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雑誌目次

雑誌文献

病院60巻2号

2001年02月発行

雑誌目次

特集 改めて病院の安全管理を問う

組織としての医療事故防止について考える—平成11年度厚生科学研究「医療のリスクマネジメントシステム構築に関する研究:看護の「ヒヤリ・ハット」事例の分析

著者: 川村治子

ページ範囲:P.102 - P.105

 連日のように重大な医療事故の報道が続いている.それらのほとんどが,筆者らによって一昨年全国から収集された1万以上の看護の「ヒヤリ・ハット」事例の中に「未遂」事例として存在していた.不幸な事故の背景には,幸運にも同様事故を防ぎ得た施設や個人が必ず存在しているということである.つまり,特定の施設や個人に起きるエラーなどというものは,ほとんどないとも言える.
 どのような状況や背景で,人はエラーを犯すのかを知ってこそ,個人も組織も対策が立てられる.症例検討の積み重ねにより臨床が多くの貴重な教訓を得てきたように,多数の事例から「事実」を整理することによって,エラーの発生要因を俯瞰できるはずと考えた.そして,実際に全国の注射事例を分析してみると,施設を越えて多くの共通した要因が明らかになった.本稿では,こうした分析結果をもとに,組織に求められる医療事故防止について考えたい.

リスクマネジメントと損害保険:リスクマネジメントと損害保険—病院という組織の視点から/医療にかかわる損害保険

著者: 鮎澤純子 ,   濱精孝

ページ範囲:P.106 - P.111

はじめに—「起きた後」を考えてこそリスクマネジメント
 「リスクマネジメントと損害保険」というテーマをいただいた.日本の医療の現場でもリスクマネジメントという言葉を使った取り組みが始まっているが,リスクマネジメントが防止のノウハウ,特に事故防止のノウハウとして論じられることが多い今,この「リスクマネジメント」と「損害保険」の組み合わせには違和感を覚える読者もおられるのではないだろうか.
 しかし,この組み合わせは,決して唐突なものではない.それどころか,「それでも起きてしまった」場合の対応策として組織で必要十分な保険の手配をしておくことは,本来的な意味でのリスクマネジメントの範疇である.

医療事故訴訟の判決からみた医療事故の傾向

著者: 竹中郁夫

ページ範囲:P.112 - P.116

医療にまつわる好ましからざるできごとの存在構造
 連日のように医療事故の報道がマスコミの紙面をにぎわせている.本稿では,初めに医療にまつわる好ましからざるできごと(これを本稿では,「問題医療行為」と呼ぶ)のあり方について説明しておきたい.
 問題医療行為に対して使われる言葉は,医療事故,医療過誤,医療紛争である.これらには,はっきりとした定義はなく,かなり情緒的に使われている.患者側は,医療事故,医療過誤という言葉を好んで使おうとし,医療側は医療紛争という言葉を好んで使おうとする.同じ事象を表現するにしても,当事者の立場性が反映し,大きくスプリットしている現実がある.医療事故は過失ある医療行為を示唆し,医療過誤は過失ある医療行為そのものを表現するゆえに患者側の糾問的文脈に適合的であり,医療紛争はいまだそのような有責・無責の判断を経ておらず,価値中立的であるゆえ医療者の防衛に適合的と考えられているのかもしれない.

「医療事故」と「医療の質」をめぐる新たな国際的潮流—米国医学院報告書の衝撃

著者: 長谷川敏彦

ページ範囲:P.117 - P.123

 近年,欧米では医療事故と医療の質をめぐる新たな国際的潮流が渦巻き始めている.特にここ数年,イギリス,アメリカ,オーストラリアなどの英語圏を中心に深刻な議論が展開されている.その背景として,「医療技術の高度化によって診療過程の複雑化が医療事故を実際に増やしている」ことや,「医療技術の標準化が進み,その情報が情報技術の発達とともに一般の人々にも普及しつつある」こと,さらには「権利意識の昂揚とともに医療への期待と批判が高まっている」からだといえよう.
 特にこの1年,医療事故の予防について米国医学院(IOM)により,1999年11月に「人は間違うもの」というIOM報告書が出版され,衝撃は英語圏を越えて世界に走っている1).わが国での医療事故に関する議論の高まりも,直接的には2年前の某大学病院におけるあるまじき医療事故をきっかけとしているが,このような国際的な潮流と無縁ではないと考えられる.

病院医療における安全管理への提言

著者: 山内桂子

ページ範囲:P.124 - P.127

医療事故による損失
 頻発する医療事故の報道に国民は不安を感じている.米国医療の質委員会・医学研究所(以下,IOM)が1999年に出した調査報告書1)によれば,米国の病院で医療事故によって死亡した患者は1997年1年間に44,000〜98,000人と推定されるという.これは交通事故,乳がん,エイズによる死亡者よりも多い.日本ではこれまで医療事故の事故数や事故による死傷者数についての全国的レベルの調査は行われていないが,米国との人口比から考えて,日本でも年間に数万人が死亡していると見ることができそうだ.
 IOMのデータでは,医療事故によるコスト(経済的損失)も毎年376〜500億ドル(5兆円)にのぼるとされている.そのうち,防ぎ得る「有害事象」によって生じたコストだけをみても,その半分以上になるという.そこで,IOMは,安全の目標を設定し,研究計画を立て,安全システムの雛型を作る「患者安全センター」を新たに作るよう提言している.2000年2月,クリントン大統領はこの報告を受けて,「質向上と患者安全」のための新センターを設立し,その運営費として初年度の2001年度に2,000万ドルを計上すると発表した.

グラフ

最高水準の専門医療と良質な療養環境を提供する心臓病専門病院

ページ範囲:P.89 - P.94

 三浦半島の西岸に位置する葉山町.相模湾に面し,晴れた日には伊豆半島や富士山を臨むことができるこの温暖の地は,明治時代の初期から保養地として明治政府の高官・貴顕たちに愛され,明治天皇も皇太子の保養所として御用邸を置いた,関東でも有数のリゾート地である.その御用邸の目と鼻の先に葉山ハートセンターはある.

HOSPITAL INDEX

エイズ拠点病院・8

ページ範囲:P.96 - P.96

特別寄稿

実践から病院情報システムの功罪とそのあり方を考える—7.今後のあるべき医療情報システム—カオス・複雑系医療への序章(その1)

著者: 田原孝 ,   日月裕

ページ範囲:P.128 - P.134

 医療情報システムを病院のマネジメントツールとしてみた場合,残念ながら目覚ましい成果が上がっているとは思えない.医療以外の分野においてはパチンコ業界やコンビニエンスストアの情報システムのように一般にも知れ渡ったマネジメントツールの成功例が多く報告されている.翻って医療界を眺めてみると,それらに比肩し得る成功例をみかけることがないのが現状である.医療界における情報投資が少ないわけではない.毎年のように新しい病院でオーダリングシステムが莫大な投資によって次々と導入されている.さらに最近では,電子カルテシステムを導入している病院も少なからずみられる.それらの華々しい導入紹介に比べ,その導入効果について大きな成果がみられているとは思われない.
 将来の情報システムを考える場合,この現状について正確に把握し,その原因について考えておくことが重要である.

オンロツク/PACEモデルにみる医療福祉統合・1

著者: 近藤克則

ページ範囲:P.135 - P.141

 アメリカの急性期医療の問題として無保険者の問題はよく知られている1).しかし,アメリカの長期ケアでも多くの問題が指摘されている2).一方で,それを克服しようと急性期医療と長期ケア(福祉)を統合する様々な取り組みが行われているのを見逃してはならない3).そのような代表的モデルにオンロック/PACEモデルがある.オンロック(On Lok)とはこのモデルの発祥地におけるプログラム名であり,PACE (TheProgram of All-inclusive Care forthe Elderly,高齢者包括ケアプログラム)とはオンロックを手本に合衆国の各地で立ち上げられた同様のプログラム全体を指す名称である.これらは高齢者の急性期医療と慢性期の医療・福祉ケアとを統合することで,入院・施設入所を減らし,できる限り在宅生活を継続することを目的とし,その特徴は「総合的」で,「地域に根ざした」,「長期ケア」を加入者に提供するモデルと要約できる4)
 このモデルは,単にアメリカでの先進的取り組みとして注目されるだけではない.わが国の介護保険下で急増している「保健・医療・福祉複合体」5)(以下,「複合体」)と比較対照することで,介護保険制度や「複合体」の特性や課題の分析を深める上でも有用なものである.

レポート

患者満足度調査分析からみた病院運営のあり方

著者: 望月智行 ,   望月章子 ,   須藤秀一

ページ範囲:P.142 - P.146

 戦後50数年を経て,日本人の生活志向は「量より質」へと確実に変化してきた.その中にあって,医療に向けられる国民意識も大きく変化し,今や国民の医療ニーズはかつてないほどに多様化,高度化,複雑化してきている.長期に及ぶ国家的医療費抑制策が続く中で,医療界は深刻な医療経営実態に陥りながらも,一方では,このような医療ニーズの変化に対応しなければならない現実にも直面している.
 近年の厳しい医療経営環境の中で病院数は減少の一途をたどっており,各医療機関は生き残りを賭けて医療の質の向上に努力し,様々な経営努力を展開している.その経営対策のひとつとして患者満足度調査が頻繁に行われ,活用されるようになってきた.

連載 「ケア」の関係性が変わる・2

ケアのマーケティングを考える その2

著者: 島津望

ページ範囲:P.147 - P.151

 前回は,これまでの医療福祉の提供者と患者や利用者の関係がどのように変化するのかという点について,マーケティングの視点から考えてみた.マーケティングの視点から見るということは,患者や利用者を取り引き(transaction)の相手として見るということである.取り引きの相手として見るということは,相手のことを自分の意のままにならないものとして見ることである.そうした相手に対して働きかけ,自分の提供するものを相手に受け入れてもらう諸活動がマーケティングである.今後の医療福祉サービスの提供には,マーケティングの視点が必要である,ことを前回では主張した.今回は,必要とされるマーケティングの課題について具体的に考えてみよう.
 マーケティングとは,広告宣伝や営業活動のことだととらえる医療関係者もいるかもしれないが,それらはマーケティング活動のほんの一部にすぎない.マーケティングを行うということは,消費者に対して何を提供するのかという製品・サービス作りに関して,それを消費者の視点から徹底的に考えることが根本にある.宣伝や営業活動はそうして作られた製品・サービスを,消費者に伝えるための活動であって,マーケティングのすべてではない.マーケティングの基本は,いかにして消費者に満足を与える製品・サービスを新しく作り出すかということである.

事例による医療監視・指導・13

医療法人について

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.166 - P.167

 ご承知のように医療法では営利を目的として医療を行ってはならないことになっています.近年は社会全般の規制緩和の流れの中で,いくぶん緩んできたとはいえ,医療の非営利性を確保するため,医療法では医療を行うに当たって,様々な規制が規定されてきました.医療機関の開設者に関しての規制もその一つです.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第75回 介護保険施設3題

介護保険施設の動向

著者: 河口豊

ページ範囲:P.175 - P.175

介護保険3施設の整備状況
 介護保険制度における入所施設(介護保険3施設)は特別養護老人ホーム,老人保健施設,療養型病床群である.老人保健施設はかなり量的整備が進んでいたが,他の2者は量的な面で危惧されていた.特に療養型病床群については転換があまり進んでいなかった.介護保険報酬と医療保険報酬とを比べて様子見の病院が多かったからである.しかし,ここにきて大分整備が進んだ.
 特別養護老人ホームは入所定員283,822人(1999年10月),老人保健施設は入所定員223,498人(2000年3月),療養型病床群は定床183,558床(1999年10月)のうち介護保険適用は4割くらいといわれる.新ゴールドプランの目標は特別養護老人ホームは29万人,老人保健施設は28万人であり,両施設に関しては量的にかなり目標に近づいた.

豊後荘病院新内科病棟

著者: 西川禎一

ページ範囲:P.176 - P.177

病院と敷地環境
 新生会豊後荘病院はJR常磐線石岡の駅から車で20分ほどの小高い丘の頂きに位置している.南面は筑波山を臨み,北面はゆるやかな下り斜面になっており,その先はハンググライダーの基地にもなっている山並みに面している.人家とも距離があり,四季折々変化する素晴らしい自然の眺望に恵まれた地である.
 当院はこの地で半世紀の歴史を持つ精神科と内科を主体とする茨城県内で最大級の病院であるが,今回内科の外来と療養型病床群100床を新内科病棟として病院から分離させることになった.

介護老人保健施設「ガイアの里」

著者: 中山茂樹

ページ範囲:P.178 - P.180

 介護老人保健施設は入所期限が限られた一時的な入居施設としてスタートしたが,現実にはそこで数か月にも及ぶ生活がある.介護保険が導入されて特別養護老人ホームとの境界はより不明快になったともいえよう.こうした状況は,生活を重要な計画・設計条件としてとらえることに結びつく.
 さて,近年の高齢者生活施設で大きな話題はユニット化であろう.数十人をひとまとめにした一括処遇でなく,数人を単位とするユニットを生活の基盤として,コミュニティを形成しながら日々の生活をより日常に近いものとして感じてもらえるような試みである.建築空間としてもこのユニット生活を支えるようなクラスター型(房状)の構造が普及している.

特別養護老人ホーム「風の村」

著者: 外山義

ページ範囲:P.180 - P.182

 「風の村」は,生活クラブ生活協同組合千葉が1995年から千葉県八街市に建設準備を進めてきた高齢者福祉施設(特別養護老人ホーム50名,ショートステイ7名,デイサービスセンター,在宅介護支援センター)である.2000年2月に介護保険制度のスタートに先立って開設され,現在フル稼働している.
 筆者は1995年の建設準備会の当初から要請を受け,ほぼ毎月1回持たれる準備会に出席し,アドバイザーとして今日までかかわり続けている.生活クラブ千葉は組合員が約3万人で,1993年から「たすけあいネットワーク事業」と名付けた,いわゆる有償ボランティアの組織(ケアグループと呼んでいる)による在宅ケア,デイサービス事業を展開している.

ボランティア:住民に支えられて—諏訪中央病院・2

病院玄関のオアシス—総合案内ボランティアの活動

著者: 田辺庚

ページ範囲:P.153 - P.153

 多くの患者様は,できれば病院には来たくないと思いながらも,病気の苦痛と不安を抱きながら,仕方なく病院を訪れるのではないでしょうか.病院にみえた方を,玄関で最初に「おはようございます」と笑顔で迎えてくれるのが案内ボランティアです.来院者の受診手続きのお手伝い,診療場所やトイレ,売店などの位置を説明したり,付き添っての案内や,車いす利用者の介添えなど,患者様やご家族の大きな支えになっており,今では当院になくてはならない存在です.今回は3年前,案内の必要性に迫られて急遽誕生したこのボランティアグループを紹介します.
 平成10年7月,当院は増改築工事が竣工し,ベッド数は約1.5倍となり,病棟数も5病棟から9病棟になりました.また,外来部門も拡張され診察室が増えました.この新体制での混乱をできるだけ少なくするために玄関周辺での案内は欠かせませんでした.さらに,当地は自然に恵まれた観光地であり,観光客や別荘に避暑に訪れた方々の利用が増加する季節と重なり,初めて来院される方が少なくないので,短期間だけでも案内をお願いできないか知人に声を掛けたのが,案内ボランティア導入のきっかけです.

病院管理フォーラム 看護管理=病院のDON・2

看護部長の基本的業務

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.154 - P.155

◎看護部の管理手法
 看護婦さんというと「白衣の天使」というステレオタイプのイメージがある.カソリック宗主国では,看護が修道女の仕事の一分野であったり,キリスト教と看護の結びつきが歴史的に長いことが,このイメージの根底にあるのであろう.キャッピングやキャンドル・サービスは,明らかにキリスト教流の儀式であり,近代看護の母であるフローレンス・ナイチンゲールは,立位でろうそくをかざし聖書を朗読する像とともに,看護婦のイメージを世界に定着させた.
 近代看護が敬虔なキリスト教徒によって開拓されてきた事実は,人道的で禁欲的で忍耐強い聖徒・聖人のイメージと重なる.もともと聖人・聖徒を意味するsaintという単語には,天使という意味もあり,「白衣の天使」に結びつく.ただし,この「白衣の天使」というイメージは,急激に変化してきているように思う.

総合相談室—退院計画の課題・2

クリティカルパスとスクリーニングシステム

著者: 佐原まち子

ページ範囲:P.156 - P.157

 今回は,NTT東日本関東病院でも既に行われているクリティカルパスについてソーシャルワーカー(以下SW)のかかわりを検討し,このたび筆者たちの総合相談室で検討したソーシャルハイリスク・スクリーニングシステム(以下スクリーニング)との関連について述べてみたい.

Hospital Administratorへの道 part3・2

病院経営の安定と選択される医療を目指して

著者: 村岡清人

ページ範囲:P.158 - P.160

◎法人の概況と状況認識
 医療法人篠田好生会は,大正7年に現在の山形市中心地で山形駅より徒歩3分の場所に,篠田産科婦人科医院として開設され,昭和9年に病院となり,以来発展を続けて参りました(表1,2).
 創立当時から戦後しばらくの間「年中無休」の看板を掲げ,患者さんが診て欲しいと思われる時にいつでもお役に立てる地域のための病院を目指して,微力ながら尽くしてきました.今は看板こそ掲げておりませんが「地域に根ざし信頼される病院をめざす」は当法人運営の基本理念でもあり,3代目理事長の現在まで引き継いできています.

癒しの環境

手話と癒し

著者: 永澤智子

ページ範囲:P.161 - P.161

 それは一瞬のできごとだった.散歩に行きたいお年寄りと,お客様をお迎えする準備で忙しい筆者との間で起きた.
 「お花を買ってきて下さい.間もなくお客様がお見えになりますから.玄関に飾るお花が欲しいので.」右手と左手を開いたり閉じたり,交互に上下させたり,ひらひらさせたり,筆者の手話はおぼつかなく,それでもその耳の不自由なお年寄りとはこの半年余り一緒に暮らして,一通りの意志の疎通はかなっている.

IT革命は病院医療をどう変えるか・1

地域医療機関のネットワーク化

著者: 秋山昌範

ページ範囲:P.162 - P.165

 少子高齢化時代を迎え,医療制度の抜本的改革が指向され,難航してはいるものの様々な改革案が検討されている.平成12年度4月からの介護保険導入も含め,医療の大変革が行われようとしている現在,医療機関においてもIT (informationtechnology,情報技術)化問題が重要なテーマとなってきている.しかしながら,現実には厳しい経済状況下で情報インフラストラクチャを整備していくには困難が多いと予想される.特に,今までの病院情報システムでは,情報システム投入の費用対効果といった面で,必ずしも十分でなかった.ITを活用して,医療におけるBPR (business process re—engineering),すなわち医療制度のリエンジニアリング(再構築)やコスト削減の実施,ならびに情報の共有化などが大きく進展する可能性がある.この場合の医療情報システムの概念とは,オーダーエントリー,医事会計,物品管理,臨床検査,画像検査,電子カルテなどをすべて包括したものである.一昨年,診療情報の電子保存容認通知が出され,医用画像を統合化した電子カルテが現実のものとなってきた.しかし,現実にはまだまだ普及が進んでいない.

医療経営の総合的「質」の検討・2

総合的「質」向上への要諦—「一病院モデル」としての日鋼記念病院

著者: 西村昭男

ページ範囲:P.168 - P.171

 医療経営の総合的「質」研究会発足の経緯など,TQMの動向については,前号で研究会の飯田修平代表が詳述されたので,今回から会員の事例を中心に報告し,当研究会が検討すべき課題を整理し,論点を組み立てていく材料を提供する段になった.
 このような医療経営を論ずる場合,組織運営の基本原則もないがしろにできないが,それに基づいて,いわば生身の経営体それぞれが努力しながら実践している実態を開示し,多角的な視点で問題点を掘り出すことが重要である.これを「事例検証主義」とすれば,特に,総合的「質」が問われている場合は,複雑な業務環境の状況を「事例」という糸をたぐりながらチェックしていくイメージとなる.

医療従事者のための医療倫理学入門

13.終末期医療における倫理的決断(1)—基本的分類と議論の範囲

著者: 浅井篤 ,   大西基喜 ,   福井次矢

ページ範囲:P.172 - P.174

 本稿から6回にわたって,終末期医療に関する倫理的問題を前回までとは異なった形式で論じる.終末期における倫理的決断は医療倫理学領域で最も重要な分野の一つであり,文献的にも,内外を問わず医療従事者にとって「最も倫理的ジレンマに悩む領域」とされている.また,各国で非常に多くの記述的研究や「終末期医療はいかにあるべきか」という規範的な議論がエッセイや論説(sounding board)という形で,過去30年以上にわたって途絶えることなく行われている.“End of life”と,“Ethics”または“Bioethics”をキーワードにコンピュータ検索を行えば,いかに多くの終末期医療の倫理に関する論文が,原著や論説の形で世界の主要雑誌に掲載されているかがわかる.
 この領域では,長年にわたって幾つもの概念や原則が提出され,終末期における医学的な決断の倫理的正当性が検討されてきた.一方,非常に広く複雑な分野だけに呈示された分類や概念に対する混乱や誤解,定義に関する異論が絶えない.例えば,医師の行為を表す「治療の中断」,「治療の差し控え」,「自殺をしたいという希望を表明している患者の要求に従って大量のトランキライザーを処方する」,「医師が塩化カリウムを患者に注射して直接的積極的に死を早めること」などが,「尊厳死」や「自然死」に当たるのか(ゆえに倫理的に許容されるのか),「安楽死」に当たるのか,それとも「殺人」に当たるのか(ゆえに許されないのか),については議論が極端に分かれている.また,植物状態患者での経管栄養は「基本的で必須な(basic and essential)ケア」なのか(ゆえに中止してはならないのか),それとも医療的介入の一つなのか(ゆえに中止し得るのか),抗生物質投与は通常治療で(ゆえに差し控えてはならないのか),人工呼吸は「侵襲的」なのか(ゆえに差し控えてもよいのか)などについてもコンセンサスは得られていない状況である.「自殺幇助」と「自発的安楽死」は倫理的に区別されるのか否かも,論者のよって立つ哲学によって極端に異なっている.また,「大量のモルヒネを,患者の死を早めるとわかっていながら,苦痛緩和の意図で使用すること」と「大量のモルヒネを患者の死を早める意図で使用すること」に倫理的差異はあるのか否かについても議論が分かれている.

琉球弧から・2

心の平和,体の平和

著者: 天願勇

ページ範囲:P.183 - P.183

□自然の癒し
 沖縄本島北部に希望ケ丘と呼ばれる村がある.「やんばる」と呼ぶ原生林に抱かれたこの村には,いろいろな人が訪れて来る.人生の旅に疲れ心身ともに病んだ人,生き続ける希望を失った人が自然と触れ合うことによって癒されるように設計された木造りの家がある.「うりづんの家」の亭主,近藤裕さんは,5年前,東京から移住してきた.彼は米国の病院で12年間にわたり,心理療法室長を務めたのち帰国し,イメージ療法の先駆者として活躍するサイコセラピストである.
 東支那海を一望するテラスに腰をおろし,自然の中でくつろぐ近藤さんは颯爽としている.私が「なぜ沖縄に?」と尋ねると,「体と心が憩い,癒されるから」と応え,「青い海に心が洗われ,零れ落ちそうな夜空の星を眺め,島唄の哀愁に満ちたメロディを聴くと,胸が熱くなる.素朴で純情な沖縄人(ウチナーンチュ)と泡盛を酌み交わし,心を開いて語り合うなかで,見失っていたもう一人の自分と出会うから」と語った.流石,プロである.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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