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雑誌目次

雑誌文献

病院60巻12号

2001年12月発行

雑誌目次

特集 ゲノム時代と病院

ゲノム時代の医療とは

著者: 小澤敬也

ページ範囲:P.1022 - P.1026

 20世紀の終わりにヒトゲノムプロジェクトが急速に進み,ヒトゲノムのほぼ全塩基配列が当初の予想よりかなり早く解明された1,2).ヒトゲノムとは,ヒトという個体を規定する遺伝情報の総体を意味するものである.4種類の塩基によって書かれたヒトの設計図を手に入れたことは,人類の月面着陸にも匹敵する偉業として讃えられたことは記憶に新しい.ただし,その設計図の読み方や利用の仕方に関する研究はまさにこれからである.ゲノムの全塩基配列解明は終着点ではなく,ゲノム医療の本格的スタートを意味しており,これからは「ポストゲノムシークエンス時代」といわれている.
 ゲノム医療は,1)病態解明(遺伝子解析),2)遺伝子診断・治療(分子標的治療と遺伝子治療)に大きく分けることができるが,いずれの分野もこれから一段と発展していくものと思われる.分子病態解明では,DNAチップに代表されるゲノム機能解析技術が急速に進歩しており,遺伝子発現パターンの包括的・網羅的解析が行われている.

遺伝子診断をめぐる倫理的問題

著者: 白井泰子

ページ範囲:P.1027 - P.1030

 この10年あまりの間に驚くほどの早さで進められてきたヒトゲノム解析研究の過程で,数多くの遺伝子が明らかにされるとともに,新しく見つかった遺伝子の構造や機能,染色体上の位置なども解明されている.こうした研究の成果により,遺伝子検査の対象疾患はメンデル型遺伝形式をとる単一遺伝子病だけでなく,高血圧や糖尿病のような一般的疾患にまで広がってきた.また,遺伝子診断の目的も,病型診断や出生前診断・保因者診断だけでなく,発症前診断や疾患感受性診断へと拡大している.こうした遺伝子診断の用途の多様化・一般化によって,遺伝子診断をめぐる倫理問題が顕在化する可能性も大きくなっている.
 本稿では以下の順序に従い,問題点の指摘と検討を行う.

遺伝子技術の経済・技術評価—OECDでの検討動向

著者: 吉倉廣

ページ範囲:P.1031 - P.1033

本稿では,OECDの科学政策委
 員会のバイオテクノロジー部会での活動を中心に紹介する.遺伝子技術については,他に遺伝子組み換え食品に関して環境部会が討議しているが,詳細については触れない.1999年にイギリスのエジンバラで組み換え食品のコンセンサス会議が開かれたが,バイオテクノロジー部会の事務局が環境部会と協力して開催した形になっていた.
 本稿においては,人の健康に関連し,全体としてどのような検討が行われてきたか,その中で遺伝子技術に関してはどうか,という順序で説明する.

ゲノム時代に求められる病院の対応

著者: 高田史男

ページ範囲:P.1034 - P.1040

 本年9月11日に起きたニューヨーク同時多発テロ事件はわれわれの記憶にまだ生々しいが,この惨劇の後,米国と英国は同様の飛行テロの再発に備え,苦渋の決断の声明を発表した.すなわちハイジャックされた民間旅客機が今回のように人口の密集した要所への墜落激突が不可避となった緊急時には,より大きな被害をもたらす最悪の事態を回避するためにその旅客機を軍により撃墜する方針を決定したのである.
 この決定について本稿で何ごとかを論じようとするものではない.ただ,なぜか筆者はこの方針を聞いて,臨床遺伝学のある創作問題を思い出した.それは簡単に述べると以下のごとくである.

京都大学医学部附属病院遺伝子診療部の運営—その現状と展望

著者: 藤田潤 ,   小杉眞司 ,   依藤亨 ,   藤村聡 ,   富和清隆

ページ範囲:P.1041 - P.1044

 近年,いわゆる遺伝病だけではなく,一般的な高血圧や糖尿病などの生活習慣病や悪性腫瘍の発症に関係する遺伝子が次々と報告されている.これら遺伝子に関する情報はデータ量が膨大で,しかも増加のスピードが速いため,コンピュータとインターネットを使わなければ進歩についていけない.一方,マスメディアや一部の雑誌では,まだ確定していない内容を大きく取り上げることがしばしばであるために,人々の遺伝医学に対する期待は高まり,一般の人はもちろん,それを専門としていない医師もその情報の意義を誤解してしまう場合もある.また,インターネットで最新知識を仕入れてきた患者に医師が対応できない事態も一部では生じている.
 京都大学医学部では平成8年9月,それまで各診療科単位で行っていた遺伝医学的な対応を附属病院として統一して行おうと「遺伝子診療相談室」を開設した.同時期に信州大学にも同様な部門ができたのは時代を反映していたからであろう.平成13年4月,院内措置により遺伝子診療相談室は「遺伝子診療部」となった.本稿ではその現状を報告する.

ゲノム時代の医療—患者の立場から

著者: 玉井邦夫

ページ範囲:P.1045 - P.1047

サイエンスフィクション?
 近未来の病院.そこは人間の製造と修理の工場.胎児の遺伝子はカタログと価格表にしたがってお望みの「オプション」遺伝子に組み換えられる.再生医療がもたらす「交換用臓器」や「交換用身体」によって,欠損部分はたやすく交換される.だが,難病に苦しむ患者がいなくなったわけではない.既知の疾患については完全に遺伝子レベルでの対処が可能になったとはいえ,次々と現われる未知の疾患に対して,医療の努力は続けられている.だが,多種多様な遺伝子の組み換えによって生じてきていると思われる症状は,あたかも過去の「複合汚染」の様相を呈しており,原因を突き止めることは困難を極めている….

グラフ

おもいやりの心で高度専門医寮を提供—赤穂市民病院

ページ範囲:P.1009 - P.1014

 忠臣蔵で有名な赤穂市は,兵庫県の西南部,岡山県との県境に位置する人口約5万3,000人の街である.赤穂市民病院は,この地で国民健康保険直営赤穂町民病院(内科・外科,44床)として1947年に開院.その翌年に赤穂町営に移管,1951年には市制施行に伴い市営となった.1998年2月11日,2度目の移転新築により,東は名水百選に選ばれた千種川,南は瀬戸内海,西は赤穂城趾,北は高山などの山々を望む場所に新病院が開院した.

HOSPITAL INDEX

臨床研修指定病院・2

ページ範囲:P.1016 - P.1016

特別企画 病院機能と医師評価・1

なぜ「病院機能と医師評価」か—はじめに

著者: 梅里良正

ページ範囲:P.1048 - P.1049

 近代医療は組織医療であるといわれ,組織的な協力による医療提供の重要性が強調されています.その重要性を否定するものではありませんが,病院組織の中で医師が,医療の質や効率に与える影響は,極めて甚大であるといわざるを得ません.医療の質や効率を本質的に議論し,その改善を図っていくためには,その中心となる医師の評価は避けて通ることができない課題ではないでしょうか.医療が適切に評価され,その結果が,医療従事者,特に医師に的確にフィードバックされ,意識改革につながって初めて,改善のサイクルが動きだすものと思われます.
 しかしながら,極めて専門性の高い医療や医師の評価は,わが国では永くタブー視されてきたように思われます.一つは人の生命に関与する医師職の尊厳にかかわる問題として,そもそもこれを評価するという発想すら浮かばなかったと思われること,また二つにはその専門性のゆえ,本質的な評価はpeer review (同僚評価)以外には困難であり,実質的な評価方法がなかったことなどが主たる理由であったのではないかと考えられます.

医師機能とメディカル・オーディット

著者: 寺崎仁

ページ範囲:P.1049 - P.1052

 本日は,「医師機能とメディカル・オーディット」というテーマに沿って,その内容をお話させていただきたいと思います.
 メディカル・オーディットという言葉は,わが国でも最近使われるようにはなりましたが,ご存じのように「オーディット」の意味は「監査」ということで,メディカル・オーディットを直訳すると「医療監査」ということになります.しかし,どちらかというと,「診療評価」ととらえたほうがよろしいのではないかと思います.

特別寄稿

京都府の介護保険指定事業者の実態調査—私的医療機関・「複合体」の参入を中心として・2

著者: 二木立

ページ範囲:P.1053 - P.1057

(前号より続く)
5.指定事業者の母体となっている私的病院・診療所の特徴
 次に,指定事業者の母体となっている私的病院・診療所グループの特徴と私的病院・診療所全体の中での位置を検討する.
 1)病 院
 その前に,1998年の京都府の私的病院チェーンの全体像を示す(表9).広義の病院チェーン(Ⅰ〜Ⅲ型の合計)は25グループ(56病院15,002床)存在し,私的病院・病床総数のそれぞれ35.7%,51.6%を占めている.しかもこの中には,済生会,徳洲会など,全国レベルでは巨大病院チェーンだが,京都府内では1病院しか開設していないグループは含んでいない.なお,狭義の病院チェーン(Ⅰ型+Ⅲ型の母体法人)は10グループ(43病院,9,992床)であり,私的病院・病床総数に対する割合は,それぞれ27.4%,34.3%に低下する.

民間病院における会計管理実務の現状—3.診療科以外の部門別採算管理

著者: 荒井耕

ページ範囲:P.1058 - P.1061

 本号では,診療科以外の部門別採算管理についての調査・分析結果を述べた上で,最後に会計管理上の今後の最低限の課題について簡単に触れる.

癒しの環境〈最終回〉

心の癒し

著者: 高栁和江

ページ範囲:P.1062 - P.1063

日曜日の夜8時,電話が鳴った.腹の底から振り絞るような声が聞こえてきた.「先生,助けてください」
 数年前に死に方のコツというタイトルで話をしたときに講演会でお会いしたSさんだ.どうして私の自宅の電話番号を調べたのかわからないが,Sさんは必死であった.

病院管理フォーラム 看護管理=病院のDON・12

院内看護政策力

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.1064 - P.1065

⦿21世紀の医療提供の姿と看護
 2001年9月25日公表の厚生労働省「医療保険制度の改革案試案」別添「21世紀の医療提供の姿」においては,「Ⅱ.今後のわが国の医療の目指すべき姿」の中で,質の高い効率的な医療の提供のため,看護職について,看護婦などの確保・資質の向上として「看護婦などについて,子育てをしながら仕事を継続できる環境の整備などの確保策を推進する」,「また,就業中の看護婦などが,継続的に専門知識と技能を向上させていくことができるように,インターネットを活用したシステムを開発するなど,看護婦などの資質の向上を支援する(平成14年度)」と書かれている.別添の目次は表1のようなものであり,かなり踏み込んだ内容であり,貴重な文章である.それにもかかわらず,看護については,これ以上はない.
 前回の連載で,看護政策の中心課題は,①保健婦助産婦看護婦法の施行に関すること,②看護職養成力の拡大や看護就業者の処遇改善など,看護力の拡充に関すること,③看護教員養成,看護職の卒後教育に関することなど,看護の資質の向上に関すること,であると書いたが,看護に関して厚生労働省は,この範囲以外は考えていないのであろうか.

連載 事例による医療監視・指導・23〈最終回〉

信頼に基づく医療の重要性

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.1066 - P.1067

 私事で恐縮ですが,家で飼っていた3か月の子猫が死にました.妻が道端で拾って,ピッコロと名づけられたその猫は,呼吸困難を繰り返したため,懇意にしている獣医さんの診察を受け,横隔膜ヘルニアで,腸管のほとんどが胸腔内に脱出していることが判明し,手術を勧められました.比較的元気にしていたのですが,そう難しくない手術ということで手術を受けました.ところが予想以上に肝臓と横隔膜の癒着が激しく,剥離中に心停止を来して術中死したものです.たかが子猫の死というものの,内田百間の「ノラや」ではありませんが,気分は千々に乱れます.
 筆者は,獣医学は専門ではないものの,その周辺領域でもある医学を一応は学んでおり,一般の患者(患畜?)のご家族よりは手術に伴う危険も認識していたと思います.また執刀してくださった獣医さんは以前から懇意にしており,十分に信頼を置いています.知識もあり,主治医との信頼関係があっても,しかし,それでもなお気分は乱れるのです.保存的治療を選択すべきではなかったか.手術の時期は適切だったか.無理に剥離しないで閉じるべきではなかったか…….

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第86回

高齢者ケアの場のゆくえ

著者: 井上由起子

ページ範囲:P.1080 - P.1084

 「高齢者施設の課題と展望」という題目を編集部からいただいた.どの範疇までを高齢者施設と位置付けるかについて具体的なコンセンサスがあるわけではない.最近よく目にするのは,介護保険の施設サービスに該当する特別養護老人ホーム,老人保健施設,介護療養型医療施設を高齢者施設ととらえた報告や記事である.本稿では,これら3施設の他,療養病床,ケアハウス,シルバーハウジング,グループホームなど,その対象を幅広くとらえたうえで,高齢者ケアの場における今日的課題を概観していきたいと思う.

医療経営の総合的「質」の検討・12

企業における経営戦略としてのTQM

著者: 山岡建夫

ページ範囲:P.1068 - P.1071

 JUKI株式会社は,工業用ミシン,家庭用ミシン,産業用表面実装装置などを製造,販売している東京・大阪証券取引所第1部上場の機械製造業である.当社では1976年4月1日に労使共同宣言によってTQM(total quality management)を導入,推進を行った.本稿においてはその取り組みを紹介したい.
 当時の日本経済は,1973年のOAPEC (アラブ石油輸出国機構)の石油公示価格21%値上げによるオイルショックと,それに続く円高の影響により低迷していた.

医療従事者のための医療論理学入門

23.判断能力に問題がある患者の診療における倫理的問題・1

著者: 浅井篤 ,   大西基喜 ,   福井次矢

ページ範囲:P.1072 - P.1074

〔ケース1〕不可逆的昏睡状態患者
 重症脳出血のために2年以上前から不可逆的昏睡状態になり,両下肢の広範壊死を合併していた70歳の女性患者の経管栄養が中断され,そのために死亡したという事件が新聞で報道された.経管栄養の中断は,主治医,看護婦と親族同然に面倒を見ていた男性の合意のもとに行われたという.本人や家族の意思の確認は行われなかったが,経管栄養という延命治療を中断した意図は,「人道的で自然な死」を迎えさせるためであったという.このような判断は倫理的に正しいだろうか.

ボランティア:住民に支えられて—諏訪中央病院・12〈最終回〉

地域との交流を図る—「やすらぎ喫茶室」

著者: 田辺庚

ページ範囲:P.1075 - P.1075

 福祉に対する標語コンクールに「人と人 心の架け橋 ボランティア」という優秀作品がありました.まさにこの標語にぴったりの活動を紹介したいと思います.
 当院併設の介護老人保健施設「やすらぎの丘」の喫茶室は平成10年3月に地元C高校の生徒たちの手によって開設されました.生徒会福祉委員会のボランティア活動です.月1回の活動ですが4年目を迎え,入所者の楽しみになっています.彼らは放課後を利用して入所者60人分のおやつを作り,そのおやつと各種飲み物,食器や道具,さらには各自が家から持ってきたお菓子や漬物を携えて,10数名で施設を訪問します.

戦略的病院経営の勧め・3

戦略選択

著者: 長谷川敏彦

ページ範囲:P.1076 - P.1079

 戦略選択は戦略分析に次ぐ第2段階で,戦略分析に基づいて具体的な戦略を決定する(図1).戦略選択としては,自分の病院機能を決定する病院攻略と(図2),市場での適応,参入,位置づけを決定する市場攻略の2側面に分けることができる(図3).

レポート

公立神崎総合病院におけるISO9001導入

著者: 坂田侃

ページ範囲:P.1085 - P.1088

(11号より続く)
ISO9001取得の目的と意義
 公立神崎総合病院は,兵庫県神崎郡を中心に救急医療,高度医療,包括医療を使命として,地域の保健・医療・福祉センターとしての中核的役割を担っている.病院本体は155床,透析センター25床,併設施設として休日夜間診療所,介護老人保健施設,神崎町健康増進センター,そしてケアステーション,訪問看護ステーションなどがあり,職員237名を擁している.
 当院では,医療機関を取り巻く急激な環境変化に備え,平成6年にその打開策として民間のコンサルティング会社による経営診断を受け,翌7年より中期経営計画を作成し,平成8年から5年間にわたり改善活動を継続してきた.本活動を通じ,5年連続の黒字決算を成し遂げるとともに,病院機能評価の認定(平成10年)や医局も含めた組織横断的活動を展開してきた(病院,59巻5号397頁参照).

琉球弧から・12〈最終回〉

沖縄病の患者たち

著者: 天願勇

ページ範囲:P.1089 - P.1089

□安心と幸せ
 平和で明るい時代になることを期待して迎えたはずの21世紀だが,1年もたたないうちに先行きが見えなくなってしまった.勝敗のわからない泥沼の戦争は,いつ果てるともなく続いている.「構造改革」をスローガンに掲げて船出した小泉内閣は,変革の成果も出ないうちに,世界同時不況の様相を呈し,わが国だけの努力ではどうしようもなくなってしまった.
 同時テロ事件以来,世界のリーダーとしてのアメリカの力や役割にも陰りが見えてきた.

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「病院」 第60巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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