場経済の接点である,保険収支や財政収支に一方的に反映され,わが国の財政や政府制度そのものの信任を揺るがしかねない規模に達している.
掲載誌情報